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▼2018年の珠海航空ショーで展示されたY-20A輸送機(著者撮影)


▼2018年珠海航空ショーで模型が展示された民生向けY-20F100輸送機と展示パネル。エンジンは直径の大きいWS-20にされている。(著者撮影)



▼CCTVで放送されたY-20開発を取り上げた大型ドキュメンタリー番組「大国鲲鵬」
 垤餡记忆》《大国鲲鹏》系列 第一集 战略决策 20180730 | CCTV中文国际

◆垤餡记忆》 《大国鲲鹏》系列 第二集 自主研发 20180731 | CCTV中文国际

《国家记忆》 《大国鲲鹏》系列 第三集 协同制造 20180801 | CCTV中文国际

ぁ垤餡记忆》《大国鲲鹏》系列 第四集 首次试飞 20180802 | CCTV中文国际

ァ垤餡记忆》《大国鲲鹏》系列 第五集 列装军队 20180803 | CCTV中文国际


Y-20A「鯤鵬」(運輸20A/運-20A)は中国国産の4発大型輸送機であり、長年にわたってこの種の戦略輸送機が欠如していた中国空軍にとっては空軍の在り方そのものに変革をもたらす重要な機体である[1]。ステルス戦闘機J-20、念願の10t級汎用戦術ヘリコプターZ-20と同じく重要機に与えられてきた「20」の型式名が付与されたことからも、中国軍がY-20Aに寄せる思いが伺える。

【開発経緯】
中国空軍は創設以来の経緯から、国土防衛を主任務として防空体制の構築が最優先され輸送機による戦略輸送能力については後回しにされてきた。戦略輸送任務に携わる大型輸送機開発には多額の資金と高度な技術を要し、大型機の設計経験に乏しく、これらの機体が必要とする大推力ジェットエンジンについても導入の目途が立たないため、そのような大型輸送機を実用化し得ないという事情が背景にあった。

1980年代の中国空軍は戦術輸送機しか保有しておらず、その中で最も大型の機体はソ連のアントノフAn-12をコピー生産したY-8輸送機であったが、同機の最大搭載能力は20tと戦車や装甲車を運ぶ能力は有しておらず、飛行性能の問題からチベット高原や中国西北部の山岳地帯での運用には制限があった[2]。1990年代に入ると、関係を改善したソ連/ロシアからイリューシンIl-76MD輸送機の調達が開始され、これが中国空軍にとって初となる4発の大型軍用輸送機となった。IL-76MDは最大52tのペイロードを搭載して1,620kmの航続距離を有し、高原地帯や山岳地での空輸任務にも適合する輸送機であり、中国空軍にとって戦術輸送の枠を超える第一歩となり、大型輸送機の運用ノウハウを積む上で得難い経験となった重要な存在であった[2]。

中国は1990年にIL-76MDの調達を開始、98年までに14機を導入。さらに21世紀に入ると戦略輸送能力強化のためIL-76MD IL-78給油機を合わせて38機の調達契約を結んだ。しかし、IL-76/78を生産していたウズベキスタンとロシアとの関係悪化に伴い、中国向けIL-76/78の生産が出来ない事態が発生[3]。ロシアでの生産に切り替えられたが、価格交渉や供給不安の問題もあって契約はキャンセルされた[2]。しかし、中国にとって当面の間はIL-76以外の選択肢はないことから、複数国からIL-76/78の中古機を調達して輸送機戦力を補強することとなった。この経験から大型輸送機の海外依存が含む問題点が痛感されることとなり、2008年に発生した四川大地震やリビア内戦における中国邦人の航空機による退避などでその必要性がさらに認識されるに至った。これらの経験を踏まえて、大型輸送機の確保が政策上の優先課題となり、海外依存を脱却し自主開発する方針が固められたものと考えられている[2]

政府や軍とは別に、中国航空産業界においても大型輸送機の自主開発についての動きが存在した。早くも1993年には西安飛機工業集団公司が軍に大型軍用輸送機の開発案を提出[1]。2001年には200tクラスの大型飛行機の製造能力の獲得を目指して、航空機製造技術と加工能力の大幅な向上を図り、100t級から200t級の大型航空機の生産に関する重要なブレイクスルーを達成した[1]。これとは別に、Y-7輸送機やY-8輸送機といった中型輸送機を生産する陝西飛機工業集団公司も自主開発した構想案を提出している[1]。

かつて中国でも大型輸送機、H-8長距離爆撃機、Y-10大型旅客機といった大型機が構想されては、実用化に漕ぎつけることが出来ない事例が相次いでいた。その経験を踏まえて、2000年から開始される第10次五か年計画ではより堅実なリージョナルジェット旅客機(後のARJ-21)開発が決定された[1]。

2003年には、IL-76にイスラエル製レーダーを積んだAEW&C機の開発計画がアメリカの圧力により頓挫したことで、後のKJ-2000に繋がる国産レーダーシステムを搭載したAEW&C機開発に移行した[1]。KJ-2000の母機となったIL-76の改造作業でも大型機開発に関するノウハウが蓄積されたが、その副産物として、中国政府は西安飛機工業集団公司に対して大型AEW&C機のプラットフォームとなり得る機体の研究開発を命じた[1]。中国の広大な国土をカバーするAEW&C機は、中型機と大型機のハイ・ローミックスを取ったとしても大型AEW&C機が数十機は必要になるだろうと見込まれており、国産機で賄う需要が存在すると考えられていた[1]。(なお、実際には大型AEW&C機はKJ-2000×3機に留まり、主力となったのはY-9輸送機ベースの中型AEW&C機であるKJ-200KJ-500となった。)当初の要求ではIL-76MDの設計をベースとして新しい技術を盛り込むという内容であり、西安では短時間で総合的な設計案をまとめた[1]。西安ではAEW&C機のプラットフォームとなるべき大型輸送機の設計作業に入ったが、かつて経験のない大型機の開発ではさまざまな困難に直面した。そこで同社が頼ったのが、かつてソ連で豊富な大型機開発経験を有するウクライナのアントノフ設計局であった。中国はアントノフとの間で、同社がロシアと共同開発していたAn-70ターボプロップ輸送機のエンジンをジェット化する計画について協議したことがあり、その縁もあって西安も大型輸送機開発においてアントノフからの技術協力を仰いだのだった[1]。

2003年11月には、国家方針として今後の大型航空機開発に関する関係機関と専門家による検討会議が開催された。この会議では、中国航空第一集団公司が優先されるべきは民間大型旅客機ではなく軍用大型輸送機であると主張。大型機開発経験で遜色のある中国航空第二工業集団も大型旅客機の開発着手には反対姿勢をとった。これに対して科学技術政策をつかさどる関係機関は、今後の国家利益や産業の振興のためには、軍用大型輸送機ではなく民間向けの大型旅客機を優先して開発すべきであると主張。さらに大型旅客機の開発体制は、軍用輸送機とは切り離して行うべきだと開発体制の刷新も求めた[1]。会議では三つの意見が真っ向から衝突する結果となったため、国務院の温家宝総理の指示の元、再検討と意見の取りまとめが半年に渡って行われ、最終的2004年11月に纏められた文書「我が国の大型飛行機発展に関する考察と建議」において、大型輸送機と大型旅客機開発を同時に行う方針が採用された。これがY-20輸送機とC919旅客機の開発に繋がる方針となった。これと同じ11月に開催された珠海航空ショーにおいて中国航空第一集団公司の展示ブースに、これまで未確認の4発エンジンの大型輸送機の模型が展示された。これは同社が国産大型輸送機の開発を示唆した動きであった。

