ウェリコー

魔術師

部屋を埋め尽くす在庫。送られてくる督促状。電気とガスが止められ、蒸気ゆたんぽだけが生命線。【魔術師ウェリコー】は考える。どうしてこうなった？どこで間違えた？　金色の長い髪をかつら屋に売るか？　どうする？　どうすれば？

自身に付箋紙魔術（スティッキーノーツマジック）を使えばよいのでは？
日が傾いた頃、ようやくウェリコーはぼんやりと思考できるようになった。
しかしそれは禁忌の思考【自己言及】だった。

真理1. 魔術師ウェリコー＝アスロウは世情にうとく、【マジケット】ではなく【コミケ】に出展してしまった。

真理2. マジケットは1カ月前に開催されて、もう終わっている

ここから導き出される答えは一つ。
時間遡行！！過去の自分への干渉！！タイムパラドクスなんて知ったことか！！矛盾は力で捩じ伏せろ！！

悲劇は、ウェリコーがそれを成せるだけの魔術師であったことだ。

かくして、ウェリコーは【無謀なる在庫】を捌くために平行世界を旅する者ランダムウォーカーとなった。

ウェリコーが偶然エンドミットに辿り着いたとき、自慢の金髪には苦労のためか白髪が混じり、
そして、まだ11冊しか在庫を捌けていなかったという。

アナロジー

【無謀なる在庫】と
【無貌なる罪庫（ノーフェイス・ギルティボールト）】は似ている。つまり同じものだ。

それは減ることがない罪の倉庫。さっさと捨てればいいものの、いつまでも取っておかれる黒歴史。
顔も名前も借り物で、購（あがな）うすべなどありはしない。あ、違った。購入はできるから、そこは誤解なきように。

そのあまりに恐ろしい響きゆえ、当て字で単に、在庫と書かれることもある。まあ、要するに同じものなんだけどね。