794 名前:“マリアージュ”の戦争 [sage] 投稿日:2010/01/20(水) 00:52:42 ID:n5Stv/0M
795 名前:“マリアージュ”の戦争 [sage] 投稿日:2010/01/20(水) 00:53:16 ID:n5Stv/0M
796 名前:“マリアージュ”の戦争 [sage] 投稿日:2010/01/20(水) 00:53:51 ID:n5Stv/0M
797 名前:“マリアージュ”の戦争 [sage] 投稿日:2010/01/20(水) 00:54:22 ID:n5Stv/0M
798 名前:“マリアージュ”の戦争 [sage] 投稿日:2010/01/20(水) 00:54:55 ID:n5Stv/0M
799 名前:“マリアージュ”の戦争 [sage] 投稿日:2010/01/20(水) 00:55:32 ID:n5Stv/0M
800 名前:“マリアージュ”の戦争 [sage] 投稿日:2010/01/20(水) 00:56:03 ID:n5Stv/0M
801 名前:“マリアージュ”の戦争 [sage] 投稿日:2010/01/20(水) 00:56:41 ID:n5Stv/0M
802 名前:“マリアージュ”の戦争 [sage] 投稿日:2010/01/20(水) 00:57:19 ID:n5Stv/0M
803 名前:“マリアージュ”の戦争 [sage] 投稿日:2010/01/20(水) 00:57:50 ID:n5Stv/0M
804 名前:“マリアージュ”の戦争 [sage] 投稿日:2010/01/20(水) 00:58:22 ID:n5Stv/0M
805 名前:“マリアージュ”の戦争 [sage] 投稿日:2010/01/20(水) 00:58:53 ID:n5Stv/0M
806 名前:“マリアージュ”の戦争 [sage] 投稿日:2010/01/20(水) 00:59:26 ID:n5Stv/0M
807 名前:“マリアージュ”の戦争 [sage] 投稿日:2010/01/20(水) 00:59:56 ID:n5Stv/0M

時に新暦78年。ミッドチルダと、時空管理局に激震を見舞った「JS事件」から早3年・・・
三年間という時間の流れは、首都:クラナガンの街並みから先の事件の傷跡を完全に癒し、人々は概ね平和に過ごしていた

そんなミッド地上を舞台に、再び事件が起こる

地方世界:フォルスやヴァイゼンで、複数の殺人とテロに関わったとされる指定犯罪者『マリアージュ』が、クラナガンに降り立ったのだ
『マリアージュ』を追っていた、時空管理局本局執務官:ティアナ・ランスターは、執務官補:ルネッサ・マグナスと共にミッドチルダに向かい、捜査を開始する
彼女は陸士108部隊所属のギンガ・ナカジマ捜査官や、訓練生時代からのコンビであった特別救助隊隊員、スバル・ナカジマ防災士長、
機動六課で共に訓練に励んだエリオ・モンディアル、キャロ・ル・ルシエらと共に、彼女は事件を、『マリアージュ』を追い掛けた

その最中で、『マリアージュ』が古代ベルカ・戦乱期中期頃に創り出された屍兵器で有ることを知り、
『マリアージュ』が探し求めているのだという『イクスヴェリア』が、『マリアージュ』のコアユニットであることが、ジェイル・スカリエッティ等の証言で判明する

『マリアージュ』が何故『イクスヴェリア』を求めるのか。子が母を求める本能のようなものなのか
それを知る術は持たないが、遂に『マリアージュ』は『イクスヴェリア』の元へと至ってしまう

舞台は、クラナガン港湾区画の洋上。サマーシーズンにはレジャースポットとして注目を集めるマリンガーデン直下の海底遺跡
炎に包まれた施設の中に、人命救助の為飛び込んでいったスバル・ナカジマ防災士長は『イクスヴェリア』と邂逅し、そして ―――



○“マリアージュ”の戦争



「あ、あの、放してください。防災士長」
「駄目です。こんな火事場のド真ん中に要救助者を置いていくような特救隊員は何処にもいません!」

ジャケットを黒く煤けさせたスバルは、腕の中で身動ぎする少女・・・イクスヴェリアの身体をぎゅっと抱え直した
詳しい身の上は知らないが、自らを古代兵器と自称したこの女の子は、どうやらティアナが追っていた一連の事件のキーパーソンであるらしい
――― この大火災を引き起こし、多くの人命を奪った張本人:マリアージュも、この少女を狙っている

(・・・戦闘になったら、マズイかな・・・)

“戦うこと”が職分ではないが、ちらりとそんな事を考えてしまう。イクスヴェリアを見つけた際、天井の崩落に巻き込まれてしまい傷を負っているのだ
ここに来るまでにマリアージュに遭遇はしていないが、エリオからの通信によると、彼は少なくとも17体のマリアージュと遭遇したらしい
恐らくは、相当数がここに居るのだろう。探し求めていたイクスヴェリアが居るのだから・・・

(ジャケットとフィールドはまだ保つ。マッハキャリバーも大丈夫。最優先すべきは脱出!なら走れるんだから何も問題無い!)

