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人物 魔術師


アンリエッタの子供。キュトスの姉妹の番外に数えられることもある。

概要

アンリエッタはその世代によっては、人間との間に子供を成すことがあったが、産まれた子供は一人を除いては普通の人間だった。
その例外の一人というのがルミーア。
紅い瞳を持つ、両性両具者で、一人称は「僕」。
母親に似て、大変に美しい容姿の持ち主だったらしい。
北方帝国の南西の都市、フォリカにて産まれた。

生れながらにして『キュトスの姉妹』と同等の力を持つ彼女は、人々から疎まれ、遂には当時高名だった占い師から「この子は長じて災いをなす」と告げられた父親からも疎まれるようになる。
父親は、ルミーアの殺害を試みるが全て失敗し、最後は逆にルミーアに事故死を装って殺されてしまう。

占い師が予言したとおり、成長した彼女はフォリカの住人一万余を殺害し、『死都』と化したその都市に結界を張って立て籠もる。

しかし、ヘリステラの命を受けたムランカによって『消去』された。

能力

非常に秀でた魔術師としての素質を持っていた彼女は、独学で殆どの魔術を習得するほどに優秀だったらしい。
その中でも特に優秀だったのが『贋作作り』で、古の魔法武器の殆どを複製することが可能だったらしい。
未確認情報だが、かつてメクセトが作った『神滅ぼしの武具』すら複製が可能だったらしい。

また、武人としても優秀な能力を持ち、後に、ルミーアと対峙した経験のあるヘリステラに語ったところによると、「一合も剣を交えることなく、本気で敗北を覚悟した」とのこと。

ムランカとの戦い

「初めましてお義祖母様」
 紅い目の、少年にも、少女にも見える、美しい黒髪が特徴的なその人影が彼女に言う。
「僕は貴方に常々お会いしたいと思っていたんですよ」
「アンリエッタはどうしたんだい?」
 しかし、その言葉には答えず、刺々しい口調でムランカは聞いた。
「どうしたと思います?」
 嘲笑するような口調に、「分からないから聞いているんじゃないか」とムランカは答えた。
「この『死都』に入ってから、あの子の気配が読み取れない。だとしたら可能性は二つだ。あんたがよっぽど卓越した魔術師であの子を隠したが、それとも……」
 ムランカが全てを答える前に、その人影は衣服の胸ポケットから一つの宝石を取り出した。
 琥珀色のそれは、彼女が独り立ちするアンリエッタに贈った物に相違なかった。
「あんた!?」
「やはりお義祖母様がメクセトの寵妃だったという伝説は本当だったんですね。この宝石から感じられるメクセトの魔力の残滓と同じ時代のもう一つの魔力の残滓、これお義祖母様のものでしょう?」
 冷や汗が一筋彼女の額を伝う。
 ……まいったね、そこまで分かるんだ、こいつには。
「目的は何なんだい?」
 彼女は聞く。
 すると、人影はしばらく首を傾げ、「そうですねぇ」と答えた。
「『キュトスの姉妹』への復讐……というところでどうです?」
「復讐だって?」
「母の無念を晴らす……そんなところだったら納得がいきませんか?」
 ふざけるな、と彼女は思う。
 確かに彼女を産み出した実の母親は姉妹の誰かだと言うのに、未だに名乗りを上げていない。
 それで不都合なことは色々とあったのだろうことは認める。
 しかし……
「悪いけど、そんなことあの子は、アンリエッタは望んじゃいなかったはずだ」
「僕がお節介にも勝手に想像したんです。そして、勝手に実行しようというんです」
 そう言って人影は、まるで何かの演技でもするように高笑いした。
 その高笑いに、自分がよく知っている面影を思い出し、「ふざけるな!」と彼女は叫んでいた。
 こいつ、わざとだ、と悟ったからだった。
 その挑発に乗ってしまう自分が滑稽かつ腹立たしいからだった。
「お義祖母様、今僕は貴方をここで斃す。そして悪鬼になりましょう。あのハルバンデフとかいう魔王を赤子と錯覚してしまうぐらいのね」
 そう言って立ち上がった人影の手には、一本の槍が握られていた。
「『黒の槍』……複製したのか、それを、あんた」
 ムランカが言い終わるや否や、それは彼女目掛けて跳躍した。
 慌ててムランカは後ろに跳ぶ。
 『黒の槍』……この世の全ての呪詛をその穂先に含んだそれは、たった一つの傷でも付けられればたちまちにして全身に呪いが行き渡り、例え『キュトスの姉妹』である彼女でもただでは済まない。
 模造品であるそれにそれだけの力があるかどうかは分からないが、あれのオリジナルは神でも殺せるのだ。
 彼女の跳躍は、十分に人影との距離を取れたはずだった、しかし……
「これで終わりとはあっけない」
 しかし、彼女の目と鼻の先に人影は現れ、槍の穂先を繰り出した。
 それは強弓の矢ですら落とせるほどの速さだった。
「くっ!?」
 彼女は、自分でも意識しないうちに呪文を詠唱して魔法による防御を展開していた。
 これを教えてくれた相手が「これは魔力の消耗が激しいから、滅多に使うな」と警告してくれた魔法だった。
 しかし、その穂先は、減速こそしたものの、その魔法をも易々と打ち砕いた。
「馬鹿な、オリジナルと同じだというのかい!?」
 砕けた魔力の破片に紛れて、寸でのところで穂先を交わしながらムランカは呟いていた。
「さすがですね、お義祖母様。悪魔の九姉と並ぶ実力者とか、世界を滅ぼせるだけの力を持つ、という噂は本当らしいですね」
 槍を構えながら、人影は嘲笑するように言う。
 その構えには、彼女が見てきたどの武人のそれより隙が無かった。
「あんたも、さすがはあの子の子供だよ」
 そう言いながら、彼女は人影との距離をとった。
 まともに戦って勝てる相手じゃない、と彼女の本能が告げていた。
「自分の肉親を褒められるのは悪くないですね。でも、それと手を抜くのは別物ですよ」
 再び人影は跳躍し、一瞬の間に彼女との間を詰め、必殺の一撃を彼女の心臓目掛けて繰り出す。
 彼女を救ったのは、また無意識の呪文の詠唱だった。
 まるで火山の爆発を思わせる、全てを焼き尽くすような炎の壁が目くらましになったのだ。
「ヘリステラが自ら出陣しようとしたわけがわかるよ。あんた本物だね、ルニーア」
「お褒めに預かって光栄です。でも……」
 彼女は背後に気配を感じて振り返る。
 しかし遅かった。
 ルニーアの繰り出した一撃は彼女の心臓を目掛けて一直線に伸びていた。
 そして、彼女はそれをかわす事はできなかった。
 槍の穂先は彼女の服を切り裂き、そして心臓のある部分を貫き通していた。
 彼女の背中から突き出した穂先は、彼女の血を啜ったかのように紅く染まっていた。
「さようならですお義祖母様。せめて、結界の外にいたもう一人の『キュトスの姉妹』がいれば結果も違っていたのかもしれませんがね」

