最終更新:
rglc85tj8h 2018年10月08日(月) 18:41:15履歴

KJ-200(空警200)はY-8輸送機をベースにした早期警戒機。「高新5号(GX5)」の名称で呼ばれることもある。開発元はY-8のメーカーである陝西飛機工業(集団)有限公司。機体上部に細長い箱状のアンテナ・フェアリングを搭載している。これは中国が開発したアクティブ電子走査アレイ(Active Electronically Steered Array:AESA)レーダーであると推測されている。
【開発経過】
KJ-200の開発は1990年代後半に開始されたと見られている[1]。機体の開発は陝西飛機工業集団公司が、レーダーをはじめとする電子装備の開発は南京電子技術研究所(第14研究所)が中心となって進められた[1]。試作1号機は2001年11月8日に初飛行に成功した[2]。試作1号機はY-8F200輸送機に早期警戒レーダー・システムを搭載したが、それ以降の機体はベース機を新型のY-8F600に変更した。KJ-200設計案は2003年5月に総装備部の批准を受けた[2]。その後、開発陣は主翼の構造や燃料系統の設計作業、エンジンの改良などを進め、これらの改良点を盛り込んだ試作2号機は、2005年1月に初飛行に成功した[2]。
KJ-200は2006年1月から空軍部隊での試験運用を開始した[2]。しかし2006年6月3日、安徽省でKJ-200試作2号機の墜落事故が発生した[1][2]。搭乗していた40名のうち35名が電子技術者で、全員が死亡した。墜落の原因ははっきりしていないが、事故の様子を見ていた付近の住人は「空中で姿勢を崩して落ち、大爆発を起こした」と証言しており、機体になんらかのトラブルがあったものと思われる。事故当時空は曇っていたが雨は止んでおり、悪天候による墜落とは考え難い。JDW誌によれば墜落の直接的原因は防氷装置の不具合によるもので、機体の揺れた際に定員を大幅に超えて乗り込んでいた技術者達(座る席が無かった為シートベルトも締めていなかった)が一斉に機体前方に飛ばされたため、機体が大きくバランスを崩して墜落したという話を伝えていた。20006年9月には新華社の報道として、調査の結果事故機が何度も過冷却の水滴を含む雲のある空域を飛行して、機体表面に着氷を生じた事が墜落原因であったと報じられた[2]。この事故によりKJ-200の開発に携わっていた技術者多数が殉職し、試作機が失われたことと合わせてKJ-200の開発にとって深刻な影響を与えることとなった[1]。開発が一時停止状態にあるとも伝えられたが、2007年11月になって3機目の試作機が製作されているとの報道があり、開発が継続していることが証明された(試作3号機は2007年中に完成)。
KJ-200は中国空軍による運用試験で様々な問題が発生したとされる[3]。まずベースとなったY-8輸送機が人員輸送を前提として製作された機体では無いため、キャビン内部の振動や騒音防止が十分でなく、機内での騒音レベルは作業に支障を来たす水準に達していた。また機体の上部に搭載されたアンテナ・フェアリングによって機体の空力的特性が変わり、飛行時の安定性劣化を招くこととなった。これは試作2号機墜落の原因の1つになったと見られている(安定性改善のため水平尾翼に垂直安定版が追加された[4])。様々な困難を経てKJ-200は実用化に漕ぎ着け、2009年10月1日に行われた中華人民共和国建国60周年記念軍事パレードでは中国空軍のKJ-200 2機が天安門広場上空を飛行して、KJ-200が中国空軍に配備されている事を内外に示した[2]。
【機体特徴】
KJ-200は基本的にはY-8F600をベースとして、早期警戒レーダーシステムを搭載した機体である。任務の変更に伴い、機体後部のランプドアは廃止されている。前述の通り部隊配備されたKJ-200には水平尾翼翼端に垂直安定板が装着されているが、これは試作機1〜2号機には無かった装備で、機体の改修に伴い安定性改善の必要性が生じたための措置と見られる[4]。Y-8は部分与圧であったが、KJ-200では早期警戒機として高空で長時間の監視飛行を行う必要性から、機内は完全与圧化されている[4]。
胴体上にはスウェーデンのエリクソン社製PS-890エリアイ(Erieye)早期警戒レーダーに似たアンテナが装備されているが、中国軍がスウェーデンから技術的支援を受けたのかどうかは不明。PS-890は1994年に実用化したSバンドの側方監視機上レーダー(Side-Looking Airborne Radar:SLAR)で、100個の放射素子を持つフェイズドアレイ・レーダーだが合成開口式(Synthetic Aperture Radar:SAR)ではないリアル・ビーム方式である。戦闘機大の目標を350kmで探知できるが、味方機の管制はデータリンクを通じて地上で行われるので厳密には早期警戒管制機(Airborne Warning And Control System:AWACS)とは言えない。「漢和防務評論」2008年7月号の分析では、KJ-200のレーダーは機体サイズで比較するとPS-890よりも一回り大型であるとし、これはKJ-200のレーダーがPS-890よりも長距離探知能力を重視していることによると推測している。ただし中国はスウェーデンに比べて電子機器の小型化技術で差があるため、機内の電子装置の容積はPS-890よりも大型になっていると見ている[1]。
【実用化後の状況】
2013年3月の時点でKJ-200は中国空軍向けに5機、中国海軍航空隊向けに少なくとも6機が引き渡されている[4]。空軍のKJ-200の内、4機は南京軍区所属の空軍第26師に配備されている[4][5]。第26師にはKJ-200より能力の高い早期警戒管制機であるKJ-2000も配備されており、KJ-200はKJ-2000を補完して早期警戒(Airborne Early Warning:AEW)任務や電子偵察任務に当たるハイ・ローミックス的な運用が行われている。
しかし、空軍や海軍航空隊ではKJ-200の性能に満足しておらず、同じY-8/Y-9プラットフォーム機を利用した新しいKJ-500早期警戒管制機(空警500)の開発を決定。KJ-500はKJ-200に代わって、2014年から空軍へ、2015年には海軍航空隊への配備が開始された[6]。
▼空軍のKJ-200

▼海軍航空第2師団のKJ-200

▼海軍航空隊にはKJ-200が6機以上配備されている模様。右端の機体はY-8J哨戒機

【参考資料】
[1]Chinese Defence Today「KongJing-200 Airborne Early Warning & Control Aircraft」
[2]空军世界「空警200(运-8“平衡木”)预警机」
[3]漢和防務評論 2008年7月号「空警200預警機出現問題」(Jeff Chen/漢和防務中心)
[4]Chinese Military Aviation「Y-8W/KJ-200 Cub/High New 5」
[5]Yefim Gordon、Dmitriy Komissarov著『Chinese Air Power:Current Organisation and Aircraft of All Chinese Air Forces』(Midland Pub Ltd、2010年8月)158、160頁
[6]Chinese Military Aviation「Surveillance Aircraft I/KJ-500」http://chinese-military-aviation.blogspot.com/p/su...(2018年10月7日閲覧)
世界航空機年鑑2005 (酣燈社)
kojii.net
JDW
Y-8輸送機(運輸8/An-12)
Y-8早期警戒機(Y-8AEW)
Y-8電子情報収集機(Y-8EW)
Y-8空中指揮機(Y-8ACP)
Y-8電子戦機(Y-8EW/ECM )
Y-8哨戒機(Y-8MPA)
Y-8洋上偵察機(Y-8ASA)
Y-8Q対潜哨戒機(運輸8Q)
中国空軍
中国海軍