最終更新: nano69_264 2010年08月23日(月) 21:50:33履歴
5 名前:『嬉しいなら、それでいい』 [sage] 投稿日:2010/06/06(日) 23:46:23 ID:asSzEGIQ [2/6]
6 名前:『嬉しいなら、それでいい』 [sage] 投稿日:2010/06/06(日) 23:47:22 ID:asSzEGIQ [3/6]
7 名前:『嬉しいなら、それでいい』 [sage] 投稿日:2010/06/06(日) 23:49:15 ID:asSzEGIQ [4/6]
8 名前:『嬉しいなら、それでいい』 [sage] 投稿日:2010/06/06(日) 23:50:12 ID:asSzEGIQ [5/6]
忘年会。
そう、忘年会。忘年会といえばあの忘年会だ。
皆さんご存知の通りのあれである。飲めや歌えやの大パーティ。
さてさて、忘年会というイベントは第97管理外世界の日本の人間なら誰しもが知っているはずで、そしてそれはこの物語の主人公達も変わりない。
そして、
「それじゃあ、かんぱーい!」
『かんぱーい!』
とある夜の喫茶店でも、それは変わらなかった。
掲げられたグラス同士がぶつかり合い、ガラス同士がぶつかる特有の音と、カランとジュースの中の氷も鳴り響く。
貸し切り状態の店内に居るのは若い少年少女達と、それの保護者達。
その2つのグループは分かれて座っており、子供と大人でそれぞれ会話し、飲食をしていた。
そんな中、子供グループに入らず遠めに眺めながら炭酸飲料を飲む少年が一人。
金髪の髪を肩より少し下ぐらいまで伸ばし、翡翠のような緑の瞳を持つ少年。
ユーノ・スクライア、十三歳。こう見えて時空管理局本局の無限書庫司書長という、かなりの立場の人間である。
そんな彼が何故離れて見守っているのか?理由は簡単。子供グループの男女比がヤバイからである。
なのは、フェイト、はやて、ヴィータ、アリサ、すずか、エイミィなどなど......
今更ながら自分の交友関係に疑問を持つユーノさん。
だが子供グループにも他に男性はいる。
......一人だけだが。
「......飲むか?」
「貰うよ」
差し出されたペットボトルの方にグラスを向ける。
トポトポと、傾けられたペットボトルから出された炭酸飲料がグラスを満たした。
ソレを一回口に付け、ペットボトルの持ち主を見る。
そこにいたのは珍しく私服姿のクロノ・ハラオウンだった。
彼もまた、管理局の執務官という年齢に合わない立場の人間である。
そんな彼とユーノの関係は親友といっていいものだった。
ただし、本人達は断固として認めないが。
二人で壁際に寄りかかりながら立ち、グラスを傾けながら子供グループを見る。
只今グループ内ではエイミィを筆頭にした恋話をしているようだ。
「君もあれに混ざって来たらどうだ?」
「謹んで遠慮するよ。あの中に入って行くぐらいなら君と模擬戦した方がまだまし」
「ふん。確かにな......」
クロノはそう相槌を打ってチラッと大人グループの方を見る。
ユーノも釣られて見てみた。
「でですねー、最近クロノも対に恋愛に興味を持ち始めたみたいで」
「それはそれは......青春ですねぇ」
一番近くのテーブルでリンディが桃子に笑顔で息子(クロノ)のことを嬉しそうに語っていた。
桃子も笑顔で聞いている。
「......あれ、止めなくていいの?」
「止められるものなら、とっくの昔に止めている......」
はぁ、とため息をつきながらクロノは視線を床に落とす。
どんよりとしたオーラを纏った悪友の肩に、ユーノは苦笑しながら手をポンと置いた。
「ソレにしても......変わったな」
あれから暫くして、ずっと立っているのも辛いので空いている席に座ったクロノの第一声がそれだった。
その言葉に首を捻りつつ、ピーナッツを口に放り込む。
「変わったって、何が?」
「色々だよ」
色々、と言われるとユーノも確かに心当たりはある。
あの闇の書事件から約四年。なのは達の学年も中学生になり、立場も大分変わった。
「なのはは教導隊に、フェイトも執務官に、はやても上級キャリア試験に合格。君もエリートコースまっしぐら」
ユーノは皆の状況を呟いてみる。
確かにみんな変わっている。それは時間という物がある以上、当然のことだ。
が、
「まぁ、一番変わってしまったのはお前だろうが」
その悪友のセリフに疑問を覚えた。
今クロノは「変わってしまった」と言った。つまり変わらなくてよかったのに変わってしまったと。そうゆう意味を込めて今の言葉は放たれた。
ユーノはクロノの顔を見て、苦笑しながら口を開く。
「嫉妬かい?僕だっていきなり司書長なんて立場になってビックリなんだから「違う。立場のことじゃない」......?」
ユーノは脳内で更に首を傾げる。
どうやら立場の問題では無いらしい。
だとしたら何なのだろう?クロノが自分に対して変わって欲しく無かったこと......