2005年になるとARJ-21の開発の目途が立ったことから、次の五か年計画での大型機開発計画に向けた機運が高まって行った[1]。この流れを受けて、航空工業第一飛機設計研究院では大型機開発のための予備研究に着手して、全体的な設計から構造に至るまで、数多くの研究試験と設計計算が行われた。2006年2月には、国務院の交付した「国家中長期科学と技術発展計画綱領(2006-2020年)」 において大型機が今後15年以内に達成すべき16の重要項目の一つに指定された[1]。3月には中国は大型機計画の拠点を西安と上海に置くことを決め、大型旅客機の設計の50%以上と大型輸送機の設計・製造の全てを西安で行うことを決めた[1]。6月20日には正式に大型輸送機(後のY-20)開発計画が立ち上げられ、「072工程」の開発ナンバーが付与された[1]。この年から開始される第11次五か年計画において、ついに国家プロジェクトとして「航空宇宙産業の発展は国家の総合力の重要な指標である」として大型航空機の研究・製造を促進する方針が定められ、Y-20の開発が本格化することになった[2]。

【開発体制】
2007年7月31日、解放軍総装備部と国防科学工業委員会は大型輸送機開発動員部署会議を開催。Y-20の開発体制と専門機関の策定が行われ、機関名は「大型輸送機弁公室」。開発の全体指揮を執るのは耿汝光、設計主任は西安飛機工業集団公司でJH-7「飛豹」の設計主任を務めた唐長紅が就任した[1]。Y-20の開発においては、技術的な飛躍が求められる反面、開発期間の短さ、技術的蓄積の少なさ、コンポーネントの欠如など問題は山積していた。その中で、安全性、信頼性、運用寿命なども従来機の水準を超えることが要求された。政府からの要求では、開発開始から5年で初飛行、8年目での制式化という高い目標が提示されていた[1]。

これに応えるべく、Y-20の開発は中国航空工業集団公司が総力体制で臨むこととされ、以下のような開発体制が整えられた。多数の組織を横断する開発を指揮する部門として以下の4組織が設けられた。
行政総合指揮システム中国航空工業集団公司の副総理耿汝光をトップとして、計画の全体指揮、協力体制の構築、人員・経費・物資調達を担当
総合設計主任システム各級の設計主任が組織や部門の枠を超えて、指揮を受けるシステムが構築、その指揮を執る最高設計主任は唐長紅が担当
総合製造主任システム大型輸送機の製造・組み立て工程は規模が大きく、様々な事項で協調体制を作り上げる必要がある。そのため、西安飛機工業集団公司が中心となって、製造システムを構築することになった。指揮を執ったのは同社の何勝強技師
総合品質主任システム部門や組織を超えて品質維持を図るための組織。組織の長は航空工業第一飛機設計研究院の羅延生副院長

4組織の元で実際の開発作業に従事する「前線指揮所」に相当するのが「研究製造現場指揮部」であり、これは研究・製造現場の組織指導作業を担当し、設計と製造に分かれて指揮を執った[1]。

政府や軍との調整を行ったのが「大型輸送機弁公室」であり、ここは解放軍総装備部、国防科学工業委員会、空軍、中国航空工業集団公司、航空工業第一飛機設計研究院、西安飛機工業集団公司の各アクターを繋ぎ、政府の命令を伝達するとともに情報共有を担当した[1]。航空工業第一飛機設計研究院は、同設計院の青年・中年研究人員の70%を大型輸送機開発に充当しており、開発における力の入れ具合が伺える[2]。

【「一院六廠」モデルの採用】
通常の航空機開発では、一つの設計局と一つの製造工場が全工程を担当する。中国ではこれを「一所一廠」モデルと呼ぶが、Y-20のような大型プロジェクトでは中国航空産業の全力を投じる必要があるとされ、航空工業第一飛機設計研究院をトップとして、西安飛機工業集団公司・成都飛機工業集団公司、瀋陽飛機工業集団公司、陝西飛機工業集団公司、哈爾浜飛機工業集団公司という中国航空工業第一集団公司傘下の6社が一堂に会して開発作業を分担するという体制が採られた。これを「一院六廠」モデルと称する[1]。さらに、数多くの研究機関、製造会社、大学が開発に参加し、各種設備、部品、原材料、計測機器などを提供した。開発体制は大きく分けて三層からなり、第一層が「一院六廠」、第二層がシステムやコンポーネントを担当する約200社、第三層が部品や原材料を供給する1000社以上が参加する巨大なピラミッド構造を成していた[1]。

「一院六廠」の、各企業の作業分担は以下の通り。
西安飛機工業集団公司機体の前部・中央部、主翼の製造と組み立て
成都飛機工業集団公司機首の製造
瀋陽飛機工業集団公司尾翼の製造と複合材の開発
陝西飛機工業集団公司Y-20の開発に用いるデジタル設計ソフトを開発
哈爾浜飛機工業集団公司機体各部のフェアリングの製造と複合材の開発

設計の効率化という点では、陝西が開発したデジタル設計ソフトの果たした役割が大きいとされる[1]。この開発には自社資金で7000万元の投資を要したが、それにより設計の効率化が図られ、一年間で3700件の金型製造と9000件を超える部品製造を実現し、デジタル設計の優位性を示したことで、以後の中国航空産業のデジタル設計導入を加速化させる結果をもたらした[1]。

2007年の開発の正式スタートに先駆けて、1990年代から各研究所で基礎研究が進められてきたことから開発は順調に進み、2008年には機首の金属モックアップが作成、2009年には試作一号機の後部胴体組み立てが開始され、翌2010年4月には全機モックアップが完成している[2]。

Y-20Aの開発においては「三十年間は陳腐化せず、五十年間は運用できる」輸送機とすることが目標とされた[4]。設計案の基本的な完成には一年間を要したが、そこで問題となったのは重量超過であり、各種システムの重量を合計すると計画重量を10t以上超過するという試算が出た[4]。その解消のため、コンポーネントごとにグラム単位での重量見直しが行われ、軽量化のため各種新技術の導入が進められたことで要求を満たすことが出来た。これに約一年を費やして2010年12月30日に試作一号機の設計案が完成した。その総数は、デジタル設計図で述べ4万枚に上り、3Dモデルで10万回を超えるシミュレーションが実施された[4]。

