NANOSING4-3話

「ゲハハハッハハハハァ!」
 ヤンの下衆な笑い声が響く。バインドがかかっている上に肩が極まっているのに、この余裕は一体何なのだろう。
「俺らの目的は2ツ!円卓会議のフンサイと、吸血鬼アーカードの完全破壊!」
「なっ、何!?」
 バレンタイン兄弟の目的、それは円卓会議の破壊、そしてアーカードの抹殺だったという。
だが、今ここにいるのはヤンのみ。ということは、もう一人がどこかにいると考えるのが自然だろう。
…もっとも、複数の吸血鬼が来ているのを知るのがもっと早ければの話ではあるのだが。
「ヒェフェハハハァ…今ごろは俺の兄貴がアーカードをブッバラしてる頃だろうさ」

第四話『DEAD ZONE』(3)

 一方その頃、地下室へと向かう階段前。
轟音とともにドアが吹き飛ばされ、白スーツに長髪の男…ルークが現れる。
地下室にアーカードがいるとにらみ、自身も地下へと向かっていたのだ。そしているであろうアーカードに呼びかける。
「吸血鬼アーカード、いるのだろう?出て来い!」
 そう言いながらアーカードを探し、階段を降りる。その間も呼びかけるのを忘れない。
「いるのはわかっている。姿は隠せても貴様の強力な『気』が地下階から立ちのぼってくる」
 呼びかけながら、どんどんと地下深くへと降りる。
そして、最下層付近で「どこだ」と再び呼びかけたとき、彼は何かに気付いた。
最下層の廊下の一番奥で、ワイングラスを手にたたずんでいるアーカードを見つけたのだ。
「姿は隠せても?私は逃げも隠れもしない。ただ少し待ちくたびれただけだ」
「成程、そうか。ならばお待ちかねといこう」
 その言葉がきっかけとなり、互いが互いの得物を取り出す。
アーカードの得物はもはや見慣れたカスールに、先ほど受け取った新型拳銃ジャッカル。
対するルークの得物は、片手でも扱える小型の散弾銃…ポケットショットガンとでも言うべき銃だ。
「このときを私も待っていた。あのアーカードとの対決!
確かめるとしよう…私の能力を!!」
 そしてルークが駆けだす。壁を蹴り、床を蹴り、天井を蹴り、アーカードへと飛びかかる。
対するアーカードもカスールを構えるが、その時にはすでに零距離。互いの体に銃が突きつけられていた。
その速力に、アーカードも感嘆しているようだ。
「私を今までの即席どもと一緒にしてもらっては困る。私は貴様を超える第一号となる」
 そして全く同時のタイミングでの発砲。アーカードの脳天とルークの腹に一発ずつ入る。
普通の人間ならどちらも致命傷だが、あいにく彼らは吸血鬼。この程度では死なない。
「ク…クハ…ックハハハハッハハハ」
「クク…ククク…クククックククックックックククッ」
 その証拠に、どちらともなく笑い声が起こる。お互いこの戦いを楽しんでいるようだ。
そして次に仕掛けたのはルーク。懐から同じ銃を取り出し、アーカードの体に弾の連射を叩き込む。
アーカードもカスールを連射するが、当たらない。先ほど同様の超高速移動でかわされ、間合いを離された。
「私を今までの連中のように考えるなと言ったはずだぞ。
貴様達吸血鬼の持つ能力を、私はすべて備えている…否!それ以上の能力を、だ」

