[99]水死体 ◆VbCFpoV.fE <sage> 2007/01/20(土) 09:50:28 ID:p8WP5WxH
[100]水死体 ◆VbCFpoV.fE <sage> 2007/01/20(土) 09:51:11 ID:p8WP5WxH
[101]水死体 ◆VbCFpoV.fE <sage> 2007/01/20(土) 09:51:46 ID:p8WP5WxH
[102]この1レスはグロ表現です<sage> 2007/01/20(土) 09:52:40 ID:p8WP5WxH
[103]水死体 ◆VbCFpoV.fE <sage> 2007/01/20(土) 09:53:15 ID:p8WP5WxH

3人目の被害者である月村すずか。
彼女は中でも最も酷い有様だったため、家族以外は現在面会謝絶とされていた。


「退屈だなぁ・・・」
一人部屋が左右にズラリと並ぶ、個室の病棟。
その中の一室。
月村すずかはボタン一つで自動的に上半身を起こすことのできる高価なベッドの上で退屈そうに呟いた。
うららかな昼下がり。
やることもないので、ふと窓の外に目をやる。
すぐ側にある木の枝には、図鑑などでたまに見かけるような小鳥が
くちばし一つで器用にも身体のあちらこちらをつつき回し、毛繕いにいそしんでいた。
そんな姿を何とはなしに眺めながら、
「・・・・・身体、洗いたいなぁ」
ポツリとまた漏らした。

少しだけ開いた窓から風が吹き込む。
優しい風に髪を撫でられ、サラリと流されて顔にかかった。
ちょっぴりくすぐったくて邪魔になるので、掻き上げる。
掻き上げようとする。
掻き上げるために腕を動かそうとする。
だけど上手くいかなかった。
右手も左手も痺れたように麻痺していて、指一本動かせない。
肩から先の感覚が、長時間正座を続けて痺れた足のように鈍いのだ。
動かない右手に首を向ける。
ベッドに寝かされ、布団が首もとまで掛けられた状態なので、そこから先を見ることはできない。
足も同じだった。
腿から先が腕と同じように痺れるような、血流が止まり神経が圧迫されているような感じで上手く動かせない。
「どうしちゃったんだろう、わたしの身体」
不安になり、染みのない真っ白な天井を見上げながら一人ごちる。
どうやら、すずかは気付いていないようだった。
布団の下にあるはずの自分の身体のラインが、かなり不自然だということに。
彼女の寝かされているベッド。
それを上から見下ろす。
両手と両足。
肩から先と腿から先。
有るはずの物が、有るべき場所に無かった。
手足が、まるで巨大な肉切り包丁か何かで切断されたかのように、そこから先が失われていたのだ。
ダルマ、とはよく言ったものである。
これではなにがあっても、文字通り手も足も出すことができない。
以前、看護婦がそばにいるとき、すずかは足がなんとなく痒くなったような気がしたので
掻いてもらおうと頼んだことがあった。
優しく、仕事熱心そうな看護婦だった。
彼女は言われた場所を掻こうとしてベッドに横たわった少女の下半身を見る。
少しおかしかった。
本来、足があるはずの部分の膨らみが、途中で消えてなくなっていたのだ。
我が目を疑い、固まる看護婦。
お腹も掻いてもらおうと思った。
こちらは痒い気がする、ではなく掛け値なしにちょっぴり痛いようなムズ痒さがわだかまっているのだ。
何か恐ろしい物を見たような顔つきになっていた看護婦が、止まっていた思考を元に戻し
気を取り直してすずかの腹を掻こうと掛け布団をめくる。
パジャマの上からではどうかと思い、さらにそれもめくり上げた。
すると目に飛び込んできたのは、歪(いびつ)に引きつったお腹の皮だった。
腹部にある3つの傷痕。
それは手術痕だった。
助け出された後に精密検査を受けた結果、彼女の臓器はいくつかがなくなっていた。
おそらくは臓器売買にでも使われたのだろう。
若くて新鮮な臓器は、さぞや高値で買われていったに違いない。
生きるのに支障はないとはいえ縫合はおざなりで、発見された当初は患部周辺の皮膚が壊死し始めていて
聞く所によると蛆まで沸いていたという。
「あの・・・とても痒いんです」
辛そうにするすずか。
看護婦の顔から血の気が失われる。
知らずのうちに手が口元を押さえる。
痒いところを掻く。
たったそれだけのこと。
なのに結局、看護婦は欠損した少女の望みを満たしてやることができなかった。


