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独占欲

後悔なんてものは、しても意味の無いものだということは良くわかっている。
したところで過ぎ去った過去は変えられない、揺るぎ無い結果としてそこにある現在は変わらないのだから。
けれど、「もし」と考えてしまう、考えずには、いられない。



「結構使っちゃったなぁ……」
紙袋を抱え込みながらそう呟くリリザの表情は、けれどどこか嬉しそうだった。
「衣装一着分だからね」
ヒシンがそう言うとリリザは「まあね」と返した。

二人は夕暮れの町の大通りを歩いていた、言ってしまえば、デートというやつである。
そしてリリザが抱える紙袋の中には服の生地やらレースやらリボン、飾り糸などが買い込まれていた。
リリザの新しいステージ衣装の材料になるものだ、安い生地で済ませることもできたのだが
ここはリリザが奮発して少々値の張る良い生地を買ったのである。
高い買い物をした事、それを用いてこれからどんな衣装を作ろうか考えているのだろう、少しリリザはハイになっているようだ、心なしか足取りも弾んでいる。
何せヒシンが「その袋、持とうか?」と言った所を「これは私が持つわ」と言うほどなのだから、まあかなり浮かれている方だろう。

「帰りにルーヴに寄って焼き菓子買って帰ろうか?」
「そうね、私オレンジピール・クッキーにしようかな」
「……で」
「?」
「どんな衣装にするつもりなの?」
他愛も無い会話をしながらも、やはり恋人が着るステージ衣装の事はヒシンとて気になる。
できれば露出は少なめに……と思ってしまうのは、致し方無いところであろう。
「気になる?」
「そりゃあ、ね……」
少しバツが悪そうなヒシンを見て、リリザは
「ヒミツ」と言い……

そしてふわりと微笑んだ。

その柔らかい微笑に一瞬ヒシンは心を奪われる、奪われるのと同時にまた言いようの無い不安にも捕らわれた。

自分が彼女の微笑みに心奪われるのと同じように、恐らく他の男たちもまた、彼女の笑みに心を奪われているに違いないのだから。


この5年間、ヒシンは何かにつけリリザを町に連れ出した。時にはナサヤに用事を頼まれて、時にはデートとして。
結ばれた当初は箱の中かヒシンの傍らかにしか居ようとしなかったリリザも、
恐る恐るヒシンと二人で外出を繰り返すことによって徐々に他人に対する恐怖心を薄らげていった。最近では一人で町に出ることもしばしばある。
最初は、リリザに外の世界を知って欲かった、箱の中だけの狭い世界ではなく、外の眩しくて広い世界を知って欲しい、と。
しかし人間の心というものは現金なもので、こと最近ヒシンは少々後悔していた。
外の世界は確かに魅力的である、空も、大地も、町も、そこをゆく人々も。
けれどリリザは、この5年間でさらに魅力的になってしまった。
背は伸び、幼かった顔は大人びており、ゆるく巻いた美しい髪は腰まで伸び、体つきも女性らしい柔らかさと丸みを帯びてきて、
特にふくよかな胸や、腰まわりから腿にかけては同年代の娘達と比べるのが申し訳ないほどに肉感的であった。

端的に言えば、男が放って置かない女になったのだ、リリザは。

そんなリリザが町を歩く、男たちは通り過ぎた彼女を振り返って見る。そんなことがリリザと一緒に歩いていて幾度と無く、数えるのも莫迦莫迦しいほどにあった。
自分が一緒にいるのなら、まだ良い。傍にさえいればこの娘は自分の恋人なのだとアピールできる、声をかけてくる男もいない。
しかし一人で町に出られては、自分にはどうすることも出来ない。
せいぜい「気を付けて」と言うくらいのことしかできないのだが、彼女は自分の魅力に全く気付いてないらしく、苦笑しながら「心配性ね」と言うだけなのだ。

以前はセリアー絡みでルースが取る、常軌を逸したとも思える行動に納得のいかなかったヒシンではあるが、
ここ最近のヒシンは当時のルースの気持ちが理解できるようになってきた。

自分だけのものにしたい、自分以外の誰の目にも触れさせたくない、そんな事を考える。
いっそ箱の中に閉じ込めて……などと考えてしまうことすらある、いや、そんなことをしてはいけないことはわかっている。
今やリリザもそんなことは望まないだろう、ヒシンとて彼女に無理強いはしたくない。


