秋―――。
 楓の木が真っ赤に染まり、銀杏の葉が黄色く変わるこの季節。
 俺達はある有名行楽地の遊歩道を、二人並んで歩いていた。
 一言に秋と言っても色々な秋がある。
『食欲の秋だ』と言う人もいれば、『読書の秋だ』と言う人もいる。
 あと『スポーツの秋』とも言うけど、毎日のように野球をやっている俺達はどうなるんだろうか。
「タマちゃんはどう思う?」
「単なる野球バカじゃないのか?」
「……もしかして俺バカにされてる?」
 鋭い一言に相槌を入れながら、長い一本の山道を歩いていく。
 最初に言った通り、木々は色とりどりに染まっていて、道端には銀杏の実が大量に落ちていた。
「………それにしても……」
「ん?」
 ポツリとタマちゃんが呟く。
「行楽日和にしては、擦れ違う人が少なくないか?」
「………そう言われてみれば……」
 確かにおっしゃる通りで。
 今まで結構歩いたつもりだけど、見かけた観光客は数えられる程だった。
 ………まぁ、考えられるとすれば
「最近寒くなったからね。多分みんな外に出たくないんじゃない?」
 天気予報で言っていたけど、特に今日と明日は冬並みの気温らしい。
 俺がそう言うと、どこか納得したようにタマちゃんが頷いた。
「それもそうか。正直に言うと私も少し寒くてな」
「………大丈夫? 俺のジャケット貸そうか?」
「いや、それだとお前が寒いだろう」
 それには及ばんと、首を横に振るタマちゃん。
「いや、だけど……」
 震えるタマちゃんの姿を見て思う。
 いつもの服に上着を一枚羽織ったその格好。それだけじゃこの寒さには堪えられないはずだ。
 スカートからはみ出している足とか太股とかは特に。
「じゃあマフラーだけでも……」
「私の事は心配するな。今回はお前がメインなんだからな」
 頑として首を縦に振ってくれない。
「………それなら―――」
 そして考える。二人とも暖かくなる方法。
 頭の中にある考えが浮かび上がった。
「じゃあさ、タマちゃん」
「なんだ?」
「二人で暖め合うっていうのはどう?」
「………一応聞くが、どうやって?」
「え? それはもうこうやって抱きしめ合って……」
「アホかお前は」
 タマちゃんのデコピンが俺の額に突き刺さった。


 『秋の風物詩』


 何で今俺達がこんな所にいるのか。
 それを説明をするなら、話は数日前にさかのぼる。
「おい小波、どこか行きたい所はないか?」
 日本シリーズも終わり、完全にオフシーズンに入った俺達二人。
 全てはタマちゃんのこの一言から始まった。
「…………え?」
 タマちゃんの口から、こんな言葉を聞くのは非常に珍しい。
 思わず疑問の声を上げてしまう。
「なんだ? その腑抜けた顔は」
「あ、いや……タマちゃんがそんな事を言うなんて珍しいなって思って」
 デートの時もHの時も、いつも誘うのは俺の方からだったはずだ。
 ………まぁ、今はそれは置いといて。
「どこかに行こうって………何で?」
 もっともな疑問をタマちゃんに投げ掛ける。
 すると、どこか心配そうな声が返ってきた。
「いや、今年は日本シリーズまで戦ってお前も疲れが溜まっているだろうし、
私なりに休ませてやろうと思ったんだが……」
 迷惑だったか?とタマちゃんは言葉を続ける。
 慌てて返事を返す。
「いや、そんな事ないって! すごく嬉しいよ!」
 変な事を企んでるんじゃ……と、タマちゃんを疑ってしまった自分が情けない。
「そ、そうか? ならいいんだが……」
 今度は少し安心したような声。
 更にタマちゃんの言葉は続く。
「で、行きたい所はあるのか?」
「うーん……行きたい所ねぇ……」
 手を顎に当てて考える姿勢をとる。だけど何処も思い浮かばない。
 別にタマちゃんとならどこに行ってもいいんだけど……なんて考えていると、
「………ん?」
 窓の外。道路を挟んで向こう側。
 公園の紅葉が綺麗に染まっているのを発見した。
 頭の中に稲妻が走って、口が動く。
「じゃあさ、泊まり込みで紅葉狩りにでも行かない?」