内部温度はかなり上昇しているが、まだこの辺りの区画には本格的に火の手が回っていない
酸欠の危険も考えられるので時間は無限ではないが、避難路さえ崩れ落ちていなければすぐに脱出できるだろう

ふと、スバルは腕の中で小さく震えている少女を見下ろして、ある事に気付いた

「あの・・・イクス?」
「は、はい」
「えと、私は元々頑丈だし、バリアジャケットは耐火・耐熱に特化してるから平気なんだけど・・・イクスは、どうして・・・?」

イクスは、何のフィールドも展開していない。着ている服もただの服だ
それなのに、彼女の白い肌は汗の一粒も浮かんでいないし、火傷など僅かも見受けられない

「私は・・・“煉獄の愛児”は、普通の炎で傷を負うことなど、ありません・・・」
「えっと、そう、なんだ・・・まぁ、それはそれで安心できたか『Buddy!』

マッハキャリバーの呼び掛けに、スバルは急制動を掛ける・・・視線の先、避難路は完全に瓦礫で埋まっていた

「あちゃー・・・これは、ちょっと掘り起こすは危ないかなぁ?」

そんな暢気な感想を呟いていると、いきなり、イクスはハッと顔を上げて、スバルの腕から抜け出そうと藻掻き始めた

「・・・!?・・・防災士長、私を置いて、この場を離れてください!」
「え?わっ、な、何いきなり!?」
「あの子達が、すぐそこまで来ています!」

腕の中で暴れるイクスの身体をそっと地面に下ろしながら、スバルは拳を握り締めて後ろを振り返った
揺らぐ陽炎の向こう・・・紅蓮の照り返しを身に受ける、大柄の女性の姿が8つ・・・
タイトなボディスーツに身を包み、大きなバイザーで顔を完全に隠したその姿は、ここ数日の間に何度も映像で見た。『マリアージュ』だ

「・・・イクス、アレを止めることはできないですか?」
「ごめんなさい・・・マリアージュに命令を下すことができるのは操手だけです。私は、あの子達を生み出すだけの存在ですから・・・」
「じゃあ、どうしてあいつらはイクスを・・・?」
「それも、わかりません。恐らくは、操手の命令だと思いますが・・・」

とにかく、現状を打破するのにイクスは役に立たない・・・という事らしい
前方からはマリアージュ。背中には瓦礫で埋まった避難路。脇道は無し。逃げる事も隠れることも不可能 ――― ならば、

「・・・イクス。ちょっと隠れてて貰えますか?」
「え?防災士長、何を・・・?」

バシッ、と拳と掌を叩き合わせて、スバルは静かに、だがはっきりと、イクスヴェリアに告げた

「心配しないで。倒して進むだけです!」
「そんな、無茶です!アレは、マリアージュは決して愚鈍な人形では無いんですよ!?それに、貴方は怪我もしてるのに・・・!」
「知ってますよ。アレが危険だって事くらい。でもね、イクスを一刻も早く保護する為に、戦闘が避けられないから・・・だから、ここで、隠れててくださいね。
マッハキャリバー、お願い」
『Shell Protection』

通路の隅、瓦礫の隙間に身を隠すようにイクスの身体を押し込んで、スバルは防壁を施した
マリアージュがイクスを傷付けるとは思えないが、万が一という事もある。このプロテクションならば、小規模な崩落にも耐えられるはずだ

「防災士長!」
「大丈夫。とにかくここを動かないで。すぐ片付けてくるから、心配しないでね」

涙顔のイクスを励ますように、スバルはにっこり笑ってみせるとマッハキャリバーの爪先を背後の敵手に向けた
振り返った先には、8体のマリアージュ・・・その後ろからも複数の動体反応がある

「はぁっ・・・マッハキャリバー。最初からフルドライブ。全開で行くよ。1秒でも早く、脱出する為に!」
『All Right!』
「ギア・エクセリオン!!でぇりゃああぁぁぁっ!!!」

リボルバーナックルで鎧われた右拳を固め、光の翼を足元に宿したスバルが突貫する
バイザー越しに見える、マリアージュの無表情な瞳がスバルの姿を捉え、彼女らの腕が形を崩した
肘から先が溶け崩れて黒い粘液と化し、次の瞬間には、両腕は細身の刃へと変わっている

だが、スバルは毫も怯まず、一番手近なマリアージュに肉迫した
カウンター気味に突き出されてきた右腕の刃を身を捻って避け、左腕の刃はナックルの一撃で叩き折る
砕け散った刃が黒い粘液に戻り、その飛沫は地面に落ちるよりも早く燃え上がった

「ッ!?リボルバー・キャノン!!」

跳ね掛かってきた燃焼液の飛沫に皮膚が焼かれる・・・その痛みは歯を食い縛って噛み殺し、スバルはマリアージュの胸に渾身の一撃を叩き込んだ
受けたダメージが機能を維持できる限界を越えていたのか。スバルの拳は豊かな胸元に抉り込み、そして、背中まで抜ける風穴を開けた
見事な肢体は黒い粘液と化して溶け崩れ、リボルバーナックルにはべったりと黒い燃焼液が ―――

「ぅわっ!?わわっ、熱っ!?」

一瞬、ナックルが炎に包まれたが、スピナーをフル回転させて燃焼液を吹き飛ばす
燃焼液の飛沫が掛からないように注意しつつ、スバルは右腕をブンブン振りながら距離を取った

少しだけ表情に焦りが滲む。こいつら、マリアージュは格闘一本槍な自分にとってはかなり厄介な敵だ
行動不能になると自爆するというのは、ティアナからも聞いていたが・・・

「だからって、囲まれたらシュートだけじゃ捌ききれないし、フィールドを再調整してくる時間なんて無いんだから・・・!!」

突き込まれてきた槍・・・マリアージュの右腕を変化させた、タールを固めたような漆黒の槍をシールドでいなしながら、
ナックル前面をバリアで覆い、反撃の拳打を顔面にぶち込む
美しい能面の様な顔を隠すバイザーを叩き割り、炸裂した一撃でマリアージュの頭部は弾け、その体が溶け崩れる

『Protection』

燃焼液の飛沫を防壁で防ぎながら、スバルは素早く距離を取る。2体潰したが、後続が合流してきたらしい。相対するは12体のマリアージュ
恐らくはまだ増えるであろう敵手の姿を睨みながら、スバルは身構え、考える

こいつらは、決して強敵ではない。一撃で行動不能にできるのだから、容易い相手と言っても良い
だが、一体潰す度に、こちらもダメージを負わされる・・・肌を灼く火傷の痛みと、撒き散らされた燃焼液が燃え上がる炎に小さく眉を顰め、彼女はぎゅっと歯を食い縛る
今はまだ良い。だが、徐々に手足を焼かれ、この場が炎に包まれて尚、自分はこの状況を打破することができるのだろうか?