試作一号機の機体は2012年1月に完成し、エンジンとアビオニクスの擬装作業に入った[2]。その後、20001号の機体ナンバーが付与され、2012年12月21日の低速タクシーを経て、2013年1月26日に試験飛行に成功[2]。開発着手から5年余りでの初飛行は、C-17、C-2の約9年、A400Mの約14年に比べ驚くべきスピードであると指摘されており、中国が強い国家権力を背景に事業に高い優先度を与えて開発を後押しした成果だと評されている[2]。

この際にはプライマー塗装のみを施した状態で飛行を行ったが、同年3月2日の試験飛行では量産型で採用されたグレー塗装を施して飛行を実施している。試作二号機は地上での強度試験機として製造され、2010年から2014年にかけて各種試験が実施された[5]。試作三号機(機体ナンバー781)は2013年12月に、試作三号機(機体ナンバー783)は2014年に初飛行を実現[1]。この年の11月に開催された珠海航空ショーにおいてY-20Aの初の一般公開が行われ、その存在を知らしめることとなった[1]。2015〜16年には、追加試作機三機(機体ナンバー785、788、789 )が製造されている[6]。試作機のうち一機 は(機体ナンバー7816 ? )はエンジンのテストベッド機とされ、古いIL-76SKに替わって運用されている[6]。

【中国空軍への引き渡しとその後の展開】
初飛行後も開発は順調に進み、2015年9月には西安飛機工業集団公司が担当する最終組み立てラインが完成[2]。当初の計画通り初飛行実現から三年後に当たる2016年7月6日には中国空軍への引渡し式典が行われ、念願の国産大型輸送機の配備が実現した[1]。Y-20Aは中国空軍の遠距離戦略輸送任務に従事し、中国軍の遠距離展開能力とパワープロジェクション能力を大きく向上させた。軍事任務のみならず、その搭載能力を生かして災害救助任務、在外邦人の退避などでも活用が想定されている[1]。これまでは数の少ないIL-76MDに依存していたが、Y-20Aの配備により空軍の物資輸送能力は大いに底上げされることになった。これにより、従来、各軍区ごとの防衛を前提としていたのが、戦区(2016年に軍区から改組)を超えて部隊の機動的運用能力が高まったことで、総兵力を節約しつつ発生した脅威に対して迅速に部隊や物資を投入する高い緊急展開能力を実現することになると見られている[1]。

Y-20Aの最初の非軍事任務となったのは、2020年2月13日に実施された新型コロナのパンデミックが生じていた武漢市に医療支援物資と医療スタッフを送り込む作戦であった[1]。これにはIL-76MDやY-9と共に6機のY-20Aが参加し、合計2,600名の衛生部隊を緊急展開させている[27]。

【Y-20Aの開発・生産における新技術の導入】
Y-20Aは中国空軍初となる大型4発ジェット輸送機であり、不足する空輸能力を補うため大量生産されることが決まっており、それを実現するために生産においてさまざまな効率化が図られているのが特徴[7]。

まず指摘すべきは設計のデジタル化である。Y-20Aの設計ではMBD(Model-based definition)技術が全面的に取り入れられ、三次元モデルに基づく設計・製造と、その情報共有体制が整えられたことでCAD(Computer Aided Design)とCAM(Computer Aided Manufacturing)の高度な集積が実現し、製造工程において従来の図面から解放され、開発製造の効率化と誤差低減が実現された[7]。MBD採用前と比べて、設計作業量で40%、清算準備時間で75%、製造周期で30%の節約に成功した。一例として、主翼のエルロンの取り付け作業に以前は1〜2か月を要していたのが、新方式だと僅か1〜2時間で済むようになった[7]。

さらに、外国ではボーイング787から取り入れられたばかりのADT(Associative Design Technology)技術が設計に用いられ、これにより同じプラットフォーム、同じ設計データ上であれば、一箇所の設計変更がおよぼす影響を残りの全設計に反映させることが可能となった。これにより設計変更に要する手間が40%効率化され、約8ヶ月間の開発期間短縮に繋がった。開発ではVR技術も積極的に導入され、テストパイロットも事前にVRゴーグルを装着して試験の全工程を事前に体験することが出来るようになり、人間工学的な改良に反映させることが容易になり、開発期間の短縮に資したとされる。

生産工程における生産性向上策としては、まず浙江大学が開発したデジタル組み立て技術導入が挙げられる。これにより主翼と胴体という二つの大型パーツの結合が自動化され、かつてのY-7輸送機では一日を要していた作業が、僅か40分で完了するようになった[7]。

Y-20Aではこのクラスの輸送機としては世界初となる3Dプリンタ技術による部品製造も本格的に導入された[7]。この技術の導入により、部品の精度が向上し、鋼材の強度や疲労寿命が既存技術より大きく改善することが見込まれた[4]。試作一号機では経験不足による応力曲線データのミスにより降着装置に亀裂が生じたが、3Dプリンタによる製造工程の迅速化により7日間で6種10件のパーツを製造して事なきを得ている[7]。

Y-20Aでは中国初となるムービング式生産ラインが導入されたのも特徴[7]。これは西安飛機工業集団公司が5年間をかけて導入したもので、2010年5月に運用を開始。Y-20A以外にも、同社のJH-7A戦闘爆撃機H-6K爆撃機などもこの新方式を採用することで、量産性を向上させたとされる[1]

【機体について】
Y-20Aのサイズは全長47m、翼幅45m、全高15m[6]。機体形状は米C-141で確立され、その後の軍用輸送機の標準となった主翼高翼配置、T型尾翼、後部大型貨物室扉の基本形態を踏襲している。米C-17以降一般的となったワイドボディを採用して、戦車をはじめとする多種類の大型貨物に対応できるようになっている[2]。

【機首】
Y-20の機首は、ボーイング787、エアバスA-350、中国のC919など近年の旅客機でみられる、段を持たない流線形の機首形状とされており、コクピットには全曲面ガラスが採用されているが、これらは重量軽減と空気抵抗を抑えるための工夫とされる[8]。機首レドーム直後のウインドシールド下部に赤外線画像装置(FLIR)を備えている[2][8]。FLIRは悪天候下での離着陸を容易にするだけでなく、視界不良の状況下での物資投下任務においても有効に機能する[8]。このほか、機首各部にピトー管、傾き検知器、凍結検知器、迎角感知器、気温計といった各種センサーを備えており、これらは多重化されることでトラブルの際の安全性を高めている[2][8]。機首部分は成都飛機航空工業集団公司で製造される[8]。同社は、1988年からマグダネル・ダグラス社(当時)のMD-80/90旅客機の機首の生産を担当しており、中国における大型機の機首部分の生産で長い経験を有しており、国産のC919旅客機の機首生産も同社が担っている[8]。