 こうやって、俺達二人の温泉旅行が決定した。
 さっさと旅行の用意をして、バスに乗り込んで、旅館に着いて、そして今に至る。


「まぁお前も有名人だし、人が多いより少ない方が楽でいいか」
 話は戻って今現在の俺達二人。相変わらず二人並んで山道を上っている。
 因みに、タマちゃんに俺のジャケットを貸すという事で話はついた。
「そうなんだけど………ね」
「どうした?」
「人に見られて、何も言われない有名人って言うのもどうかと思うよ?」
 今までに擦れ違った人達は、俺に全く気づいてなかったような気がする。
 俺ってそんなに存在感がないんだろうか。サインくらい求められてもいいのに。
「………確かにお前から帽子とユニホームをとったら何も残らないからな……」
「ひどい! タマちゃんひどい!!」
「いや、冗談だ冗談」
「冗談にもほどがあるって!」
 フォローを入れたりしてよ、とまだタマちゃんに向かって叫んでいると
「むぐっ!?」
 タマちゃんが急に手で口を塞いできた。

「こら、静かにしろ」
 小声ながら妙に気迫の篭った声。俺は何か禁句を言ってしまったんだろうか。
 恐る恐る質問する。
「………どうしたの?」
「妙な声が聞こえた」
 どうやら違うらしい。
 こんな状況だけど、少し安心してしまう。
「……どうやらあそこらしいな」
 そんな俺をほっといて、辺りを観察し続けるタマちゃん。
 その視線はある所を捉えて離さない。
「………いってみようか」
 俺がそういうと、静かにコクリと頷く。目が本気だ。
「…………よし」
 気配を消すのは得意だ。
 足音を消して、息を殺して、木を壁にしながら目標へと少しずつ近づいていく。
 ばれないギリギリの距離まで接近し、木で身体を隠す。
 一度タマちゃんを見て、お互いに頷き、そっと身体をずらして目標を確認した。
 そこにいたのは………

「あっ! そ、そこはダメだって!」
「そうか? でも武美の身体の方は……」
「んんっ!?」
「かなり正直みたいだぞ?」
「うぅ……風来坊さんが親父臭い……」
「何を言う………か!」
「うあ゛っ………あ、ふ」

 下半身を露出して絡み合う男女の姿―――
 ぶっちゃけ言うと、やってる最中の男女の姿があった。


「ほら、指がどんどん入っていくぞ?」
「やっ……あ……んっ!」

「…………………」
「……おい、小波」
 タマちゃんが何か言っているけど、頭に入ってこない。

「ここだってこんなに濡らして……」
「そ、それは風来坊さんが……」
「確かに弄ったの俺だけど、濡らしたのは武美だろ?」

「…………………」
「こら、もう行くぞ」
 タマちゃんの声が聞こえたけど、多分気のせいだろう。

「う゛ぁ……すご……ふかい……」
「う……さすがに立ってやるのは……キツイな」
「あ゛っ! やっ! おく、に、くる!」

「……………………」
「………おい、いい加減に……」
 多分空耳だろう。それか幻聴か何かに違いない。

「え!? だ、だめだめだめ! そっちの穴は!」
「こっちの穴、は?」
「!! うあ゛あっ!?」
「こんなに指をくわえ込んで……説得力ないぞ?」
「ん゛っ! ん゛ん゛っ! あ゛あぁ!!」

「……………………」
「……………………」
 ピキッ。
 何かが切れるような音がしたが、今はそれどころじゃない。

「うあ゛っ!! や、やめ! とん、じゃう……からあ!!!」
「飛べばいいじゃない……か。俺も、ヤバイ……」
「んあっ! あぅ……ぅぁあああああ゛ああ゛あ゛!!!」

 ガシィイイ!!
「ぐふっ!!?」
 急に後ろから首を捕まれた。
 絞められる首、薄れていく意識。かなり力が篭っていて、外せそうにもない。
「な、何…………」
 力を振り絞って後ろを振り返る。そこには―――
「何度言ってもお前は………」
 灼熱の炎を目に宿したタマちゃんが立っていた。
「ほら、もう行くぞ」
 俺の首を掴んだまま歩き出す。
「タマちゃ……これ、外し……て……」
「断る」
「何で、こんなに……力…が……」
「ん? そんなに入れてるつもりはないんだがな」
 結局山頂に着くまで、俺はタマちゃんに引きずられ続けた。