「・・・弱気になって、なってられない!行くよ相棒!」

背中で守る小さな少女の為、そんな言葉で己を鼓舞し、スバルは躍り掛かってきたマリアージュを迎え撃つ
絶対に負けない ――― そんな強い決意を、翠瞳に漲らせて





―――― 一方その頃、スバルとは別行動を取っていたエリオとキャロは・・・

「これで、ラストぉっ!!」

裂帛の気合と共に閃いたストラーダの一撃は最後のマリアージュは胴を貫き、その肢体は燃え上がりながら溶け崩れてゆく

「・・・はぁっ、助かりました。ノーヴェさん、ウェンディさん」

振り返り、ぺこりと頭を下げた少年の前には、衣服と顔を煤けさせた二人の少女の姿がある

「なぁに、お安いご用ッスよ。しかしエリオも中々やるもんッスね。ちょっと見直したッスよ」
「あ、ありがとうございます・・・でも、まだまだですよ」
「ったり前ぇだ。このアタシらがお前みたいなチビに負けるかよ」

火事場の真っ直中だというのに、いつものお気楽な笑みを崩さないウェンディに、ぶすっ面で嘯くノーヴェ
二人共、スバルと同じ身の上・・・戦闘機人という特殊な存在である。現在は管理局の、「N2R」という部隊名の特務小隊に籍を置いている
平たく言えば、決まった任務を持たない何でも屋稼業で、今回は災害特例という名目でチームの責任者である108部隊隊長:ゲンヤ・ナカジマが出動命令を出していた
突入役だったノーヴェとウェンディは、マリアージュと交戦中だったエリオと合流し、現在に至っているようだ

「エリオ君ゴメン、お待たせ!」

そう呼び掛けられて振り返ると、白いバリアジャケットを自分達と同じく煤けさせた少女、キャロが通路を駆けてくる所だった
必死に走って来たのだろう。肩で息をしている相棒を安心させるようにエリオは小さく微笑みながら、彼女に声を掛けた

「こっちは大丈夫。もう全部片付いたよ」
「はぁ、はぁっ・・・良かったぁ・・・あ、ノーヴェさん。ウェンディさん!お久しぶりです!」
「よ、よぉ」
「うぃーッス!久しぶりッスね、キャロ!」

思わぬ再会に、華やいだ声を上げてしまうキャロとウェンディだが、水を差すように通信ウィンドウが開かれた
そこに映っているのは、精悍な火傷顔を厳しく引き締めた男・・・防災司令:ヴォルツ・スターンである

『おい、赤毛コンビ!悪ぃが同窓会なら後にしてくれ!要救助者を抱えた別働隊がマリアージュに攻撃されてる!援護を頼む!』
「っと、そりゃ大ピンチッスね」
「おぅ、急ぐぞ!」
「僕も同行します!」
『スマン。えっと、お前さんは確かナカジマが連れてた・・・まぁ、名前なんざ今は良いか。頼むぞ!赤毛3号!』

赤毛3号→エリオの事らしい
当人を除く一同は思わず、揃って噴き出してしまい、彼の少年はがっくり肩を落としていたそうな

「・・・おい、いつまでも落ち込んでるなよ。とっとと行くぞ」
「キャロは、後方に控えてて欲しいッスよ。ディエチの砲撃で中央フロアは完全消火が完了してるから、フリードを呼んで待ってて欲しいッス。
エリオは、ホレ。後ろに乗ってくッス」
「了解です。ウェンディさん!」

話は纏まった。4人はそれぞれ顔を見合わせて頷き合う
敵はまだ居る。助けを求めている者もまだ居る ――― 炎の奥を睨み据え、各々、頬を叩いたり拳と掌を打ち合わせたりして己を鼓舞し、

「それじゃ、赤毛トリオ出陣ッス!!」

そんなウェンディの言葉に、ライディングボードの上で彼女の腰にしがみついていたエリオは、思わず気合が抜けてしまうのであった





「ぜぇ・・・はぁっ・・・ッ!!」

荒い息を吐き出しながら、スバルは横合いから繰り出されてきた刀の穂先を身を躱す
身体を翻し、腕を振り回すような裏拳で21体目のマリアージュを沈め、彼女は眼前に残る最後の一体を睨み付けた

自身は既に満身創痍。フィールドは猛火に包まれている
マッハキャリバーは何とか耐えてくれているが、打撃の度に燃焼液で焼かれたリボルバーナックルの方がイカれそうだ

「はぁ、はぁっ・・・それでも、ラスト一体!行くよ相棒!」
『All Right!』

煤けたナックルを握り締め、スバルは歯を食い縛って最後のマリアージュに肉迫する
相対する敵手は右腕を槍状に変形させ、僅かに姿勢を低く、身構えて見せた

「りゃぁっ!!」

繰り出された拳打は、槍の長柄で受けられる ――― 己の一撃が受け流された事にスバルは息を呑み、後方で戦闘を見守っていたイクスが悲鳴の様な声を上げた

「防災士長、気を付けてください。その子、軍団長です!他のマリアージュよりもずっと強い!」
「ッ!?だからって・・・!」

ここに来て、強敵が現れるとは・・・内心で毒突きながらも反撃の刺突を防ぎ、後退する
猛火の照り返しを受ける中で、不釣り合いなほど涼しげな表情の軍団長マリアージュが、艶やかな唇を開いた

『イクスを、渡してください』

外見に似合わぬ、合成音声の様に抑揚の無い不気味な声音は口調こそ丁寧だが、その内容は従うわけにはいかない類のものだ

「渡せるわけ、無いでしょぉっ!!」

スバルの即答に、バイザーの奥、能面じみた顔が僅かに歪む。不愉快、とでも言いたげに
鎌首を持ち上げた蛇の様な素早さで、槍の穂先が襲い掛かる。一撃、二撃、三撃
スバルは初撃を躱し、追撃をプロテクションで受け流し、三撃目を避け損なった

「ああアァァァァぁっ!!!」

右足の腿にざっくりと穂先を突き立てられ、同時に傷口を灼き潰される痛みに悲鳴が上がる
だが、スバルは力を失った足腰が崩れ落ちるよりも早く、槍の長柄を左手で掴み取り、激痛を噛み殺しながらナックルの拳を握り締めた

「っ、掴まえたっ・・・!!リボルバー・キャノ、ッ!!?