 その頃、3階の廊下。ヤンへの拷問は未だ続いていた。
「おまえ達は一体何者だ?誰の差し金で動いている?おまえ達を吸血鬼にしたのは誰だ?」
 答えないつもりなら、先ほどのように手の骨を踏み砕くという脅しも含まれた質問をするウォルター。
だが、ヤンは答える気などさらさら無いようだ。ヘラヘラ笑いながら言い返す。
「わかんねえジジーだナ?俺様ちゃんはHELLSINGブッ殺し隊長ヤン・バレンタイン様々だっつーてんだろがい?
オレたちゃお前らをブッ殺すために生まれてきたのさぁ。だから!お!ま!え!ら!さっさとおっ死んじゃえっつーの」
「ほざけ、そのザマで何ができる」
「ヒャハハァハハハハァァ、やっぱ老いぼれたみたいだわ。アンタ」
 絶体絶命のこの状況。なのにヤンは不敵な笑みを崩さない。まだ何か切り札があるのだろうか。
…と、次の瞬間…殲滅したはずのグールの咆哮が聞こえた。
ありえないはずの声に驚き、そして最悪の事態を想像し、一瞬だけ隙ができた。
ヤンはその一瞬の間にバインドを引きちぎる。吸血鬼の怪力ならこれくらいは可能だ。もっとも、今ので肩は外れたようだが。
そして円卓会議室へと駆け出し、そのついでにティアナを無事な左腕で殴り飛ばす。
拳がみぞおちに入ったらしく、少しの間むせかえっていたようだが、ティアナは治ってから立ち上がった。
…そして、階段の方から恐るべきものを見てしまう。これくらい近ければスバルやウォルターでももうすぐ見えるだろう。
「さぁー、共食いショーの開幕ですぞ。タップリとご堪能してくださいネー」
 そしてスバルとウォルターも見た。グールと化し、迫ってくる…HELLSINGの局員たちを。
「!! なんて事を…!」
「パーティーはこれからだぜィ御三方!」
 そう言うとヤンは高く飛び、最後尾にいたウォルターを飛び越えた。このまま会議室へと行く気だ。
 一方のティアナは突然の出来事に驚き、会議室の方向へと逃げている真っ最中。だが、グールに足をつかまれ転んでしまう。
そして無数のグールに埋もれ、もみくちゃにされてしまっている。
「ティア!」
 それを見たスバルが走る。友を助けるために。
 ウォルターの方はというと、鋼線でヤンの右腕を絡め取り、動きを止めようとする。
だがヤンはそれにも目をくれず、右腕を捨てて円卓会議室のドアをこじ開けた。
…その目に飛び込んできた光景を見たヤンは、さぞ驚いていたことだろう。
なにせ…部屋にいた全員がヤンに銃を向けていたのだから。
「ようこそHELLSINGへ」
 インテグラが歓迎の挨拶とばかりに「ようこそ」のフレーズを口にする。おそらく歓迎の証として弾雨をプレゼントとでもいうつもりだ。
「…Shit.」
 ヤンが悪態をつくと同時に、本当に弾雨がプレゼントされた。
悲鳴を上げ、吹き飛ばされるヤン。全員で部屋の外まで追撃し、銃を構えてヤンを追う。
そして、インテグラは見てしまった。グールと化したHELLSING局員たちのなれの果てを。
「な…なんだと…ッ」

 視点は再びアーカードに戻る。
 再びカスールを構え、アーカードが狙い撃つ。照準はルークの頭だ。
だが、ルークは余裕の表情でかわす。外れた弾丸は壁に当たって止まったようだ。
「素晴らしい。素晴らしい反射能力だ」
「ほざけ!」
 そしてアーカードが満を持して立ち上がった…今までは座ったまま戦っていたのである。
「楽しい!こんなに楽しいのは久しぶりだ。貴様をカテゴリーA以上の吸血鬼と認識する」
 その様子に、ルークも多少驚いているようだ。なにせ…
(弾をよけようともしない…不死身かあいつは!?)
 こう考えていたのだから。だが、次の思考ですぐに上書きされ、ルークに自信が沸く。
(否!不死身などこの世に存在しない!余裕をかましているだけで、ダメージは奴の方が多いはずだ。
勝てる…勝てるぞ!吸血鬼アーカードに!)
 そして自信が崩れるのは、それからまもなくの事であった。
「拘束制御術式第3号、第2号、第1号、開放。状況A『クロムウェル』発動による承認認識。
目前敵の完全沈黙までの間、能力使用限定解除開始…」
 アーカードの体がどす黒く変色し、胴体には無数の目が。さらには何かざわめきのようなものまで聞こえる。
「では教育してやろう。本当の吸血鬼の闘争というものを」
 刹那、アーカードの体が崩れ、足下一帯に黒い何か…強いて言うなら『闇』といったところか。それが広がる。
闇は双頭の犬を象り、既にすくみあがっているルークへと向かっていった。
ルークも何とか犬の牙をかわすが、その表情には先ほどまでの自信などどこにも無い。
そんな中、アーカードの頭部分だろうか…それが無数のムカデとなるのと同時に、犬がついにルークを捉えた。
もはや恐怖にあえぐことしかできないルーク。恐怖の対象である犬の口からアーカードの腕が生え、ジャッカルを構える。

 そして、一発の銃声が響いた。

TO BE CONTINUDE

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2007年08月03日(金) 21:14:27 Modified by beast0916




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