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「あっ……」
 アンゼロットは石畳の溝につまづき、バランスを崩した。
「おっと」
 間髪いれずにビートの逞しい腕が伸び、あわや地面と衝突するかに思われた
アンゼロットは、次の瞬間ビートの腕の中にすっぽり納まっていた。
「変な所、どじだよな。アンは」
 赤くなりながら顔を上げるアンゼロットを苦笑しながら見つめ返してくる。
「むー。ドジじゃないよ。今回の航海が長いから……」
「はいはい。……でも俺としては、転んでくれたほうが嬉しいけどな。
 街中で抱きしめられるから。」
 言う間にアンゼロットの体勢を直しつつ、絡めた腕を放そうとしないビートに、
「色ボケ船長」
 と言いながらも、内心同じ気持ちだった。アンゼロットもまたビートの首に
腕を回す。
「ね……今日は、帰りたくないな……」
 目をうっすらと閉じながら、二人の唇が近づいていった。
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 ううーん。コレは……

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 二人が泊まったのは、何の変哲も無いが、清潔そうな安宿だった。
いそいそと二人部屋を取り、


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「はぁ……」
 筆を上げて、ふかぶかとため息をつく。
「そろそろドリーム過ぎてこっちがきつくなって来たなあ」
 いまや大冒険家で通っているキャプテン・コナミの船大工長、エンゼルはまた、
海洋冒険かつ恋愛小説の作者としても知られている。
 いくつもの海を股にかける舞台、そして恋愛という普遍的なテーマもあって、
なんと10ヶ国で翻訳され、いまや一定のファン層すら存在していた。
 当たり前のように同じジャンルに人が群がってくるのだが……さすがに自身で
冒険しながら小説を執筆するような物好きはエンゼル以外おらず、その描写の緻密さは
他の追随を許さなかった。
 といっても、それは冒険の描写のことであって……
「この二人も、もはやあたしの想像の外まで行っちゃったか……」
 運命の転換点。
 エンゼルがこの船に乗り込んですぐの頃、毎日が臭いキツイうるさいゆれる……
不満をあげればキリがなく、それでも仕事をサボることは気がひけて。
 14,5だった当時の小娘が倒れるのは当然のことだったろう。
それをキャプテンが介抱してくれたあのときから、この気持ちは続いているのだ。
その直後あたりから日記も続いている。
 言葉を交わしたこと、触れ合った日は長くなった。
 逆に全く会えず、思いが募る日も長くなった。
 ついうっかりでキャプテンに見つかった時からは、本格的に小説化が始まった。
 紆余曲折あって、カメダ海賊団を退けてカリムーの秘宝を発見した後も、連載は続いている。
ただ……
「ああ……小説の中ではもう数年近く連れ添った恋人だっていうのに、現実の私と来たら……」
 未だ押し切れない。押し倒されてもいない。
 少し言い訳をさせてもらうなら、小説の中のこのカップルは航海の初期の段階でさっさと
成立してしまった。

 アンゼロット――名前を変えろといわれたのにちょっと安直過ぎただろうか――が、
意を決してキャプテン・ビート――カブトムシのマークから取った――の部屋にもぐりこみ、
朝起きたビートは、『ついうっかり』一緒に寝てしまったアンゼロットに説教しだす。
その途中、ぽろりと『俺以外の所に行って欲しくない』などというビートの発言からいい感じになって、
朝日の差し込む船長室で二人は……という筋書きだ。
「現実はそう甘く無いのよねー」
 あのにぶちんと来たら、こんな美少女……と言い切るのもそろそろ辛い年になってきたが……と
目が覚めたら同じベッドの上だっていうのに、アッサリ二度寝を決め込んだのだ。
「私を抱き枕かなんかと勘違いしてんじゃないかと」
 抱き寄せるように両腕を絡められた、あの感触は今でもエンゼルの夜のオカズに……という話はともかく。
「あの時強引に決めておけば良かったのかなあ……」
 現実には、そのすぐ後にはもう新たな女性のクルー、ハルカとかカズーイとかが入ってきてしまって、
しかもカズーイも結構キャプテンに本気みたいで、さらに火をつけるかのようにレン、シズヤ、果ては
ブサイ王女との話まで浮上してきたものだから、小説の主人公もびっくりだろう。というか、
そんな小説があったら恋愛というよりハーレム小説だ。
「なんだかんだ言って、キャプテンもデートには付き合ってくれるし……私が一歩リードだと思うんだけどなあ」
 陸の上ではこっそりと楽しんでいたおしゃれ着を、ちゃんと褒めさせる程度には教育済みである。
「ま、言ってもしゃーないか」
 そろそろクルー全員での飲み会だ。遅れるとキャプテンとの相席が出来なくなってしまうから、
早く行かないと……