 それから数時間前、『死都』に張られた結界を前にして、ムランカはもう一人の『キュトスの姉妹』である宵に言っていた。
 その言葉に「正気ですか、お姉さま?」と宵は自分の耳を疑った。
「同じことを二度言うのは苦手だねぇ」
しかし、ムランカは答える。
「でも……」
「あたしがあんたを連れてきたのは一緒に戦わせるためじゃない。見届け人にするためだ」
 宵の言葉を止めるようにしてムランカは言い放った。
「あんたは、ここで事の決着を見届けるんだ。そして、もしあたしが負けたら急いで星見の塔まで行って、ヘリステラに『守護の九姉』の全ての力をもってこの街ごと消滅させるように進言するんだ」
「でも……」
「心配ない。あたしが負けるということは、あたしが『死ぬ』ということだ」
 宵にとって信じられないことを、さらりとこの姉は言ってのけた。
 『キュトスの姉妹』の死……それは宵にとって長姉であるヘリステラの力をもってしかできないはずの出来事なのだ。なのに、それが長姉以外の者によって行われるという。それだけでも信じられないことだが、『死ぬ』のはよりによって目の前の姉、ムランカだというのだ。
 宵はムランカの実力を片鱗だけとはいえ知っている。だからこそ、尚更その言葉が信じられなかった。
「だから、この『死都』にどんな攻撃をしても大丈夫だよ」
「……」
「それと、これをあんたに預けておく」
 そう言って、彼女は懐から一つの小さな箱を取り出した。
「その箱の中に地図が入っているから、あたしにもしものことがあったら、中身をその地図の場所に埋めておくれ」
 何も答えないで立ちすくむ宵の両手にその箱を握らせると、彼女は呪文を詠唱して結界に歪を入れ、その中へと入っていく。
 その時になって、「お姉さま」と宵は叫んだが、ムランカは振り返らなかった。
 だから、宵にはムランカに言われた通りに全てを見届けることしかできなかった。