「人間関係のことだよ」
「へっ?」
ユーノは惚けた。
人間関係と言われても別に変わったことは無い。女性比率が多いのもいつも通りだし、新しく出来た友人なども特には居ない。
「分かんないな。何が変わったっていうの?」
「......自覚無しかこのフェレットもどきは」
「誰がフェレットもどきだ!」
クロノのやれやれといった表情で放たれた言葉にユーノは思いっきりツッコミを入れる。
ユーノは今だにこのネタでからかわれ続けるらしい。
そしてユーノのツッコミに小さく笑った後、クロノは顔を引き締めて言った。
「なのはとのことだよ」
「......」
二人が座っている席に、沈黙が落ちる。
ユーノはクロノに言い返さなかった。
いや、正確には言い返せなかった。
「やはり少しは自覚があったようだな。最近少しずつなのはを避けてるらしいじゃないか」
「......」
今度も言い返せない。何故なら事実だから。
薄々とだが、自覚はしていた。
少しずつ、ほんの少しずつなのはから距離を取っていることを。
「......やはり、あの事件か?」
「......きっかけは、ね」
そう、きっかけはあの二年前の事件。
なのはが撃墜され、生と死の淵を彷徨ったあの事件。
あの事件で、ユーノは考えた。考えてしまった。
自分は彼女に会うべきでは無かったのではないかと。
勿論そんな筈は無い。絶対に無いのだ。
ユーノが彼女と出会わなかったらフェイトの人生もメチャクチャな物になっただろう。
ジュエルシード事件が起こっていなかったら闇の書のせいで世界のいくつかが滅んでいたかも知れない。
だから、たとえ彼女が怪我を負ったとしても、治った今なら「結果オーライ」でいいのだ。
だが、ユーノにはどうしてもソレが出来なかった。
「全く......お前も生真面目な奴だな」
「君に言われたくないよ」
心底呆れた表情をするクロノに、ユーノは苦笑しながらグラスを揺らす。
グラスに入った透明な炭酸飲料と氷が揺れ動き、グラスと当たって音を立てる。
ふと、何を思ったのかユーノはいきなり立ち上がった。
そしてで出口へと歩いてゆく。
「どこへ行くんだ?」
「ちょっと散歩して来る」
カラン、とドアの上部に取り付けられた鈴が鳴った。
■
ふぅ、と息を吐く。
口から出た息は白く染まっていた。今の季節は冬。長袖長ズボンだが少しばかり寒い。
そんな寒い中、ユーノは土を踏みしめながらある場所に居た。
「懐かしいなぁ......」
ユーノは辺りをグルっと見渡して呟く。
ここは森の中を通る道の一つ。
一見してただのどこにでもありそうな森の中。
たが、ユーノにとっては数少ない思い出の場所の一つだった。
「始まりの地、か。そんな大それた場所にはとてもじゃないけど見えないよね」
ユーノは苦笑する。
そう、ここは始まりの地。
全ての始まりの場所。
ここから、全ては始まったのだ。
そうやって感慨に浸っていると後ろから、ジャリッと土を踏む音が聞こえた。
誰だろう?と思い振り返ってみると、そこに居たのは緑色のリボンで縛ったツインテールの彼女。
「ここに居たんだユーノ君」
「なのは......」
始まりたる主人公、高町なのはだった。
背もユーノ程ではないが大分伸び、髪も長くなっている。
そんな彼女は笑顔でユーノに近寄って行った。