 というわけで、間に合わなかった。
「なーんか今日は調子悪いなー」
 キャプテンはカウンター席で、隣には目下最大のライバルであるレンが座っている。
地味に酒癖の悪いレンは、思い切りキャプテンに絡んでいた。
「うぎぎ……」
 会話に全く色気がないから、まだ乱入はしていないけど、そろそろ我慢の限界だった。
どうやら、日ごろの愚痴が出ているらしい。
「だいたい! キャプテンの周りには女性が多すぎます!」
 一瞬、結構広い酒場の中のどの位置にカズーイとハルカとジュンが居るか、
正確に把握できた気がした。局所的に雰囲気が冷え込んだからだ。
「え。いや、その……」
 何よその反応は。
「今日こそははっきりしてもらいますからね。誰ですか!誰なんですか本命は!
 クルー? それともシズヤさんとか女王ですか!?」
「う、えっと、それは……」
 まさにその一部のクルーが熱い……もしくは研ぎ澄まされた刃のように鋭い視線を向ける。
(どうしよう)
 こういうシチュは小説の中にもあった。キャプテンビートの周りの女性キャラが増え、
ヤキモチを焼いたアンゼロットが迫るのだ。勿論ビートは「俺はお前のことが……」となるのだが、
この場で「勿論レンのことが大好きだ!」とか言われようものなら……当方に自殺の用意あり、だ。
(やばい、本当に涙出てきた)
 こんな、こんな形で数年来の恋心が終わってしまうのか。明日からあの小説を書くのが拷問になるかもしれない。
 だが、その瞬間。
「!」
 目が、合った。キャプテンの目が確かに、私をとらえて。ふと、酒で赤くなった顔が引き締まった感じが……
(えっ、これって、うそ、まさか……!?)
 そんなミラクルがあるのか。と期待した次の瞬間。
「それはー、だな。って……レン?」
 ふと見ると、体勢はそのままに、首の上だけで舟をこいで、レンが寝ていた。

 結局その後はうやむやのうちに飲み会はお開きになって、三々五々散っていった。
「はあ……ホント、キャプテンは優柔不断なんだから。でも、久々にドキッとしたなあ」
 今日はもう、寝付けそうにない。小説の続きを書く気分にもなれない。
 