【胴体】
Y-20Aの胴体は、機首から次第に幅を増していき降着装置を納めたスポンソンの前方から1/3の部分で最も幅広となり、それから尾翼に向かって絞り込まれていくスタイルを採っている[8]。他国の大型輸送機は、最も幅広な場所をY-20Aよりも後ろである機体の半分を過ぎたあたりに持ってくることが多い[8]。貨物搭載を考えると他国の大型輸送機の方が便利なのだが、Y-20Aが胴体の最大幅を他国の大型輸送機よりも前方に持って来ている理由としては、空力的有線を優先したことが挙げられている[8]。実は、Y-20Aが搭載するロシア製のD-30KP2エンジンは、1970年代に開発された低バイパス比の古いターボファンエンジンでY-20Aの機体重量に比べて推力不足なことは明らかであった[2][8]。そのため、飛行性能を確保するため空力的な追及を優先せざるを得なかったことが上記の選択に繋がったことが指摘されている[8]。

Y-20Aの胴体には4か所の横開き式ハッチが設けられており、乗員の乗降や、空挺部隊の降下時に用いることが出来る。空中でハッチを開けられるのは、中国でも運用されているIL-76と同じ方式を採用している。この機能のおかげで、空挺部隊の降下時には機体後部の大型ランプと、胴体前部の横開きハッチ二箇所から降下を行うことが出来る[8]。米C-17や欧A-400Mではランプのみを開放して空挺降下を行うが、Y-20AやIL-76はそれらよりもパラシュート降下に要する時間を短く出来る[8]。

Y-20Aの貨物室のサイズは全長20m、幅4m、高さ4mで、これは設計時の見本としたIL-76MDの20m×3.45m×3.4mよりも幅と高さが少しずつ増している[9]。IL-76の貨物室はT-72戦車の搭載を前提として定められたが、Y-20Aでは重量50tを超える99A式戦車の搭載を想定して格納庫のサイズと搭載量が決められたためサイズが大きくされた[10]。貨物は、カーゴパレットを積載する方法を取っており、地上車輛と協力して機力を用いて自動積載することが出来る[2]。貨物室後部にはランプが設置されており、戦車など車輌を自走させて搭載したり、物資の空中投下に用いることも可能。

ペイロードについては公式には65tとされるが[6]、55tという説[11]もあり、どちらも99A式戦車に対応した数値である。他国の大型輸送機と同様に、戦車などの重装備を搭載する際には床への荷重を分散させるための板を使用すると考えられている[9]。Y-20は貨物室に中床を置くことで貨物室上部を人員搭乗区画にすることが出来る。この機能は、物資と人員を同時に空輸する際に用いられ、空挺降下作戦時には下段に03式空挺歩兵戦闘車や火砲などを搭載し、上段にパラシュート兵を搭乗させて作戦を行う[9]

貨物の管理は自動化されており、配置位置や重量が飛行に与える影響を算出し、悪影響を最小限に抑える物資管理システムが取り入れられている[9]。

Y-20の貨物扉の構造はIL-76のものとよく似た構造を採用している[8]。貨物室後端の機密扉の向こう側にある貨物扉は4枚構成となっており、中心にある長い扉を左右と下部の扉で挟む構造となっており、扉を開く際には中央扉は上部に引き上げられ、左右扉は垂直にして固定され、下部扉はランプと兼用で、中央扉が上がった後で下側に向けて伸ばして貨物投下や物資搬入に用いられる[8]。左右扉は側面から吹き込んでくる乱気流を抑える役割も果たす[8]。IL-76とY-20(ほかにC-5A、An-124もこの方式)の四枚扉方式は、C-17やA400Mの二枚扉の貨物扉と比較すると構造上複雑にならざるを得ず、開閉時間も掛かってしまう不利さがある[8]。その反面、ランプを完全に機内に収納しているので尾部を空力学的に洗練しやすくなる[8]。二枚扉のデメリットは高推力エンジンの採用で相殺できるが、胴体幅の所でも触れたようにY-20は低推力エンジンの搭載を前提としていたため、構造上複雑になるのは止むを得ないとして四枚扉方式を採用することになったと見られている[8]。

Y-20の後部胴体、機密扉、貨物扉は、中国国内で大型機の製造に定評のある陝西飛機集団公司が担当している[8]。

【主翼・尾翼部分について】
Y-20の主翼は大型輸送機として標準的な高翼配置で、主翼先端部が音速に近づく際の抵抗を軽減する超臨界翼が採用されており、高亜音速での抵抗減少と主翼重量軽減に効果があり、燃費向上と航続距離延伸に資する[8][11]。中国ではARJ-21リージョナルジェット旅客機、C919中型旅客機で超臨界翼が採用されているが、国産の軍用輸送機としては本機が初めての採用例となる[8]。

高揚力装置については、ほぼフルスパンの主翼前縁スラットと、三段後縁フラップ、主翼後端フラップを備えている[2][8]。しかし、アメリカのC-17のような噴き出し高揚力フラップなどのSTOL性向上のための特別な装置は有していない。この差は、アメリカ空軍の方がC-17に対するSTOL性の要求が高いことに起因するもので、仮にC-17と同様の装備を搭載してもY-20初期型が搭載する低推力エンジンではその効果が期待できないことも不採用の背景にあると見られている[6]。主翼形状や構造については超臨界翼を採用している点ではC-17と似ているが、そのほかの主翼形状や配置についてはIL-76と共通点が多いと指摘されている[8]。ただし、最大離陸重量がIL-76MDの190tよりも30tも多い220tとなっているので、主翼面積を10%増やしているが翼面荷重ではY-20の方が多くなっている[2][8]。

Y-20Aの主翼は、西安飛機工業集団公司が製造している[8]。

Y-20Aの尾翼の配置や形状は米C-17との類似性が指摘されることが多い[2][8]。これについて資料[8]では、Y-20の設計においてC-17の尾翼が参考にされたところが多いと認めている。C-17、Y-20A共にダブルヒンジの方向舵をもち、上下二分割されている。このような複雑な構造を採用した大型輸送機はC-17とそれに範をとったY-20Aしか存在しない。これは構造が複雑になるが、方向舵の操舵力と垂直尾翼にかかる操舵荷重を軽減でき、操縦効率を改善する効果がある[2][8]。Y-20Aは、軽量化と強度確保のため、垂直尾翼の部品の半数以上に複合材を使用している。これは瀋陽飛機工業集団公司が開発したもので、同社は豊富な尾翼製造経験を有しており、複合材については近年のボーイング777や787の下請け部品製造で複合材の加工技術を高めていた[8]。

【アビオニクス】
Y-20Aは、21世紀に就役する新型航空機として、新世代のグラスコクピット、中国の輸送機としては初となるフライ・バイ・ワイヤ操縦システム、高速ブロードバンドにより構築された統合アビオニクスシステムを備えており、各センサー、外部データリンク、機体情報、エンジン情報、航法……といった各システムから収集された各種情報は情報処理を受けて利用しやすい形でパイロットに提供される[12]。Y-20Aの開発においては、中国のアビオニクス技術の水準向上、蓄積されたアビオニクスの運用経験、同時期に開発が進んでいたC919旅客機のアビオニクス開発に関わる内外企業との協力により、先進的なアビオニクスやコクピットの実用化に漕ぎつけたとされる[12]。

