恵理


「やっぱり冬はコタツでみかんだよね〜」
「ああ……そうだな〜」
 年の暮れ、まったりと夫婦で幸せな時間を共有する。
どっちかと言うと普段の恵理は犬っぽいのだが、今は猫のように眼を細めている。
……非常に可愛らしい、悶えそうだ。
そんなことを思いながら、小波は頬を緩ませる。
「もうすぐ今年も終わるね……」
「ああ……来年は……」
 しみじみとしながら、愛しの妻の腹部に視線を向ける。
まだ大きくなっているわけではないが。そこには新しい命が宿っている。
「…………赤ちゃん、かぁ」
 お腹を優しくなでながら、恵理がぽつりとつぶやく。
わずかに紅潮した頬、柔らかな微笑み。
聖母のような優しさが溢れている。
……ものすごく美しい、悶えそうだ。
そんなことをを考えながら、小波は崇拝するように妻を見つめる。
「楽しみだな」
「……う、うん! ……えっと、ところで」
 もじもじと、恥ずかしそうに恵理が、
「?」
「今年はその……しないの?」
 つぶやくように聞いてきた。子供も生まれるというのに、初々しさを感じる恵理の動作。
……悪魔のように蠱惑的である、悶えそうだ。
そんなことを考えながら、小波は鼻息を荒くする。
「ん〜? 何を?」
 なんとなくわかってはいるのだが、わからないふりをして聞きかえす。
一瞬で真っ赤に染まる恵理の顔。あたふたと視線を揺らしている。
……天使のように可憐だ。ついに小波は耐え切れず身悶えした。
そんな彼を気にすることなく、恵理は恥ずかしそうに言ってきた。
「えっと……その、ひ、姫初め?
あと……あれ? 一年の最後にするのはなんて言うんだろ?」
「うーん、そっちは俺にもわからないけど……そうだなぁ、姫初めかぁ」
「う、うん……」
 去年の暮れは、年をまたいでそのまま交わった。
最高の新年の迎え方と言えるかも知れない。
確かに今年もそうしたいのはやまやまだが……
「うーん、やっぱ赤ちゃんがいるってなるとなぁ」
 非常に残念ではあるが、
恵理に何かあったら洒落にならない。ここは涙をのむことにしよう。
そう考えて、彼は顔をしかめながら言葉を発そうとしたが……
「……そうなんだ、いろいろ準備したんだけどなぁ」
「準備?」
 予想外の言葉、聞き返すと。
「あのね…………とか、……の服とか……を……してみたり」
「は?! ま、マジで?」
「う、うん」
 あまりに過激な、男の夢が詰まった言葉の数々。
「………………うーん、一回ぐらいなら……いいかな?」
「そ、そうかな?」
 嬉しそうな恵理、まあ、一回ぐらいなら大丈夫だろうが……確証はない。
やはり断るべきなのかと思う……
「じゃ、じゃあ……えっち、しようよ」
「……ああ」
 けれど犬で猫で聖母で悪魔で天使な彼女の誘いを、彼が断われるはずもなかった。
……最後に一つだけ聞いておくことがあった。口に出す。
「……気分が悪かったりはしないか?」
「うん、それはないよ……」
「よし! ……恵理……」
「あ……あなた……ん……」
口づけを交わし、そして二人は……

 その後、もちろん一回では済まなかった。
(妊娠中のえっちは安定期になるまで我慢しましょう)

