トゥーレ協会はルドルフ・ヘス…のちのナチス副総統と結託し、彼らに「シャンバラ」の持つ技術を与えて世界制覇の野望を叶えようとしていた。シャンバラとは並行世界、すなわちエドがもともと住んでいた錬金世界である。TV最終回で現実世界に飛ばされていたホーエンハイム
*1から、錬金世界のことを知ったトゥーレ協会は、ホーエンハイムを騙して拘束し、彼とエンヴィー
*2を「通行料」として真理の門
*3を開き、錬金世界に向かおうとした。
だが、錬金術を使えない現実世界の住人は、「門」の間を潜り抜けるうちに「真理」の浸食と加速度でダメージを受け、死んでしまう。早い話が、この実験は失敗であった。しかし、エッカルトはそれでもなお強引にこの計画を推し進め、シャンバラへの扉を開く。
そう、この映画のタイトルの「シャンバラを征く者」とは、この映画のラスボスである
エッカルトそのものである。
彼女は
ハナから錬金世界の技術の持ち帰りなど考えてはいなかった。
「我々を凌ぐ力を持つ世界があると知った時、私は怖くて怖くて仕方が無かった!」
「この世界が攻めてこない保証があるか!! 姿かたちは同じでも、別の世界のバケモノだ!!」
エッカルトの目的は、
錬金世界の滅亡であった。
彼女にとって、錬金世界の住人はいわば宇宙人や異世界人である。なら私の所に来なさい、以上、と涼宮ハルヒみたいなことを言いだしていればまだよかった。エッカルトにはそういった存在が
怪獣やバケモノにしか映らず、「門」を開く術がある以上、いつ攻めてくるかわからないという杞憂すら抱いていたのである。
たったそれだけの理由で、彼女はヒロインであるノーアを攫って殴り倒し、エドを銃撃し、
ホーエンハイムをエンヴィーに食わせ、そのエンヴィーも門をこじ開ける材料として使い潰し、技術を持ち帰るという当初の目的を主張したハウスフォーハーを撃ち、自分の部下を何十人も巻き込んで全滅させ、しかもその死体を操り、
あまつさえ自ら率先して罪なきアメストリスの住人達への虐殺を敢行したのである。
勿論それを黙って見ているエドではない。ハイデリヒの命を懸けた実験で錬金世界にたどり着いたエドは、アルやアメストリス軍と協力してエッカルトの乗る戦闘機を迎え撃つ。異世界にたどり着いたことで魔法(多分錬金術)を会得、格闘技もエドに勝るとも劣らない強さ(現実世界で何やってたんだこいつは?)を見せ、更には部下の鎧の軍団をも操ってエドとアル、そしてマスタング大佐を襲うエッカルトだったが、アルの起点により鎧の軍団は反旗を翻し、エッカルトの前に倒れ込んで身動きを取れなくさせる。エッカルトが気絶したことで、ゾンビたちは元通り死体となった。
これで万事OKだ、ああやっとエドはアルと再会できたね、これでウィンリィも報われるや、などと思っていた視聴者たちの前で、物語は急転する。
錬金世界に「門」が開きっぱなしになっている以上、現実世界で門を破壊しなければ、またこのような悲劇が起きる。それを見越したエドは、飛行機に乗って「門」を突破し、錬金世界と同時に門を閉じる
*4ことを決意する。エドはアルとマスタング大佐を切り捨て、「門」へと向かう。
そして現実世界に、ボロボロになった飛行艇が落下。ミュンヘン一揆にトゥーレ協会の肩入れは間に合わず、ナチスの党員たちはトゥーレ協会のアジトに逃げ込んでくる。そんな中、飛行艇の扉が開かれ、
真っ黒い塊がよたよたと這い出てくる。
「バケモノだ!!!」
党員たちはそう叫び、我先にと逃げ出していく。その中の一人、ヒューズ(現実世界の住人の方)は拳銃を抜き、塊の顔を撃ち抜いた。
決着はあっけなく着いた。塊は、実は異世界の汚れを被っただけのエッカルトだったのだ。
あれだけの暴れようを見せた哀れな破壊者の最期は、かつての同志に敵と勘違いされたった1発の銃弾で幕を下ろす、惨めなものだった。