Y-20AのアビオニクスにはAFDX(Avionics Full-Duplex Switched Ethernet)が採用されている[12]。これは従来、それぞれのシステムごとに備えられていたコンピューターを統合化してコンピューターの台数を減らし、各コンピューターが複数の任務を担当するというものである。これによりコンピューターの数が減り、アビオニクスのコンパクト化と整備性の改善が実現している[12]。各システムは大容量光ファイバーケーブルで接続されており、大量の情報のやり取りが可能で飛行制御・データ処理・通信・航法などを一体処理し得る[12]。データリンク機能を用いて、基地との間で機体情報を共有することで、航空機の状態を地上で把握することや容易になり機体の運用や整備面での利便性が増す[12]。作戦においては、データリンクを用いて、AEW&C機の管制を受け、自動指揮システムからの情報をやり取りし、戦場情報を取得することで作戦における任務遂行能力を向上させる[12]。

Y-20のコクピットはグラス化されており、5 枚の大型 MFDと2基のHUDから構成されている[11]。パイロットはHUDを利用することで、実際の視界にデータや画像を投影してデータを常時確認しながら操縦を行うことが出来る[12]。また、夜間や悪天候時にはFLIRの赤外線画像を投影することで安全な飛行・離着陸を可能とする[12]。コクピットには四人分の座席が用意されており[11]、通常は操縦手、副操縦士、ロードマスターの三人クルーで、任務に応じて乗員を追加することになる[2][12]。

Y-20の操縦系統は多重デジタル・フライ・バイ・ワイヤシステムが採用されており、機械式操縦系統であったIL-76MDと比べて飛行時の負担軽減に功を奏しているとされる[12]。特に、大型貨物を空中投下する際には、貨物がパラシュートに引っ張られる強力な力が発生するだけでなく、貨物の移動と投下時に機体の重量が急変動するので、フライ・バイ・ワイヤ式操縦系統を用いること自動対応を行い、そのような状況下での安定した飛行が容易になる[10]。アビオニクスには空中投下に関するソフトウェアも組み込まれており、さまざまな貨物を高い精度で目標地点に投下するための最適の対応を行う態勢が整えられている[10]。

Y-20は第一線で戦闘を行う機体ではないので固有の武装は備えていないが、自衛用にフレア発射装置×4を降着装置を納める胴体スポンソン部に内蔵しており、地上からの携行地対空ミサイルに対する防御時に用いる[11]。携行対空ミサイルに対抗するため、ミサイル警戒装置も搭載されているものと思われる。

【降着装置】
Y-20の降着装置は軍用輸送機として求められる条件の悪い飛行場からの離着陸を想定して設計されている。同クラスの輸送機である、IL-76とC-17を比較することで、それぞれの機体の特徴が明らかにしたいと思う。

▼IL-76、Y-20、C-17の降着装置の模式図。資料[13]を基に作成。配置を示すための図で、比率や位置については不正確かつデフォルメしており実機とは異なるのに注意。

▼2016年6月5日に北京で開催された「国家“十二五”科技创新成就展」で展示されたY-20Aの主脚(部分/著者撮影)。通常は見ることが出来ない油気圧ジャッキ部分の様子を確認できる。


IL-76は西シベリアの辺境地帯での野戦飛行場、積雪や水たまりの多い飛行場、北極圏での極地飛行場といった多様な条件下での運用も想定して高い不整地離着陸陸能力が求められたため、前輪、主脚共に4輪タイヤとして、それを合計5組、合わせて20輪のタイヤを備えて、荷重を分散し不整地走行性を高めると共に、タイヤ破損時の生残性を高めている[13][14]。ただし、この方法は降着装置のサイズが大きくならざるを得ず、主脚については90度回転させて胴体に張り出したスポンソンに収納する構造が採用されている[13]。

C-17は、前輪はダブルタイヤ、4基の主脚はダブルタイヤを支える架台に別途もう一輪を加えた三輪構造を採用。合計14輪のタイヤを備えている[13]。米軍ではC-17に前線の条件の悪い飛行場での運用能力を求めており、これにより高いSTOL性能と共にすぐれた不整地運用性を備えた降着装置が装備された[13]。IL-76と同じく、幅広の主脚は90度回転して胴体スポンソンに収納されるが、その降着装置の構造はIL-76よりさらに複雑なものとなっている[6][13]。

Y-20は、前述の二機種ほど高い不整地運用能力は求められなかったため、降着装置についてもタイヤの設置面積が少なく、より簡単な構造が採用されている[13]。同機の降着装置は、ダブルタイヤの前輪、後輪はダブルタイヤを縦に三列並べたもので、収納時には真上に引き上げられる。IL-76やC-17のように回転させてからの収納ではないので、Y-20は主脚の油気圧駆動系統にトラブルが生じた際には、スポンソンのふたを開ければ主脚の自重を利用して脚を下げることが出来る[13]。

Y-20の降着装置は、重量・サイズをコンパクト化し、構造を簡単にできるのは利点であるが、主脚が4列タイヤのIL-76、3列タイヤのC-17に比べて接地圧が高くなり、タイヤによる轍が出来やすくなる点は不利になる[13]。Y-20の選択は、米軍のような世界的なパワープロジェクション能力はまだ必要ないこと、国内の運用においてはチベットや新疆など厳しい環境下においても高い建設能力を背景に短期間で条件の整った飛行場を造成できるのでC-17やIL-76ほどの不整地運用性は持たせなくてよいと判断したことによる[13]。

このほか、Y-20の降着装置の地味ながら重要な特徴として、降着装置の高さを抑えて胴体底部と地面の距離を近くすることが出来る点が指摘されている[6]。これにより貨物出し入れに使うランプの角度を緩やかにすることが出来、貨物や車両の積み込みや積み下ろしに役立つのみならず、カーゴパレットを用いた機力搬入においても便益が増す[10]。

【エンジン D-30KP2ターボファンエンジン】
最新技術が各所に盛り込まれているY-20Aであるが、その例外となったのが搭載エンジンである。

試作機から最初の量産型であるY-20Aの途中までの生産機については、ロシア製のソロヴィヨーフD-30KP2ターボファンエンジンが搭載された。D-30KP2は低バイパス比のエンジンで、最大出力は122.5kN(12.5t)、バイパス比2.42:1、オーバーホール間隔3,000時間[15]。これは1970年代に開発されたものでIL-76MDのエンジンとして用いられており、Y-20はIL-76MDと同じエンジンを搭載していることになる。中国では10年間で463基のD-30KP2をロシアから輸入しており、うち240基をH-6K爆撃機のエンジンとして、160基をY-20Aに用いている[15]。D-30KP2は、IL-76MD、Y-20、H-6Kと中国空軍の大型機で広く運用されているエンジンだと言える。

