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▼動画:軍武速遞「遠火洗地,解放軍PHL 191型火箭炮有多匈押500公里射程覆蓋台島」2023年に行われた東部戦区の演習に登場したPHL-191に関する解説記事


性能緒元
重量45t
全長12m+
全幅3m+
全高3m+
エンジンターボチャージャード・ディーゼルエンジン 500hp級
最高速度60km/h
航続距離650km
武装300mm5連装ロケット発射機×2
370mm4連装ロケット発射機×2
戦術弾道ミサイル×2
その他、300mm/370mm/610mm/750mmサイズの各種ロケットやミサイルの運用能力あり
装甲あり
要員4名

191型多連装自走ロケット砲(191式/PHL-191/PHL-16)は、NORINCOが輸出向けに開発した大口径多連装自走ロケット砲AR-3を基にして中国軍向けに改良を加えたもの[1]。中国語では、「PHL-191型8管370mm模块化远程制导火箭炮」[2]、「PHL-191型多管火箭炮系统」[3]、「PCH-191型箱式火箭炮」[4]などの名称で呼ばれる。「模块化」や「箱式」はPHL-191の特徴であるモジュール式ランチャーを意味している。

開発作業は2013年から始まり、2019年10月に開催された中国建国70周年記念軍事パレードで一般公開されてその存在が明らかにされた[1][2]。当初ネットでは16式(PHL-16)の名称が用いられていたが、その後PHL-191という新たな制式名も登場し、こちらの方が広く用いられるようになった。PHLは、「炮」、「火箭」、「轮式」の頭文字であり[5]、三桁の番号は近年登場した新しい命名方法で、「19年に採用された1番目のPHL(装輪ロケット砲)」を意味する。表記は191式と191型の二種類があるが、使用頻度は191型の方が多いように見うけられる。

PHL-191は、戦術ミサイルと野砲との間のギャップを埋める兵器システムであり、その長射程を生かして敵の縦深深くにある敵機甲部隊や砲兵の集結地、後方の司令部や補給地点への攻撃等を行うこと想定している[6]。さらに、戦術弾道弾や対艦ミサイルといった多様な選択肢を活用して、陸軍砲兵部隊の果たし得る役割を大幅に拡張しえる潜在性を有している[1]。

【性能】
PHL-191(とその原型となったAR-3)は、ロシアからの技術導入を受けて実用化された大口径地対地ロケットシステムである03式300mm12連装自走ロケット砲(PHL-03/AR-2)をベースにして、モジュール式ランチャーや各種口径のロケット弾を併用することを可能にするなどの新機軸を盛り込んで開発が進められた[1]。

PHL-03では300mm口径のロケット弾のみを用いていたが、PHL-191/AR-3ではモジュール化されたランチャーごと装填する手法を採用することで、既存の300mm口径のロケットのみならず、射程と威力で勝る370mm口径のロケット弾、さらに大型の戦術弾道弾や対艦ミサイルといった多様な兵装を任務に応じて選択できるようになった[1]。

【シャーシ】
PHL-191のシャーシは万山WS2400重野戦トラックを基にしている[6]。乗員4名は車体前部のキャブに乗車するが、PHL-03とは異なりキャブを小銃弾や砲弾の破片に抗湛するように装甲化し、さらに自動消火装置を装備することで乗員の生存性を高める措置が取られている[1][6][2]。PHL-03ではキャブ後方に砲手が操砲作業を行う砲手室が別途設けられていたが、PHL-191ではシステムの小型化により全ての乗員がキャブ内に乗車することが可能となり、別途砲手室を設ける必要性はなくなった。これにより荷台前部をロケットランチャーのスペースとして使用できるようになり、大型化したランチャーを搭載する余裕が生じた[2]。

車長と操縦手は前部座席に、その後方には無線機と射撃統制システムを配しており、制御を担当する二名の操作員が着座する[1]。ロケット砲システムの操作、モジュール式ランチャーの再装填作業は全て車内から操作されるので、車外に出る必要はない[1]。自走発射機を無人として、離れた場所から操砲操作を行うことも可能。キャブにはNBC防護システムが標準装備されているが、必要に応じて防護服を着て車外での作業を行うことも想定されている[1]。