 山頂――――――
 山の頂上なだけあって、空間も、風景も、見晴らしも最高なんだけど、俺は生きた心地がしなかった。
「あの………タマ、ちゃん……?」
「なんだ」
「えっと………怒ってる?」
「別に」
 嘘だ。絶対に嘘だ。
 いつもより返事が素っ気ないし、態度だってものすごく冷たい気がする。
「ごめんなさいすいません俺が悪かったですもう二度としませんこの通り許してください」
 地面に頭を着ける勢いで謝りだす俺。
 一別するタマちゃん。その目は南極が暑く感じるくらいに冷たい。
「じゃあ聞くが……」
 ドスの効いた声で呟く。
「自分の何が悪かったのか言ってみろ」
「え? それ……は………」
 一瞬の間を開けて、答える。
「タマちゃんを無視した……から?」
「………本当にそんな理由だと思ってるのか?」
 どうやら違うらしい。
 冷たい視線が更に冷たくなった。
「え、えーと………」
 慌てて別の答えを考える。
 あの状況で、無視した以外にタマちゃんが怒りそうな事怒りそうな事怒りそうな事―――――!
「………俺があの女の人に見とれてた………から?」
 頭に浮かんだのはこんなバカみたいな答え。この働かない頭が憎たらしい。
 ………のだが、
「そ、そんなはずがないだろう」
「………マジで?」
 顔を赤くして、俺から顔を背けるタマちゃん。思わず突っ込んでしまった。
 …………まぁとにかく、原因が分かれば話は早い。
「いや、まぁ……確かに見てたけどさ……」
 頬を掻きながら、バツが悪そうに喋る。
「それは何と言うか……男の嵯峨ってやつで、悪気はないって言うか………」
「………まるで獣だな」
「うっ!」
 射殺すような視線が俺の胸に突き刺さる。
 こんな不機嫌なタマちゃんは初めてだ。
「いや、でも! 俺が1番好きなのはタマちゃんだから!」
 俺がそう言うと
「ほう………だけどな、小波」
 ツカツカと近寄って来て、いきなり俺の股間をわしずかみにした。
「ここをこうしていたら、説得力がないぞ?」
「いたっ!! 痛い痛い! タマちゃん離して!!」
「生理現象だから仕方ないかもしれんが……」
「止めて! もう俺のライフは0だから!!」
 納得の言葉に反して、かなりの力が篭った右手。
 さっきの首も痛かったけど、これは異常だ。
「ぐ………あ………うぅ」
 苦しみで意識が遠くなっていく。このままでは息子は使用不能になってしまうだろう。
 それだけは避けなければいけない。
 俺は反撃に出る事にした。

「タマちゃん!」
「むぐっ!?」
 強引に唇を奪う。
 タマちゃんが身体を引いて逃げようとするけど、後ろに腕を回して逃がさない。
 そのまま押し切るようにして、人目が付かない所へと移動した。
「ん!? ふ……ん、んん……!」
 舌を侵入させようと唇を押し上げる。
 歯を閉じてガードしてきたけど、それならばと、歯、歯茎周辺を何度も何度もなぞっていく。
「こ、こら小波……んんっ!!」
 声を出したチャンスを逃さず、一気に舌を侵入させた。
 逃げるタマちゃん。追う俺。舌と舌が絡み合って、暖かい唾液が伝っていく。
 キスを重ねるにつれて、次第に股間の力がだんだん弱くなってきた。
「わ、分かった。よく分かった!」
 一旦体を離して、タマちゃんが叫ぶ。
 その顔は楓に負けないくらい真っ赤っ赤だけど。
「お前の気持ちはよく分かったから、これ以上は……な?」
 必死で制止をかけてくる。
 が、俺の動きは止まらない。止めようがない。
「ごめんタマちゃん。それ、無理」
「………え?」
「何かもう我慢できない!」
 あれだけの激しい行為を目の前で見た後、股間を握られたんじゃ仕方がない話。
 全部お前の責任だろとタマちゃんが喚いているけど、気にしないでおこう。
「タマちゃんだって分かるだろ? 俺のここがどうなってるか」
「う………ま、まぁ……な」
 今までずっと握られていた息子を、改めて握らせる。
 固く膨れ上がった我が股間。タマちゃんの小さな手の感触が気持ちいい。
「と、いう訳で」
 顔の前で手を合わせ
「いただきます」
 礼。
 セーターを捲り上げて、手を中に侵入させた。
 腹をなぞるように、指を上へと這わしていく。
「冷たっ!! お、おい! こら!」
「あー……そう言えば手袋してなかったしなぁ……」
 寒空の中、素手のままで歩いていたのだからしょうがない。
「………まぁこれも新しい刺激って事で……」
「いや、だからせめて旅館で……!」
「大丈夫。そのうち温かくなるから」
 タマちゃんから中断の意見が出たけど却下。ここまできたら、もう引く事なんて出来やしない。
 服に隠れて見えないけど、多分色気ないであろう胸の下着を、手探りで外していく。
「あっ………だ、だか……らぁ……!」
「うわぁ………タマちゃんの胸、温かくて柔らかくて気持ちいい……」
 スベスベとして柔温かい肌の弾力。いつもよりも数段気持ちよく感じる。
 この胸に全身で倒れ込む事が出来たなら、さぞ幸せな事だろうと切に思う。