ユーノは取り敢えず驚きながらも、当然の疑問を投げかける。
「なんでここに居るの?」
「それを言ったらユーノ君もでしょ?」
クスッ、と笑いながら言う彼女を見て、ユーノはまたもや苦笑。どうやっても彼女にはいろんな面でかなわない。
「えっとね、ユーノ君の姿が無いのに気がついたから」
「それでもよく此処だって分かったね。サーチャーを使ったの?」
「ううん。ただユーノ君ここに居るんだろうなぁーって、思ったから」
なんと彼女は感で当てたらしい。
とユーノは思ったが、
「それに、確信があったんだ」
「確信?」
何やら考えの果てにここに居ると思ったようだ。
なのはユーノの顔を見てニコッと笑い、
「だって、ユーノ君と初めてあった場所だもの」
そう言った。
理由にしてはあんまりだが、不思議とそうだなと納得できる。
それくらいの自信が、なのはの言葉には含まれていた。
ニコニコ顔で自分の顔をみて来るなのはに、照れてユーノは少し横を向き、木に寄りかかって立つ。
顔をそらされて少しムー、と膨れっ面になりながらも、なのははユーノの隣に立って木に寄りかかる。
暫く、風の音色だけが場を満たした。
「......ねぇ、なのは」
「なぁに、ユーノ君」
「あのさ、ごめん」
ユーノの突然の謝罪。
少しだけなのはは目を見開いて、それでユーノの考えが分かったのか、呆れと笑顔が混じった表情になる。
「もう。ユーノ君って本当に生真面目だね」
「それ、クロノにも言われたよ」
「ふふっ、そうなの?」
風が止み、月と星の明かりが二人を照らす。
そんな夜空を眺めながら、なのはは口を開いた。
「あのね、ユーノ君」
その声は風のよいに柔らかで、鈴の音色のように心地よかった。
「ユーノ君って頑固だから、一言だけ言わせて」
「......うん」
ユーノは返事を返し、その一言を待つ。
なのはは一息置いて言った。
「私、ユーノ君に出会えて本当によかった」
その一言はユーノが一番聞きたかった言葉で、同時にユーノ自身が認めきれない言葉でもある。
嬉しい。自分と出会ってよかったと言われるのは本当に心の底から嬉しい。
だけど、その言葉を素直に喜べない自分が居る。
出合わなかった方がよかった、そう考える自分がいる。
と、突然、
ズィ、となのはの顔がユーノの顔と至近距離まで近付いた。
「うわっ!?な、ななななななのは!?」
「むぅ〜、ユーノ君今また悩んでたでしょ」
膨れっ面をしながら言うなのはの顔は、寒さのせいか少し赤い。その胸元にある紅い宝石もキラッと光った。
「じゃあさ、一つ質問ね」
「え、な、なに?」
「簡単な質問だよ」
そう言ってなのはは膨れっ面を止め、笑ってユーノに問いかけた。
「ユーノ君は、私に会えてよかった?」
その問いかけは、ユーノにとって答えを考える必要も無かった。
「よかったよ、嬉しいよ。でも」
続けようとした所で、プニッと頬を突かれた。
突いたのは勿論なのは。
「私も会えて嬉しかった、ユーノ君も会えて嬉しかった、ならそれでいいじゃない余り難しく考える必要無いよ」
ねっ?と小首を傾げてくるその笑顔を見てユーノは一瞬思考が停止し、復活してしみじみと呟いた。
「やっぱり、なのはにはかなわないよ」
笑顔で彼はそう述べた。
ピピピッ!