45tの総重量にもかかわらず、500馬力級のエンジンにより20馬力/1tの出力重量比率を確保している[1][7]。エンジンの詳細な情報は乏しいが、WS2400はドイツのDeutz ターボチャージャード・ディーゼルエンジン(517hp)を搭載しているので[7]、その流れを組むものが積まれているとみられる。駆動系と足回りも高度なものを備えており、駆動系は三段式流体変速装置と油圧式動力伝達機構から構成され、直径1.5m×幅50mmの大型タイヤはトーションバーサスペンションによる独立懸架方式を採用し、地形に合わせて最適な空気圧を調整し得る空気圧調整システムの効果もあって、良好な野外走行性能を有する[1]。路上最高速度は60km/hで、航続距離は650km[1]。最小旋回半径は15m、最大踏破角57度、1.1m以下の河川の渡渉能力を有している[1]。

PHL-191は零下22度から摂氏55度までの環境での運用に対応しており、チベット高原のような高地で道路事情に制約の多い地域でも実用性を確保しているとされる[1][6]。

【兵器システム】
PHL-191は荷台に積んだ旋回式架台に、二基のモジュール式ランチャーを装填する[1]。モジュール式ランチャーは300mmロケット弾の場合は5連装、370mmロケット弾は四連装、大型の直径610mmと750mmの戦術弾道弾の場合は各モジュールに一発を搭載する[1][6][3]。左右で別々のランチャーを装填しておくことも可能であり、任務に応じた様々な選択肢が用意されている。再装填作業の省力化もモジュール式ランチャーの優位性が発揮し得る場面であり、乗員3名で20分以内に全ての作業を終えることが出来る[1]。

PHL-191の先達に当たるPHL-03の場合、発射までに要する時間は3分、3秒ごとに一発の発射が可能で、全弾斉射に要する時間は38秒[1]。斉射後1分以内に陣地転換を行う能力を有していたが、後に開発されたPHL-191では所要時間はさらに短縮されていると推測される[1]。近年の砲撃戦は、即座の対砲撃戦を受けるリスクが高まっており、いかにして迅速に射撃を行い陣地転換に移れるかが極めて重要な能力とされている。

PHL-191のC4ISR(指揮・統制・通信・コンピューター、情報、監視、偵察)システムは高度に自動化されており、優れた操作性と整備性を備えている[1][2]。作戦や整備での高い効率性と省力化を両立しており、全ての任務を3名で完了し得る[1]。各種パネルに表示される情報は、記号化され理解を容易にする工夫が施されており、入力した指示に従って自動的に車両の位置を調整、発射機の方位・仰角が調整されて、目標に対してロケット弾を発射する[2]。通常はロケット砲指揮車両や上位部隊からの指示を受けて作戦を遂行するが、必要に応じて一両単位で独立して打撃作戦を実施することも想定されている[1]。

【ロケット弾】
PHL-191は各種サイズのモジュール式ランチャーを活用することで、多種多様なロケットやミサイルの運用能力を付与することが可能となった。

PHL-191のベースとなったAR-3では、BRC3/4、BRE2/3/6/8、火龍140/220/280ロケット弾、火龍480戦術弾道ミサイル、TL-7B対艦ミサイルといった豊富なラインナップが取り揃えられている[1]。

主要なものを紹介すると、BRE3は直径300mmで射程は60〜130kmの地対地ロケット弾[1]。誘導システムは衛星位置測定システムと慣性航法システムの併用でCEP(Circular Error Probability:平均誤差半径)10m〜50mの精度を有する[1]。BRC4は射程150kmのクラスター弾頭型で弾頭に400発の子弾を搭載。子弾は50mmの均質圧延鋼板を貫徹する能力があり、一発の殺傷半径は7m[1][8]。