けれど、いやだからこそ、過去を振り返ってみて彼女を町に連れ出さなければ……と思うのだ。

5年前の彼女は外を極端に恐れていた、町で泣いてしまうことすらあった、
それでも根気強くヒシンはリリザを何度も町に連れ出したのだが、
もし仮にヒシンが彼女を町に連れ出さなければ、彼女は今頃どうであったであろう?
結ばれた後のリリザのように、箱の中とヒシンの傍とだけを己の行動する領域とし、
他の、例えば町などには出たがらない17歳のリリザになっていたのでは……。

考えても詮無いことである、いくら考えたところで結果は変わらない、けれど……。




「どうしたの? 考え事?」

ふと気付くと、心配そうにリリザがヒシンの顔を覗き込んでいた。どうやら考えに没頭してしまっていたらしい。
「悩みでもあるの?」
リリザの言葉に、ヒシンはとっさに返せない。君を他人の目に晒したくないと考えていた、などとはいくらなんでも恥ずかし過ぎて言えなかった。
「悩みってほどのものでもないんだけどね……」
だからヒシンはそう誤魔化した。
しかし、流石に不自然だったのだろう、リリザは未だヒシンの顔をじっと見詰めている。
問い詰められるか、そう思ったヒシンであったが、その頬に不意に柔らかいものが触れた。

リリザが踵を上げ爪先立ちになり、ヒシンの頬に口付けたのだ。

いくら外の世界に慣れたとは言え、リリザが往来のど真ん中でそんな行為に出るとは思っていなかったヒシンはしばし呆気に取られてしまう。
そんなヒシンを尻目にリリザはすぐに唇を離す、やはり少々恥ずかしそうに頬を染めると、

「元気……出してね」

と、小さく呟いた。
何事かの悩みがあるのだろう、言い難い事ならば聞かないが、せめて元気を出して欲しい。
リリザの行動の意味は、つまりそういうことだった。


――ああ、そうだ。きっとこれで良かったのだ――

唐突にヒシンはそう悟る。

外の世界を知らないリリザでは、恐らくこういうことはしなかっただろう。
町を出歩くようになってからリリザは、少しずつではあるが前向きに、そして情緒豊かになっていったのだ。
自分しか知らないリリザ、というものに正直少しは未練を感じる、感じないと言えば男として嘘になるが。
けれどそのリリザは恐らくこれ程ではない、これ程眩しい存在にはなり得ない。
色々なものを見て、触れて、聞いて、知ったからこそ、今のリリザがいる。
これ程までに自分を惹き付けて止まない彼女が、いてくれるのだ。

だから、これで良かったんだ。

「ありがとう、リリザ」

「? どういたしまして」
少し釈然としない風のリリザであったが、礼を言われてヒシンに微笑みを返す。
そのリリザの肩を急にヒシンが引き寄せたかと思うと、ヒシンはリリザの唇に、口付けた。
驚くリリザをよそに、ヒシンはリリザの口中に舌を割り入れる。最初は驚いていたリリザも途中からヒシンに身を任せる。
ヒシンはじっくりと時間をかけて口付けを交わした、周りの人々、特に男共に見せ付けるように。

たっぷりと互いの唾液と唾液を交換してから、ヒシンはようやく唇を離す。つうと唾液が糸を引いて、切れる。

「もう、こんなところで……」
顔を真っ赤にしてリリザがヒシンを咎める、が、そんな様すら可愛く見えるのだ、この娘は。
ヒシンは苦笑する。
「いや、どうせなら頬じゃなくて唇に欲しかったから、ね」
そう言ってヒシンは、手を差し出す。リリザも一つ息を吐いて気を取り直すと、ヒシンの手に己の手を重ねた。
そのまま手を繋いで、家路につく。

夕暮れの町は、一段と朱が濃くなっていた。




もう後悔することはないだろう、後悔は今の彼女を否定することになるのだから、最早悔いは、無い。
けれど、まあ、これくらいの独占欲は許してください。

繋いだリリザの手のぬくもりを感じながら、ヒシンは誰ともなしに、そう心のなかで呟いた。
2007年02月26日(月) 00:51:38 Modified by kakakagefun




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