「あれ?携帯が鳴ってるよ?」
「本当だ。誰だろう?」
なのははゴソゴソと携帯を取り出し、耳に当てる。
「はいもしもし。なのはですが」
『あ、なのは〜!元気ぃ〜?フェイトは元気だよぉ〜!』
携帯から聞こえてきた大声に絶句。
二人して顔を見合わせる。
何せ声の主があれだ、フェイトなのだ。これがはやてならまだ良かったが、フェイトがこんな風になるなど普通では無い。
つまり、
「まさか、お酒飲んじゃったのフェイトちゃん?」
『お酒なんか飲んでません〜!キャハハハッ!』
「いや、絶対飲んでるよねコレ」
「う、うん......」
ユーノのツッコミは正しかった。
実際に携帯の向こうから『さ、酒だとぉぉぉぉぉぉっ!?』といったクロノの叫び声がする。
『お兄ちゃんうるしゃ〜い......』
『わっ!?こら抱きつくな!フェ、フェイt』ブツッ
「「......」」
携帯を落としでもしたのだろうか?向こうからの声は途絶えた。
音のならなくなった携帯電話を冷や汗を垂らしてなのはは眺め、ユーノに提案。
「か、帰ろっか」
「そ、そうだね。さすがにクロノが可哀想だ......」
ユーノもさすがに不憫に思ったのか、助けに行くために帰ろうとする。
しかし、歩き出そうとしたユーノの右手をそっと握る手。
「な、なのは?」
「さっ、帰ろユーノ君」
そう言ってなのははユーノの右手をしっかり左手で握ったまま前へと進む。
最初は顔を真っ赤にしたユーノだが、なのはの満面の笑みを見て笑った。
(まぁ、なのはが嬉しそうならいっか)
そう思ってユーノもすこし早めに歩き、なのはの隣を歩く。
そしてその横顔と目があって、笑い合った。
彼は右手を、彼女は左手をしっかり握り締め、歩く。
そんな二人の姿は、まるで運命の恋人のようだった。
End
著者:エクセリオン
6 名前:『嬉しいなら、それでいい』 [sage] 投稿日:2010/06/06(日) 23:47:22 ID:asSzEGIQ [3/6]
7 名前:『嬉しいなら、それでいい』 [sage] 投稿日:2010/06/06(日) 23:49:15 ID:asSzEGIQ [4/6]
8 名前:『嬉しいなら、それでいい』 [sage] 投稿日:2010/06/06(日) 23:50:12 ID:asSzEGIQ [5/6]
忘年会。
そう、忘年会。忘年会といえばあの忘年会だ。
皆さんご存知の通りのあれである。飲めや歌えやの大パーティ。
さてさて、忘年会というイベントは第97管理外世界の日本の人間なら誰しもが知っているはずで、そしてそれはこの物語の主人公達も変わりない。
そして、
「それじゃあ、かんぱーい!」
『かんぱーい!』
とある夜の喫茶店でも、それは変わらなかった。
掲げられたグラス同士がぶつかり合い、ガラス同士がぶつかる特有の音と、カランとジュースの中の氷も鳴り響く。
貸し切り状態の店内に居るのは若い少年少女達と、それの保護者達。
その2つのグループは分かれて座っており、子供と大人でそれぞれ会話し、飲食をしていた。
そんな中、子供グループに入らず遠めに眺めながら炭酸飲料を飲む少年が一人。
金髪の髪を肩より少し下ぐらいまで伸ばし、翡翠のような緑の瞳を持つ少年。
ユーノ・スクライア、十三歳。こう見えて時空管理局本局の無限書庫司書長という、かなりの立場の人間である。
そんな彼が何故離れて見守っているのか?理由は簡単。子供グループの男女比がヤバイからである。
なのは、フェイト、はやて、ヴィータ、アリサ、すずか、エイミィなどなど......
