脱衣所でお互いの体を拭きあった後、
オレは腰に、若菜は胸にバスタオルを巻いた姿で部屋に戻ってきた。

結局、まともにイメージトレーニングもできないままに、
ここまでやって来てしまった。
そんなオレの苦悩も知らずに、若菜はベッドの中に潜り込むと、
布団の中からオレの手を引っ張った。
こうなってはもう、ぶっつけ本番で当たって砕けるしかない。

隣に潜り込むと、裸の若菜が身をすり寄せてきた。
いよいよセックスが始まるのかと覚悟を決めたが、
若菜はそのままオレの裸に自分の裸をこすりつけながら、
「翔馬の裸だ」と嬉しそうに言うばかりで、なかなかセックスは始まりそうにない。

「……ね、見せあいっこしない?」
若菜はそう言うなり、俺の返事も聞かずにいきなり布団を捲り上げ、
オレの体にまたがりながら、頭から布団の中に潜り込んだ。

「すごいなあ……翔馬のボッキしてるとこ、初めて見ちゃった♪」

布団の中なのでよく分からないが、
どうやら、若菜はオレの陰茎に顔を寄せているらしい。

そう、若菜の裸を見ている内に……オレは、勃起していた。

今までも朝目を覚ました時に、これに近い状態になる事はあった。
そういう時は、雑念が沸いているのだろうと思って、より一層練習に身を入れたものだ。

しかし、こんなに硬く勃起したのは初めてだ。
亀頭に血が集まって、パンパンに張っている。正直、痛いぐらいだ。

「翔馬も、遠慮しないで見ていいよ」

すぐ目の前には、オレの上に乗っかっている若菜の陰部がある。
オレの顔をまたぐためにかなり大きく足を開いているにもかかわらず、
陰毛の合間に見える若菜の割れ目は、しっかりと閉じている。

若菜のあそこがどうなっているのか、もっとよく見てみたい……
その気持ちが、どうにも抑えきれなくなった。
若菜の割れ目に両手の指を当てて、そっと押し広げてみた。

これが……若菜の性器。

びっくりするほど柔らかい割れ目の肉の間から現れた若菜の性器は、
微かにつやつや光って、押し分けた皮膚よりも、さらに鮮やかな赤色をしていた。
なんだか引き攣れた傷口みたいで、想像していたよりもずっと複雑な形だった。

参考資料では肝心な部分はすべてボカシが掛けられていたため、
推測するしかないが、おそらくこの二つに分かれた襞が小陰唇というやつだろう。
では、その下にあるこの窄まりが、若菜の膣口か。
ここに、オレの陰茎を差し込まねばならないのか……
そう思いながら見ていると、下半身でオレの陰茎がぬるっと暖かい物に包み込まれた。

「な、なにをやってるんだ? 若菜?」

「ふぁんにも……なんにも、してないしてない。
 ちょっと待ってて、今、ゴム付けちゃうから」

「ゴム?」

「コンドームのこと」

若菜が布団の中から顔を出して、枕元に置いてあったコンドームの箱を手に取ると、
再び布団の中に潜り込み、股間のあたりでごそごそとやり始めた。

若菜のしなやかな指が、オレの陰茎を握り締めるのが感じられる。
続いて、亀頭の先端に柔らかいものが押し当てられた。
そして再び陰茎全体が、暖かいなにかで包み込まれた。

「……さ、これでよし」
なぜか口の端に唾液の跡を光らせた若菜が、布団の中から戻って来た。

「もう、いつでもいいよ」

今度は、オレが若菜の上に覆いかぶさった。

布団の中を覗き込むと、オレの胸板と若菜の乳房の間にできた隙間の向こうに、
若菜の白い下腹部と、そこに密着しているオレのそそり立った陰茎が見えた。
オレは布団の中を覗きながら、慎重に陰茎の先を、若菜の陰唇に押し当てた。
若菜も一緒に布団の中を覗きながら、足を開いて協力してくれた。