真央


「ぱくぱくもぐもぐ」
「あらあら、いい食べっぷりね、体がちっちゃいんだからもっと食べるといいわよ」
 確かにそうだ、彼女の体は小さい。もっと食べてもいい、そう思う。
「こくこく」
「うむ、ゆくゆくはうちの家族の一員となるんだからな、遠慮はいらないぞ」
 確かにそうだ、ゆくゆくはそうなってほしい、そう思う。
「……美味しい」
「うむ、よいことだ」
「そうね、まだたんとあるからたくさん食べなさい」
 確かにそうだ、彼女の目の前には大量の料理がある。……だが。
「あの……俺は?」
 この家の一人息子である、小波の目の前にはご飯しかない。
……こころなしかその器も小さいような気がする。
「あんたはこれで十分でしょ、ほら」
「……漬物?」
 目の前に新しく置かれたのは、きゅうりの漬物だった。目に鮮やかな緑色。
「うむ、今年一年の結果が特に大活躍とも言えず、
失敗したとも言えないお前にはちょうどいいな」
「えーっと、たまに帰ってきた息子をいたわろうって気は……」
「あら、このお肉、美味しいわね、ほら、真央ちゃんも」
「ぱくぱく」
「聞いてくれよ……せ、せめて年越しそばぐらいは……」
 自分の声が泣きそうだと自覚しながら、救いを求める。
「カップ麺でいいならな」
「…………」
 泣いた。と、対面にいる真央ちゃんの眼が、こっちに向いた。
「ぱくぱくもぐもぐごくん……大丈夫」
「ん?」
「……わたしの……わけるから」
「おお! ありがとう! 真央ちゃん!」
 愛しい彼女のありがたい言葉に、先ほどとは違う涙がこぼれる。
「…………少女にたかるなんて……犯罪だな」
「そうよね」
 両親の冷めた言葉が聞こえるが、そんなことはどうでもよかった。
「ぱくぱくもぐもぐ」
 幸せそうに食事をする小さな天使を、微笑みながら見守る小波であった。

芙喜子


 大晦日、小波がホテルで目を覚ますと身体が縛られていた。笑い声が聞こえてくる。
「ふふふふ……」
「えーっと、芙喜子?」
 目の前には彼女の姿、豹のようにしなやかな肉体をボンデージに包ませている。
後に聞いたところ、なんでもこの日のためにわざわざ服を買ったらしい、
……喜ばせる結果になるだけだとわかっていなかったのだろうか。
 ともかく、小波、絶体絶命のピンチである。
「ふふふふふ……ようやく悲願がかなう時ね」
「……いや、そうなのか?」
 楽しそうに笑いながら、芙喜子は手に持つ鞭を地面に叩きつけた。
年末だというのに、自分たちはホテルで何をやってるんだろう、そんなことを思わなくもない。
「あたり前じゃない、四連敗の屈辱を、今こそはらすのよ!」
 復讐のきっかけとなった情事と、返り討ちにあった三回を含めて四連敗。
まあ、別に勝負だというわけでもないのだが。
「……なんだか負けが込んで暴走してるな、少しは落ち着けよ」
 小波はあくまで冷静になだめようとするが、
火に油を注ぐことにしかならないようだった。
「ア・ン・タ・が! 悪いんでしょうが!
あたしを縛ったり、ろうそく垂らしたり、あんな服を着させたり!」
「……芙喜子も喜んでたじゃないか」
 四回とも芙喜子が非常に気持ちよさそうだったので、
特に小波に罪悪感は無い。
「うるさい! ふふふふふ、生意気な口もそこまでよ、ふふふふふふ」
 完全に理性を失っている、……まあ、こんな姿を見せるのは自分だけだと思うと、
ちょっと優越感に浸れることは確かなのだが。
(ククククク……)
 小波は心の中でほくそ笑む、向こうは完全に油断している。それは間違いない。
学習能力がないわけではなく、
今回は完全に動きを封じることができた、そう思っているからなのだろうが。
「まあいいや、さっさと始めてくれ」
「へ? ……抵抗しないの?」
「いや、さすがに両手両足縛られてどうこうもないだろ」
「……はぁ」
 呆れたように溜息、同時に芙喜子の眼が閉じる。
その瞬間、すでに緩ませておいた縄を立ちきり、小波は芙喜子に飛びかかった。
「え?! ちょ、ちょっと!? くっ!」
 どたばたとしばらくもつれ合って、芙喜子の両手両足を封じる。
さすがに組みあってしまえば、いかに鍛えていようと女性が男性に勝つのは難しい。
もちろん芙喜子もそれは理解してるだろうが……
まあどんな時でも油断はしないようにと言う小波の教育だ。
「……なんで?! ワイヤーで体を縛ってたのにどうしてよ?!」
「…………」
「ちょっと! どうやったか教えなさいよ!」
 芙喜子の懸命な質問、だが小波はそれに応えることは無く。
「……女王様を攻める…………ありだな!」
 勝利の宣言をあげて、
「え? えええ?! や、いやああああああああ!!!」
 悲鳴を上げる芙喜子へと、飛びかかった。

