VS3

時空管理局のトイレには魔物が棲む。そう言う都市伝説がミッドチルダには存在していた。
しかし、それにしてはトイレでその様な物が確認されたと言う報告は無い。
故に一部の怖がりかホラーマニアあたりが流したただの噂話として片付けられていたのだが、
そんなある日、その魔物がついに姿を現す日がやって来たのである。

時空管理局で教官をしている魔導師「高町なのは」
仕事も終わり、トイレに行った時の事である。
「…………!!!」
トイレの個室を開いた瞬間、彼女は絶句した。何しろ手足の生えた洋式便器が
個室の中で胡坐を書いて座っていたのである。
「な…なにこれ…。」
なのはは目の前のそれが何なのか良く分からなかった。すると、手足の生えた洋式便器の
フタが開き、中から人間の顔が現れたのである。
「どうした? 俺は便器だぞ。思う存分用を足すが良かろう。」
「キャァァ!! 誰か来てぇぇぇ!! 女子トイレに不審者が忍び込んでるの!!」
なのはが悲鳴を上げるのは仕方の無い事だった。何しろこんな状況に
置かれたら誰だって変体の所業であるとしか思えないだろう。
そしてなのはの悲鳴を聞いたフェイトとヴィータが駆け付けて来た。
「どうしたどうしたって何ぃぃぃぃ!?」
二人も手足の生えた洋式便器の存在にどう反応して良いか分からず唖然とするばかり。
「と…とにかく…だ…誰?」
三人はデバイスを構え、恐る恐るそう問う。
「俺の名はウォッシュアス。出身は古代インカ帝国。マスターベンキマンの教えを受けた正義超人だ。」
「ど…どこが正義よ…。女子トイレに忍び込むなんて最低じゃない…。」
三人が怒るのはもっともである。しかし…
「俺は見ての通り洋式便器の超人だ。その俺がトイレの中にいて何か悪い事でもあるのか?」
「悪い!」
「と言うか古代インカ帝国の超人さんとやらが何故こんな所にいるの!?」
「うむ。良くぞ聞いてくれた。これには聞くも涙、語るも涙の理由があるのだ。」
「うわっ! 何か語り出したぞ!」
三人は呆れるが、ウォッシュアスは構わずに語り始めた。
「俺は古代インカ帝国の誇る偉大な超人、マスターベンキマンの下で辛く苦しい修行をして来た。
その目的は一つ。超人オリンピック・ザ・ビッグファイトでマスターベンキマンを破った
キン肉マンの息子、キン肉万太郎を倒すと言う形でマスターベンキマンの仇を討つ事。
しかし俺は超人オリンピック・ザ・レザレクションでキン肉万太郎を後一歩の所まで
追い詰めながら最後の最後で逆転負けを喫してしまった…。」
「あの…それと時空管理局のトイレにいる事は関係無い気が…。」
ウォッシュアスの目からは悔し涙が流れていたが、三人はやはり呆れるしかなかった。
「そこで俺は修行の旅に出た。次の超人オリンピックで万太郎を倒す実力を付ける為に…。
そして俺は世界各地のトイレを巡り、結果このトイレにまでやって来たのだ。」
「でもそれが何の修行になるの? どう見ても変体にしか見えないよ。」
「と言うか、何で女子トイレにいるのよ!」
「そうだそうだ! 男子トイレに行け!」
三人はやはりウォッシュアスを変体としか見ていなかったが、ウォッシュアス本人は構わずこう続けた。
「俺は闘いの前に女人を便座に座らせて英気を養う事にしている。」
これは事実だ。実際超人オリンピック・ザ・レザレクション決勝トーナメントの
対キン肉万太郎戦の前に、付き人の女性を自分の便座に座らせると言うパフォーマンスを披露している。
しかし、やはり女性本人にとってはセクハラ以外の何者でも無いのも事実である。
「何も恐縮する事は無い。堂々とその豊満な尻を乗せれば良いのだ。」
「そ…そんな事出来ないの!」
「何を言うか。見よ、この俺のウォシュレット、ウォッシュアスシャワーは
一度受ければ天にも昇る気分を味わう事が出来るのだぞ。」