今更ながら自分の交友関係に疑問を持つユーノさん。
だが子供グループにも他に男性はいる。
......一人だけだが。
「......飲むか?」
「貰うよ」
差し出されたペットボトルの方にグラスを向ける。
トポトポと、傾けられたペットボトルから出された炭酸飲料がグラスを満たした。
ソレを一回口に付け、ペットボトルの持ち主を見る。
そこにいたのは珍しく私服姿のクロノ・ハラオウンだった。
彼もまた、管理局の執務官という年齢に合わない立場の人間である。
そんな彼とユーノの関係は親友といっていいものだった。
ただし、本人達は断固として認めないが。
二人で壁際に寄りかかりながら立ち、グラスを傾けながら子供グループを見る。
只今グループ内ではエイミィを筆頭にした恋話をしているようだ。
「君もあれに混ざって来たらどうだ?」
「謹んで遠慮するよ。あの中に入って行くぐらいなら君と模擬戦した方がまだまし」
「ふん。確かにな......」
クロノはそう相槌を打ってチラッと大人グループの方を見る。
ユーノも釣られて見てみた。
「でですねー、最近クロノも対に恋愛に興味を持ち始めたみたいで」
「それはそれは......青春ですねぇ」
一番近くのテーブルでリンディが桃子に笑顔で息子(クロノ)のことを嬉しそうに語っていた。
桃子も笑顔で聞いている。
「......あれ、止めなくていいの?」
「止められるものなら、とっくの昔に止めている......」
はぁ、とため息をつきながらクロノは視線を床に落とす。
どんよりとしたオーラを纏った悪友の肩に、ユーノは苦笑しながら手をポンと置いた。
「ソレにしても......変わったな」
あれから暫くして、ずっと立っているのも辛いので空いている席に座ったクロノの第一声がそれだった。
その言葉に首を捻りつつ、ピーナッツを口に放り込む。
「変わったって、何が?」
「色々だよ」
色々、と言われるとユーノも確かに心当たりはある。
あの闇の書事件から約四年。なのは達の学年も中学生になり、立場も大分変わった。
「なのはは教導隊に、フェイトも執務官に、はやても上級キャリア試験に合格。君もエリートコースまっしぐら」
ユーノは皆の状況を呟いてみる。
確かにみんな変わっている。それは時間という物がある以上、当然のことだ。
が、
「まぁ、一番変わってしまったのはお前だろうが」
その悪友のセリフに疑問を覚えた。
今クロノは「変わってしまった」と言った。つまり変わらなくてよかったのに変わってしまったと。そうゆう意味を込めて今の言葉は放たれた。
ユーノはクロノの顔を見て、苦笑しながら口を開く。
「嫉妬かい?僕だっていきなり司書長なんて立場になってビックリなんだから「違う。立場のことじゃない」......?」
ユーノは脳内で更に首を傾げる。
どうやら立場の問題では無いらしい。
だとしたら何なのだろう?クロノが自分に対して変わって欲しく無かったこと......