武美


「……あのさ、あたしの記憶が確かなら」
「今日は大みそかだな」
 セリフを途中遮られ、武美は少し面食らったようだったが、すぐに呆れた表情に戻った。
冷たい風が身を冷やす、早めにテントを立て終わらないと風邪をひいてしまうかもしれない。
そう思いながら小波はテントの支柱にロープを引っかけた。武美も作業を手伝ってくれる。
「そうだよね……で、なんでそんな日にあたしたちは野宿の準備してるんだっけ?」
「…………」
 小波の頬に一滴の汗が流れる、だが何も返事はせずにテントを建てる作業を続ける。
「あたしの記憶が確かならさ、
確か小波さんがこっちの道がいいって言ったのが四日前だったよね」
「……」
 意識がそれるのを食い止め、テントに意識を集中させる小波。
……あまり効果は無く、手元が震えるが、寒さのせいだと自分をごまかすことにした。
「それからあたしが止めるのにもかかわらず、山の中を三日三晩歩いたよね」
「…………そうだな」
 テントが完成した、ついにごまかすこともできなくなって、
小波は武美の方を恐る恐る見つめた。
半眼で呆れたような彼女の顔、
……この表情もときにはいいものだな、と小波が考えたことは一生の秘密である。
「で、こんなことになってるわけだけど……なにか言いたいことは?」
 誰がどう見ても悪いのは全面的に小波のほうだった、
武美の言うことを聞いておけば、
今頃は暖かい部屋でゆっくりとしているはずだったのだから。
「……すまない」
 半眼で睨んでくる武美、彼には謝るしか道は無かった。
「はぁ、……まあ、別にいいけどさ。一度ぐらいはこういう年越しでも悪くないし」
「そ、そうか、そうだよな、ははははは……」
「あははははは……」
 許しの気配、自然と小波の頬が緩むが……
「でも罰として二週間お預け」
「! お、おい?!」
 あまりにもひどい宣言、あわてる小波を楽しそうな武美の眼が射抜いてくる。
「……あれぇ? いつもクールにあたしの誘いを受けるくせに、断言されると嫌なんだ?」
「いや、そんなことはないぞ」
 小波は視線を逸らし、夜空を見上げた。
……といっても、あいにく曇り空で月さえ見えないが。
「ふーん、そうなんだ……じゃあ二週間お預けでいいよね?」
 テントの入り口をあけ、中を覗き込む武美。その背中に彼は声をかけた。
「……なあ」
「どうしたの?」
 振り返る武美に、
「せめて一週間に……」
 情けない懇願をする小波。
「ダメ」
「ぐ……」
 頬が熱くなる、夕食で酒を飲んだのがまずかったのだろうか、
普段ならこんなカッコ悪いことは言わないのだが……内心そんなことを考えて、落ち込む小波。
「ん? でも正月に姫初めってちょっとやってみたいかも……」
 ふと、武美が迷うようにつぶやく。
「そうか!」
「そんなに喜ばないでよ……じゃあ、明日した後、二週間お預けだね」
「……だから一週間に」
「ダメ」
「………………」

