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[134] Nameless sage 2007/09/05(水) 21:41:11 ID:sa7u7J8n

 転送装置が淡い光りを放つと同時、ユーノがその地にたどり着いた。
 最初に沸いたのは決して小さくない驚き。まるで見慣れた風景までもを数日前に置き
去りにしたかのように、ここクラナガンに人というものの姿は無かった。

「みんな避難したんだ。もういるのは局員くらいだよ」

 不意の掠れた声。まるで、何日も泣き叫んでいた事が分かる声で、彼女がユーノに言
葉を投げていた。
 それは、彼女のものとは思えないほど変わっているけれど、間違いなく彼女の声。

「久しぶりフェイト……って言ってもまだ少ししか経ってないんだけどね」

 フェイトは動かない。ボロボロの、艶を失った髪が風に舞い、隠れていた表情を露に
する。
 血色の悪い、一目で睡眠をとっていな事が分かる目の下の隈と、頬骨の浮いた頬。そ
して、乾いてカサカサになっている顔を潤す溢れた涙。
 ユーノが目を見開いた事でようやく気づいたのか、フェイトが恥ずかしそうに笑い目
尻を拭った。

「ごめん、誰かに名前呼んでもらうの久しぶりで……話しかけてもらうの、あっ、く、
ひ、久しぶりで……と、止まらない……ごめん……」

 言ったそばから涙が溢れては、地面に零れ消えていく。
 なのはが起動六課を去り、ユーノが彼女を守るかのように無限書庫をやめてもう数日
が経っている。それは、フェイトにとって孤独の数日間。
 親友は目を逸らし続け、事務的な言葉しか投げてはくれない。守らなければいけない
子供たちも、片方は同じように目を逸らし、もう一人は軽蔑とともに断絶した。他の仲
間も全て同じ。誰一人、フェイトに歩み寄るものはいなかった。
 そんな中の、久しぶりに自分を見てくれた存在。それは、最愛の人を奪ったユーノで
あっても嬉しさは薄れない。ただ子供のように泣きじゃくり、顔を覆い続けていた。
 だから、なのだろうか。
 それとも、それが無くても求めているのだろうか。

 ――――なのはに、会わせてください……お願いします……。

 そんな、助けを求めるような呟きが聞こえたのは昨日の事。それを思い出し、ユーノ
は目を細めて彼女を見る。

「スカリエッティがっ、地上本部をねっ、襲撃して……ひっく……起動六課もっ……同
じで……ヴィヴィオが連れて行かれて……ギンガもっ、で……」

 泣きながら今の現状をフェイトが語りだした。それは、知って欲しいからではなく、
ただ彼女に会いたいが為。
 なのはの保護児童がさらわれた。それが意味するのは、古代ベルカの破壊兵器の復
活。事の重大さに声を失い、ユーノはただフェイトの言葉を聞くだけだった。

「戦わなくていいからっ、会ってくれるだけで……声だけで……写真だけでもいいか
らっ、なのはにっ、なのはに会わせてくださいっ……会わせてくれたら何でもしますか
らぁっ!!」
「ふぇ、いと……」

 なのはだけじゃない。フェイトも、限界をとっくに超えている。
 フェイトの懇願にユーノが小さく頷いて、それにフェイトが表情を一変させて喜ん
だ。

「ほ、ほんとっ? なのはに会わせてくれるっ? あっ、どうしよっ、どうしよっ、い
つ!? いつなのはに会えるの!? 何もしなくても会わせてくれるのっ!?」


 子供のようにはしゃいで、飛び跳ねて、壊れていた。本当になのはに会えるならどん
な事でもしそうなほど、その紅い瞳は曇っている。
 泣きたいのを堪えてユーノが俯き、言葉を紡ぐ。
 きっと残酷で、けれどもユーノの心からの言葉。

「まだ、分からないけど……いつか、会わせたいんだ……なのはを君に……」

 あと少し。
 もう少し。
 みんなが彼女を支えてくれるから。


魔法少女リリカルなのはStrikerS
―Nameless―
(12)