 「お姉さま!?」
 ルミーアの槍に貫かれ、まるで支えを失った人形のようにずるずると地面に座り込んだムランカを見て、宵は思わず駆け出そうとした。
 しかし、それをしなかったのは、彼女の剣士としての天性の勘がそうさせたからだった。
 末席とはいえ七天八刀に名を連ねる彼女である。相手の動きと戦い方を見れば相手の実力は分かる。その彼女から見てルミーアは卓越した、いや、それ以上の戦士だった。
 ……戦えば負ける
 戦いに関しては素人のはずなのに、宵ほどの達人をしてそこまで覚悟させる程の実力がルミーアにはあったのだ。
「さて、二人目といきましょうか」
 そう言って、ルミーアは槍を振り、ムランカの体を『死都』の各所に積まれた死者の山の一つに投げ飛ばすと、宵の方向に槍を構えた。
 その紅い目を見て、来る、と彼女は直感的に悟った。
 こことルミーアの距離がどれだけ離れているかなど関係ない。確実に次の瞬間には自分はルミーアの間合いにいるだろう。
 慌てて宵は、腰の鞘から菊一座と鬼神断ちを抜き構えた。
 常人から見れば隙の無いその仕草も、達人の域に達した者から見れば慌ててそうしたことは一目瞭然である。
 その時点で勝負は決まっていた。
 勝負は一瞬で決まる。間合いを外さない限り、宵の負けは確実である。
 駆け出すルニーアと、双剣を構える宵。
 しかし……
「あんたの敗因の一つはね、相手を普通の人間だと想定したことだ」
 彼女達は聞いたのだ。それはやられたはずの、ムランカの声だ。
「お義祖母様?」
「お姉さま!?」
 ルニーアは宵の方へ疾走するのをやめ、声の方向を素早く向く。
 先程ムランカの体を投げたのとは別の方で何かが立ち上がる。
 ルニーアは、それが何か確認する前に槍の穂先を変えてそれを貫く。
 だが、それは彼女の屠った骸の一つだった。
「あんたが相手にしているのは『キュトスの姉妹』だ。人間の常識で計るんじゃないよ」
 次の瞬間、ルニーアの足元の死体の山から刃物を手にした一本の手が伸び、彼女を突き刺そうとした。
 ルニーアは身をひねってそれをかわしたが、その瞬間彼女の背後からもう一本の手が伸び、その手に握られた剣がルニーアを貫いた。
「……!?」
 吐血と共に吐き出したそれは言葉になっていなかった。
 ルニーアには分からなかった、自分に何が起きたのかが……。
「もう一つ。あんたはそれが出来たのに、その武具を完璧に作らなかった。その武器の意味が分からなかったからだ」
 まるで、操り人形が立ち上がるような動作で立ち上がるムランカの体。
 彼女は、自分の胸元に手をやると、一気にその自らの衣装を剥いだ。
 そこには、あるはずの豊かな乳房はなく、明らかに男のものの逞しい胸があった。だが、それは死者のものであり、既に各所で蛆が湧いていた。
「メクセトの武具はね、使った代償に命を失う武具じゃない。命を代償に神を殺すという奇跡を起こす武具だ。だが、あんたはそこを見損なった」
 ルミーアの足元で、千切れた手が、足が浮き上がる。
 あの炎の壁を作った瞬間、彼女は自分の体を千切って隠し、傍にあった首の無い死体を体としたのだ。
「だが、あんたはそれを余計な機能だと切り捨てた。だから奇跡が起こせなかった。もし、奇跡が起きていれば、こんな小細工していてもあたしは死んでただろうね。『黒の槍』は『肉体』にではなく『存在』に対して有効な武器なんだから」
「……」
 無言のままのルニーア。
 そしてその間にムランカの元へ、その肉体が集まり、爛れ落ちた死者の肉体の変わりに彼女の体を作り上げる。
「ただし、そのあんたに刺さった『無限の剣』は本物だ。本当は二本あったうちの一本だ」
 ルニーアが顔を上げると、ムランカとルニーアを囲む世界はその色を反転させていた。
 そしてその世界に歪を作るように、ルニーアに突き刺さっているのと同じ剣が姿を現す。
「あたしは大雑把だからね。あんただけを残して自分は逃げるなんて芸当はできない。だから、一緒に貫かれてやるよ」
 ルニーアは、しばらく呆然と彼女の顔を見ていたが、やがて「やっぱりお義祖母様はお母様の言った通りの方だ」と呟いてあの琥珀色の宝石を取り出した。
 だが続いたその言葉は、二人目掛けて飛来する剣の音が遮った。
「あんた……」
 寸前、ムランカが思い出したのは、あのアンリエッタが独り立ちの朝に、今はルニーアが手にしている宝石を贈りながら言った自身の言葉だった。

http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/7039/...