ウォッシュアスの額からウォシュレットが伸び、そこから水が発射されるのだが、
直後、その水は物の見事にトイレの壁をぶち抜いていた。
「ちょっ! そんな物食らったら本当に天国に逝っちゃうよ!」
「そんなの出来るわけないでしょ!」
「帰れ帰れ!」
三人は口々にそう言う。誰だってそんな物にしゃがみたくないのは当然だ。
しかし、それはウォッシュアスを怒らせる事になった。
「黙れ! 何度も言うが俺は洋式便器の超人だぞ! さっさと用を足せばよかろう!」
ついにウォッシュアスは立ち上がり、三人に襲い掛かった。
そしてトイレの外に逃げてもなお追い駆けて来るのである。
「待てぇぇ!!」
「キャァァァ!! 怖いぃぃぃ!!」
「うわぁぁぁ!! 便器が走ってるぅぅ!!」
ウォッシュアスが外にまで追い駆けて来た事により、他の者達にもその存在が知られる事となり、
時空管理局全体が大パニックとなった。
「大変です! 洋式便器が走ってます!」
「はぁ!? 何を言っているんだねキミは!」
「いや本当に走ってるんです!」
「えええええ!?」
その報告を聞いた時、上層部も最初は変な冗談かと思ったが、実際にウォッシュアスが
走っている所を見せられて驚愕のあまり腰を抜かしてしまう程だった。
だが、そうしている内もなおウォッシュアスはなのはを追い駆け回していた。
「うぉぉぉ!! こうなったらお前の体ごとこの便器の中に流してくれるわぁぁぁ!」
「キャァァ!! そんなの嫌ぁぁぁぁぁ!!」
対戦相手を便器の中に流し込む技はベンキマンやウォッシュアスなど、
トイレ超人が得意とし、その代名詞でもある最大最強の必殺技だ。
しかし、そんなの誰だって食らいたくない。もうなのはは子供のように泣き崩れていた。
もう正義超人もへったくれもない。と言うか、もう完全に手段と目的が入れ替わっている。
「嫌ぁぁ! そんな見っとも無い事嫌ぁぁ! お嫁にいけなくなっちゃうの!」
「お前が行くのはお嫁では無くこの便器の中だぁ!」
「だからそれが嫌なの! スターライトブレイカー!!」
「わぁぁ! 高町教官ご乱心! 室内でスターライトブレイカーを発射しようとしてます!」
「ちょ…! 止めろ! 誰か止めさせろ!」
恐怖の余りなのははスターライトブレイカーを発射しようとするに至ってしまった。
時空管理局内でこんな物を撃たれてしまったらどうなってしまうのか分からない。
どういう理屈かは不明だが、少なくともなのはの魔砲で人が死ぬ事は無いが、
それでも建築物は破壊されるし、破壊された瓦礫の下敷きになったり、魔砲の衝撃波で
吹き飛ばされた後に壁に強く叩き付けられて死ぬ者が出るのは必至だ。
とにかくここでスターライトブレイカーを放たれたらまずい。
周囲にいた時空管理局魔導師達が大慌てでなのはを取り押さえようとしたが、
ウォッシュアスに迫られて冷静な判断が出来なくなっていたなのはに対してそれは無意味なあがきだった…。

なのはが我に返った時、ウォッシュアスの姿は忽然と消えていた。
一体何だったのか…。今はもう分からない。残るのはなのはのスターライトブレイカーによって
焦土と化した大地が空しく広がるのみ。

古代インカ帝国の誇る洋式便器超人ウォッシュアス。
彼がこのまま死んでしまったとは思えない。
もしかするなら…君の家のトイレに潜んでいるのかもしれないよ。
                     おわり

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2007年05月31日(木) 22:10:49 Modified by beast0916




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