実用済みで運用面での蓄積も十分なD-30KP2を搭載したことは、Y-20の開発リスクの低減と運用にあたりエンジンに関するノウハウを共用し得るなどメリットが多い。ただし、開発時期が1970年代であることから、現在のエンジンと比較すると騒音の大きさ、燃費の悪さ、排気煙の多さといった問題があり、逆推力装置による減速機能も付与されていない点が指摘される[16]。本質的な問題としては機体に比べて推力不足である点が問題として指摘されることが多い。Y-20はIL-76MDの性能をベンチマークとしつつ、最大離陸重量を190tから220tへ、搭載ペイロードを52tから65tに増加したとされるが、同一エンジンを搭載していることから、この性能向上の実現性には疑問を持つ向きもある[2]。エンジン推力に変化がない以上、複合材の使用範囲を拡大するなどの方法が採られたとしても性能には大きな違いが出るとは考えにくく、その点でY-20は機体重量に比べて推力不足であり、公称値をどこまで実際に達成できているのか、最大離陸重量、ペイロード、航続性能、離着陸性能について実勢値が試算されている[2]。資料[2]の試算では、Y-20Aの実勢値について、最大離陸重量180〜190t、ペイロードについては最大搭載時の場合は燃料搭載量を4割減とせざるを得ず、燃料満載状態だと30t、最大離陸重量を190tとすると燃料満載時ペイロードは24tにまで減少すると見積もっている。航続距離についてはIL-76と同じエンジンを搭載している関係上、その性能は同機を大きく上回ることは考えにくい[2]。そして離着陸性能についても一部で示されたIL-76やC-17より優れているとのデータを否定している[2]。この点については、降着装置の項を見ても分かるように分かるように、IL-76やC-17より離着陸性能が優先されていないY-20がそれらの機体より性能が優れることは考えにくく、データの根拠に疑義を呈さざるを得ない点に同意する。

公称値と実際の性能の乖離について、もっとも妥当だとされる見方は、公称値は国産の大推力エンジンであるWS-20の搭載を前提としたもので、低推力のDP-30KP2搭載型であるY-20Aの性能は当然それより低いものになるというもので、これが最も理解しやすい考え方だと言える[17]。D-30KP2の推力不足は開発当初から認識されており、それもやむなしと判断して搭載が行われたと考えられる。Y-20向けの新型エンジンとしてはWS-20(後述)が開発されていたが、その実用化と量産化は2015年以降になるとされており(実際には2020年代中頃までずれ込む)、逼迫する大型輸送機の需要を満たすためY-20を早期に実現するには、既に運用実績があり調達も容易なD-30KP2を選択する以外の方法はなかったと言える[19]。

【エンジン◆WS-18(渦扇18)】
中国ではロシアから輸入したD-30KP2と、新型国産エンジンWS-20の実用化までの間を埋めるものとして、D-30KP2を国産化することを計画[17]。開発は成都航空発動機公司が担当し、エンジンの名称はこれをWS-18(渦扇18)として開発に着手。

WS-18はD-30KP2をベースとして、新しい技術を盛り込むことで性能の向上を図っており、最大推力は原型の122.5kN(12.5t)から13.2tにパワーアップされた一方、エンジン重量は300kg軽量化された2,000kg前後に収まっており、燃費についても2割近く改善されている[15]。WS-18は2019年に制式化され、FWS18、FWS18A、WS18B、WS18Cなどの各タイプが開発されている[18]。

WS-18はY-20Aの第二バッジ生産分からD-30KP2に替わって搭載が始まっており、将来的には既存のY-20AやH-6KのD-30KP2が寿命に達したらそれをWS-18Aに換装することもあると考えられている[17]。Y-20Aは推力を向上させたWS-18を搭載することで、その最大離陸重量を200tにまでアップさせることが出来ると見積もられている[15]。

【エンジン:WS-20】
Y~20の本命エンジンとして開発が進んでいるのがWS-20である[15][19]。WS-20は、戦闘機用ターボファンエンジンであるWS-10「太行」のエンジンコアを用いて開発された大直系高バイパスのターボファンエンジン[15]。バイパス比はD-30KP2の2.4:1から5〜6:1になる模様で、燃費についてもさらなる改善が見込まれる[20]。エンジン推力については確たる情報がないが、12〜15t[19]、14.07t(138kN)[21]、15t級[15]など各種数値がある。WS-20は高い推力と燃費の良さを両立したエンジンとして、Y-20輸送機のみならず、空中給油機、AEW&C機など各種大型機の需要を満たす存在となり得るもので、これが搭載されればY-20の当初の要求性能を達成できるものと考えられている[15]。

WS-20の制式化は当初は2015年を予定していた[19]。2014年12月6日にはIL-76に一基のWS-20を搭載して初の試験飛行に成功したが、その後長期間にわたって各種試験が続き制式化は予定よりもずれ込んだと思われる[15]。WS-20は、2023年段階では小規模量産段階にあると見られ、2025年前後には大規模生産に移行することが見込まれている[15]。

WS-20搭載型Y-20の型式名は「Y-20B」になると見られている[21]。2020年11月にはWS-20を搭載したY-20Bの試作機が初飛行に成功[21]。これまでに複数のY-20B試作機が製造されており、2024年中には量産機の引き渡しが行われる可能性が指摘されている[21]。

【派生型】
Y-20の派生型はこれまでに6種類が確認されている。
Y-20A運輸20A最初の量産型。最初はロシア製D-30KP2エンジンを搭載し、第二次発注分からはD-30KP2の中国版であるWS-18に変更[11]
YY-20A運油20AY-20Aをベースに開発された空中給油機型。給油方式はプローブ&ドローグ式を採用しており、主翼下の給油ポッドと胴体後部中央に合計三基の空中給油ドローグを搭載し、一度に三機に給油を行うことが可能。燃料搭載量は最大110t前後と推測[22]
Y-20Aエンジンテストベッド機IL-76SKに替わって中国飛行試験研究院で運用されるエンジンの空中テスト機。2023年3月にはC919旅客機用のCJ-1000エンジンを試験搭載しているのが確認された[6][23]。
Y-20B運輸20B輸送機型。WS-20エンジンを搭載した能力向上型。2020年11月に試作機の初飛行に成功[21]
YY-20B?運油20B?Y-20Bをベースに開発中の空中給油機型[21]
Y-20F100運輸20F1002018年珠海航空ショーで模型が公開。民生輸送機型。Y-20Bをベースに全長を54mに、翼幅を50mに延長。最大ペイロード65t[24]。提案のみで実機はまだ製作されていない。
Y-20BE運輸20BEY-20Bの輸出版[28]。エンジンもY-20Bと同じWS-20を搭載[28]。