「やっ………あ、は……」
 触れるように軽くタッチ。寒さのせいだろうか、既に乳首が若干固くなってるような気がする。
「………そう言えばタマちゃん寒そうだったしね」
「あ………まぁ、そうだが……」
「じゃあ体の芯から暖まってもらわないと」
 そう言って、乳首を軽く抓る。
「あぁっ!」
 感度良好。タマちゃんの身体が少し震えた。
 更に刺激を与えようと、胸を攻めつつ、舌を首に這わしていく。
「こ、こら! な、舐めるのはいいが、絶対に吸うなよ!?」
「……確かにそれはまずいね」
 出来立ての赤い跡が付いてるのを人に見られたら、何をやっていたか言っているようなものだ。
 …………でも
「やめろって言われたら、余計やりたくなるのが人間だけどさ」
「………もしやってみろ? 私もお前に爪痕を付けてやるからな」
 ものすごいジト目で睨んでくるタマちゃん。
 大丈夫、安心して。やるつもりはないから。だからそんな目で俺を見ないで。
「じゃあ、これは首筋の分!」
「んっ!」
 耳の外周りを指で弄りながら舌を這わしていく。
「谷間の分!」
「ふっ………ん、あ……」
 今度は甘噛み。時に小鳥のように優しく。時に獣のように少し強く。
「そしてこれが胸の分だ!」
「やっ! あっ……こ、ら……汚っ、い……!」
 最後は耳の中。舌を使って全体を綺麗に舐めとっていく。
 汚いだなんて言うけど、とんでもない。耳からは垢の一つも出てこなかった。
「大丈夫。ものすごく綺麗だよ」
 そう耳元で呟いて、再び耳たぶを甘噛みすると
「あ………は、ぁ………」
「うわっ! タ、タマちゃん!?」
 膝が折れるようにタマちゃんが崩れ落ちた。
 倒れる身体を慌てて支える。髪から甘いいい臭いがした。
「もしかしてタマちゃん……耳、弱いの?」
「いや………よく分からんが……力が……」
 全身を支えるように、俺にしがみつくタマちゃん。
 どうやら本当に上手く立てないらしい。
「…………ひょっとして」
 試しにもう一度、耳の中を指で掻き回してみた。
「こ、こら! やめっ………!!」
 ズルズルと、タマちゃんが下に滑り落ちていく。どうやら間違いないらしい。
「ここもタマちゃんの弱点か……」
 新たな発見に、顔がにやけるのが分かる。
 この様子だと他にも色々と弱い所がありそうだ。例えば、背中とか、うなじとか、足の裏とか。
 まぁそれはいつか調べるとして。
「次はこっちだね」
 寒そうに外に素肌を晒している太股。今はそこの感触を調べる事にする。


「うーん……冷え切ってるね」
 一度触ってみて、改めて感じるその冷たさ。
 俺の手までとはいかなくても、タマちゃんのそこはかなり冷たかった。
 摩擦して温めるように、何度も何度も手を往復させる。
「やるなら……さっさと……!」
 じれったいとタマちゃんが懇願してくるが、
「まぁまぁ、わびさびって物があるから」
 構わずに太股の柔らかさを堪能する。
 絶対にアソコだけは触らずに、太股、足の付け根、反対側と、その周りだけをなぞっていく。
「あ………こな、み……」
「ん? どうしたの?」
「頼む。もう……」
「頼むって何を?」
 分かっているけど、あえて聞き返す。タマちゃんの顔が真っ赤になった。
 意地が悪いね、俺も。
「う………あーー……うう……」
 もの凄く恥ずかしそうにタマちゃん。
「頼むから………ここも、触って………くれ」
 プルプルと震えるそのて手で、自分の股間を指差した。
 顔が極限まで緩む。
「タマちゃんがそう言うなら、仕方ないね」
「いや! お前が!!」
「ん? 何の事かな?」
「………この……! 後で覚えていろ………!!」
 鋭い視線が俺を貫く。
 もう少しこんなタマちゃんを見てみたい気もするけど、イジメるのはこれくらいにしておこう。
「! んっ!! ふ………あぁっ!!」
 ショーツの上からなぞるなんて、まどろっこしい事はしない。
 ショーツをずらし、指をタマちゃんの中へといきなり挿入した。
「はっ! やっ………あぁ゛!!」
 熱く、ヌメヌメとした感覚が俺の指を包んでいく。
 指がものすごく熱いのは、俺の指が冷たいのか、それともタマちゃんの中が熱いのか。
「タマちゃんもHになったよね。もうビショビショだし」
「うあ゛っ! そん、な……ことは……!!」
「大丈夫。俺はHなタマちゃんも大好きだから」
「……え? ……や、あっ! ああ゛っ!! あああ!!」
 指の動きを激しくする。指の根本近くまで入れたと思うと、掻き出すように抜く。
 腰のピストン運動にも勝るも劣らないくらいに激しく、深く。
「あ゛っ! はげ、し……い……!! う゛あっ!!」
 力が入らないのか、力の限りしがみ着いてくるタマちゃん。
 もう前戯は十分だろう。これが最後と口を塞ぎ、ラストスパートをかけた。

