[41]辻義理『例えばこんな最終回』<>2007/08/03(金) 00:14:36 ID:ShQ0H2Ec
[42]辻義理『例えばこんな最終回』<>2007/08/03(金) 00:15:20 ID:ShQ0H2Ec



 激化するナンバーズと機動六課の死闘。
 その中で、事態を好機と判断したレジアス・ゲイズ中将の命により、
地上殲滅兵器アインヘリアルによる掃討作戦が断行されようとしていた。

 前線で戦っている機動六課をも犠牲にして――――。



「……誰かがアレを止めなきゃなんねぇ。八神でも、高町の嬢ちゃんでも、テスタロッサのお嬢でもない……ここにいる、誰かが、だ」
「父さん……私、行くよ」
 応えるのは少女。ナンバーズの一人との死闘に勝利し、自身も負傷を負った自分の娘。
「スバル……。止めとけ、お前のマッハキャリバーはもう……」
「大丈夫。私には、まだリボルバーナックルがあるから。……ギン姉と母さんがついててくれるから」
 娘の両手に輝く鈍色の籠手。
 泣き虫だった末っ子は、いつの間にか自分の肩と頭を並べるまでに成長していた。
「……ったく」
「と、父さん……?」
 抱きしめる。
 幼い頃から変わらぬ温もり。思わず笑みがこぼれてしまう。
 ああ、そうだ。誰が何と言おうと、こいつは俺の自慢の娘だ――――。
「おおきくなったな、スバル」
「と、とうさ――――ァッ!?」
 娘が呆然と下を見る。腰を入れた拳は、娘の腹に深く食い込んでいた。
「油断大敵だ、スバル」
「な、ん……で?」
 崩れ落ちる娘の首筋に手刀を落とし、意識を刈り取る。
 思ったよりも重いその身体を支えながら、そっと地面に横たえた。


「昔っから戦場であぶねえ役目を負うのは、老兵と相場が決まってらァ」
 ほんの少し涙に濡れた娘から、両腕の籠手を抜き取る。
「リボルバーナックル……少し借りとくぜ。それから―――」
 制服のポケットから取り出したのは、一つのペンダント。
今は蘇生作業を行われているであろう、もう一人の娘の相棒。
「お前もやられっぱなしってのは御免だろ?」
『Yes!』
「いくぜ、ブリッツキャリバー」
 両腕には籠手を、両足にはローラー付きの脚甲を備え、どこで情報を仕入れたのか、デバイスが身体に纏わせたのは、数年前の自分の鎧。

 ―――最後に娘の頭を一撫でして、腰を上げる。
 眺める先には管理局精鋭の陸士部隊。数こそ少ないが、前線から引いたOBが敵う相手ではないことは明らかだった。
 だが。
 それでも。
「ああ、負ける気がしねえ――――」
 スバル、ギンガ、そして自分が愛したただ一人の妻、クイント。この老いた両腕は、あいつらを背負っている。あいつらの魂が宿っている。
 なら、負けるはずがない。誰が何人束になってかかってこようが、『俺達』が負けるはずがない――――!

「――――俺達は老兵だ。ガキの成長を眺めるだけで、それだけで幸せな人間だ」
『Wing Road』
 眼前に展開される翼の道。
 きっと、これがゲンヤ・ナカジマの、生涯最後の空。
「俺達が出しゃばる必要なんかねえ。前線は若いもんに任せて、俺達は後ろでふんぞり返って、ただ……見守ってりゃいい」
 顔を上げる。見上げれば、アイツの好きだった空が、今も昔もそこにある。
「――――――ッ!」
 走る。
 握られた両の拳は、固く、堅く、硬く――――!

「老いぼれはお役御免だ。幕を引こうぜ、レジアス・ゲイズ――――!」



 すまねえなクイント――――。
 約束……守れないかもしれねえ。
 そっち行ったら、いくらでも殴られてやるから。
 だから。
 だからよ――――

 今だけは、俺に力を貸してくれ―――――――。



著者:辻義理

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