Y-20は新型かつ余裕のあるプラットフォームであることから、今後も新たな派生型が登場するものと思われる。中国はこれまで、IL-76をベースにKJ-2000AEW&C機を開発したのをはじめ、Y-8/9を基にKJ-200、KJ-500 AEW&C機、各種電子戦機、情報収集機など多種多様な特殊任務機を製造してきた[2]。大型機で余裕のあるY-20は、新たなAEW&C機のプラットフォームにふさわしい機体でありKJ-2000の後継機の改造母機の有力候補である[2][1]。大型輸送機と並んで遠距離戦力投射において不可欠な存在である空中給油機についてもYY-20Aとして配備を進めており、戦闘機や爆撃機の作戦行動半径の延伸において重要な役割を果たすことになる[2][22]。YY-20A/Bの配備が進めば、中国航空戦力が第一列島線を越えて西太平洋で活動するための基盤として機能するようになり、その遠距離作戦能力を大きく改善することになると見込まれている[20]。Aviation Week誌は、YY-20Aの生産は8機目で完了してYY-20Bの生産に移行し、2020年代は年間6機ペースで、2030年からは年産8機になると推測している[20]。Y-20Bの生産ペースを6機と見積もっているのと比べて、輸送機よりも空中給油機の方が優先されるという見通しである[20]。また、特殊任務機のベース機体としても様々な派生型が生み出されるであろう[2]。

【運用と今後の展望】
Y-20Aはこれまで52機が確認されており中国空軍の第4、第13航空師で運用されている[11][25]。なお、総数については2023年10月段階で試作機10機を含めた総計67機という情報もある[20]。

第一次発注分の40機は2016年から2019年にかけて生産を完了[15]。これは大型輸送機の不足という空軍の現状を解消するための措置であり、急ピッチでの生産はY-20に対する期待の高さとメーカーの量産能力を証明する事例であった。第二次発注は2020年の新型コロナのパンデミックの最中の2020年中に最初の機体のロールアウトが行われた[15]。最終組み立てを行う西安飛機工業集団公司の工場では年産10〜20機のY-20の量産が可能であり、現在はWS-18搭載Y-20Aの生産を行うと共に、WS-20搭載Y-20Bの量産に向けて作業を進めている段階とされる[11][15][21]。2023年のY-20A/YY-20Aの生産数は9機で、2022年の15機から減少しているが、これはY-20Bへの生産切り替えが影響しているものと推測されている[20]。

Y-20Aの配備により、中国空軍では念願であった国産大型輸送機の欠如という問題を解消することに成功した。中国空軍が戦略空軍となるためには、既存のY-8/Y-9輸送機では長距離かつ大規模輸送任務を担うことが出来ず、少数配備のIL-76MDは積載量と航続距離に優れるものの、貨物室が狭く大型貨物の輸送には問題がある[2]。Y-20の大量配備は、これらの問題を解消するものだと見なされている[2]。

【任務 Ф輸作戦】
Y-20Aはその長大な航続距離から、チベットや新疆といった辺境地域への戦力投射能力を向上させ、国境を越えた域外派遣においても力を発揮する存在である[2]。その幅広な貨物室を生かして、戦車をはじめ、多種類の大型貨物に対応でき、陸軍の主力装備のほか、空軍の遠距離レーダー、S-300/400、HQ-9シリーズといった長距離地対空ミサイル、J-11B/Su-30クラスの戦闘機用支援車両もまとめて輸送できるので、戦闘機の機動展開能力を大幅に改善すると見られている[2]。2020年9月21日には、ロシアで行われた「コーカサス2020」軍事演習に派遣され、04A式歩兵戦闘車07式122mm自走榴弾砲、陝西2190通信車などの重装備を運び込んで、その輸送能力を示している[1][26]。その展開能力を生かして、人道復興活動。災害救助、PKO、在外邦人の退去(NEO)など非軍事分野でも大きなプレゼンスを示すようになると見られており、初の非軍事任務として2020年4月24日にはパキスタン、ミャンマー、ラオスに対する新型コロナの検査キットや防護服などの援助物資の空輸任務をこなしている[2][1]。

Y-20Aの航続距離については前述の通り公称値と実際の数値に差があるので、その実態については不明な所がある。目安として紹介すると、公称だと4,000km(搭載量不明)他ソースからのデータとしては、10,000km(16.5t搭載時)[27]、4,212km(40t搭載時)、2,807km(51t搭載時)、2,430km(66t搭載時)[2]などの情報がある。

この種の長距離飛行において欠かせないのが空中給油能力である。Y-20Aは現時点では空中給油を可能とする空中受油装置の搭載は確認されていないが、中国は既にこの技術を確立しているので必要であれば迅速に空中受油装置を装着し得ると見られている[26]。

【任務◆Ф挺作戦】
輸送機の攻撃手段としての代表的な運用は空挺作戦である[2]。中国軍では空軍傘下の空降兵がこれを担当しており、三個空挺機械化師団、合計三万人を擁しており、航空輸送機師、ヘリコプター部隊(空軍自前の機体と陸軍航空隊の機体)と連携し、即応部隊を編制している[2]。

Y-20でパラシュート兵を空中降下する際には、尾部ランプと胴体前部の左右ドアの三箇所を用いる[10]。これはIL-76と同じ方法であり、三箇所から降下することで効果時間を短縮することが目指されている[10]。Y-20はその輸送力を生かして、空挺歩兵戦闘車や火砲といった重装備を空中投下することもできるので、装備が限定される空挺部隊の戦闘力底上げにも有効に機能する。IL-76MDと同じくY-20一機で最大三輌の03式空挺歩兵戦闘車を投下することが出来るとみられる[10]。

飛行場を確保できれば空中投下が困難な重装備を送り込むことが可能となる。代表的な重装備の一つである戦車については、15式軽戦車二輌、もしくは99A式戦車一輌の空輸も可能なY-20Aは、空軍の空挺作戦における選択肢を大きく広げるものにほかならず、広大な領土の隅々に大型輸送機を用いて戦力を展開させることができるため即応対応能力の向上に繋がる[1][27]。それは、域外への戦力展開能力の向上とイコールであり、中国空軍が空挺作戦や部隊の空中輸送任務においてY-20Aをどのように活用するのか、今後の演習などで明らかになるのが待たれる所である。

【Y-20の生産数予測】
大型輸送機による空中輸送能力を十分に発揮するには、一定の配備機数を確保する必要がある。米軍の空輸所要モデルを基準とすると、100〜150機程度であれば中国国内や台湾など近隣地域での作戦を念頭に置いた戦力、配備機数が200〜300機ならアジア太平洋地域、環インド洋地域を行動領域とする戦力整備、そして300〜400機を超える配備機数であれば米空軍に匹敵するグローバルな戦力投射能力の確保を意図していると判断し得るとされる[2][1]。Aviation Week誌は、2033年にはY-20A/B合計で100機、さらに空中給油機型のYY-20A/B合計で75機を超える機数が就役し、IL-76は全て退役してY-20シリーズが中国空軍の輸送機/空中給油機戦力の中核を構成することになると予測している[20]。

いずれにせよ、Y-20シリ―ズは100機を超える量産が行われる可能性が高く、それを裏付けるように、設計においても3Dプリンタ技術や複合素材接合、ムービング生産ライン、デジタル生産管理システムの導入といった、低コスト・高効率化を狙った諸要素が盛り込まれている[7][27]。