「う、わ……」

 エイミィ・ハラオウンは困り果てていた。
 突然帰省し、一緒に住むと言い放ったユーノにも眉を下げるものだったし、高町夫
妻に頼まれ、元駐屯所兼自宅の一室を貸し与えたのも同じ。それはいいにしても、ハラ
オウン家の使う一室から一番離れた所というのが心苦しい。
 そして、突然出かけると家を飛び出したユーノに頼まれ、”少し元気が無い”なのは
の様子を見に来てそれが限界に達していた。

「ゆーの、くん……」

 可愛らしい寝言と共になのはが寝返りをうち、それに合わせて剥き出しの乳房がぷる
ん、と揺れた。同時に布団がベッドから滑り落ち、一子纏わぬ裸体が現れる。
 昨日は激しかったのだろうか。まるでそのまま寝てしまった様にではなく、本当にそ
のまま寝てしまったらしいなのはは、太ももを白いもので汚し尽くしたあられもない
姿。
 それには頭痛さえ起きそうで、こんな所で高町夫妻に頼まれた理由を理解して、

「少し元気が無いじゃないよ。こんな状態のなのはちゃん放っておいて……」

 それ以上に痛い胸を押さえた。
 起こさぬよう慎重に、震える指でなのはの手首に触れる。
 白くて細い手首に走る痛々しい傷跡。そして、ユーノから聞いたその経緯。その話も
信じたくなかったが、それにフェイトが深く関わっているとアルフから聞いた時は、怒
りや悲しみなどより先に、申し訳なさで死にたくなった。
 何も言えず、触れていた指を戻し溜息を吐く。何をするでもなく、なのはの寝顔を見
続け、不意に耳に届いたインターフォンに腰をあげた。

「美由紀ちゃん、休憩?」
「うん、なのはは……どうかな?」

 翠屋の休憩を使い、ケーキを持参で現れた美由紀がエイミィに促され眉を下げた。

「ごめんね、エイミィの所にまで迷惑掛けて……ほんと、情けないなぁ……」

 一日で限界は訪れた。虚ろな目をユーノにしか向けないなのはにも、その夜響いた嬌
声にも。愛し合うものではなく、ただ貪るだけのそれは、もう二度と見たくない変わっ
てしまった妹の姿を見せ付けられたようだった。

「いいのいいの。うちのクロノ君はそういうの全然だから羨ましいなぁ……美由紀ちゃ
んも早く彼氏見つけないと……ヤバイよ?」


エイミィ自身、見え見えとから元気だとしか思えない言葉だった。それに、美由紀も
空元気で笑顔を作り、ケーキの箱を掲げた。

「材料の残りで作ったんだ。エイミィ食べるでしょ?」
「うん食べる。なのはちゃんは……起こしちゃ駄目なんだよね」
「あんな親不孝な子は放っておけばいいの……ったく、いきなり帰ってきて……」

 限界までケーキを頬張り、力いっぱいに租借していた美由紀が、横目でなのはを見
る。
 何があったかはエイミィから聞いたし、それについてはもう終わった事。だったら、
これからをどうするかを考えるしかない。
 ケーキは見る見るうちに二人の胃に納まっていく。最後の一口をエイミィが食べ終わ
り、外を見れば日が沈み夜が訪れる事を告げていた。
 それと同時に、なのはは目を覚ます。
 ユーノと二人きりの夜を迎えるために、再びユーノを貪る為に。

「ユーノ君……?」

 ただ、今日はいつも近くにいて、自分を見てくれている筈のユーノの姿が見つからな
い。寝室を出て、リビングに行けばそこにいるのはユーノ以外の人。

「な、なのは起きちゃったの? ごめんねっお姉ちゃん達すぐ帰るから……えっと、お
風呂入りなさい? 入らないとユーノ君に嫌われちゃうよ?」

 テーブルに置いた皿もそのままに、自分がいない時はなのはに会わない事、と苦い表
情で言った言葉を守り二人が慌てて靴を履いた。
 ただ、その時にはもう遅すぎた。

「きらわ、れる……ユーノ君に? なんで……?」

 そんな言葉は信じない。何故ならユーノが自分の事を好きなのは揺るがない事。だか
ら、そんな事が起きるのはスバルの時のように自分からユーノを取る誰かが現れたとき
だけ。
 だから、なのはは目の前の二人が取ったのだと理解した。