自らの手足が無くなっているしまっていることに気付かないすずか。
実のところを言うと、彼女は少々記憶があやふやになっていた。
学校帰りになのはやアリサと共に拐かされてから助け出されるまで。
その辛い思い出が、切り取られたかのようにゴッソリとなくなっていたのだ。
人間、あまりに恐ろしい目などに遭うと、心のバランスを保つために
脳細胞が思い出すことを嫌がることがあるという。
だけども、四肢と一緒に記憶が持って行かれたのは、彼女にとっては不幸中の幸いだったのかもしれない。
辛かったこと、苦しかったことの全てが、身体には大きすぎる傷痕が残ってしまったけれども
心の方には残らずにすんだのだから。

だが最近、すずかはよく悪夢に魘(うな)される。
表層の記憶には残ってはいない。
しかし脳の奥深く、深層の部分にはまだ抉れて神経がはみ出してしまう程の爪痕がくっきりと残されていて
そのおそらく一生拭うことのできないであろう心の傷跡が、夢という形で思い出されているのだろう。
夜中に自分の悲鳴で目を覚ますことはもしばしばあった。
「ぅ・・っ・・・っ・・ひぎぃっ!? 嫌あああああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁああぁ――――――――――っっっ!!!」
限界まで見開かれた目。
自分の上げた悲鳴の凄さで、悪夢から解放される。
目を覚ます。
「はぁ・・っ、はぁ・・・っ、・・・はぁ、っ、はぁっ、・・・・・っ!」
全身、汗びっしょり。
不規則で切れ切れの呼吸。
早鐘のような鼓動が、血流を通して耳朶まで伝わってくる。
また、同じ夢だ。
幾度となく繰り返される悪夢。
何なんだろう、この夢は・・・
夢というものは、実際に見聞きしたり経験したことを脳が整理するために投影されるものだと
以前何かの本で読んだことがある。
だけど、こんなの知らない。
覚えてない。
ただの夢と言えば、それまでなのだろう。
しかしその悪夢は、決まって同じシーンの繰り返しだった。

狭くて薄暗い部屋。
複数の男達。
延びてくる沢山の腕。
あっという間に床に引きずり倒され、押さえつけられる。
必死に藻掻く。
逃げようとする。
だけど押さえつけてくる腕はたくさんで、物凄い力で。
子供ではどうにもならなくて。
衣服が破かれる。
スカートが縦に裂け、ブラウスのボタンが乱暴に弾け飛ぶ。
丸裸に剥かれて足を広げられる。
目の前に突き出される、醜悪な肉の塊。
男達の股の間から生え出るそれは、鼻を突くような異臭を放っており
ぶよぶよとした太い血管が、皮膚の下を這いずり回るミミズのようにも見える。
何だかよくわからないソレが自分のおしっこの穴のあるところに押し当てられ・・
身体が裂かれた。
あとはもう、悲鳴一色。
痛くて、痛くて、苦しくて。
気持ち悪くて。
だけど泣いても叫んでも許してもらえず、延々と同じことが繰り返される。
訳のわからないB級ホラーが、延々と頭の中の銀幕に投影され続けるのだ。
何度も何度も何度も見た映画なので、内容もよく覚えている。
この物語の結末。
それは13日の金曜日のホッケーマスクを被った怪人物が愛用していそうな森林伐採用のチェーンソが
甲高い金属的な悲鳴を上げながら振り下ろされるのである。
ほら、また。
幾度も幾度も繰り返し蹂躙され、動かなくなった少女に
容赦なく自動回転する鉄の刃が唸りを上げて落ちてくる。
皮膚に当たる。
おがくずみたいに皮が飛ぶ。
汁が飛ぶ。
紅いものが飛ぶ。
血が飛沫く。
さらに感情のない電動ノコギリが食い込む。
潰れたマグロの刺身みたいなものが、床に飛び散る。
壁に飛び散る。
へばり付いたものが垂れ落ちる。
しばらくするとチェーンソの進みが遅くなる。
音が変わる。
高速回転する刃から伝わる感触が変わる。
硬い手応え。
たぶん骨。
かまわずそのまま押し込む。
ガリガリと硬めの軽石を削るような感触が腕に伝わる。
細い神経の束が一瞬で掻き千切られる。
どんどん削る。
また感触が変わる。
骨を貫通して肉に戻る。
あとちょっと。
最後は技術家庭の時間に、糸ノコで木片を切り落とすような感じ。
瞬間的に手応えがなくなり刃が空回りして、腕が落ちて転がった。