「人間関係のことだよ」
「へっ?」
ユーノは惚けた。
人間関係と言われても別に変わったことは無い。女性比率が多いのもいつも通りだし、新しく出来た友人なども特には居ない。
「分かんないな。何が変わったっていうの?」
「......自覚無しかこのフェレットもどきは」
「誰がフェレットもどきだ!」
クロノのやれやれといった表情で放たれた言葉にユーノは思いっきりツッコミを入れる。
ユーノは今だにこのネタでからかわれ続けるらしい。
そしてユーノのツッコミに小さく笑った後、クロノは顔を引き締めて言った。
「なのはとのことだよ」
「......」
二人が座っている席に、沈黙が落ちる。
ユーノはクロノに言い返さなかった。
いや、正確には言い返せなかった。
「やはり少しは自覚があったようだな。最近少しずつなのはを避けてるらしいじゃないか」
「......」
今度も言い返せない。何故なら事実だから。
薄々とだが、自覚はしていた。
少しずつ、ほんの少しずつなのはから距離を取っていることを。
「......やはり、あの事件か?」
「......きっかけは、ね」
そう、きっかけはあの二年前の事件。
なのはが撃墜され、生と死の淵を彷徨ったあの事件。
あの事件で、ユーノは考えた。考えてしまった。
自分は彼女に会うべきでは無かったのではないかと。
勿論そんな筈は無い。絶対に無いのだ。
ユーノが彼女と出会わなかったらフェイトの人生もメチャクチャな物になっただろう。
ジュエルシード事件が起こっていなかったら闇の書のせいで世界のいくつかが滅んでいたかも知れない。
だから、たとえ彼女が怪我を負ったとしても、治った今なら「結果オーライ」でいいのだ。
だが、ユーノにはどうしてもソレが出来なかった。
「全く......お前も生真面目な奴だな」
「君に言われたくないよ」
心底呆れた表情をするクロノに、ユーノは苦笑しながらグラスを揺らす。
グラスに入った透明な炭酸飲料と氷が揺れ動き、グラスと当たって音を立てる。
ふと、何を思ったのかユーノはいきなり立ち上がった。
そしてで出口へと歩いてゆく。
「どこへ行くんだ?」
「ちょっと散歩して来る」
カラン、とドアの上部に取り付けられた鈴が鳴った。
■
ふぅ、と息を吐く。
口から出た息は白く染まっていた。今の季節は冬。長袖長ズボンだが少しばかり寒い。
そんな寒い中、ユーノは土を踏みしめながらある場所に居た。
「懐かしいなぁ......」
ユーノは辺りをグルっと見渡して呟く。
ここは森の中を通る道の一つ。
一見してただのどこにでもありそうな森の中。
たが、ユーノにとっては数少ない思い出の場所の一つだった。
「始まりの地、か。そんな大それた場所にはとてもじゃないけど見えないよね」
ユーノは苦笑する。
そう、ここは始まりの地。
全ての始まりの場所。
ここから、全ては始まったのだ。
そうやって感慨に浸っていると後ろから、ジャリッと土を踏む音が聞こえた。
誰だろう?と思い振り返ってみると、そこに居たのは緑色のリボンで縛ったツインテールの彼女。
「ここに居たんだユーノ君」
「なのは......」
始まりたる主人公、高町なのはだった。
背もユーノ程ではないが大分伸び、髪も長くなっている。
そんな彼女は笑顔でユーノに近寄って行った。
ユーノは取り敢えず驚きながらも、当然の疑問を投げかける。
「なんでここに居るの?」
「それを言ったらユーノ君もでしょ?」
クスッ、と笑いながら言う彼女を見て、ユーノはまたもや苦笑。どうやっても彼女にはいろんな面でかなわない。
「えっとね、ユーノ君の姿が無いのに気がついたから」
「それでもよく此処だって分かったね。サーチャーを使ったの?」
「ううん。ただユーノ君ここに居るんだろうなぁーって、思ったから」
なんと彼女は感で当てたらしい。
とユーノは思ったが、
「それに、確信があったんだ」
「確信?」
何やら考えの果てにここに居ると思ったようだ。
なのはユーノの顔を見てニコッと笑い、
「だって、ユーノ君と初めてあった場所だもの」
そう言った。
理由にしてはあんまりだが、不思議とそうだなと納得できる。
それくらいの自信が、なのはの言葉には含まれていた。
ニコニコ顔で自分の顔をみて来るなのはに、照れてユーノは少し横を向き、木に寄りかかって立つ。