必殺の一撃を繰り出そうとしていたスバルの体勢が、がくっと崩れる・・・左手で掴んでいた槍の長柄が、溶け崩れていた。マリアージュが自壊させたのだ
何とか足腰を踏ん張ろうとするが、傷口に流し込まれた燃焼液の熱さが全身を貫き、意識が飛びそうになる

(倒れるなッ・・・!!)

朦朧とする意識の中で叫ぶが、右足から走る激痛は耐え難く、彼女の身体から力を奪う・・・しかし、彼女の身体は倒れなかった
頽れる直前、マリアージュの右腕が彼女の首を鷲掴みにして火傷だらけになった身体を吊り上げ、非力な抵抗を鎮めるように胸元を左手で殴り付ける

『左腕武装化、形態:対甲炸裂榴弾砲』

殴られた衝撃よりもその呟きにスバルは顔色を失い、同時にマリアージュの左腕が変形する
拳骨が楽に納まりそうなくらいの、大口径の砲口へと

「が、がふっ・・・く、実弾、兵器・・・ッ!」

言葉面から推察される攻撃は、対装甲の砲撃・・・防壁の展開は、このままでは間に合わない
ボロ切れ同然に成り果てたバリアジャケットの防御力では凌ぎ切れまい。幾ら何でもそれほど貧弱な攻撃とは思えない
何とか逃れようと、スバルは首を締め上げるマリアージュの右手に掴み掛かるが、逆に首をきつく締められて掠れた悲鳴を上げさせられた

(駄目だ・・・もう・・・)

息が詰まる苦しさに足をバタつかせる程度の足掻きさえできなくなり、そんな諦めが思考をよぎる ―――



「やめなさい!マリアージュ!!」



そんな悲鳴の様な、涙声の叫びが思い掛けず近くから聞こえたことに、スバルは霞む視界を巡らせる
マリアージュもまた、声の主をじっと見詰めている

制止の言葉を叫んだのは勿論イクスで、彼女はスバルが展開した保護バリアから出てきていた

「私は・・・ここに居る。もうあなた達の目的は達せられました」

涙目のまま彼女が言った言葉がどういう意味なのか、しばし計りかねたスバルだが、その言葉の真意に、ハッと息を呑んだ

「マリアージュ、あなたの目標は私なのでしょう?操手の命令は、私の身柄を確保することだったのでしょう?」
「・・・イク、ス・・・駄目、逃げて・・・」

切れ切れの呟きは届かなかったのか、イクスは小さな身体を震えさせたまま、しかし堂々と言い放つ

「さぁ、今すぐ防災士長を放して、私を連れて行きなさい!」

その悲痛な叫びが響き渡り、マリアージュはじっと、瞬きの要らない双眸でイクスを見詰め・・・やがて、武装化を解除した
しかし、スバルの身体を吊り上げた右腕はまだそのままだ

『承りました。我等が王よ』
「だ、だったら、早くその人を『しかし、此度の戦で多くの僚機が失われました。補充の必要があります』

初めて、マリアージュの貌に表情が宿る
にやりと唇を歪めた、笑い面の様な美貌にスバルの背筋は粟立った

「補、充・・?・・一体、何を・・・?」
「だ、駄目!やめなさい!マリアージュ!!」

何のつもりかは知らないが、すぐにイクスを連れて逃げるつもりはないらしい
それだけは理解できたスバルは、喘鳴の様な吐息に言葉を乗せて、イクスに呼び掛ける

「イクス・・・早く、逃げて!」
「駄目です!このままじゃ、防災士長が・・・!!」
「・・・私は、平気、だからっ・・・仲間を、呼んできて・・・!・・・きっと、近くに、来て・・・くれてる・・・!!」

首を締め上げられながらも、満身創痍のスバルはイクスに向かって力強く頷いて見せ、幼い王は逡巡を振り切るように駆け出した
だが、マリアージュは奇妙な笑みを浮かべたまま、イクスの逃走をそのまま見送っている

『このフロアは、既に外部と隔絶している。我等が王を助けることができる者は、此処には居ない』
「そんなの、信じるか・・・私の、仲間を、甘く見るんじゃ、ないわよ・・・!」

顔は笑っている癖に、口調は少しも変わらないマリアージュの言葉に、スバルは無理矢理唇を歪めて笑って見せた
通路のアチコチが崩落している所為で、まともなルートは残っていない・・・それは、彼女も承知している

だが、それが何だというのだ

上階には、ティアナが居る。エリオとキャロが居る。ノーヴェとウェンディも居る。きっと、誰かがここに辿り着ける
それまで、自分が時間を稼いでいれば良い・・・既に戦う力が欠片も残っていない自分にできる、これが最後の戦いだ

そんな、悲痛な決意を固めるスバルを片手で吊り上げたまま、マリアージュは顔を隠すバイザーを押し上げて、素顔を向けた
妖艶な肢体に相応しい、妖しい魅力に満ちた素顔だが、今は笑い面のような奇怪な笑みが張り付いている
三日月のように吊り上がった唇を割って、彼女は己の手中で藻掻く“獲物”に告げる

『失われた僚機の分、償って貰おう』
「何を、ッ!きゃぁっ!!」

場違いな高い悲鳴が、スバルの唇から迸った
マリアージュの左手が、ボロボロになったバリアジャケットのショートパンツに挿し入れられ、傷だらけの肢体から下着ごと剥ぎ取ったからだ