「ん゛っ!? ん、ん、んん゛ん゛っ!! ――――――――っ!!!」
 声のない絶叫。股間から溢れた愛液が腕にかかる。
 身体の震えが収まるのを待ってから、声をかけた。
「………もう準備は満タンだよね?」
「………うぁ………まぁ………」
 切れ切れながらも、了承の答え。急いでズボンを脱いで息子を取り出す。
 はっきり言って、もうとっくに我慢の限界を超えている。
 木をタマちゃんの背もたれにして、俺はヒクヒクと震えるアソコに一物を挿入した。


「あ゛っ! やっ、あっ! うああ゛!!」
「お、あ………うおぉ……」
 攻める俺にも負担がかかる。深い、ものすごく深い。
 タマちゃんの体重のほとんどが俺に襲い掛かって、その分激しく息子がタマちゃんを貫く。
 俺がこれだけキツイのだから、タマちゃんはよっぽどだろう。
「やっ! やめっ!! あ゛あ゛……ん゛っ!!」
 喘ぎ声の中に苦痛の色が混じる。壊れるくらいに突かれているのだから仕方ない。
 少しでも楽にしてあげようと、お尻を持ってタマちゃんを支える。
「う……ぐ、あぁ……」
「これは………ヤバイ………!!」
 感度的にもだが、それ以上に肉体的に。身体を支えたら腕がキツくて、力を抜くと腰にくる。
 激しくは動けないけれど、少しくらいなら大丈夫。
 何とか姿勢を維持して、細かく動くことに決めた。
「あっ! は……あ、やぁっ!!」
 細かく動くと言っても、深く刺さった状態なら、かなりの刺激になるだろう。
 実際動いている最中に数回奥に先端が当たり、その度にタマちゃんが悲鳴を上げた。
「う゛ぁ………あ………こなみぃ……」
「……ん? 何?」
 力ないタマちゃんの声。
 キツさに顔を歪めながらも、顔を向ける。
「も………ダメ……頼む……」
 潤んだ瞳。涙が流れそうなその表情。
 その瞬間、俺に稲妻が落ちた。
「ゴメン、タマちゃん!!」
「へ? ……あ、あ゛っ!!?」
 急に、力の限り動き出す。
 腰にくるとか腕がキツイとか、そんな事言ってられない。
 タマちゃんのあの表情のためなら、俺はいくらでも頑張れる。
 タマちゃんを木と手で支えながら、腰を上下に激しく動かした。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!!」
「タマちゃん………もう……出る!!」
 息子の周辺から、何かが上ってくる感じがする。
 タマちゃんを感じるにつれてそれは大きくなって、ついに入口付近にまで上ってきた。
 そして
「やっ! あ゛あ゛あ゛!!! あああああああああああ!!!」
「うあっ! あ、ああ゛! あぁ………」
 欲望が放たれて、お互いの股間を白く汚していく。
 震える身体。訪れる脱力感。しばらく抱き合っていると、力尽きたようにタマちゃんがその場に崩れ落ちた。

