日本の周辺国が装備する兵器のデータベース


台湾陸軍は1993年から2002年にかけてベルAH-1W攻撃ヘリコプター「スーパーコブラ」を63機調達しているが、2001年頃から「天鷹」案の名称で、AH-1Wに続く攻撃ヘリコプター調達に関する検討を開始した[1]。候補として浮上したのは、AH-1Wの改良型(実際には機体の95%は新規設計)であるベルAH-1Z「バイパー」とボーイングAH-64D「アパッチ・ロングボウ」の2機種であった。

AH-1Z攻撃ヘリコプター「バイパー」はAH-1コブラの双発型でアメリカ海兵隊が運用しているAH-1Wスーパーコブラの能力向上タイプ[2]。メイン・ローターは複合素材製の新型4枚ブレードになり、エンジンをT700-GE401Cに換装、操縦席はグラス化されている。最も注目されるのは機首部分に装備している最新鋭の光学センサー、米ロッキード・マーチン社製のAN/AAS-30ホークアイ先進目標照準システムで、AH-64Dが装備している第1世代型のTADS(Target Acquisition Designation Sight:目標捕捉及び指示照準器)、PNVS(Pilot Night Vision Sensor:パイロット暗視センサー)と比べて約2倍の目標捕捉能力を有している(陸自のAH-64DJは新型のアローヘッドを装備)。AN/ASS-30が装備するFLIR(Forward Looking Infra-Red:前方監視赤外線)センサーは遠距離でも目標の車種識別が可能なほど高解像度な画像を得る事ができる。またAH-64Dのロングボウ・レーダーが自ら電波を発する事によって隠密性が低下するのに対し、AH-1Zの最新光学センサーはパッシブ型なのでセンサーを使用して敵に逆探知される可能性は無い。(なお、AH-1Zも将来的にはミリ波レーダーの搭載を行うことを計画しており現在開発が行われている)AH-1Zの搭乗員が装備するIHDSS(Integrated Helmet Display and Sighting System:統合ヘルメット表示及び照準システム)はAH-64DのIHADSSよりも高性能だ。武装はM197 20mm機関砲のほかに各種ヘルファイア対戦車ミサイル、スティンガー対空ミサイル、ロケット弾ポッドなどを搭載可能。

ベル社が提示したAH-1Zは、台湾陸軍が既に運用しているAH-1Wの発展型であり装備する兵装も共通しているため、AH-1Zの導入は訓練体系や整備資産も大きな変更を要さず、AH-64Dと比べると敷居が低いと言える。また取得価格や整備コストもAH-64Dと比べると安価。ベル社の宣伝では、AH-64Dの価格は一機あたり1億ドルにもなり台湾が1992年に導入決定したF-16A/B戦闘機よりも高価であるが、AH-1Zであればその6分の1で導入できるとしている。整備性やライフサイクルコストの面でもAH-64Dより優れており、AH-1Zの時間当たりの運用にかかる諸経費はAH-64Dの3分の1で済むとしている。高温多湿な台湾の環境は航空機の運用に負担が大きいが、もともと洋上での運用を前提に設計されたAH-1Zは、湿度の高い気候や海上の大気中に塩分の多い状況でも支障なく運用できるというのがベル社のセールスポイントである。さらに、ベル社は2004年2月に台湾の航空機メーカーAIDC(航空工業開発センター)との間に2004年2月にアメリカ海兵隊のAH-1ZとUH-1Y汎用ヘリコプター用に280組のテイルブームを生産する契約に調印しており、ベル社はこの関係を利用して台湾陸軍へのAH-1Zの採用を目指していた[1]。ボーイングがAH-64Dのライセンス生産を承認しなかったのに対して、ベルは、AIDCにAH-Z 30機の合同生産や既存のAH-1WのアップグレードをAIDCで行うことを容認するなどAIDCとの関係を生かした有利な条件を提示した。

だがAH-1Zは全天候性能では最新光学センサーを搭載しているとはいえAH-64Dに一歩劣り、また既に多くの実戦を経験しているAH-64Dと比べてAH-1Zは実績がないため、その辺りも海外カスタマーとしては気になるところだろう。なお、現在までにAH-1Zの採用を決めたのはアメリカ海兵隊のみである。

