最終更新:ID:WCzJnNoGBw 2011年05月06日(金) 04:05:59履歴
小波が謎の寒気を感じている頃、バックネット裏には一組の男女が座っていた。
それだけなら何の不思議も無い、ただの日常風景だ。
男の方がビデオカメラを回しており、女の方は膝にレポート用紙を広げているが
それを加えても、そこまで珍しい光景とは言えない。
しかし、男の方の風貌を見れば、そうは言えない。
どこの浮浪者だ、という感想を誰もが抱くだろう。
実はこの二人組、コアな高校野球ファンの間で最近噂になっているのだ。
日本中の県大会決勝に出没する、怪しい野球マニアとして。
「近年稀に見る投手戦…だな。甲子園でもここまでの戦いはお目にかかれなかった」
「近年て。何言ってるんだか。旅ガラスの風来坊さんが、甲子園中継なんてじっくり見た事あるの?
…というか、実際に見て来たみたいな言い方だけど」
「いやいや、ただの言葉のあやだよ」
「ふーん怪しいなぁ。でも確かに凄い試合だよね、アタシは野球の事なんてそんなに詳しくないけどさ
やってる子達の迫力とか真剣さで、凄いってのは分かるよ」
「子達って。年齢は殆ど変わらないだろうに」
「言われてみればそうだね。アタシももう18かぁ…華の女子高生ってヤツだネ♪
やーい風来坊さんの犯罪者ー♪」
「…それを言うなら、この9年の間ずっと俺は犯罪者という事にならないか?」
「むしろ刑がどんどん軽くなっていってる訳だね。ちぃっ後二年もすれば警察に突き出せなくなる!」
「おいおい…。まぁ二年も待つ必要は無いだろうけどな。むしろ二年待ち過ぎた位だ」
「へ?どういう事?」
「女性の結婚が可能になるのは16歳から、だろ?
そろそろ一旦旅を終えて、連れが出来たあの街に腰を落ち着けるのも悪くないさ」
「…………………………………………」
「ど、どうした。何か黒い威圧感を感じるが…」
「……どうしてそう言う大事な事を、こんな場所でムードもへったくれもなく軽く言うかなぁ………」ゴゴゴゴゴ
「ス、スマン。どうもそういうのは疎くて…」
「嘘つき。この女ったらし」
「ぐっ…」
「…はぁ。でも自分にも呆れたよ。
こんなテキトーなプロポーズでも、怒りより嬉しさの方が勝っちゃうんだからさ」
「ははは。ま、とりあえず今は試合に集中しようじゃないか。
カンタ君への手土産に、少しでも多くのデータを集めなくちゃな」
「集中出来なくしたのは誰だと………。
ハァ、まぁ野球バカの風来坊さんに言っても無駄だよね。最初にこの計画を聞いた時は本気で道を分けようかと…」
「良いアイディアだと思うんだけどなぁ。順調に勝ち進めてるようだし、無駄にはならないさ」
「アタシもそう願ってますよーっと。で、風来坊さんの目から見るとどうなの?」
「そうだな。まぁどの選手も面白いんだが、特筆するなら開拓の投手と混黒の捕手だろうな。
あの二人だけ纏っている雰囲気が桁違いだ」
「雰囲気ねぇ。またそんなレポートにし難い事言って…」
「この試合の分水嶺は、恐らくあの二人の対決になるだろうな。それによって流れが動くだろう。
開拓が勝つにはエースが四番を抑える事、混黒が勝つには四番がエースを打ち砕く事…だ」
「えっと、今迄のその二人の対決は第一打席がセンターフライ、二打席目がセンターライナーだっけ」
「あぁ。二打席目はあと少しミートポイントがズレてれば、入ってた当たりだったな。
まぁそれを投手が許さなかった、という感じだったが。
意地が目に見える様な勝負だったな。
あの速球を、振り遅れながらも強烈に弾き返す四番の意地。当てられながらも決してスタンドには届かせないエースの意地。
くぅ〜痺れるな」
「だからもっと技術的な事を言ってよ…何目を輝かして少年の様な顔してんのさ!」
「あ、あぁ悪かったつい興奮して、えーとだな…」
そう言って謎の風来坊は、相方の女性に両校選手の特徴を解説し始める
しかし謎の風来坊は一つだけ言わなかった事があった。
それは、特筆すべき雰囲気を感じる人間が、もう一人居るという事。
(しかしこれは…。無駄な不安を与えたく無いから黙っておくが
混黒高校のベンチから感じるこれは…あの二人とは毛色が大きく異なっている。
この長旅で何度か遭遇した、人外のバケモノ達に近い質のオーラ。
キケン近付くなと、俺の感覚が警鐘を鳴らしている。そんなのが何故、高校野球の大会に…?)
