多人数で神話を創る試み『ゆらぎの神話』の、徹底した用語解説を主眼に置いて作成します。蒐集に於いて一番えげつないサイトです。

物語り

記述

女は幽閉されている。
薄暗い地下牢の中、岩を削り取った狭い穴倉の中で女の足と鉄球は鎖で繋がれている。
女は骨と皮ばかりに痩せこけている。浅い眠りと気絶を繰り返す女の喉からは大気を僅かに揺らす呼気が漏れている。冷えた地下の空気は女の体温を確実に奪い、冷たい岩が座り込んだ女の足から感覚を奪って久しい。どこかから響くのは水の滴り落ちる音だ。それほど頻繁に聞こえるわけではないが、定期的に響いている。どこか高い天井から落ちているであろうその水音はこの場所が水源に近いであろう事を示していた。
女は隔離されている。
地下牢は狭い。人が二人入れるかどうかという空間に、大の大人がかがまねば潜れぬ入り口。木製の格子が嵌められたそこに抜け出す隙は無い。寒々しい地下には、他の人間の気配はおろか、虫一匹すら存在していなかった。およそ唯一と言っていい生命が牢中に隔離されている。地下にある熱源はたった一つ。だがその熱も徐々に消えつつある。女は死に瀕している。
女は放棄されている。
牢の外に看守はいない。外は死の世界である。格子の内と外で、生と死が隔てられている。死の世界から生の世界を覗くことはできない。手を差し伸べることもできない。外には誰もいない。
「ならば、生の世界から死の世界へ赴くことは可能ではないのか」
と、男が呟いた。
男は格子の隙間に挟まっている。男は死んでいるが生きている。生きていないわけではないが死んでいる。故に生と死の狭間ではなく、死に近い位置から女に話しかける。生の世界に、語りかける。
女は語りかけられている。
「外に出ることは叶わない。そうであるならば、外へ入ることにしてはいかがか。 君の今の状態ならば容易い事ではないだろうか」
女は答えない。答えることが叶わない。女は男の声を聴いていない。聞こえていない。女は死に瀕している。男は死にずり落ちていく。
「一緒に入らないか。 君ならば上へ下がることができる」
果たして女は男に答えて見せた。女はその瞬間、飢餓で絶命した。
女の肉体は力を失い、もたれていた壁からずり落ちて地に臥せる。女の死体は天井から伸びてきた鋼の腕に絡めとられて一滴の水になった。
巨大な一滴である。水が溢れ、男は死に流された。
地下牢の中に一瞬生が満ち溢れ、次いで死が満ちた。
外と内が繋がり、内である意味が消失した。格子が崩壊した。地下牢は牢としての役割を終え、ただの空洞になった。
世界には死が満ちている。


そして死が目覚めた。
死は少女の姿をしていた。
少女はまず悪魔と神を呼び、それぞれ配下とした。
死は悪魔を下に遣わし、神を右に遣わした。
役割を果たした死は死んだ。
死で満ちていた世界には何も無くなった。
神は光あれと言ったが、光は神を拒絶し、神は光を殺した。
そこに牢獄ができた。牢獄には神が繋がれ、光と殺しあっている。牢獄の中は正義と希望が閉じ込められた。外には悪魔がいる。悪徳と絶望が世界に満ちた。絶望は力となった。底に押し込める力である。
上から下へ向かう力を絶望と呼び、歓喜と愛で世界を満たすことを悪徳と言う。
悪魔は土塊の子らに悪徳を教え、絶望を与えた。
絶望を手に入れた土塊の子らの一部が、炎の子になった。炎によって燃え上がった軽い彼らは、上から土塊の子に力を押し付けた。
力は絶望である。
炎の子らは絶望を操った。
土塊の子らは絶望に恐怖した。そして炎の子らを崇めた。
ある日ひとりの少女が石の中に炎の子を閉じ込めた。それは失意と呼ばれた。失望という感情を操る少女は、絶望を操ることしか知らない炎の子を石の中で飼いならし、獣とした。
これを期に、様々な形で炎の子を石の中に閉じ込め、獣にするという試みが行われた。
土塊の子は獣を区別するために石に色を付けた。
百の石が作られ、百人が獣を従えた。
炎の子らは土塊の子の反逆に憤り、戦争が始まった。炎の子らは敗北した。
土塊の子らもまた多くが滅び、獣たちも滅んだ。
残った少数の土塊の子らは石と獣を誰かに見つからないように隠し、仲間たちの後を追って自害した。
後には、獣たちが封じられた石だけが残った。
右のほうでは、神と光の戦いに決着が着いていた。
左から闇がやってきたからだった。闇は神と光の双方を殺し、となった。
竜はを生み、猫は精霊を生んだ。精霊はを生み出し、星はを生んだ。月は星を殺し、精霊を殺し、猫を殺し、竜を殺し、最後に太陽に変化した。
太陽は闇に変化し、闇は竜に変化した。
そして円環が始まった。
竜から月へ、月から太陽へ、太陽は闇に、闇は竜に。
隠れていた石の中で最も大きい赤い石の獣が、見かねて太陽を食べてしまった。
獣は太陽の光と炎で包まれ、そのあまりの輝きに斜め右で寝こけていた悪魔は起きだした。
悪魔は獣をいたく気に入り、獣の中に溶け込んで魔獣となった。
獣の仲間がいくらか残っていることに気付いて、悪魔は自分の体をいくつかに分けて全ての獣に染み込ませた。こうして石の獣たちは全て魔獣になった。
世界には魔獣が隠れている。
始めに魔獣になった赤い石の魔獣は好色だった。
魔獣は過去へ走り、始めにいた生の女を娶った。
しかし種が違い過ぎたため、妻とすることはできなかった。
魔獣はそれでも諦め切れず、男に変身して女を口説き続けた。
しかし魔獣は力尽き、遂には死んでしまった。
しかしそれでも諦め切れず、死体のまま生の淵にしがみついて女を口説き続けた。
女は死にかけていたが、それでも魔獣は男の姿で地下牢の格子の隙間から女を口説いた。
魔獣の一念も空しく、死んだ女の流れによって魔獣は死に流され、未来に流れ着いた。
魔獣は女に似た女を捜し求めて、放浪した。
あるとき魔獣は地下牢の女と瓜二つの女を見つけて、即座に求婚した。
女と魔獣は結ばれた。
今では魔獣は女がしつらえた小さな小屋で、女とその夫と、その二人の娘たちを見守りながら幸せに暮らしている。

そして、復活した魔王十四歳が女とその夫をドアノブに変えてしまい、二人の娘たちのうち姉のほうが夢を追う男と共に家を出た時から、小さな少女と赤い石の魔獣の魔王を倒す旅が始まった。
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