『・・・ふふ・・・ふふふふ・・・』

寒気がするほど艶めかしい微笑を湛えたまま、ゆっくりとマリアージュの指先が素肌に触れ・・・

「や、やめ、っ!?触るなぁぁっ!!」

火事場の直中だというのに、びっしりと鳥肌が浮いた身体をくねらせて、スバルは何とか素肌を蹂躙するマリアージュの指先から逃れようと必死に藻掻く
だが、満身創痍の身体でできるか弱い抵抗では、ナメクジが這い回るような五指の愛撫は止まるはずもない

「ひっ、い、いやっ!!やだぁっ!!」

クスクスと嗤うマリアージュの指先に股間を撫で上げられた瞬間、身体に走った快感にスバルは小さく身体を跳ねさせた
暴力に対しては抵抗する覚悟を決めていたスバルだが、まさか、この状況で自分がこんな責め苦にあうとは想像もしていなかった・・・当たり前か
頭の中は、焦りや恐怖、屈辱が渦巻き、とにかくこの場から逃れたいという一心で彼女は懸命に抵抗する。無駄な、抵抗を

「は、放せっ、離れろぉ!!」

涙が混じった、悲痛な叫びを放つが、マリアージュの嗤笑は止まらず、蹂躙も止まらない
か弱い抵抗を封じるように、そっと、しかしきつく、マリアージュはスバルの身体を抱き締めた
さぞ男好きがするであろう肉感的な肢体に抱き締められる感触は、決して居心地が悪いものでは無いだろうが、スバルはその奇妙な冷たさに喉の奥で悲鳴を上げた
バラバラになれば燃え上がる燃焼液で構成された身体の癖に、マリアージュの体温(?)は屍肉の様に冷たい

『ふふふ・・・はぁっ・・・ん、む・・・』
「ん、んぐぅ、ん、んんーっ!」

唇を、奪われた
黒いルージュを引いたようなドス黒い唇に吸い付かれて、スバルは屈辱に涙を流し、艶然と微笑むマリアージュを涙目で睨み付けようとして、

「はぐぁ、あおぉぉぉ!!!?」

喉の奥で絶叫を上げさせられた
黒い唇から口移しで流し込まれるマリアージュの唾液が、燃焼液となってスバルの口内を灼いたからだ

「ぐうぅっ!!ひぐ、ぃっ!」

液状化した火焔を無理矢理嚥下させられて無事で済む筈が無い・・・普通の人間ならば

『ふふ、なるほど・・・たっぷりと苦しんだ後に、僚機とするのも一興・・・』

嗜虐性が滴るような呟きに、スバルは己の身が戦闘機人という、常人よりも遙かに頑丈な存在であることを数年振りに呪った
しかし、「僚機とする」とはどういう意味なのか?マリアージュの「僚機」とは、やはりマリアージュそのものの事なのだろう
イクスが軍団長と称した目前のマリアージュと、今までに交戦していたマリアージュは全く別のものなのだろうか・・・?
焼け爛れた舌を突き出したまま、精根尽き果てたような荒い息を吐くスバルは、呆然とそんな事を考える

「ぅあっ!熱っ、いゃぁ!!」

柔らかな唇が肌に押し当てられる度に、焼きごてを押し付けられた様な痛みが走る
頬に、頤に、喉元に、胸元に、乳房に、刻印の様に傷跡が付けられてゆく

「ひッ、や、やだ、やめて・・・!!」

思わず、スバルは震える声音で懇願した
マリアージュが半ば以上ボロ切れと成り果てていたバリアジャケットのシャツを破り取り、丸い乳房の頂を露出させたからだ
恐怖と羞恥に塗れたその顔を、マリアージュはじっと見詰め・・・唇と同様に真っ黒い舌で唇を濡らすと、三日月の様に口角を吊り上げ、
赤ん坊の様に貪欲に、スバルの乳首にむしゃぶり付いた

「ぅああぁぁぁっ!!ひ、き、あぁぁっ!!!!」

ジュルジュルと音を立てて乳首をしゃぶられる・・・スバルは半狂乱でマリアージュの身体をもぎ放そうとするが、その抱擁は小揺るぎもしない
マリアージュは天上の美味を貪るように、桜色の乳房を丹念に、執拗に、燃える唾液で嘗め回し、吸い立てる
翠瞳を皿のように見開いて、身体を仰け反らせて絶叫を上げるスバルの姿をうっとりと見つめながら、その狂態に酔い痴れるように、マリアージュの愛撫は激しさを増してゆく

『ふふっ、うふふふふ・・・』
「あぁぁぁあああぁぁっ!!うぁぁっ、あ、くあぁぁぁっ!!!!」

焦臭い煙が薄く漂う頃になって、ようやくマリアージュは唇を離した
口の端に涎の泡を付けたまま、目を見開いて身体を痙攣させるスバルを、まるで慈しむように地面に横たえてやる
碌に抵抗が無いのは、きっと自分が何をされているのか。半ば理解できていないのだろう
だが、膝に手を付いて両脚を押し広げられると、霞が掛かっていた瞳が焦点を取り戻した

「ひ・・・ゃ、やだぁ・・・」

それでも、口から出てきた言葉はあまりに小さく、むずがる幼児よりのものよりもその抵抗はか弱かった
艶然とした微笑みはそのまま、マリアージュはスバルの両手を掴み取り、そのまま組み伏せる格好になる

『ふ、あっ・・・ん、んっ・・・』

不意に、マリアージュは恍惚とした熱い溜息を唇から漏らし、小さく肢体を痙攣させた
我慢していた小用を足している時のように、ぷるぷると身体を小さく震わせ、そしてスバルの股間に何かが触れた

曝け出されている秘部をつつくように、熱い、ナニかが

そんな馬鹿な事が。と思う一方で、こいつの身の上を考えれば何があってもおかしくない。と思ってしまう
スバルは嫌な予感を感じながらも、恐る恐る視線を向け・・・息を呑んだ