同じ300mmのサイズの火龍140はGPS+慣性誘導で一定程度の移動目標に対する攻撃能力も付与されたことで、水上艦艇への打撃も可能となる[1]。

370mmの場合、BRC3は射程が100〜220kmのクラスター弾頭型。弾頭に600発の子弾を搭載し、ロケット一発で9.6平方劼量明僂魏仞する[1]。火龍220/280はGPS+慣性航法の併用で、射程や弾頭の中身が異なる[1]。370mmロケット弾は、射程が200kmを超え、弾頭威力も300mmロケット弾の倍に達する [1]。その性能は単なる対地ロケットを超えて、戦術弾道ミサイルに近いものになっていると評価されている[1]。

AR-3は本格的な戦術弾道ミサイルの運用能力も付与されている。750mmという最大のサイズのランチャーに一発を搭載する火龍480は、弾頭重量480kg、射程290kmの戦術弾道ミサイルで、GPS+慣性航法+各種終末誘導システムの併用で高い命中精度を有する[1]。290kmという射程は国際規約であるミサイル技術管理レジーム(MTCR)に抵触しない300km未満という規制に従ったものであり、自国で用いる分にはこの制約は用いられない。

AR-3は沿岸防衛任務での活用を想定して地対艦ミサイルを搭載することも可能。AR-3が搭載するのは射程180kmのTL-7Bで、火龍280などと同じ370mmランチャーに収納される[1]。

AR-3の発展型であるPHL-191も、上記の様な300mm/370mm/610mm/750mmの各種サイズのロケット/ミサイルを運用するものと考えられいる。かつての多連装ロケットは命中精度の低さを数で補っていたところがあったが、PHL-191のロケット弾は衛星位置測定システムや慣性航法誘導、その他各種誘導システムを用いることで高い命中精度を得ている。ロケット弾の優位性はその安さにあり、例えば370mmロケット弾の場合はその単価は100〜120万人民元で、この低コストなロケット弾に精密誘導能力を付与させたことで、兵器としての価値が大いに高まったと見なし得る。

輸出向けの火龍480に相当する戦術弾道ミサイルについては、2023年11月に陸軍第71集団軍の公式SNSで大型ランチャー二基を搭載したPHL-191が訓練を行っている様子が公開され、戦術弾道ミサイルがPHL-191で装備されていることが明らかにされた[9]。このミサイルの射程は500kmに達するされ、ロシアのイスカンデルMに近い性能を有する戦術弾道ミサイルであることが明らかになった[9]。

中国軍では大口径ロケット砲の長射程を生かして、沿岸防衛用兵器として対艦攻撃に活用してきた経験があり、PHL-191についても同様の運用が成されることも十分に考えられる[4]。対艦攻撃には通常の300mmや370mmロケット弾を使う場合もあれば、輸出向けに開発されたTL-7Bのように対艦ミサイルをランチャーに搭載して投射することも可能であり、今後どのように沿岸防衛にPHL-191を用いるのかが注目される。

【部隊編成】
PHL-191は前述の通り、戦区レベルの集団軍砲兵旅に配備され、全般的な支援火器としてその長射程を生かして敵の縦深深くにある敵機甲部隊や砲兵の集結地、後方の司令部や補給地点への攻撃等を行うこと想定している[6][8][10]。

PHL-191の一個営(大隊に相当)は、自走発射機、再装填車、指揮車、気象観測車、その他支援車両、偵察用機材、ドローンなどにより構成される[6][11]。

自走発射機にはそれぞれ再装填車が組み合わされており、持続的な砲撃能力を高めている。自走発射機と再装填車は、どちらもWS2400ベースの共通シャーシを用いている[6]。再装填車の荷台にはロケット弾を装填したモジュールが二基搭載されており、備え付けのクレーンを使って装填作業を行う。再装填作業には10分から20分を要し、通常は対砲兵射撃を避けるため射撃位置から離れた地点で再装填が行われる[6][2]。

【PHL-191の位置付けについて】
PHL-191は2022年段階で200基以上が配備されているとされ、ほぼ同数が調達されたPHL-03と共に大口径ロケット砲部隊の中核的装備としての地位を占めている[8]。

PHL-191が有するその長射程と高い命中精度は、これまで戦術支援任務を主としてきた陸軍砲兵にとって、その枠を超える能力を会得することを可能としたことが注目される[3]。