もう一方の候補であるボーイングAH-64D攻撃ヘリコプター「アパッチ・ロングボウ」はAH-64Aアパッチの全天候型であり、高い攻撃能力と世界最高クラスの先進的情報処理システムを実現したのが特徴である[2]。AH-64Dの識別点は、マスト頂部にAN/APG-78ロングボウ火器管制レーダーを収めたレドームを有していることである(AN/APG-78を装備していないAH-64Dも存在する)。AN/APG-78はミリ波を使ったレーダーで、目標の捜索や捕捉・照準に使用される。レーダーが捉えた目標は最大256個まで追跡が可能(探知は1,000目標以上が可能)で、機上プロセッサーが自動的に目標の脅威度を判定して攻撃優先順位を決める。この優先度が高い順に最大16目標が操縦席のディスプレイに表示され、パイロットは煩わしい作業を行うことなく効率的に攻撃する事ができる。AH-64Dは情報の分配システムも優秀で、データリンクにより目標の脅威データや自機の航法データ等をほぼリアルタイムで味方に配信でき、この充実したC4IR(Command Control Communication Computer Intelligence Recognition:指揮、管制、通信、コンピューター、情報、偵察)機能によりデジタル戦場の中心的役割を果たす。搭載兵装として機体左右のパイロンにAGM-114対戦車ミサイル「ヘルファイア」やAIM-92赤外線誘導空対空ミサイル「スティンガー」などを装備でき、また機体下面にはM230A1 30mm機関砲を装備している。RFヘルファイアを使用した場合、AH-64Dは対戦車ミサイルの完全撃ちっ放し能力を持つ。

ただし、上記のような高度な情報システムを十全に生かすためには軍全体の情報ネットワークシステムの構築が前提となる。また、AH-64D自体についても、高い性能と引き換えに機体価格も高額であり、十分な整備体制を必要とするため、ライフサイクルコストの上昇を招くことになる。これに加えて、ボーイングは台湾との交渉においてAH-64Dのライセンス生産を承認しなかったため、部品供給は基本的にボーイングからの供給となり台湾国内では調達できないことになり、これは部品の円滑な供給や整備・維持上の問題を引き起こす可能性があるといえる[1]。

台湾国防部の攻撃ヘリコプター購入に関するアメリカへの打診は2002年頃から行われていたが、台湾議会での国防予算をめぐる審議拒否などの政治的問題から棚上げ状態が続いていた。2007年7月11日、台湾の呉〈拊麒涜緝宿(事実上の台湾大使館)代表は台湾がアメリカ政府との間でAH-64D「アパッチ・ロングボウ」30機の調達に関して基本合意したことを明らかにしたと報道された[3][4]。購入総額は26億ドルになるとされている[3]。台湾陸軍がAH-64Dの採用を決定した要因としては、AH-64Dの優れた攻撃能力や情報処理・全天候性能が、中国軍の着上陸作戦を水際で阻止する上で極めて有効であると判断したことによるとされる[1]。

AH-64Dは、新設される攻撃ヘリ部隊に配属され既存のAH-1Wと併用される予定。AH-64Dは現在BlockIIIまで開発されているが、台湾が購入するのはBlockIIとされている(注:後にBlockIIIに変更される[10])。今後、アメリカ政府の輸出承認と台湾議会での予算可決(2008-2009年度予算になると見られている)を経てAH-64Dの購入が確定することになる。ただし、高額なAH-64Dの導入に関しては台湾でも問題視する意見もあり、議会で順調に承認を受けることが出来るかどうかが今後の課題となると見られている。

【2008年2月3日追記】
台湾立法院は、国防部が申請していたAH-64D BlockII攻撃ヘリコプター30機の予算(1億1,500万ドル)を含む2008年度国防予算を承認、これによってAH-64Dの調達が正式に承認された[8]。

【2008年6月12日追記】
DefenseNewsの6月9日付の報道では、アメリカ国務省は議会に対して120億ドル相当の台湾への兵器輸出を凍結することを通知したとのこと[9]。この中には、AH-64D戦闘ヘリ30機、UH-60汎用ヘリ60機、潜水艦8隻、パトリオットPAC-3地対空ミサイル4セット、F-16C/D 66機を含んでいる。凍結の理由としては中台関係への緊張を高めたくないとの配慮があるとされる。凍結の期限がいつまで継続されるか現時点では不明であるが、状況の展開によっては台湾の防衛政策に深刻な影響を与えかねない事態であるといえる。

【2008年10月5日追記】
10月4日、アメリカ国務省は議会に台湾向けの64億6300万ドルに及ぶ兵器輸出を通知した[10][11]。ブッシュ政権末期の駆け込み通知によって上記の兵器供給の一時凍結が解除された形になる。これによってAH-64Dの台湾への輸出が決定した。内訳は、AH-64D BlockIII攻撃ヘリコプター×30機(内、17機がAN/APG-78ロングボウ火器管制レーダー搭載型)、FIM-92FスティンガーAAM173基、スティンガーAAM訓練装置35基、AGM-114L ロングボウ・ヘルファイアATM 1000発、M299ヘルファイア用ランチャー66基、各種装備及び訓練、整備維持などを含み輸出費用は25億3200万ドル[9][10]。

【2010年11月10日追記】
2010年10月29日、米国防総省は台湾に対するAH-64D BlockIII「アパッチ・ロングボウ」30機([12]。資料[13]では31機としている)と関連装備の輸出を承認した[12][13]。AH-64Dを製造するボーイング社は2015年7月30日までに全ての生産作業を完了させる予定。最初の機体は2014年の第一四半期に引き渡される見込み。