「なんで? なんでなんで? なんで? なんでユーノ君の私から持っていくの?」

 首を傾げたままなのはが二人に歩み寄る。エイミィは玄関の扉に背を預け、美由紀は
エイミィとなのはの間に立って。

「な、なのはちゃんへんな事言わないでよっ! ほら私クロノ君と結婚してるんだ
よ!? それに美由紀ちゃんだってなのはちゃんのお姉さんでしょ?」
「あぁ、そうやって言い訳するんだ……」

 やっぱり何処に行っても変わらない。ユーノに頼まれ仕方なく帰っても変わらない。
 何処にいても、ユーノを奪う奴らは現れる。
 なら、全部消さなければいけない。
 冷え切った頭では、そんな事しか浮かんでは来なかった。ユーノ以外は、もう邪魔な
ものとしか映らない。
 いっその事、この世界全ての人を殺して、ユーノと二人きりになろうかと真剣に考
え、何故もっと早く気づかなかったのかと自嘲した。

「二人がいけないんだよ? ユーノ君取るから」

 とりあえず、最初に二人を消す事になのはが決めた。
 指先に魔力を込め、放てばそれで終わり。簡単なこと。
 ただ、すぐにでもできるそれをしなかったのは、彼がいたから。

「なのはっ、何やってるんだよっ!?」


タイミングよく帰ってきたユーノが、扉を開け怒声を上げた。扉に背を預けていたエ
イミィを支え美由紀共々追い出し、なのはを睨み二人きりになる。

「ユーノ君、おかえり……何処行ってたのかな? 言ったよね、私とずっと一緒にいる
って……一緒にご飯食べて、エッチして、一緒にお風呂はいって一緒に寝るの……約束
だよね……なんで破るの?」
「それは、ごめん……なのはを一人にしたかった訳じゃないんだ」

 なのはに、そんな不安を感じて欲しくなくて海鳴に引っ越して。家族やクロノと結ば
れたエイミィなら大丈夫だろうと楽観して。
 その浅はかさに唇を噛んで、なのはを抱きしめた。

「なのは、僕はずっと君といるから。絶対心は離れないから」
「身体もだよ? ユーノ君は全部私のものなんだよ?」
「うん、頑張るから。頑張るから……許して欲しいな」

 抱きしめて、耳元で囁いてキスをする。それが、一番なのはが落ち着く方法だと知っ
たから。
 それを教えてくれた桃子に感謝しきれない心の中で礼を言って、なのはを抱きしめ続
けた。

「ユーノ君が誰とも会わないならいいよ? 私以外と話しちゃ駄目。私以外を見ちゃ駄
目……」
「それは駄目だよ。僕ね、なのはにプレゼントがあるんだ。あげたい物があるんだよ……分かる?」

 ユーノの言葉を頭の中で反芻し、なのはが小さく頷いた。ユーノが自分のために何か
をしたくて、それが他の人と会わないと駄目なら少しだけ。そんな思いの頷きだった。
 じゃあ、と最初にする事はなのはの身体を洗う事。二人で一緒にバスルームに入り、
互いの身体を泡立てる。

「な、なのは触らないでっ、今は駄目だって!」
「ユーノ君のビクンビクンってしてる……」

 執拗にユーノの肉棒を擦り上げ、咥えようとするなのはをどうにか制してバスルーム
から這い出たユーノが、なのはの服を探して凍りついた。
 今更だけれど忘れていたから。

「なのは、ずっと僕のワイシャツだったんだよね?」
「うん、ユーノ君に包まれてるみたいだから」

 海鳴に来てから、なのはがワイシャツ以外のものを見につけた記憶が無い。それどこ
ろか、下着を着けていたかすら危うかった。
 なのはの服は全てミッドチルダで燃えている。ここに来た時は、管理局の制服。だが
それも、必要ないと捨てている。
 困り果て、頭を抱えたユーノに首を傾げ、なのはが後ろから抱きしめた。耳を舐め、
肩を震わせたユーノにクスリ、と笑う。