「な、何で・・・」

たくし上げられたドレスの裾の奥、飾り気など欠片も無いショーツをずり下ろすように、ドス黒い巨大な男性器がマリアージュの股間に聳えていたからだ
声も無く震えるスバルに、マリアージュはうっとりと、熱っぽい口調で囁きかける

『さぁ、一つになりましょう。我が軍勢の僚機として、我等が王に忠誠を・・・』
「や、やだっ、助けて・・・ぃやぁっ・・・ぁ、いゃぁああああっっ!!」





「確認されていた要救助者は、全て発見。救出完了・・・って事で良いッスか?管制」
『こちら防災司令部。施設内の人命検索は全て完了。引き続き放火犯・・・マリアージュ対策をお願いします』
「赤毛2号、了解ッス」

火事場のど真ん中だというのに、お気楽極楽な調子のウェンディである
そんな妹とは対照的に、ノーヴェは苛立ちを隠そうともしていなかった

「くそっ、何でスバルの奴が見つからねぇんだ!!」
「す、すみません・・・」

怒声を放つノーヴェに、キャロは思わず謝ってしまった
先程から探査魔法で地階をさらってはいるのだが、海底遺跡そのものが放つ微細な魔力反応の所為でスバルの反応を捉えることができないのだ
腰を据えた広域探査なら見つけられるかも知れないが、それでも時間が必要になる

それに、悪い報せが一つある
先程まで、頻繁に出たり消えたりしていたスバルの反応が、15分程前から消えっぱなしになっているのだ

「エリオ!キャロ!それに、ノーヴェとウェンディも!」

不意に投げ掛けられた声に振り返る。通路の向こうから駆けてきたのは、ティアナ・ランスター執務官である
見慣れた顔にウェンディは手を振って返事を返した

「お、ティアナ!状況は聞いてるッスか?」
「大体ね。こっちも、事件の首謀者を逮捕してきたわ」
「おぉっ、流石は敏腕執務官殿!やるッスねぇ!」
「・・・まぁ、ね」

事件の首謀者を見事に逮捕。普通に考えれば手柄であろうに、ティアナの笑みに翳りが混じっていることを、エリオとキャロは見逃さなかった

「それより、こっちの状況。スバルの消息が掴めないって、本当?」
「少し前までは反応が出ていたんですが、今はそれも・・・」

襲い来る不安に、煤けた顔を青ざめさせるエリオである
キャロも、不安と自責の念に駆られてか、火事場の直中というのに小さな身体を瘧のように震わせていた

「何とか地下に降りるルートがありゃ良いんだけどよ。通路はどこも通れねえし」
「無鉄砲な破壊突破で二次災害なんて冗談じゃ無いッスからねぇ」

ぐぅ、と喉の奥で唸ってしまうノーヴェである
通路の瓦礫なんざぶっ飛ばせば良いだろ。と主張したところ、ヴォルツ司令とディエチとウェンディに声を揃えて却下されたという経緯があったりする
ティアナは一度、施設内の地図を眺め、数秒の沈思の後に、うん。と己に呟いた

「・・・わかった。地下へのルートは何とかするわ」
「何とか、って・・・まぁ、ティアナの事ッスからホントに何とかしちゃうんだろうけど・・・」

思わずぼやいてしまうウェンディである
ガンナックルに鎧われた拳と掌を叩き合わせながら、ノーヴェはすぐにでも駆け出しそうな口調で一同を急かした

「そうと決まればとっとと『こちら防災司令部!Fブロックで消火班がマリアージュに襲われています!至急救援を!』

逃げ遅れていた施設職員や、返り討ちにした防災要員の死体を利用したのだろうか
粗方叩き潰した筈と思っていたのだが、想像以上に、マリアージュというのはしぶとい相手らしい
誰よりも早く、口を開いたのはエリオだった

「僕とキャロが向かいます!皆さんは、スバルさんの救出を!キャロ、行こう!」

煤けた頬を凛々しく引き締めて、少年騎士はキャロの手を引いて駆け出そうとしたが、その背中にウェンディが制止の言葉を投げ掛けた

「・・・ちょい待ち。こっちは二人で十分ッスから。ノーヴェも行ってあげて欲しいッスよ」
「んだと!?」

妹の提案に、ノーヴェは柳眉を吊り上げて反論を叩き付けようとするが、赤毛2号は意外に冷静な口調で1号を諭した

「ノーヴェ、冷静に考えるッス。マリアージュは、何か、死体を使って増えるって話じゃないッスか。
救援が遅れたら、それだけ敵が増えて、被害が大きくなるッス」
「・・・でもよ!」
「でも、は聞かないッス。スバルの同僚を死なせるつもりッスか?」

その言葉にノーヴェはぐっと言葉に詰まり、盛大な溜息を吐き出し・・・

「わーったよわーったよわーったよクソッ垂れ!!!!!おら、行くぞ!!エリオ、キャロ!!」
「は、はい!わっ!?」

問答無用の素早さで二人と小脇に抱えるノーヴェである
そして、キャロが悲鳴を上げるほどのスピードで要請があったFブロックに向かっていった
闇の向こうに消えた背中に、はぁ、とウェンディは小さく溜息を吐き出す

「・・・ったく、頼りになんないお姉ちゃんッスよ」

思わず噴き出すティアナであった
にっ、と唇を歪めた、少々意地悪な感じの笑みを浮かべるウェンディを横目に、司令部に通信を繋ぐ
通信ウィンドウに現れたヴォルツ司令に、早口で要請を伝える

「ヴォルツ司令。こちらランスターです。Fブロックの消火班を直ちに後退させてください」
『はぁ?どういう事だ?』
「N2Rの赤毛1号が大暴れすると思いますから、巻き添えを食わないためにも。お願いします」
『おいおい、消火作業の邪魔をしてくれるなよ・・・』