それがこの映画のエンディング。
主人公の少女は、自分の身体が解体されゆく様を、痛みを感じることさえも忘れてしまったかのように
ただ呆然と見ているのだ。
呆然と見ていたのだが・・・
次第に少女の意識がハッキリしてくる。
痛みと恐怖と混乱がハンダゴテで無理矢理くっつけられる。
その神経節が、ようやく脳へと繋がった。
そして、悲鳴を上げながらすずかの意識が、悪夢からの解放を求めて飛び起きるのだ。

だけどこれは、ただの夢。
怖いだけのただの夢なのだ。
覚えてはいないが、おおかたずっと昔に怖い映画でも見て、今それが夢という形で思い出されているのだろう。
すずかは、そう思うことにした。
跳ね回っていた心臓がようやく落ち着きを取り戻す。
全身の冷や汗が気持ち悪かったけど、自分ではどうしようもなかった。
「なのはちゃんとアリサちゃん、来てくれないかなぁ」
何もできないすずか。
暇を持て余し、また一人つぶやく。
うららかな昼下がり。
やることもないので、ふと窓の外に目をやる。
すぐ側にある木の枝には、今日は小鳥は止まっていなかった。
普段だと、暇になるとメールをすぐに打ち始めるのだが、生憎とここは病院。
ケータイは使用禁止である。
それに今のすずかは、打ちたくても打つことができない。
今どころか、もう永久にメールを打つことなんてできはしないのだが、それは本人の与り知らないことである。
「・・・・遊びに行きたいなぁ」
退院したら何をしようか。
どこへ行こうか。
暇を持て余したすずかは、そんなことを考える。
何か美味しいものを食べに行きたい。
病院の食事は量が限られているし、点滴もしてはいるが食べた気がしないから。
そうだ、3人で中華街の一日食べ歩きをしよう。
少し歩くことになるが、何か食べるものを持ち帰りで買って、
港の見える丘公園まで足を伸ばしてみるのもいいかもしれない。
あそこは景色が良いから大好きだった。
帰りは山下公園から水上バスに乗って、海鳴臨海パークへ。
3人で楽しくおしゃべりをしながらだから、きっとあっと言う間だ。
元気になったら、退院したら。
すずかはそんな思いに胸を膨らませる。
首を左に向ける。
花瓶の横の棚の上。
そこには姉である忍たちがお見舞いにと持ってきてくれた果物が置かれていた。
「・・・・・早く来ないと食べちゃうよ」
果物バスケットの中にある、網目模様の高そうなメロン。
以前アリサが好きだと言っていたので、食べずに置いてある。
彼女達が来てくれたときに一緒に食べようと思い、わざわざ取ってあるのだ。
「また、みんなで遊びに行きたいなぁ。 なのはちゃんとアリサちゃん、今頃なにしてるのかな」
すずかは2人の親友の顔を思い浮かべ、楽しそうに微笑むのだった。

すずか編 エンド

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著者:水死体

このページへのコメント

……唖然…呆然…なんだかろくでもない想像をしてしまいそうだ……

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Posted by 時代遅れの追随者 2009年09月14日(月) 23:16:38 返信

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