「た、タマちゃん大丈夫!?」
 慌てて後ろに回り込んで、抱き抱える様に支える。
 どこかに異常はないかと、顔色を確認していると。
「………この………獣………!!」
 鋭く、厳しい一言が飛んできた。
 罪悪感が俺の心を満たしていく。
「ごめんなさい。ホントにごめんなさい」
 とにかく謝る。何度でも謝る。謝る事しか出来ない自分が情けない程に。
「発情期のオス犬か、お前は」
「うぅ………すいません……」
 だが、タマちゃんの言葉が留まる事はない。どうやらかなりご立腹のようだ。
「あの………タマちゃん?」
「………何だ」
 ドスの効いた声。これはマズイ。
 何とかしなくては何とかしなくては―――と、必死で考えた、その結果。
「………今何かしてほしい事って………ある?」
 機嫌を取るかのように、怖ず怖ずと尋ねる。
 この程度では罪滅ぼしにすらならないだろうけど、何もしないよりはマシだろう。
「………じゃあ、そうだな………とりあえず………」
 しばらく考えた後、タマちゃんは
「? その手は何?」
 俺に向かって片手を差し出してきた。
 そして、恥ずかしそうに呟く。
「…………起こしてくれ」
「え?」
「…………………腰が、抜けてしまって………」
「………………………」
 沈黙が辺りを包む。
 固まる俺。動かないタマちゃん。
 拍子抜けなお願いに、つい顔の筋肉が緩む。
「………ぷっ」
 一人で笑いながら、タマちゃんの手を掴んだ。
「じゃあ、起こすよ?」
「ああ」
 疲れた身体に鞭打って、力強く引っ張り上げる。
 が、それだけじゃない。
 その勢いに任せたまま、タマちゃんをギュッと抱きしめた。
「わわっ!? だ、誰が抱けと言った!」
「まぁ、いいからいいから」
 腕の中でタマちゃんがもがいているけど、気にしないでおこう。
 旅館へと帰るべく、俺は今まで上ってきた道を歩き出した。

「何度も言うがな、少しは我慢すると言う事が出来んのか?」
「いやまぁ、そうなんだけど………タマちゃんが可愛いから………」
「!! こ、この……馬鹿」
 場所は移って、旅館のすぐ近くの並木道。俺達はその旅館に向かって歩いていた。
 タマちゃんの機嫌もどうやら直ったらしい。今では手を繋いで歩いている。
 ただし、この旅行中のHを禁止にされたのは、かなり厳しい。
「はぁ………」
「どうした?」
「いや、何でもないよ」
 全面的に俺が悪いのだから、文句を言っても仕方ないだろう。
 男は諦めが肝心だ。今は今夜の料理に期待しよう。
 そう思いながら、今夜お世話になる旅館の扉を二人でくぐった。
「お帰りなさいませ」
 出迎えてくれる従業員の方々。その一言が気持ちいい。
「ねぇ、今からどうする?」
 隣にいるタマちゃんに聞くと、
「私は部屋でゆっくりと休むつもりだが?」
「………だよね」
 理由は説明しなくても分かるだろう。
 じゃあ行こうか、と歩き始めたところ……
「なぁ、こんないい所がこの時期に空いてるのか?」
「あたしを舐めないでほしいね。モバイルガールの名は伊達じゃないよ?」
 後ろから、どこかで聞いた事のある声がした。
 誰だっけと、確認するために振り返ってみる。と、
「「あっ!」」
「ん?」
「え?」
 声を出して驚き、その場に固まる俺とタマちゃん。
 お二方も何が何だか分からないのか、固まってしまった。
 つい二時間程前の痴態が、脳裏に浮かび上がる。
 忘れようにも、忘れられない。そんな二人組がそこにいた。
「あのー……あたしが何か?」
 どこか子供の様な雰囲気を感じさせる女性が尋ねてきたけど、回想中の俺の耳には届かない。
 そのまま固まって動かない姿を、見とれていると勘違いしたんだろうか。

 ガシィイイ!!
「ぐふっ!!」
 再び、俺の首筋を衝撃が襲った。
「あー、スマンな。何でもない」
「? そうなの?」
 俺の変わりに淡々と答えるタマちゃん。ただし手の力が弱くなる事はない。
「だ、だからタマちゃん……力が……」
「知らん。もう行くぞ………じゃあ、これで」
 二人に別れを告げ、昼間と同じように、首を持ってツカツカと歩き出す。
 せめて手を引っ張ってほしいと切に願う。
「タマちゃ………苦し……」
「………浮気者にはちょうどいい罰だと思うぞ?」
 いや、違うから! と叫びたいけど、首を絞められては不可能な話。
 努力も虚しく、結局俺はタマちゃんに絞められながら、二人の部屋へとたどり着いた。

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