何とか入らないものかと、亀頭を若菜の陰唇に押し付けたまま動かしていると、
若菜のあそこと触れ合ってる部分は、徐々にぬるぬると滑りやすくなっていった。
――このままでは、滑って入れられなくなってしまう。
何とかしなければ――と考えあぐねている内に、
唐突に、にゅるん、という感じで亀頭の先が若菜の中にめり込んだ。

「ん……」若菜が小さな声を洩らした。

亀頭が入ると、それまでの苦労が嘘のように、
陰茎の残りの部分はすっぽりと若菜の膣の中に飲み込まれてしまった。

若菜は更に足を大きく広げて、オレの腰に巻きつけてきた。

若菜の中で、陰茎全体が強くぎゅっと締め付けられている。
そして陰茎を通して、若菜の温もりが伝わってくる。
あったかい。熱いくらいにあったかい。

そのまま二、三度腰を動かしてみると、陰茎が若菜の膣の中で擦れた。

……初めて味わう感覚だった。

たとえて言うなら、痒いところを掻いている時の感覚に似ている。
しかし、痒みに伴うような不快感はない。
むしろ……気持ちいい。動かし続けずにはいられない。

ただ、若菜が苦しそうに眉をしかめているのが気になった。

心配になったオレは、一旦腰の動きを止めた。
「痛いのか……若菜?」

「んん……痛くない」若菜が首を振った
「……きっと……今の翔馬と同じくらい、気持ちいい……だから、続けて」

若菜の言葉を信じて、オレは動作を再開した。

陰茎から伝わってくる快感は、どんどん強くなってくる。
こんな素晴らしい事がこの世にあったのか、というぐらいの快感だ。
こうやって若菜の中で自分を擦り続けているだけで、幸福感を感じる。

鼻息がどんどん荒くなっていくのが、自分でもわかる。
若菜もオレの動きにあわせて、「あ……あ……」と声を上げながら、
しきりに鼻を鳴らして、俺の肩に顔をこすりつけてくる。

いつの間にか、オレの体も若菜の体も、じっとりと汗ばんでいた。

――しかし、さっきから腰のあたりで疼き続けているある感覚が、
オレを戸惑わせていた。……なんで、よりによってこんな時に?

「若菜……まずい」
切迫感に声を上ずらせながら、オレは言った。
「……尿が、出そうだ」

「翔馬は……オナニーしたことないの?」
若菜も、上ずった声で尋ね返してきた。

「……オナニー?」

「自分の……おちんちん……手でこすること……」

「ない……」

「じゃ……たぶん……それ、おしっこじゃないよ……
 ……いいから、そのまま動き続けてて……」

こうなってはもう、最後まで若菜を信じるしかない。
いずれにせよ、途中ではとてもやめられない。
オレは若菜と一つになったまま、夢中で腰を動かし続けた。

切迫感はどんどん強くなり、もう抑え切れそうにない。
ただ本能に突き動かされるようにして、若菜の中でピストン運動を続けた。
若菜の上げる声も、「あっ、あっ、あっ」とハイテンポになり、今は叫び声に近い。

もう、これ以上我慢できない……
何が我慢できないのかよくわからないままに、そう感じた瞬間、
若菜の中で何かがオレの陰茎の先端から迸った。

今までの気持ちよさをすべて合わせたよりも、ずっと気持ちいい。
そして、ずっと幸福だった。

若菜がオレの首にまわした手と、腰にまわした足を、ぐったりとゆるめた。

……それにしても、疲れた。

すべてが終ると、急にどっと疲労感が襲ってきた。
童貞を捨てるのが、こんなに疲れるものだとは思わなかった。
オレは若菜の体の上から脇に寝転がり、息を休めることにした。