頭を抱えて渋面を作るヴォルツに、通信がもう一つ割り込んできた
N2Rの栗毛ことナカジマ家の3女:ディエチである

『こちらN2R栗毛。ヴォルツ司令、液剤車が到着しましたので、Fブロックの消火は私が担当します』
「・・・わかった。Fブロックの消火班は直ちに後退。鎮圧はN2Rにひとまず預ける」
『預かりました・・・ティアナ、ウェンディ。こっちは大丈夫だから』
「了解。お願いね、ディエチ。エリオとキャロも同行してるから心配要らないとは思うけど、火の手があったら思うように動けない・・・援護してあげて」
『大丈夫。任せて・・・キャロが居るんだったら、敵味方の位置情報を送ってもらうよ。そうすれば、ノーヴェ達に当てないように撃てる』

迫撃砲モードでイノーメスカノンを運用している筈なのだが・・・表情一つ変えず、割ととんでもない台詞をさらっと言ってのけるディエチである
ティアナは、Fブロックに急行中のノーヴェに通信を繋ぎ、

「エリオ、キャロ、ノーヴェ。聞いてたわね。そういう事だから、思いっきり暴れて良いわよ」
『言われなくてもそうするってんだ!!とっととマリアージュ共をぶっ潰してアタシもそっちに向かう!』
『あ、あの、ティアさん。こちら、キャロです!』
「キャロ?どうしたの?」
『さ、さっき、わっ、地下に、生体反応を一つ、キャッチしたんですが、きゃあっ!』
「何処で!?」
『それが、スバルさんの、局員の認識では、無いんです。逃げ遅れた一般の方かも知れません!』

キャロの言葉を、胸中でティアナは否定する
それは恐らく、マリアージュ事件のキーパーソン:イクスヴェリアであろう

『さっきまでは動いてたのに、少し前から止まってて・・・反応も段々弱くなっています。とにかく、座標を送りますから!』
「了解・・・うん、確認した。ありがとキャロ。ウェンディ、こっちも地下に向かうわよ」
「オッケー。じゃ、乗ってくッスよ。ティアナ」
「うん、助かるわ」

ティアナの搭乗を確かめて、ウェンディは不敵な笑みを浮かべて小さく呟く

「ノーヴェじゃ無いッスけど、スバルはアタシ達姉妹の一員ッスからね・・・IS:エリアルレイヴ!!カッ飛んで行くッスよぉ!!」





辺り一面が炎に包まれた、煉獄の様な場所に、悲鳴と、艶やかな嬌声が響いている

「ぅあっ、やぁっ、ぎ、ひあぁっ!」
『ふふっ、ん、はぁっ・・・』

組み伏せられたスバルに、最早為せる術は残っていない
マリアージュが突き立ててくる剛直は身体を引き裂くほどに太く、抵抗要素を捻り潰すように彼女の最奥を抉っていた

「うあっ、あ、あああぁぁぁっ!!!」

下腹を内側から突き破るような衝撃が身体を突き抜ける
スバルは歯を食い縛り、きつく閉ざした眦から涙の粒を零しながらも懸命に痛みに耐える

「ひっ、あっ、ん、く、ぐぅぅっ・・・!!」

耐えていれば、きっと助けが来る筈だから。だから・・・

「うあぁっ!!あっ、がぁ・・っ!!」

破瓜の出血と、防衛本能が溢れさせた愛液が混じり合い、飛沫を上げて飛び散った
まだまだ堅い膣中を埋められる度に、小さな握り拳ほどもある雁首が襞をこそいでゆく度に、名状しがたい感覚が身体を駆け抜ける
勿論、痛いし怖いしおぞましい。快感に繋がる要素など無い筈だ。その筈だ

「ぅあぁぁっ!!」

ズン、と子宮口を小突かれて、スバルは背筋を仰け反らせた
同時に膣もぎゅっと収縮し、僅かな隙間から水鉄砲のように愛液が飛沫を立てた

「くっ、ぅ、うぅぅっ・・・く、そぉっ・・・!!」

呻きながら、涙で濡れた瞳をマリアージュに向けるが、能面じみた麗貌は小揺るぎもしない
相変わらず、吐息だけは妙に熱を帯びている癖に、吊り上がった笑みを浮かべたマリアージュの顔には興奮の色は欠片も見受けられない

自分を痛めつける事が目的なのか?
それとも、嬲る事が目的なのか?
意図が全く掴めないことが、何より怖いし薄気味悪い

確かに痛いし悔しいし、叶うならば殴り飛ばしてイクスを救助したいところではある
だが、こいつ等、マリアージュの目的もイクスである筈なのに、何故、こいつは自分を痛ぶる事に執着しているのだろうか?
それに、僚機にする。という言葉の意味は・・・?

「うあっ!!いやぁっ!!ひっ、激し、っ!?はぁっ、ひぃあぁぁぁぁっ!!!」

不意に抽送が激しくなり、黙考は遮られた
腰が尻肉を打ち据えるほどに深く、内臓が引き抜かれそうな程に早いピストン運動にスバルは背筋を反り返らせ、舌を突き出して絶叫を上げさせられた

「だめっ、もう、許し、ひ、ぎぅぅっ・・・!!からだ、バラバラになっちゃ、うぅぅぅっ!!!」
『・・・・・では、出します』
「出、す・・・?何を・・・ッ!!?」
『我々の“核”を、身体に宿してもらいます』

内側から突き上げられて、歪に膨らむなめらかな下腹を撫でてやりながら、マリアージュは丁寧な口調でスバルに言う

『我々は“屍兵”。命燃え尽きた肉体に、イクスの加護を』

言葉の意味が分からず、涙顔を凍り付かせるスバルに言い聞かせるように、ゆっくりと、染みこませるように呟いた
はだけられた胸の上に奇妙に冷たい掌を載せ、彼女の鼓動を、その命の在処を感じながら、