【2012年5月20日追記】
2012年5月18日、ボーイング社で製造された台湾軍向けAH-64D BlockIII攻撃ヘリコプターの一号機の引渡し式典がボーイング社のアリゾナ工場で実施された[14][15]。式典には、台湾陸軍の李翔宙上将とボーイング社のグレッグ・スミス(Greg Smith)副社長が出席。李上将は1号機に約30分搭乗したほか、2号機の生産状況も視察している[14]。

【2013年4月11日追記】
2012年8月、米国防調達委員会はAH-64D BlockIIIのフル生産を承認した際に、同機の制式名称をAH-64Eに変更[15]。同年9月6日には、米軍の航空機やミサイルなどの型式名やポピュラーネームを管理する空軍資材コマンド(Air Force Materiel Command:AFMC)は、AH-64Eの型式名を承認。翌2013年1月8日、ボーイング社はAH-64Eに「アパッチ・ガーディアン」というポピュラーネームを付与することを決定。

この一連の経過を受けて、台湾が購入するAH-64D BlockIIもその型式名がAH-64Eに変更されることになった。

【2013年11月6日追記】
2013年11月3日、台湾がアメリカに発注していたAH-64Eの最初の6機が台湾に到着[17]。コンテナ船に積み込まれて高雄港に到着したAH-64Eは現地でローターなどの取り付け工事と地上テストを行った上で、翌4日から 基地のある台南への空中移動を開始した。AH-64Eは、12月下旬に第2陣が到着する予定で、2014年末までに全30機の受け入れが完了する予定[17]。

AH-64E性能緒元
最大離陸重量7,530kg
全長17.7m
胴体幅5.28m
メインローター径14.6m
全高4.95m
エンジンT700-GE-701D(3,780shp)×2
最大速度265km/h
航続距離483km
滞空時間3時間
武装M230-A1 30mm機関砲×1(1,200発)
 AGM-114L「ヘルファイアII」対戦車ミサイル×16(最大)
 FIM-92Fスティンガー赤外線誘導空対空ミサイル×4
 M261 2.75in 19連装ロケット弾ポッド×4(最大)
乗員2名
注:全ての兵装を同時に搭載できるわけではない。性能緒元は[15][16]を基に作成。

【参考資料】
[1]MDC軍武狂人夢「台灣新購攻擊直昇機計畫」
[2]Jウィングス特別編集 戦闘機年鑑2005-2006(青木謙知/イカロス出版)
[3]DefenseNews.com 「Taiwan Army Selects Apache Over Cobra Z」(WENDELL MINNICK /2007年7月10日)
[3]同上「Taiwan To Purchase Patriots, Apaches」(WENDELL MINNICK /2007年1月7日)
[4]産経新聞 「台湾 対戦車ヘリ調達 駐米代表、F16も米と交渉」(2007年7月12日)
[5]兵器知識 2006年2月号「武装直昇機一樹之高的領袖」(《兵器知識》雑誌社)
[6]聯合新聞網 2007年9月2日「陸軍両大直昇機建案 採AH64D與UH60M」
[7]新浪網 「攻撃直昇機購案引争議、台軍称阿帕奇”最後需求”」(2007年7月10日)
[8]Kojii.net - 今週の軍事関連ニュース (2008-01-08)
[9]DefenseNews 「U.S. Freezes $12B in Arms Sales to Taiwan」
[10]NOWnews【今日新聞】「美對台軍售已送國會 包括阿帕契直升機、不含潛艦案」(2008年10月4日)
[11]Defense Security Cooperation Agency「Taipei Economic and Cultural Representative Office in the United States – AH-64D APACHE Helicopters and Related Weapons」
[12]Shephard Group「AUSA 10 Boeing secures Apache Block III contract」(Tony Skinner /2010年10月26日)
[13]中時電子報「美:售台AH-64D已發包」(2010年11月9日)
[14]中央社日文新聞「台湾、攻撃ヘリ「AH-64D」1号機を納入」(2012年5月18日)
[15]中時電子報「國軍首架阿帕契長弓交機 與美軍同步裝配」(2012年5月18日)
[15]石川潤一「世界最強の空飛ぶ陸戦兵器”アパッチ”の最終進化形(AB3A/B)が登場−無人機を操るAH-64Eガーディアン攻撃ヘリ 」(『軍事研究』2013年4月号/ジャパン・ミリタリー・レビュー)106〜117ページ
[16]青木謙知『戦闘機年鑑2013-2014』(イカロス出版/2013年)224〜231ページ
[17]フォーカス台湾「米から購入の攻撃ヘリ、台湾到着後初離陸の雄姿にファンを魅了」(2013年11月5日)

- 台湾陸軍

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