「私ユーノ君以外何も要らないから。困らなくてもいいよ。ユーノ君が誰かに会うなん
て嫌だし……会ったらその人殺したくなっちゃうから」

 囁かれた言葉に、再びゾクリ、と身体を震わせた。満面の笑みでそう言うなのはは、
嘘など吐いていない。本当に、そう思っているから。
 頭ではいけない事と理解していても、ユーノに比べればなんて事ない些細な事。そ
う、なのはの価値観が訴えた。
 どうしよう、とユーノが考え続ける。最悪、ワイシャツ一枚とパンティがあれば高町
家はすぐそこだ。途中誰かに会うことなど殆ど無い。
 それでいこう、と立ち上がりなのはの手を取った。
 それと同時、


「あんた何物騒なこと言ってるのよ」
「そうだよ? あんまりそう言う事言うとユーノ君に怒られるよ。なのはちゃん」

 頭を抱えて溜息を吐くアリサとその隣、普段の笑顔を何倍増しにもしたすずがが
両手に抱えた荷物を下ろし、互いの疲労を労った。
 その声になのはが微かに震え、表情を消していく。

「邪魔しに来たの?」

 爆弾はが、再び火をつけその導火線を短くしていく。エイミィと美由紀で短くなった
導火線は、既に火薬の一歩手前。
 ユーノが慌ててなのはを抑えようとする中、それは強引に手でもみ消される。
 バチン、そんな顔をしかめる音が部屋に響いた。

「なのはちゃん、本当にそんな事言うと怒るよ?」

 頬を赤く腫らしたなのはを見下ろし、同じように赤くなった手の平を擦りながら、す
ずかが言った。
 もう、その怒りは限界を超えている。怒りで荒くなった息をすずかが強引に落ち着か
せ、なのはを睨んでいた。
 それは、ユーノにとって意外なものだったけれど、アリサにとってはやっぱりやって
しまったと頭を抱える行動だ。
 ここ一番、本気で怒って行動するのは、いつもアリサではなくすずかの方。怒りを全
く隠さないすずかが、なのはを様子を伺う事すらなく踵を返す。

「服、桃子さんに言われて持ってきたから。それ着てとっとと来る事。ユーノ、あんた
もっとしっかりしなさいよ」

 それで用件は済んだのか、何かに急ぐかのように背を向けたアリサから視線を外し、
ユーノがなのはの頬に触れた。
 なのはは反応を返さない。ただ、ユーノの手に自分の手を重ね、痛みの引かない頬を
擦る。
 こんな痛み大したことは無い。
 それでも、痛いと感じたのは何故なのか。
 そう、首を傾げたなのはにユーノは笑顔でなのはを促した。

「なのは、アリサ達が服持って着てくれたんだって。着てみようよ」
「……うん。ユーノ君が見たいなら」

 爆発さえしなければ大丈夫。爆発する前ならみんなで抑えられる。ひとりでは情けな
いくらいに不安だけど、今のでその不安も和らいでいた。
 ユーノがなのはから離れ、包みを開く。なのはは、黙ってそれを見続けた。

「ん……僕のもある。一着ずつみたいだね」

 包みだけでも分かるのは、それが普通の服ではないということ。。

「嘘……はは、ははは……」

 想像以上のものに、ユーノの瞳がそれを映して見開かれ、口からは乾いた笑い。
 ――――これはいい。ホントは、ただみんなの前で渡すだけのままごとだった筈なの
に。

「なのは、こっちおいで。着せてあげるから。お化粧は……お母さんに頼もうか」

 これなら、きっとなのはも喜んでくれる。


* * *


パン、と気持ちのいい音と共に火薬の匂いと色とりどりの紙テープが、なのはとユーノに降り注いでいく。
 視界に映る横断幕には、本日のパーティの主賓の名前が二つ。

「うわ……」

 呆然とようやくそれだけを呟いたユーノに、既に頬を紅く染めている士郎が一歩
進みグラスを掲げた。

「まだ言ってなかったからね。お帰り……なのは、ユーノ君」

 それに合わせ、高町家の面々、アリサとすずか、ハラオウン家、更には月村家のファ
リンとノエルまでもが、一斉に二人を迎えいれた。
 ユーノはただ驚くばかり、なのはは不安そうにユーノの手を握ったまま。

