中也の四季 | チュウヤノシキ | 指示 | 速度 | 調性 | 拍子 | 備考 | |
1 | 春の夜 | ハルノヨ | Moderato | 4分音符=92ca | ホ短調 | 3/4 | |
2 | 春の雨 | ハルノアメ | Larghetto | 付点4分音符=63ca | ニ短調 | 6/8 | |
3 | 夏の海 | ナツノウミ | Allegro | 4分音符=132ca | ニ長調 | 4/4 | |
4 | 秋の夜空 | アキノヨゾラ | Allegretto | 4分音符=108ca | ニ短調 | 4/4 | |
5 | 帰郷 | キキョウ | Andantino | 4分音符=80ca | ト長調 | 4/4 | Tenor Solo |
6 | 除夜の鐘 | ジョヤノカネ | Lento | 4分音符=54ca | ニ短調 | 3/4 |
男声合唱組曲「中也の四季」 |
2009年の男声合唱団「風」演奏会に、作曲者の実弟(同志社グリークラブ時代の親友が「風」メンバー)経由での依頼により、メッセージを寄稿した。それがきっかけで「中原中也の詩による新作」という条件のもと委嘱された。
春夏秋冬の順に配された中原中也の6編の詩をテキストとした無伴奏男声合唱組曲です。中也の詩をテキストとしたものは「在りし日の歌」「中原中也の詩から」「中原中也の詩から・第二」「冬の日の記憶」に次ぎこれで5作目となるそうですが、この作品では、中也の詩に挿入される、今はその多くが失われてしまった、日本の美しい自然や風景が音楽で描き出されています。
燻銀なる窓枠の中になごやかに
一枝の花、桃色の花。
月光うけて失神し
庭の土面は附黒子。
あゝこともなしこともなし
樹々よはにかみ立ちまはれ。
このすゞろなる物の音に
希望はあらず、さてはまた、懺悔もあらず。
山虔しき木工のみ、
夢の裡なる隊商のその足竝もほのみゆれ。
窓の中にはさはやかの、おぼろかの
砂の色せる絹衣。
かびろき胸のピアノ鳴り
祖先はあらず、親も消ぬ。
埋みし犬の何処にか、
蕃紅花色に湧きいづる
春の夜や。
一枝の花、桃色の花。
月光うけて失神し
庭の土面は附黒子。
あゝこともなしこともなし
樹々よはにかみ立ちまはれ。
このすゞろなる物の音に
希望はあらず、さてはまた、懺悔もあらず。
山虔しき木工のみ、
夢の裡なる隊商のその足竝もほのみゆれ。
窓の中にはさはやかの、おぼろかの
砂の色せる絹衣。
かびろき胸のピアノ鳴り
祖先はあらず、親も消ぬ。
埋みし犬の何処にか、
蕃紅花色に湧きいづる
春の夜や。
昨日は喜び、今日は死に、明日は戦ひ?…
ほの紅の胸ぬちはあまりに清く、道に踏まれて消えてゆく。
歌ひしほどに心地よく、 聞かせしほどにわれ喘ぐ。
春わが心をつき裂きぬ、たれか来りてわを愛せ。
あゝ喜びはともにせん、わが恋人よはらからよ。
われの心の幼くて、われの心に怒りもあり。
さてもこの日に雨が降る、雨の音きけ、雨の音。
ほの紅の胸ぬちはあまりに清く、道に踏まれて消えてゆく。
歌ひしほどに心地よく、 聞かせしほどにわれ喘ぐ。
春わが心をつき裂きぬ、たれか来りてわを愛せ。
あゝ喜びはともにせん、わが恋人よはらからよ。
われの心の幼くて、われの心に怒りもあり。
さてもこの日に雨が降る、雨の音きけ、雨の音。
耀く浪の美しさ
空は靜かに慈しむ、
耀く浪の美しさ。
人なき海の夏の晝。
心の喘ぎしづめとや
浪はやさしく打寄する。
古き悲しみ洗へとや
浪は金色、打寄する。
そは和やかに穩やかに
昔に聽きし聲なるか、
あまりに近く響くなる
この物云はぬ風景は、
見守りつつは死にゆきし
父の眼とおもはるる
忘れゐたりしその眼
今しは見出で、なつかしき。
耀く浪の美しさ
空は靜かに慈しむ、
耀く浪の美しさ。
人なき海の夏の晝。
空は靜かに慈しむ、
耀く浪の美しさ。
人なき海の夏の晝。
心の喘ぎしづめとや
浪はやさしく打寄する。
古き悲しみ洗へとや
浪は金色、打寄する。
そは和やかに穩やかに
昔に聽きし聲なるか、
あまりに近く響くなる
