本作は特撮番組の金字塔『仮面ライダー』のメディアミックスとして、石ノ森章太郎御大が直々に執筆していた漫画である。こちらを「原作漫画」と呼ぶことも多いが実際は原作ではなく、あくまでTV版とパラレル世界の仮面ライダーとして読むことをお勧めする。
蛇姫メドウサは「ショッカー」に加入する前は「美代子」という名で呼ばれており、コブラ男の素体となった晴彦の恋人だったらしい。晴彦をさん付けで呼ぶ、首領相手にも上品な言葉づかいで接するなど育ちの良さがなんとなくうかがえるが、ショッカーに加入する前は不明である(少なくとも本郷のように無理矢理捕まったとは思えない)。
コブラ男と共にコンビを組んだ彼女は、ショッカー傘下の企業が経営する工場の公害問題を訴訟提起しようとした市民を暗殺する任務を命じられ、コブラ男の姿を見た少年・透…の友人・正夫が連れていた犬から気配を察知されたと知るや否や毒針で刺し殺すなどの行為を行った。
透を拉致し口封じのために殺害せんとコブラ男は彼を誘拐するが、駆け付けた仮面ライダー1号/本郷猛に左腕を切断されてしまい、透少年も奪い返されてしまう。与えた任務を無視し独断専行でライダーと戦い失態を犯したコブラ男に対し、首領は死刑を宣告するが、蛇姫は必至で釈明を行い、何とかコブラ男は一命をとりとめる。しかし、ライダーに負けた悔しさから、彼は腕に火炎放射器が埋め込まれるとその砲門より出ずる業火の如く怒りをたぎらせていく。
次なる蛇コンビに与えられた任務は金保管所の襲撃。大阪第二金保管所を襲撃して金塊を強奪したコブラ男は、本郷の家に「あれをやったのはおれだ(意訳)」といった手紙を送り付け、誘い出そうと目論む。それを知った蛇姫は彼をとがめるが、既にライダーへの憎悪で心が満たされた彼に届くわけもなかった。
そして運命の夜。東京第一金保管所を襲撃し、金塊を強奪したショッカーの前に、仮面ライダーが現れる。戦闘員を瞬く間に打ち据え、ライダーは己の正義を貫き通すためにコブラ男へと挑む。鉄をも溶かす業火をひらりとかわし、ライダーは必殺のライダーキックをコブラ男の胸に打ち込んだ。
動転した蛇姫は帽子を取り、毒針を射出してライダーに放つ。しかし銃弾を弾き返すライダーの「第二の皮膚」には全く通用せず、焦った蛇姫はスイッチを切り替え、蛇の口から破壊光線を放った。間一髪で光線を躱したライダーだったが、後ろに停めてあった車に命中し大爆発。爆炎が闇を裂き、煙が舞う。ライダーが爆発から逃げ去った姿を目にした蛇姫は目を凝らす。
一瞬、火影に黒い風がよぎる。
敵影を察知した蛇姫は破壊光線を放ち、人影を撃ち抜く。勝利の喜びに震える蛇姫はトドメを刺すべく接近していった。
だが、そこで倒れ伏していたのはコブラ男だった。
最早人の姿を留めぬ異形の改造人間が最後に呟いたのは、愛しき人の名だった。
目を見開き、頽れたコブラ男の前に身を投げ出す蛇姫は、最後まで届かなかったコトバを投げかけ、自らの頭を光線で撃ち抜いた。
残された二つの化け物の躯の上を、夜風が吹き抜けていく。
仮面ライダーは、ただそれを見つめることしかできなかった。