 気づけば、キャプテンの取った部屋の前だった。基本的に陸の上でも船で寝泊りするのだが、
最近野球人形で金が入ってきたといって、要職についている者には宿が与えられていた。
当然エンゼルもその一人だ。
「ボトルよし、グラスよし、栓抜きよし……と」
 シナリオとしては、『今日はあんまり飲んでなかったみたいだし、飲みなおさない?』という感じだ。
どうせキャプテンのことだから、まだ寝ないで次の航海の計画を立てている頃だろう。
 意を決して、三回ノックする。
「はいはい」
 ハイは一回でよろしい、とか言う余裕もなく、錠が開いてドアが開く。
「お、エンゼル? どうした?」
「ハーイ、キャプテン。よかったら飲みなおさない?」
「……うん。いいよ。さ、どうぞ」
 微妙な間があったのが気になったが、どうやら上手くいったみたいだ。
「お、おじゃまします」
 夜もふけて、宿の一室で男女二人きりで酒を飲む……まさに恋人同士の付き合い。
(と、思って油断しちゃ駄目。今日みたいなことがまた起こったら、
 あたしの心臓がもちそうにないし。今日こそキャプテンと恋人になる!)
 ドアをくぐって、物書きのための机に明かりがともっているのを見て、やっぱりなと思う。
「あは、次の航海の予定でも立ててた?」
「はは……さすがエンゼル。よく分かってるな」
 もうこの程度の褒め言葉で舞い上がっている場合ではない。
 幸い、航海となればキャプテンの話の種は尽きない。ワイングラスを傾けながら、
少しロマンスに欠ける二人の夜が過ぎていった。
「ん、グラスが空だね。ついだげる」
 椅子を対面ではなく隣に移動させて、キャプテンの隣に座って注ぐ。
「ねえ、キャプテン。レンじゃないけどさ、その、実際、キャプテンは誰が好きなの?」
 言った。言ってしまった。あるいは全てを終わらせる呪文を。酔いに任せなければ言えなかっただろう。

「…………」
 意外にも、キャプテンは押し黙った。
「なあ、エンゼル」
「う、うん」
 読めない。このエンゼルの目をもってしても次の台詞が読めない。
「思えば俺達も結構長い付き合いになったよな」
「……だね」
「エンゼルには本当に世話になりっぱなしだよ」
「……それほどでも」
 なんだこの会話。
『だから好きなんだ』という言葉を期待できるような。
『違う人が好きだけどこれからもヨロシク』で終わってしまうような。
 天国と地獄にはさまれた気分だ。臨死体験か。
「言い訳をするとさ、今までカメダ海賊団を追っていたから、
 致命的な弱点になりそうな恋人とかは、あまり作りたくなかったんだよな。
 ……俺の父さんも、自分の子供を人質に取られて死んだわけだし」
「…………」
 今度は私が黙るほうだった。話には聞いていたけど。それは……納得できる理由ではある。
「何年もそうやって来たけど。……でも気づけば。今の主要なクルーが人質に取られたら、
 誰であろうと命懸けで助けたくなると思う。そのくらい、最高の奴らが集まってる」
 ……だから。もう、いいんじゃないかなって。その、……恋人を、作っても」
 ばくん、と心臓が跳ねる。このタイミングでその発言って、つまり。
 そっと、いつの間にか両手でギュッとグラスを持っていた私の手に、
キャプテンの暖かい手が添えられる。
「ずっと、言いたかった。エンゼル、俺はお前が好きだ」
 遅すぎるよ、とか、もっとムード欲しかったな、とか。
そんな軽口なんて考え付きもしなかった。
 むしろ私のほうこそ、もっと洒落た返しが出来ないのかって思うほど……
ただ嬉しくて、涙を流すことしか出来なかった。
「え、ちょっと、エンゼル?」
「バカぁ! あたしだって、ずっと好きだったんだから! いつまでも待たせんな!」