この物云はぬ風景は、
見守りつつは死にゆきし
父の眼とおもはるる
忘れゐたりしその眼
今しは見出で、なつかしき。
耀く浪の美しさ
空は靜かに慈しむ、
耀く浪の美しさ。
人なき海の夏の晝。
これはまあ、おにぎはしい、
みんなてんでなことをいふ
それでもつれぬみやびさよ
いづれ揃つて夫人たち。
下界は秋の夜といふに
上天界のにぎはしさ。
すべすべしてゐる床の上、
金のカンテラ点いてゐる。
小さな頭、長い裳裾、
椅子は一つもないのです。
下界は秋の夜といふに
上天界のあかるさよ。
ほんのりあかるい上天界
遐き昔の影祭、
しづかなしづかな賑はしさ
上天界の夜の宴。
私は下界で見てゐたが、
知らないあひだに退散した。
みんなてんでなことをいふ
それでもつれぬみやびさよ
いづれ揃つて夫人たち。
下界は秋の夜といふに
上天界のにぎはしさ。
すべすべしてゐる床の上、
金のカンテラ点いてゐる。
小さな頭、長い裳裾、
椅子は一つもないのです。
下界は秋の夜といふに
上天界のあかるさよ。
ほんのりあかるい上天界
遐き昔の影祭、
しづかなしづかな賑はしさ
上天界の夜の宴。
私は下界で見てゐたが、
知らないあひだに退散した。
柱も庭も乾いてゐる
今日は好い天気だ
縁の下では蜘蛛の巣が
心細さうに揺れてゐる
山では枯木も息を吐く
あゝ今日は好い天気だ
路傍の草影が
あどけない愁みをする
これが私の故里だ
さやかに風も吹いてゐる
心置なく泣かれよと
年増婦の低い声もする
あゝ おまへはなにをして来たのだと……
吹き来る風が私に云ふ
今日は好い天気だ
縁の下では蜘蛛の巣が
心細さうに揺れてゐる
山では枯木も息を吐く
あゝ今日は好い天気だ
路傍の草影が
あどけない愁みをする
これが私の故里だ
さやかに風も吹いてゐる
心置なく泣かれよと
年増婦の低い声もする
あゝ おまへはなにをして来たのだと……
吹き来る風が私に云ふ
除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。
千萬年も、古びた夜の空気を顫はし、
除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。
それは寺院の森の霧つた空……
そのあたりで鳴つて、そしてそこから響いて来る。
それは寺院の森の霧つた空……
その時子供は父母の膝下で蕎麦を食うべ、
その時銀座はいつぱいの人出、浅草もいつぱいの人出、
その時子供は父母の膝下で蕎麦を食うべ。
その時銀座はいつぱいの人出、浅草もいつぱいの人出。
その時囚人は、どんな心持だらう、どんな心持だらう、
その時銀座はいつぱいの人出、浅草もいつぱいの人出。
除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。
千萬年も、古びた夜の空気を顫はし、
除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。
千萬年も、古びた夜の空気を顫はし、
除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。
それは寺院の森の霧つた空……
そのあたりで鳴つて、そしてそこから響いて来る。
それは寺院の森の霧つた空……
その時子供は父母の膝下で蕎麦を食うべ、
その時銀座はいつぱいの人出、浅草もいつぱいの人出、
その時子供は父母の膝下で蕎麦を食うべ。
その時銀座はいつぱいの人出、浅草もいつぱいの人出。
その時囚人は、どんな心持だらう、どんな心持だらう、
その時銀座はいつぱいの人出、浅草もいつぱいの人出。
除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。
千萬年も、古びた夜の空気を顫はし、
除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。
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