「……翔馬、イけた?」
しばらくして、若菜がまだ息を弾ませながら、わけのわからない質問をした。

「どこにだ? オレはここにいるじゃないか」

オレの返事を聞いて、若菜は一瞬きょとんとした顔をしたが、
すぐに笑い出した。
「そうだよね、翔馬はどこにもいかないよね」

若菜は身を起こし、裸の上半身をオレにくっつけた。
「……だから、ずっと、ここにいてね……翔馬」

そんな若菜を見ている内に、再びオレの陰茎は勃起し始めていた。

その後、オレと若菜はもう一度愛しあった。


          *           *


怖い、夢を見ていた。

はっと目を覚ましたあたしの前には、窓から差し込む
月明かりに照らされた、翔馬の顔があった。

よかった……夢だった。

――でも、その翔馬の寝顔を見ているだけで、
あたしは罪悪感で心が引き裂かれそうになる。

ごめんね、翔馬。

あたしは翔馬の寝顔に、心の中で語りかけた。

あたしの初めて、翔馬にあげられなくて、ごめんね。

今日、翔馬があたしの体を求めてくれた時、
本当に嬉しかった。嬉しくて仕方なかった。

……だけど、どうしてもう三年早く、あたしを求めてくれなかったの?
そうしてくれてたら、せっかく翔馬とひとつになれた晩に、
こんな苦しい、辛い気持ちにならずにすんだのに。

あたしが初めて抱かれた相手は、翔馬じゃなかった。

三年前にあたしが初めて身を任せた相手は、
よりによって、ライバル校のキャプテンで、
最後の春と夏の地区大会では、翔馬を二度も打ち崩した人だった。
言ってみれば、翔馬が一度も甲子園で優勝できなかったのは、
あの人のせいみたいなものなのに。

あの人は、高校での三年間を通してずっと付き合っていた彼女と
別れたばかりで、とても寂しそうだった。

あたしも、翔馬がかまってくれなくて、寂しくて仕方なかった。
翔馬はずっと、あたしにキスもしてくれなかった。抱きしめてもくれなかった。

寂しい者同士だったあたしたち二人は、
互いに慰めあっている内に一線を越えてしまっていた。

それも、一度だけじゃなくて、何度も、何度も。

……でもあたし、翔馬に嘘はついてないよ?

ゴムを付けてしたのは、本当に今夜が初めてだった――
思えば高校生の頃のあたしは、どうしようもないくらいバカだった。
そして、そのせいで、あんなひどい事に。

自分の過ちの結果に気付いた時、あたしはあの人には何も言わなかった。
言えばあの人の性格からして、責任を取って結婚すると言い出しただろう。

でも、あの人が本気であたしを愛してるわけじゃないのはわかってた。
あたしも、本気であの人を愛してたわけじゃなかった。
なによりも、これ以上翔馬を裏切るような真似は、できなかった。

――だから、あたしは誰にも相談せずに、一人で始末するしかなかった。

あの人にはただ、翔馬とよりを戻したい、とだけ言って別れた。
何も知らないあの人は、その方がいい、と言って別れてくれた。

そして、もちろんこの事は翔馬には絶対に言えない。
今までも、これからも、絶対に。
翔馬に知られるぐらいなら、いっそ死んだ方がましだ。

「――どうした、若菜? なんで泣いてる?」

翔馬の声に、あたしは我に返った。
いつの間にか、翔馬が目を覚ましていたらしい。

あたしは涙を拭って、笑顔で答えた。

「ううん、なんでもない。嬉しすぎて、涙が出ちゃっただけ」

ごめんね、翔馬。あたしのやってる事、めちゃくちゃだよね……。
ただ寂しいからってだけで身を任せた相手に生でやらせて、
本当に好きな人には、ゴム付けてさせてるんだもの。

――でも、あんな辛い思いは、もう二度としたくないから。

だから翔馬、早く結婚しようね。

結婚して、いっぱい、いっぱい生でやろうね。

そして今度こそ、あたしに翔馬の赤ちゃんを産ませてね。

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