PHL-191を福建省に展開させた場合、射程70〜150kmの300mmロケット弾は台湾海峡を、射程220kmを超える370mmのロケット弾は台湾西岸部を火制するに十分な射程を有しており、台湾軍にとっては戦略的脅威と見なし得る存在となっている。実際、2023年に東部戦区で行われた軍事演習に関する中国のニュースではPHL-191が登場して、その存在を台湾側に意識させる報道がなされていた[11]。

さらに注目されるのは、射程500kmの戦術弾道ミサイルである。その存在は、空軍やロケット軍の攻撃手段に依存することなく、陸軍自身が遠距離目標に対して精密打撃を行う能力を得たことを意味する[9]。

陸軍ではかつて最大射程530kmに達するDF-11A戦術弾道ミサイルを試験的に配備したことがあったが、命中精度の問題から短期間で運用を止めて第二砲兵(現在のロケット軍)に装備を移管したという経験があった[9]。

PHL-191による射程500kmの戦術弾道ミサイル運用は、DF-11の配備中止の際には解決できなかった課題を克服したと評することが出来るだろう。

それは、陸軍が長射程兵器を活用するために欠かせない遠距離目標の発見・評価・目標情報の判定といった情報収集能力を得ていることも意味している[9]。陸軍自身の偵察・情報戦能力の向上に加えて、各軍種間の情報共有が進んだこととそれを可能とする統合運用に必要なデータリンク網の整備、通信衛星や偵察衛星といった宇宙分野での能力構築などが総合的に作用した変化である。

陸軍自身の遠距離打撃能力が強化されることは、空軍やロケット軍がこれまで陸軍の支援に割り当てていたリソースをほかの分野に回せることに繋がり、中国軍全体の戦力の底上げを可能にすることが指摘されている[9]。

【参考資料】
[1]「陆上作战模块 第五方队—自行火炮方队之新型大口径火箭炮、新型155毫米车载加榴炮」『兵工科技甦 中华人民共和国成立七十周年国庆大阅兵典藏版』(兵工科技杂志社)37〜46頁
[2]雪球「【尖端军工】首见国产PHL-191新型火箭炮实弹试射,打击高原炮阵地,长剑天降直插目标 」(2020年9月9日最終更新/来自雪球) https://xueqiu.com/7956505474/158745913
[3]捜狐「美刊《军事观察》:解放军PHL-191是全球最危险的轮式多管火箭炮」(闻武观潮/2022年9月7日)https://www.sohu.com/a/583137161_121118977
[4]捜狐「火箭弹也能反舰!央视披露03式远火可击中海上运动目标」(2020年12月21日)https://www.sohu.com/a/439632609_120823584
[5]腾讯网「中国火箭炮400公里射程,精度堪比导弹,不仅自己服役还大量出口」(东方点兵/2022年3月23日)https://new.qq.com/rain/a/20220323A03JXI00
[6]MilitaryToday.com「PHL-16 Multiple Launch Rocket System」https://www.militarytoday.com/artillery/phl_16.htm
[7]MilitaryToday.com「Wanshan WS2400 Special wheeled chassis」https://www.militarytoday.com/trucks/wanshan_ws240...
[8]荒木雅也「中国人民解放軍陸軍主要装備カタログ」『現代中国人民解放軍総覧』(アルゴノーツ社/2023年/25〜120頁)96頁
[9]捜狐「解放军远火上高原,射出一枚硕大的导弹,火力打击圈猛涨500公里」(张学峰看空天/2023年11月14日)https://www.sohu.com/a/736266304_121410973
[10]荒木雅也「中国陸軍総論」『現代中国人民解放軍総覧』(アルゴノーツ社/2023年/13〜24頁)20頁
[11]Youtube :軍武速遞「遠火洗地,解放軍PHL 191型火箭炮有多匈押500公里射程覆蓋台島」
https://www.youtube.com/watch?v=lRk-QJEhoKs

【関連項目】
AR-3 300mm/370mm 10/8連装自走ロケット砲
03式300mm12連装自走ロケット砲(PHL-03/AR-2)
中国陸軍

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