 結局、すぐに武美は機嫌を直してくれて、お預けはたったの四日で済んだ。

紫杏


「うむ、今年一年が無事に終わったことに、乾杯!」
「「「かんぱーーい」」」
 炬燵を囲んで、乾杯の音頭。目の前には鍋がぐつぐつと煮えている。
小波はそのままビールを口に運んだ。
キンキンに冷えたビールの喉越しは他では決して代用のきかないものだ。
「んくっ、んくっ……んはぁ! 美味い!!」
「そうか、私にはビールの美味しさは良くわからないが、こっちのワインも良い味だ」
 上品にワイングラスを傾け、微笑む紫杏。上機嫌なことが一目見ればわかるほど楽しそうだ。
「じゃあ、ちょっともらおうかな…………ってそれよりも」
「ん? どうした?」
「いや、えーっと」
 言いよどむ小波、楽しそうな紫杏に水を差したくないのだが……
「なんや辛気臭いなぁ、せっかくの年の暮れなんやからパーっとせんかい!」
「そうね、あんたが紫杏を楽しませてくれないなら、あんたの存在意義なんてないんだから」
 両隣からお邪魔虫の声、いや、そこまでは邪魔だとは思わな……いや、邪魔だった。
せっかく紫杏と二人きりで甘い年越しをしようと思ったのに……
小波は、いろんな意味で悲しくなった。
「……それは言い過ぎだぞ、朱里」
 紫杏がフォローしてくれる、さすがは愛しの……ではなく、大好きな彼女である。
「……そうね、悪かったわ」
「そうだ、少なくとも今はプロ野球選手なのだからな、そっちでの存在意義はあるだろう」
「え? なんかフォローずれてない?」
 思わず口に出すと、なんだか気の毒そうな目が小波に向けられた。
「気のせいだ」
「なんだ、気のせいか……ほんとに?」
「気のせいだと言ってるだろう」
 口ではそう言っているものの、
紫杏の目がわずかに逸れる。……少しだけ、泣きたくなった。
もう少し自分のことを大事にしているとか言ってほしかったのだが。
「……?」
 だが、ちらちらとわびるような視線を向けてくる紫杏を見て、
それが本心でないことに気づく。
 ……実に可愛い彼女である。 小波の頬がゆるむ。
「っていっても、大した活躍はせえへんかったけどなぁ」
「そうね、いくら最初の年とはいえ、もう少し結果を出しても良かったんじゃないかしら」
「…………」
 厳しい言葉、確かに新人王をとるほど活躍したわけじゃないのだが……
いや、それでも十分良かったと監督には褒められたのだが。
駄目だったと思われても仕方のない成績かもしれない。
「……二人とも、いじめるのはそこまでにしておけ、せっかくの……」
「いや、二人の言うことは正しいな。来年はもっと活躍するから見ておけよ!」
 紫杏の言葉を遮り、三人に向けて宣言する小波。
紫杏の顔が、パーっと明るくなった。
「……わあ、さすがね! それでこそあたしの……」
「紫杏、口調、口調」
「は! ……こほん……あー、確かに来年はさらなる活躍を期待しているぞ」
 指摘され、小さく咳払いをして言いなおす紫杏。
慌てている姿が非常に可愛くて、小波の頬が限界まで緩む。
「……別にウチらの前ではそれでもええけどなぁ」
「……そうね」
 小さな二人の声に、紫杏の顔が赤く染まる。
「ま、まあ、とりあえず食べよう、いい感じで鍋も煮えてきたし」
 ごまかすように小波は鍋を指さした。湯気に混じっていい香りがする。
「そやな、とりあえずこの肉はもらったで〜」
「お、じゃあ俺もこれを……」
「あ! それあたしのなのに!」
「……紫杏、口調」
「は!」
 そんなこんなで暮れていく年の瀬だった……のだが。