『生ける屍として、イクスに永遠の忠誠を・・・!』

仮面の様な顔に毒滴る嗤笑を刻み込んで、突き込んだ剛直をスバルの最奥に叩き付けた

「うあぁぁぁぁっ!!!!が、はぁっ、やめ、ぅあぁぁっ!!!」
『・・・ふ、あっ・・・!』

張り詰めていた剛直がビクリと打ち震え、更に一回り大きく膨らんだ
そして、マリアージュの感極まったような嬌声と共に、彼女の剛直から、マリアージュの“核”・・・墨の様にドス黒い精液が迸った

「ぎ、あぅぁぁぁっ!!熱、あついぃっ!!?あうぅっ、は、がぁぁあああ!!!」

身体の芯を灼かれる痛みに、スバルは半狂乱で己の下腹部を掻きむしり、膣中に解き放たれたマグマの様な精液を排出しようと必死に藻掻く
だが、恍惚とした表情を浮かべたまま、身体を小刻みに震わせながらドス黒い精液を放ち続けるマリアージュはビクともせず、足がバタバタと動いただけである

「やめて、やめ、もうあぁぁっ!!ひゃあぁぁあっ!!」

喉が切れる様な絶叫を放ちながら、涙の粒を振り散らすスバルの狂態をうっとりと眺めながら、マリアージュはゆっくりと腕を振り上げた

『右腕武装化。形態:戦刀』

その右腕が、鋭い刃の形を形成する
気を失ったのか、暴れる気力さえ無くなったのか、息絶えた様に動かなくなったスバルの喉元に刃の先端を擬し、屍兵の軍団長は祈りの言葉を呟いた

『・・・貴女の魂に、イクスの加護を』

その呟きと共に、刃の切っ先がスバルの喉を ―――


『ッ!?』


――― 突き破る事はできなかった
飛来した茜色の魔力弾が刀身を撃ち砕き、顔を上げたマリアージュの視界に映ったのは一面の灰色で、

「どりゃああああぁぁぁぁッス!!!!!!」

それが、ウェンディの乗ったライディングボードの底部装甲だと気付く間もなく、丸ごとぶち抜かれた上体が宙に浮き、
組み伏せていたスバルの身体からもぎ放されて、そのまま羽虫のように壁に叩き付けられた
胸から上の全てが叩き潰され、機能を維持できなくなった身体が燃焼液と化して溶け崩れ始める

歪んでゆく視界に映ったのは、自身を叩き潰したボードに乗った少女と、拳銃を構えた陽色の髪の少女。そしてその片手に抱かれたイクスの姿・・・

『・・・イクス・・・イクス・・・我等が、王・・・』

ぐしゃぐしゃに潰れた腕を持ち上げ、掠れるような声を絞り出して、彼女は、マリアージュは、イクスヴェリアに願った

『導いて、ください・・・我等を、新たな、戦場へ・・・ ――― 』

その言葉を最後に、屍兵の軍団長の肢体から炎が溢れ出し、その存在は煉獄の一部と化した・・・

溶け崩れ、炎と化した屍兵の骸をじっと睨んでいたウェンディは、五体全てに炎が回るのを確かめてから振り返った

「ティアナ!スバルは!!?」

ティアナは片腕に抱えていた少女、イクスをそっと地面に下ろし、半死半生のスバルの傍らに跪いて、彼女の身体状況を走査していた
その顔には、一瞬安堵の色が浮かんだものの、すぐに恐怖と焦りが混じり合った顔に変わった

「息はあるけど、バイタルはギリギリ・・・このままじゃ、危険だわ!」
「了解!全速力・超特急で救急に引き渡すッス!!」
「お願い。あと、マリーさんに連絡を取りたいんだけど、ナカジマ三佐が一番早いかしら?」
「そッスね。パパリンに頼むのが一番ッス」

あんまりと言えばあんまりな呼び名に、思わず頭痛を感じるティアナである

「パ・・・とにかく、ウェンディはスバルとこの子を連れて、特救の隊舎に向かって。医療設備もあるし、施設間の転送ポートも使える筈だから!」
「おっけー。落ち着いたら連絡入れるッス!んじゃ、IS:エリアルレイヴ!!」

ウェンディはスバルとイクスをまとめて抱きかかえると、ライディングボードに飛び乗るや、あっという間に飛び去っていった
既に見えなくなった後ろ姿をじっと見送りながら、ティアナは親友の無事を強く願った


「・・・死ぬんじゃないわよ。バカスバル・・・!」





その救出劇から数時間後、マリンガーデン全域の火災は鎮圧され、放火犯:マリアージュも全て駆逐された
フォルス、ヴァイゼンからミッドチルダに伝播してきた一連の、マリアージュ事件の調査はこの後もしばらく続くが、
首謀者であったルネッサ・マグナス執務官補の逮捕によって、事件の全容は一挙に解明されていった・・・

スバルについては、すぐにマリエル技官の治療を受けて無事に意識を取り戻し、一週間の入院を経て現在は自宅療養中
ティアナやエリオ、キャロ。それにナカジマ家一同は揃って胸を撫で下ろしたという

ティアナについては、自分の補佐官が事件の首謀者であった事の責任を問われているらしい
厳しい処分が科せられることは考えにくいけど、お咎め無しでは済まないかも・・・先輩執務官補であるシャリオ・フィニーノの言葉である

イクスヴェリアについては、何も進展が無い
救出時、既に昏倒していたイクスヴェリアは、スバルと同じく直ちに救命処置を受けたのだが、未だに意識が回復していない
マリエル技官の見立てでは、イクスの眠りはただの睡眠では無く、体機能の大部分が抑止された、デバイスの待機状態に近い感じがする。との事である
彼女の態形は人間に酷似している物の、その本質は人型デバイスと呼ぶべきものであるらしい・・・今は、海上隔離施設に移送され、経過の観察が続いている



こうして、マリアージュ事件の首謀者・実行犯が逮捕され、事件そのものは全て解決した



誰もが、そう、思っていた



○続く


前へ
著者:26-111

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