「五番、センター、越後君」
(越後!頼む、俺までまわせ!)
主将の小波はネクストサークルで祈る・・・
夏の甲子園決勝まで進んだ親切高校だが、強豪相手に苦戦を強いられる。
決勝の相手は天下無双高校。四番の岡田をはじめ強打者がそろう。
前半、疋田の好投もあり接戦が続いていたが、七回に岡田にツーランがでて2−0となってしまう。
9回の裏ツーアウト、ランナー一塁から越後が選び、一、二塁となる。

「六番、サード、小波君」
アナウンスが響き渡る。ベンチではチームメイトが声をからして叫んでいる。
(絶対打つ!みんなのためにも、そして・・・ナオのために!)
この大会の前、小波の彼女である高科奈緒は事故で妹である芳月さらにナイフで刺され、
意識不明の重体のなり入院してしまう・・・
(ここで俺が奇跡を起こせばナオだって目を覚ますかもしれない・・・
奇跡を・・・起こしてやる!ナオ、見ててくれ!)
一発がでればサヨナラ、アウトなら、負け・・・
小波はゆっくりと打席に入る。
相手の投手は沖田。今大会屈指の大型左腕で、総合力では天道よりも上であろう・・・
(負けるわけにはいかない)
小波は気を取り直し構えた。しかし沖田の実力は本物ですぐに追い込まれてしまう・・・
(やっぱり無理なのか?奇跡はおきないのか?俺には奇跡は起こせないのか?)
あきらめかけたそのとき聞き覚えのある声が観客席から飛び込んできた
「小波君!あきらめたらだめですよ!ナオっちはもう大丈夫です!小波君なら絶対打てるはずですよ!」
(嘘、だろ?)小波はタイムをもらい観客席を見回す。しかし見当たらない・・・

(ナオ、そうだな!あきらめたら・・・だめだ!俺なら打てる!)
小波は再び打席に入る。その顔は自信に満ち溢れていた。
沖田は渾身のストレートで小波を迎えうつ・・・
(勝つんだ、絶対に!)
その時、快音が球状全体に響き渡る。ホームランのポーズをとる塁審が見えた。
「は、は、入ったぁぁ〜!優勝だ〜!」
ベンチのチームメイトがいっせいに小波を囲む。
(ナオ、見てたか?勝ったぞ?奇跡を・・・起こしたんだ!)

やがて、礼、校歌斉唱、閉会式が終わり、各々がバスへ乗り込んだ。小波を残して・・・
「電車で帰るからみんなはバスで帰っててくれ!官取、越後、田島!後を頼んだぞ!」

(さてと・・・)
「ふふふ、罠だと知らずに残るとはなかなか勇気があるようです・・・」
「何を言ってるんだ?・・・ナオ!」
「えへへ、ばれちゃいましたか?」そこには意識がないはずのナオと妹のさらがいた。
「お前、怪我は大丈夫なのか?医者にだって目を覚ますのは奇跡だって・・・」
するとさらが「小波君、前に言いませんでしたっけ?奇跡は起こらないから奇跡だ。って・・・」
「そうにしたって・・・それはともかく、さっきはありがとうな!ナオのおかげで打つことが出来たんだ!」
「ナニヲイッテルンデスカ?ワタシソンナコトシラナイ」ナオがおかしな口調で言った。
「うわ〜、棒読みだ〜」小波がいうと、さらがくすくすと笑っていた。
「とにかく、もう帰ろう。これからゆっくりと今度は三人でたくさん思い出を作ろう!
これからは三人だから思いでも楽しさも三倍ですよ!・・・だろ?ナオ!」小波がちゃかした。
「む〜!ナオっちのせりふとりましたね〜?さら〜、何とかいってよ!」
「小波君はおねえちゃんの敵ですよ?小波君からよく話しは聞いてますから」今度はさらもちゃかした。
「そんな〜、さらまで・・・う〜、すねます!」ナオはむくれた。

三人は歩いて駅まで向かった・・・正面の夕焼けが異様にまぶしく見えた・・・
                            end

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