「ちょ、ちょっと! ふ、二人がいるのよ?!」
 食べ終わって、先に酔いつぶれた大江と浜野――小さな寝息
が聞こえる――を尻目に、小波は紫杏の身体を撫で始めた。
女らしく柔らかい肌、服の上からでも非常に触り心地がいい。
後ろから抱き締め、股間のやや大きくなっているモノを背中に擦りつける。
すでにこっちが興奮しているのが分かったのだろう、紫杏の顔は赤い。
……いや、酒の影響で赤くなっているというのもあるだろうが。
「いいじゃないか、酔いつぶれて寝てるみたいだし」
「だからって……んっ!」
 首筋にキス、這い上がってそのまま口付けを交わす。
舌をからめあわせ、紫杏の口の中を蹂躙する。
……諦めたのか、すぐに彼女も舌を差し出してきた。
「んっん〜〜〜」
 だが、服を脱がそうとすると、手を払いのけられた。
キスが終わると同時に、紫杏が顔をさらに赤らめながら恥ずかしそうに言ってくる。
「だ、駄目だって言ってるでしょ?
そ、その裸の所を見つかったら言い訳できないじゃない」
「ふーん、脱いでなきゃいいんだ……都合のいい服でよかったよ」
 紫杏は上はブラウス、下は――外を歩くのには寒いだろう――スカート。
少し下着をずらせば、服を着たままでも十分に楽しむことができそうだった。
「そ、そういう意味じゃないってば! あっ! ああ!!」
 スカートの横から手を入れて、ショーツをゆっくりとなぞる。……すでにそこは湿っていた。
指先で布をずらして、直接触れると暖かい液体が指先にまとわりつく。
「うんうん、紫杏もずいぶん慣れてきたみたいだな」
「だ、だって……ふ、二日に一回もしてるんだから……あたり前じゃない!」
 もちろん、オフの間のペースの話である。
まだ若い小波の性欲は、毎日でも飽き足らないほど強い。
……もっとも常にそばにいる二つの視線のせいで、
なかなか二人きりになる時間は少ないため、毎日はできないのだが。
「うん……これなら前戯も必要ないかな?」
 光る指先を見て、小波がつぶやく。確かにもう挿れても問題がなさそうなのだが……
「……え、えっと」
「ん?」
 紫杏が身体をすりよせてきた、服に隔たれていても心臓の音が伝わってくる。
「ああ、ちゃんと前戯しないとダメか、……それならそう言ってくれればいいのに」
「……そんなこと、言えるわけないじゃないの」
「まあ、そうか……」
「んっ! ん……んんっ!!」
 再びキス、同時に片手を胸元に、片手を秘所に伸ばす。
唇から頬へ、ゆっくりとついばんでいく。
「ん! ぁっ……ん〜!!」
 声を必死に押し殺す紫杏、
さすがに二人を起こしてしまったらしばらくまともに顔を合わすこともできないだろう。
「ん!!!」
 耳を噛むと、小さく体を震わせてくる。
非常に良い反応を楽しみながら、小波は指を膣内に挿入させた。
「ぅぁ! ぁっ!」
 淫らな水音、紫杏の顔が真っ赤に染まる。
続いてブラジャーもはずそうとしたのだが……止められた。
余計に服が乱れるのは望んでいないらしい。
「んっ……ぁぁっ!!」
 胸を触れない分、秘所を攻める手に神経を集中させる。
手を口に当て必死に息を押し殺す紫杏、なぜか満たされた気分になる。
「ん〜!!!」
 睨まれた、邪な考えを見透かされたらしい。
微笑んで頭を撫でる、気持ちよさそうに目を細める紫杏。
「ん!」
 だが、小波がズボンのジッパーを開けて、男根を取り出すとさすがに動揺した顔になった。
恥ずかしそうに、けれどじっくりと小波のモノを見つめてくる。
「手でしてくれる?」
「……うん」
 小波のお願いに小さく頷き、紫杏の柔らかですべすべとした手が彼のモノを包む。
そのまま上下し始める手、すさまじい快楽、すぐにでも出してしまいたかった。
「ん!」
 だが、男のプライドがそれを許さない、反撃のため、紫杏への攻めを強める。
左手の手の指を深く挿入させ、右手でクリトリスを刺激する。
両手を使われた刺激は相当強いのか、紫杏の口から小さな嬌声が漏れた。
「あっ! ぁっ、っぁ!」
 紫杏の動きが鈍くなる、快楽に身体を震わせ、手に力が入っていない。
このまま軽くイかせようとさらに動きを強めようとして……
「ん! そ、そろそろ……」