 その小屋の扉の先は結界だった。
 幾重にも重ねてかけられた結界、その結果意の中にいたのは……
「終わったよ、アンリエッタ」
 脅えたようにうずくまる一人の中年の女性だった。
 ムランカは、どさりとその手にしていたものを彼女の前に落とした。
 それは血で真っ赤に染まった白い義手だった。
 しかし、ただの義手ではない。『全て食らい尽くす義手』と、かつて呼ばれた義手のコピー品だった。
「自分の体を喪ってまでこんなものを身に付けるなんてね……」
 ルミーアは、その義手の力をもって空間を削り、自分の優位な間合いを作り上げていたのである。
「あの、それで、あの子は……」
「それをあたしの口から言わせる気かい?」
 女、アンリエッタは、まだぬくもりのあるその義手をてにとり、そして肩を震わせながらその義手を抱いた。
 涙がの粒が零れ、義手を濡らす。
 ムランカは、その姿をしばらく見ていたが、「あんたのすべきことは分かるだろう?」と聞いた。
 女は、小さく頷いてそれに答える。
 それはこの世にあってはならないもの、破壊しなければならないものだ。ムランカは、それを彼女に委ねたのだ。
「なら良いよ」
 そう言って、彼女はアンリエッタの右手を取り、あの琥珀色の宝石をその手に握らせた。
「あんたは幸せにならなければならないんだ。もし、自分が不幸せになったら、その宝石に願ってごらん。あんたが何処にいても、あたしがいつでも来てやるから」
 今の自分にその言葉を口にする資格があるのかどうか、ムランカには分からなかったが、改めてその言葉を口にせざるを得なかった。
 それはアンリエッタが旅立ちの日に贈った言葉で、そして……
「やっぱりこの宝石は本物だ。これに願えば貴方は訪れてくれるんでしょう?。そして僕の願いを叶えてくれた。僕は最初から存在しちゃいけなかったんだ。僕がいたらお母様も、みんなが不幸になるから」
 ルミーアが最後まで信じていた言葉だ。
 ……馬鹿だよ、あんた。
 ムランカはそう思いながらアンリエッタのいる場所を後にする。
 ……どうして自分が幸せになることを願わなかったんだい?。どうして、もっと他のことを願わなかったんだい?
 それは同時に自分の無力さえの腹立ちに他ならなかった。
 守護の九姉に並ぶ実力者だとか、世界を滅ぼせる実力を持つだとか、そんな事に何の意味があるというのか……結局自分は無力なのだ。好きな人を、愛すべき人を誰一人救えないのだ。
 その事実がどうしようもなく胸に痛かった。

「お姉さま」
 『死都』の外では宵が彼女を待っていた。
「お姉さま、よくご無事で……」
「大した事じゃないさ。『キュトスの姉妹』として自分のなすべきことをしただけだよ」
 いつもの口調で彼女は宵に答えたが、その言葉に一抹の寂しさが込められていることに宵は気づいてしまった。
「お姉さま……」
「あぁ、星見の塔に帰ってヘリステラに伝えておくれよ。ムランカは任務を果たしたってね。あたしはまた暫く旅にでるからさ」
「……」
 無言のままの二人の背後で、『死都』は突然炎を上げた。
 誰の仕業かは言わずと知れたことだった。
「お姉さま、ところで先程預かった箱ですが……」
「いいよ、それはあんたにあげる。どうせ、たいしたものじゃない」
 そう言って、ムランカはその場を後にする。
 宵は、その背中を見送りながらも、それを止めることはできなかった。
 ムランカが遠くまで行ってしまった後で、宵はそっと箱を開けた。
 箱の中に入っていたのは折りたたんだ布に書かれた一枚の絵だった。
 絵には、まだ小さなアンリエッタと手をつなぐムランカが書かれていた。
 その絵を宵は知っていた。
 かつてどこかの都市で彼女はその絵を画家に描かせたのだ。
「お姉さま……」
 炎に包まれる『死都』を背に宵は、ムランカの消えた跡に視線を走らせたが、既に彼女の姿は見えなかった。

――北方帝国公式記録
 ……年、帝国南西部の都市フォリカにて疫病が発生。
 住民一万余が全滅。
 都市は疫病の蔓延を恐れた近隣住民の手で焼き払われた。
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/7039/...

表記ゆれ

ルニーア、ルミアーンヌ、lnir, lmir, lmianne

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