およそ常人とは言えない、この謎の風来坊だからこそ感じる事の出来た『将来性』
そう遠く無い未来に、彼はこの時の感覚を再び、もっと強く味わう事になる。
しかしそれは、また別のお話。
この二人組いったい何者であったかは、その時に明かされる事となろう。
第六章に続く
それだけなら何の不思議も無い、ただの日常風景だ。
男の方がビデオカメラを回しており、女の方は膝にレポート用紙を広げているが
それを加えても、そこまで珍しい光景とは言えない。
しかし、男の方の風貌を見れば、そうは言えない。
どこの浮浪者だ、という感想を誰もが抱くだろう。
実はこの二人組、コアな高校野球ファンの間で最近噂になっているのだ。
日本中の県大会決勝に出没する、怪しい野球マニアとして。
「近年稀に見る投手戦…だな。甲子園でもここまでの戦いはお目にかかれなかった」
「近年て。何言ってるんだか。旅ガラスの風来坊さんが、甲子園中継なんてじっくり見た事あるの?
…というか、実際に見て来たみたいな言い方だけど」
「いやいや、ただの言葉のあやだよ」
「ふーん怪しいなぁ。でも確かに凄い試合だよね、アタシは野球の事なんてそんなに詳しくないけどさ
やってる子達の迫力とか真剣さで、凄いってのは分かるよ」
「子達って。年齢は殆ど変わらないだろうに」
「言われてみればそうだね。アタシももう18かぁ…華の女子高生ってヤツだネ♪
やーい風来坊さんの犯罪者ー♪」
「…それを言うなら、この9年の間ずっと俺は犯罪者という事にならないか?」
「むしろ刑がどんどん軽くなっていってる訳だね。ちぃっ後二年もすれば警察に突き出せなくなる!」
「おいおい…。まぁ二年も待つ必要は無いだろうけどな。むしろ二年待ち過ぎた位だ」
「へ?どういう事?」
「女性の結婚が可能になるのは16歳から、だろ?
そろそろ一旦旅を終えて、連れが出来たあの街に腰を落ち着けるのも悪くないさ」
「…………………………………………」
「ど、どうした。何か黒い威圧感を感じるが…」
「……どうしてそう言う大事な事を、こんな場所でムードもへったくれもなく軽く言うかなぁ………」ゴゴゴゴゴ
「ス、スマン。どうもそういうのは疎くて…」
「嘘つき。この女ったらし」
「ぐっ…」
「…はぁ。でも自分にも呆れたよ。
こんなテキトーなプロポーズでも、怒りより嬉しさの方が勝っちゃうんだからさ」
「ははは。ま、とりあえず今は試合に集中しようじゃないか。
カンタ君への手土産に、少しでも多くのデータを集めなくちゃな」
「集中出来なくしたのは誰だと………。
ハァ、まぁ野球バカの風来坊さんに言っても無駄だよね。最初にこの計画を聞いた時は本気で道を分けようかと…」
「良いアイディアだと思うんだけどなぁ。順調に勝ち進めてるようだし、無駄にはならないさ」
「アタシもそう願ってますよーっと。で、風来坊さんの目から見るとどうなの?」
「そうだな。まぁどの選手も面白いんだが、特筆するなら開拓の投手と混黒の捕手だろうな。
あの二人だけ纏っている雰囲気が桁違いだ」
「雰囲気ねぇ。またそんなレポートにし難い事言って…」
「この試合の分水嶺は、恐らくあの二人の対決になるだろうな。それによって流れが動くだろう。
開拓が勝つにはエースが四番を抑える事、混黒が勝つには四番がエースを打ち砕く事…だ」
「えっと、今迄のその二人の対決は第一打席がセンターフライ、二打席目がセンターライナーだっけ」
「あぁ。二打席目はあと少しミートポイントがズレてれば、入ってた当たりだったな。
まぁそれを投手が許さなかった、という感じだったが。
意地が目に見える様な勝負だったな。
あの速球を、振り遅れながらも強烈に弾き返す四番の意地。当てられながらも決してスタンドには届かせないエースの意地。
くぅ〜痺れるな」
「だからもっと技術的な事を言ってよ…何目を輝かして少年の様な顔してんのさ!」
「あ、あぁ悪かったつい興奮して、えーとだな…」
そう言って謎の風来坊は、相方の女性に両校選手の特徴を解説し始める
しかし謎の風来坊は一つだけ言わなかった事があった。
それは、特筆すべき雰囲気を感じる人間が、もう一人居るという事。
(しかしこれは…。無駄な不安を与えたく無いから黙っておくが
混黒高校のベンチから感じるこれは…あの二人とは毛色が大きく異なっている。
この長旅で何度か遭遇した、人外のバケモノ達に近い質のオーラ。
キケン近付くなと、俺の感覚が警鐘を鳴らしている。そんなのが何故、高校野球の大会に…?)
およそ常人とは言えない、この謎の風来坊だからこそ感じる事の出来た『将来性』
そう遠く無い未来に、彼はこの時の感覚を再び、もっと強く味わう事になる。
しかしそれは、また別のお話。
この二人組いったい何者であったかは、その時に明かされる事となろう。
第六章に続く
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