 自分でも何を言ってるのかよく分からないままに、キャプテンの胸に飛び込んだ。
 ああ、椅子を隣に移動させといて良かった……と冷静な部分が感想を漏らしている。
「ごめんな。でも、エンゼルも同じ気持ちで良かったよ」
「まったく……ずーーーっとモーションかけ続けたのは私のほうでしょうが」
「俺だってドキドキしながら流し続けてたんだぞ」
 顔を見合わせて、笑う。なんだ、魅力が通じてなかったんじゃなかったのか……
「そこまで言うなら、今からでも恋人らしいことをしてみようか」
「え? それって、」
 急に抱きすくめられて、大またに歩くだけで、そこはもうベッドの上だった。
 腰掛けたと思ったら、あっというまに押し倒される。
「エンゼル……」
 酔ってるのか。酒とか、状況とかに。でもそれは私も同じみたいだった。
嬉しすぎてどうなってもいいと思った。
「いいよ。……来て」
 始めてのキスは、少しすっぱいワインの味がした。とか思ったのもつかの間、
ぬるりと熱い舌を感じて……夢中で口を吸いあった。
 服を脱ぐために、お互い身体を離す。
 ああ、しまった。もっと可愛い下着を穿いて来るんだった……もういいや。
全部脱いでしまおう。
 お互いよーいドン、とタイミングを取ったみたいに同時に振り返って、
言葉すらなく続きを始める。
 唇を夢中で吸う私に、キャプテンは私の胸に手を伸ばし、たどたどしく揉んできた。
おぼつかない手つきでも、自分でするのとは比べ物にならないほど気持ちいい。
 下腹部に当たるキャプテンの……ソレの熱さを感じ、気が遠くなるほど興奮する。
 早くも我慢できなくなったのか、強引に股を開かせると、ぐりゅ、とソレの先端を
押し当ててきた。
「あぅっ!」
 その瞬間走った痺れに、思わずのけぞる。股間と股間が擦れるたび、くちゅ、にちゃ、と
水音がするのが恥ずかしくて、思わず手で顔を覆ってしまった。
 キャプテンのはぁ、はぁという荒い吐息だけが聞こえるのも相当恥ずかしいけど、
今更手をどける勇気も無くて、なすがままになる。
 どうやら本当に初めてなのか、『入り口』を見つけるのに難儀しているみたいだ。
棒の先端でまさぐられるたびに、ひくひくと反応してしまうから早くして欲しい反面、
やっぱり怖いという思いもある。

 と、ついに穴を捉えて押し入ってきた!
「あっ、くぅ……!」
 変に痛がって止めて欲しくも無いから、頑張って声を押し殺す。……大丈夫、
斧で切りつけられるより痛くは……いや痛いけど。暴力的なまでに圧倒的な、
キャプテンのソレの存在感は、ずっと欲しかったものだった。
「大丈夫か?」
 変な所で耳ざといキャプテンは、半ばまで埋まった所で動きを止めてしまった。
両手の指の間から、視線を返す。
「大丈夫、だから……キャプテンのしたいように、して欲しいな」
「……わかった」
 キャプテンも辛い……のだろうか。眉根を寄せて、余裕なさそうにしている。
ずり、ずり、と万力のように力強く、少しずつ押し込まれて行って……
本当に串刺しにされるじゃないかと思うくらい、長くて、太くて、硬かった。
 こつ、と、本当に私の一番奥まで届いて、
「全部、入ったよ」
 苦しそうな声が響く。その頃には私の痛みも引いていて、逆に余裕が出来るくらいだった。
「ね、大丈夫? キャプテン」
「だ、大丈夫って言うか……エンゼルの膣、気持ちよすぎて」
 ちつて。最中に面と向かって言われると相当恥ずかしい。どう返せば良いの。
「あ、……ありがと」
 気恥ずかしくて、でも嬉しくて、まだ少し痛いけれど脚をキャプテンの腰に絡めてみる。
「うあっ、それ駄目、うっ!!」
 どくん。と、膣内の棒が膨張するような感覚の後、奥の奥にたたきつけるような衝撃を感じた。
「えっ、あっ、ああんっ♪」
 いきなりの刺激に、無防備なままさらされた私は、一瞬体が浮き上がるような感覚と、
その後に続く真っ白な恍惚を得る。
 ってあれ、私……
「イッ、ちゃった?」
 処女なのに。始めての膣内射精で。
「う、ご、ごめん」
 自分の事を言われたと思ったのか、キャプテンがしょげ返っている。
「いいよ。……ただし、私といーっぱいシて、上手くなってね♪」

 一瞬で回復したキャプテンと、結局朝が来るまでサルのようにやり続けた。

 翌日。調子よく小説を執筆していると、ふと気づいた。
「これ官能小説になってる……」
 どうやら外伝小説にしなければならないようだった。

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