【今後の展望】
Y-20Aは、早期の実用化を念頭において、性能については当初の要求値を見たし得ないことは許容して機体に比して推力不足は明らかなD-30KP2を採用した。まず40機を短期間で量産することで、大型輸送機の不足を早急に解消。それに続いてD-30KP2の中国版WS-18を採用して国産エンジンWS-20実用化のつなぎとして、2025年以降の生産が見込まれるWS-20搭載Y-20Bの量産化で本来望んでいた性能を達成する見込みである。

少なくとも当初の生産型であるY-20Aは性能面では妥協を余儀なくされたが、輸送機というジャンルの航空機は性能差が致命傷になることは(よほどの問題が生じない限り)なく、ほとんどが効率の問題になり、性能不足は装備数でカバーすることが出来ると指摘されている[2]。それを考えると、実際に短期間で40機を揃えて、さらに生産数を増やしていることは、装備数の多さを優先していることを物語っていると言えよう[2]。

Y-20A/Bは戦略空軍へと転換を目指している中国空軍の遠距離作戦能力の基盤となる戦力であり、派生型のYY-20A/B空中給油機と共に、今後の中国空軍におけるフォース・マルチプライヤー(戦力倍増装置)としての機能を果たす重要な存在となる。開発時の「三十年間は陳腐化せず、五十年間は運用できる」輸送機とするという目標通りに、長期にわたって運用される機体として今後の配備動向が注目される重要機であると評することが出来るだろう[4]。                            

性能緒元
公称値[6]別データ(諸説あり。参考までに紹介)
最大離陸重量220t190t台(D-30KP2搭載型)[2]/200t(WS-18搭載型)[15]
空虚重量85t100t[2][27]
全長47m
翼幅45m
全高15m
エンジン第一次生産分:ソロヴィヨーフ D-30KP2(122.5kN/12.5t))、第二次生産分:WS-18 (129.45 kN/13.2t)
最高速度マッハ0.75[27]
巡航速度マッハ0.72630km/h [27]
最大搭載時航続距離4,000km(搭載量不明)10,000km(16.5t搭載時)[27]、4,212km(40t搭載時)/2,807km(51t搭載時)2,430km(66t搭載時)[2]
実用上昇限度13,000m
最大ペイロード65t55t[11]〜65t(諸説あり)
乗員3名(操縦手+副操縦手+ロードマスター)

【参考資料】
[1]宋庆国「“鲲鹏”展翅—运-20大型运输机研制与发展纪实」『兵工科技―运-20最新全集』2021.8(兵工科技杂志社/4-18頁)
[2]林富士夫「中国、大規模地上軍の長距離軌道展開が可能に 徹底検証!その性能値と運用方法 超大型戦略輸送機”Y-20”実戦配備」『軍事研究』2016年12月号(ジャパン・ミリタリー・レビュー/43-60頁)
[3]プラウダ電子版(英語)「Russia does not mind refusing from a billion dollars contract」2007年5月24日 http://english.pravda.ru/news/russia/24-05-2007/92...
[4]宋庆国「掲秘运-20制造背后的故事」『兵工科技―运-20最新全集』2021.8(兵工科技杂志社/29-42頁)
[5]亦秋「运-20的静力试验和破坏性试验」『兵工科技―运-20最新全集』2021.8(兵工科技杂志社/43-48頁)
[6]罗孚「运-20、C-17、伊尔-76比较分析」『兵工科技―运-20最新全集』2021.8(兵工科技杂志社/102-110頁)
[7]温雨「运-20的先进设计制造技术」『兵工科技―运-20最新全集』2021.8(兵工科技杂志社/56-57頁)
[8]温雨「运-2总体设计全解析」『兵工科技―运-20最新全集』2021.8(兵工科技杂志社/58-64頁)
[9]吴钩[容积很大,能加装隔板—从武汉大空运看运-20的货舱设计」『兵工科技―运-20最新全集』2021.8(兵工科技杂志社/70-74頁)
[10]安东「重装空投与多路空投--运-20空投能力分析」『兵工科技2022.23—2022珠海航展(上)』(兵工科技杂志社/127-131頁)
[11]Chinese Military Aviation「Y-20A Kunpeng/Roc」http://chinese-military-aviation.blogspot.com/p/tr...
[12]观海「满满的邁糞—运-20驾驶舱细节」『兵工科技―运-20最新全集』2021.8(兵工科技杂志社/65-69頁)
[13]温雨「运-2起落架细节分析」『兵工科技―运-20最新全集』2021.8(兵工科技杂志社/78-80頁)
[14]『現代中国人民解放軍総覧』(アルゴノーツ社/2023年9月28日)281頁
[15]宇平「换发!换发!--细数运-20动力系统的变迁」『兵工科技―运-20最新全集』2021.8(兵工科技杂志社/75-77頁)
[16]罗孚「运-20 vs C-2 中日大型运输机比较谈」『兵工科技―运-20最新全集』2021.8(兵工科技杂志社/111-117頁)
[17]捜狐「三种发动机装配运20,助力鲲鹏一路打怪升级走向巅峰」(2017年12月21日)https://www.sohu.com/a/211948828_100038392
[18]西安汉沣精密机械有限公司公式サイト「中国30大顶尖的航空发动机(精评三)」(2023年1月06日)http://www.chinaftech.com/259716-259716.html?newsi...
[19]西安汉沣精密机械有限公司公式サイト「中国30大顶尖的航空发动机(精评二)」(2023年1月06日)http://www.chinaftech.com/259716-259716.html?newsi...
[20]Aviation Week「Y-20 Revolutionizes China’s Airlifter And Tanker Capacity」(Bradley Perrett/2023年10月4日)https://aviationweek.com/defense-space/aircraft-pr...
[21]Chinese Military Aviation「Y-20B Kunpeng/Roc」http://chinese-military-aviation.blogspot.com/p/tr...
[22]安东「展现中国力量—运-20A、运油-20A首次齐聚珠海」『兵工科技2022.23—2022珠海航展(上)』(兵工科技杂志社)49-53頁
[23]Aviation Week「Chinese-Built Turbofan Spotted On Wing Of AVIC Y-20 Flying Testbed」(Chen Chuanren/2023年3月24日)https://aviationweek.com/air-transport/aircraft-pr...
[24]珠海航空ショー2018のAVICブースでの「通用运输机(Y20F100)」の模型パネル参照(著者取材)
[25] Chinese Military Aviation 「Gallery--Y-20A」http://chinese-military-aviation.blogspot.com/p/ga...
[26]伊呜「运-20也需要空中加油吗?」『兵工科技―运-20最新全集』2021.8(兵工科技杂志社/93-97頁)
[27]『現代中国人民解放軍総覧』(アルゴノーツ社/2023年9月28日)279頁
[28]小新「”脉动式生产线”让中国运-20也能”下饺子”」『兵工科技―细看歼-15舰载机』2023.23(兵工科技杂志社/44-48頁)

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