「ねぇなのは。凄いでしょ? みんなで作ったのよ」

 背の高いケーキが、皆に囲まれ存在感を露にしている。大人数が入るには狭すぎるリ
ビングは、それでもこれ以上無いくらいに立派な式場だった。

「凄いねなのは。ほら、みんなが作ったんだって」
「……うん、綺麗だね」

 多分、みんながいなければ泣いていた。いや、みんながいたからこそ泣きそうになっ
ているのか。
 なのはが紡いだ些細な言葉。ありふれた、感情の言葉で表した何気ない言葉。
 だから、何気ない言葉であったから嬉しかった。呪いと、自分へ向ける感情以外で久
しぶりになのはの口から出た言葉だったから。
 皆に促され、なのはの手を引いてそこへ進む。なのはの右手には白い包帯。そして、
それ以上に純白な衣装を身にまとって。

「大変だったのよ? 急な話ですぐ取り寄せられるものしか駄目だったんだから」

 それでも、必用なものは揃っている。桃子とノエル達が用意した料理は、それ以上の
ものなど無いと断言できるもの。
 部屋を彩る装飾の全てはケーキと料理に費やされていたけれど、それでも十分過ぎる
ほどだ。

「あ、ありがとう、ございます……僕のせいで……みんなに迷惑掛けて……」

 高町家に帰ってきたとき、士郎達は何を思っていたのか。その話を聞いて、アリサ達
はどうだったのか。
 堪えきれない涙がユーノの頬を伝った。それを、なのはが拭い微笑んだ。

「これ……私とユーノ君の……?」
「う、うん……そうだよ」

 なのはの無表情が、笑ってくれた気がした。声が少し、暖かかった気がした。

「私……ユーノ君のお嫁さん?」

 微かに、なのはの瞳が狂気以外を宿していた。
 
「そうだよ。これは……僕達の結婚式だ」

 二人を飾るのは、親友二人が取り寄せたウエディングドレスとタキシード。目の前に
あるのは、士郎と美由紀が手がけた小さなウエディングケーキ。
 そして、唇を重ねたのは永遠に隣にいると誓い合った二人。


「やっと……なのはにこれを渡せる」
「あ……それ」

 全てが壊れたあの日、なのはの目に焼きついて離れなかったもの。
 スバルが掲げ、目を輝かせて見つめていたもの。
 なのはに別れを告げて、それでもユーノが女々しく持ち続けていたもの。

「何で……?」
「僕がなのはの為に買ったんだ。なのは以外になんか渡さない」

 ユーノが握り続けた婚約指輪。それが、ゆっくりとなのはの薬指にはめられた。

「なのは、僕はずっと君の傍にいる。ずっと君を守り続ける。ずっと君の名前を呼び続
ける……だから――――」

 ――――もう一度、今度は二人で一緒に頑張ろう。もう二度と、失敗しないように。

「……」

 それは、なのはには何でもない言葉。
 そんな当たり前のことを今更言われても、何も感じない。
 変わらずユーノと自分の中を邪魔する者がいるなら、笑顔でその全てを消し去れる。
 失敗が何だかも分からない。ただ、臆病だった自分がいなくなっただけ。それ以外、
何も変わらない。
 ――――けれど。
 何も変わらない、だからこそ。

「う、ん……」

 溢れた涙が止まらなかった。

「う、ん……うん……」

 沸き起こる理解できない感情に戸惑っていた。

「私……頑張る……」

 訳もわからず紡いだ言葉に、確かに感情が宿っていた。

「私、ユーノ君のお嫁さん……だから」

 そして、忘れてしまった気持ちを思い出していた。

「ユーノ君が……ずっとずっと、好きだったから……」

 形は変わってしまったけれど。
 彼への想いは、この気持ちから始まる筈だったんだ。

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目次:魔法少女リリカルなのはStrikerS―Nameless―
著者:246

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