 紫杏がおねだりをしてきた、上目遣いの濡れた目が色っぽい。
「え? もういいの?」
「え、ええ」
 このまま続けたら、声を抑える自信がないのかもしれない。
「じゃあいくよ……」
「! ぅぅぅぁぁああ!」
 スカートとパンツをずらし、後ろからゆっくりと挿入する。
背面座位と言う形だが、小波にそんなことを覚えるような頭は無い。
座って後ろからでもなんとなく意味は通じるため、特に不便でもないのだが。それはともかく。
「こ、声、声!」
「ん! あ、ああ、ごめんなさい……んぁ!」
「だから声!」
「だ、だって……ん!」
 動きを止めればいい、それはわかっているのだが、小波の身体は言うことを聞かなかった。
下から激しく突きあげ、紫杏の身体を揺らす。
「んっ! んんん!! ん〜!!!」
 必死に歯を食いしばる紫杏、辛そうな表情が嫌で、小波は唇を奪った。
「!!!?!?!」
 再び舌をからめあわせ、唾液を交換する。
さらに腰の動きをさらに早めて、お互いをすぐに絶頂へと導かせようと試みる。
「んむ〜!!! んんんんん〜〜〜!!!!」
 紫杏は息を止めているのか、顔が真っ赤だった。
涙目でこちらを見つめ、差し込んだ舌を優しく包んでくる。
……小波の限界はすぐに訪れた。
「で、出る!」
「ん、うん!!! んんんんぁ!!!!!!!!!」
 口を離し、終わりを告げると、紫杏はこくこくと首を振って、小波の肩を噛んだ。
「〜〜〜!!!!!!」
 声にならない声をあげ、紫杏が身体を震わせた。肩に鋭い痛み。
同時に小波のモノから熱い体液がほとばしった。
紫杏の中に侵入していく精液、勢いよく飛び出すたびに、紫杏が身体を痙攣させる。
「んっ……んんっ……んんんっ!!!」
 ……中に出してしまっているが、
昨日は安全日だと言っていた――けれど昨日は見張りが厳しくて
体を重ねられなかった――ので大丈夫だろう。
出し終わって、しばらく抱きしめる。暖かい体温、紫杏の匂い。
小波の心が満たされる……
「……紫杏、好きだよ」
 愛と言う言葉は使ってはいけないから、小さく好きだと囁いた。
「ん……うん……私もだ」
 軽い口づけ、うっとりと二人で見つめあう。
同時に除夜の鐘が鳴りはじめた…………今年もいい年になりそうな、そんな確信があった。
「……そろそろ、片付けないとな、二人が起きる前に」
「そ、そうね。……換気しないと匂いが残るわよね……でも窓を開けたら起きちゃう……え?!」
「どうしたの?」
 紫杏の顔が驚愕に歪んで、寝ている二人の方を見た。
二人は小さく寝ているような動きをしているが……
「ね、寝息が聞こえない……」
「へ?」
 さっぱり意味がわからなかった、紫杏の顔が真っ赤に染まって……
「だ、だからその、始めたときは聞こえてたのに……きゅう」
「わ、わあああ!!?? し、紫杏?!」
 なぜか気絶した、思わず体を揺さぶる。と。
「……気絶した場合は放っておいたほうがええで、あんまり揺らしたらアカンよ」
「…………それくらいスポーツ選手なら知ってそうなものだけどね」
「まあ、頭にぶつかったっていうわけでもあらへんけどな」
「そういえばそうね」
「……あ、あれ?」
 小さな声が聞こえてきた、目を向けると……真っ赤な大江と浜野の顔。
「いやしかし……すごいんやな」
「そうね……」
 目をあさっての方向に向けて、二人がつぶやく。……つまり。
「た、狸寝入り?!」
「ちゃうって! ウチはその、途中から……」
「……あたしは最初から起きてたけどね、あれぐらいで寝るわけないじゃない」
「…………」
 絶句する小波、と、大江が立ち上がった。
「あー、ウチらはそこら辺しばらくぶらぶらしてくるから、準備ができたら携帯に頼むわ」
「……間違っても、二回戦なんて考えないことね」
 がらがらと戸を開けて、二人が出ていく。この後は初詣に行くことになっていたのだが……
「…………う〜ん」
 紫杏の顔を見ると、苦しそうにうなされていた。この後のフォローを考えて……
「……どうしよう」
 絶望的な表情になる小波だった。

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