顔をそらされて少しムー、と膨れっ面になりながらも、なのははユーノの隣に立って木に寄りかかる。
暫く、風の音色だけが場を満たした。
「......ねぇ、なのは」
「なぁに、ユーノ君」
「あのさ、ごめん」
ユーノの突然の謝罪。
少しだけなのはは目を見開いて、それでユーノの考えが分かったのか、呆れと笑顔が混じった表情になる。
「もう。ユーノ君って本当に生真面目だね」
「それ、クロノにも言われたよ」
「ふふっ、そうなの?」
風が止み、月と星の明かりが二人を照らす。
そんな夜空を眺めながら、なのはは口を開いた。
「あのね、ユーノ君」
その声は風のよいに柔らかで、鈴の音色のように心地よかった。
「ユーノ君って頑固だから、一言だけ言わせて」
「......うん」
ユーノは返事を返し、その一言を待つ。
なのはは一息置いて言った。
「私、ユーノ君に出会えて本当によかった」
その一言はユーノが一番聞きたかった言葉で、同時にユーノ自身が認めきれない言葉でもある。
嬉しい。自分と出会ってよかったと言われるのは本当に心の底から嬉しい。
だけど、その言葉を素直に喜べない自分が居る。
出合わなかった方がよかった、そう考える自分がいる。
と、突然、
ズィ、となのはの顔がユーノの顔と至近距離まで近付いた。
「うわっ!?な、ななななななのは!?」
「むぅ〜、ユーノ君今また悩んでたでしょ」
膨れっ面をしながら言うなのはの顔は、寒さのせいか少し赤い。その胸元にある紅い宝石もキラッと光った。
「じゃあさ、一つ質問ね」
「え、な、なに?」
「簡単な質問だよ」
そう言ってなのはは膨れっ面を止め、笑ってユーノに問いかけた。
「ユーノ君は、私に会えてよかった?」
その問いかけは、ユーノにとって答えを考える必要も無かった。
「よかったよ、嬉しいよ。でも」
続けようとした所で、プニッと頬を突かれた。
突いたのは勿論なのは。
「私も会えて嬉しかった、ユーノ君も会えて嬉しかった、ならそれでいいじゃない余り難しく考える必要無いよ」
ねっ?と小首を傾げてくるその笑顔を見てユーノは一瞬思考が停止し、復活してしみじみと呟いた。
「やっぱり、なのはにはかなわないよ」
笑顔で彼はそう述べた。
ピピピッ!
「あれ?携帯が鳴ってるよ?」
「本当だ。誰だろう?」
なのははゴソゴソと携帯を取り出し、耳に当てる。
「はいもしもし。なのはですが」
『あ、なのは〜!元気ぃ〜?フェイトは元気だよぉ〜!』
携帯から聞こえてきた大声に絶句。
二人して顔を見合わせる。
何せ声の主があれだ、フェイトなのだ。これがはやてならまだ良かったが、フェイトがこんな風になるなど普通では無い。
つまり、
「まさか、お酒飲んじゃったのフェイトちゃん?」
『お酒なんか飲んでません〜!キャハハハッ!』
「いや、絶対飲んでるよねコレ」
「う、うん......」
ユーノのツッコミは正しかった。
実際に携帯の向こうから『さ、酒だとぉぉぉぉぉぉっ!?』といったクロノの叫び声がする。
『お兄ちゃんうるしゃ〜い......』
『わっ!?こら抱きつくな!フェ、フェイt』ブツッ
「「......」」
携帯を落としでもしたのだろうか?向こうからの声は途絶えた。
音のならなくなった携帯電話を冷や汗を垂らしてなのはは眺め、ユーノに提案。
「か、帰ろっか」
「そ、そうだね。さすがにクロノが可哀想だ......」
ユーノもさすがに不憫に思ったのか、助けに行くために帰ろうとする。
しかし、歩き出そうとしたユーノの右手をそっと握る手。
「な、なのは?」
「さっ、帰ろユーノ君」
そう言ってなのははユーノの右手をしっかり左手で握ったまま前へと進む。
最初は顔を真っ赤にしたユーノだが、なのはの満面の笑みを見て笑った。
(まぁ、なのはが嬉しそうならいっか)
そう思ってユーノもすこし早めに歩き、なのはの隣を歩く。
そしてその横顔と目があって、笑い合った。
彼は右手を、彼女は左手をしっかり握り締め、歩く。
そんな二人の姿は、まるで運命の恋人のようだった。
End
著者:エクセリオン
- カテゴリ:
- 漫画/アニメ
- 魔法少女リリカルなのは
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ユーなのは最高です!