825 名前:ながいおわかれ(1) [sage] 投稿日:2009/11/04(水) 12:19:19 ID:qcJ/QXbI
826 名前:ながいおわかれ(2) [sage] 投稿日:2009/11/04(水) 12:23:01 ID:qcJ/QXbI
827 名前:ながいおわかれ(3) [sage] 投稿日:2009/11/04(水) 12:28:12 ID:qcJ/QXbI
828 名前:ながいおわかれ(4) [sage] 投稿日:2009/11/04(水) 12:30:50 ID:qcJ/QXbI

冴えた月の光が明るい夜だ。
大人たちが酒を飲んで騒ぐ声が階上まで聞こえていた。
その音をBGMに、ベッドに腰かけた二人は目を閉じて額を寄せた。
窓辺に置かれた沢山のぬいぐるみや、全体的にパステルカラーで統一された内装が、そこが女の子の部屋だということを示している。
明かりは落とされていた。
カーテンの隙間から入り込む月光が映した彼らの顔は幼く、寝間着にくるまれた身体も未分化で性別の区別すら危うい。10を越えるか、越えないかといったところか。
ひとりは少女、もうひとりは少年。
あどけない彼らの唇がそっと触れ合って離れた。
「あのね……クロノくん、好き」
囁くように少女が少年――クロノに告げる。ふっくらとした少女の指先が、クロノの輪郭をたどった。
「僕も……なのはが好きだ」
その応えに、なのはは満足気に微笑んだ。
クロノの頬の辺りをさ迷っていた彼女の指先に力が入る。
「んっ」
意識してか無意識か、チロリとつき出された小さな舌が試すようにクロノの唇を押し開こうとする。
「な、なのはっ?」
クロノの動揺の声さえ無視して、いやむしろ声を上げるために開かれた唇に好機とばかりに割り込んでいく。
「ふっ……う……んんっ」
漏れる吐息はどちらのものか。絡み合う口付けは、糸を引いて離れた。
赤く染まった頬でなのはは、言い訳のように口を開く。
「好き同士なら、こういうことするんだよ。お父さんとお母さんもしてた」
「なのは……見たんだ?」
「クロノくんもね」
イデアシードに関われば、望む望まざるに関わらず秘められた記憶に触れることになる。それに彼女の母親の記憶に深く"潜り"過ぎたクロノを引き上げたのは、他ならぬなのはだ。
「でも、僕らじゃ、……」
"そういうこと"をするには自分たちはまだ幼いことくらいは分かっていた。
けれど
「明日、だよ? 明日になったらクロノくん……」
夜が明けたら、クロノとリンディは還るべき場所へと還らねばならない。
ハッキリと告げられたことではない。けれどだからこそ、なのはには分かっていた。
別れたら、"次"がいつになるのか、いやそもそも"次"があるのかも分からない。明日の別れはそういう別れなのだと。
「なのは」
クロノの腕に力が入る。引き寄せたなのはの身体からは柔らかな日向の匂いがした。
意固地になって何もかも無くしてしまうところだった。心まで凍てつかせていた自分に大切なことを教えてくれた女の子。こんなに好きなのに。でも、もうここには居られない。
今は……まだ。
「お別れの前に、クロノくんの一番近くに行きたいよ。こうやってるより、もっと、もっと近くが良いよ」
それは少女の、小さなわがまま。
なのははクロノの身体に腕を回して、更に身体を密着させた。布地越しに伝わる体温、互いの鼓動。それだけじゃ足りないと胸の内で何かが叫んでいる。
「そのために、することだと思うから、だから……クロノくんと、したい……な」
もう言葉は、いらなかった。
 
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「あ、あぁ、……っ!」
切なくも熱い吐息はいとけない少女の小さな唇から。
細く未成熟な裸身が絡み合う。互いの素肌を舌が這い、時に唇で、いまだ愛と呼ぶには未熟なそれを確かめようとする。
断片の記憶を繋ぎ合わせて、至る行為の名称さえ不確かなままに、それでも二人は繋がりを得ようとしていた。
「それで、その……これ、なのはのソコに……」
「い、いれるん……だよ…ね?」
上気した頬、シーツに横たわりクロノを見上げて問うなのはの呼吸はたったいま全力疾走してきたかのように荒く、四肢は熱を帯びて熱い。
「えと……うん、多分」
間違いのない答えなど分かるわけもなく、クロノは恐る恐る頷く。その手がそろそろとなのはの白い脚の付け根へと伸びて、かわらけのようにつるりとした場所へと触れた。
指先が其処を探ると、粘着質な水音があがる。
「あ、なんかヌルヌルして……」
「やぁっ……い、言わないでぇっ」
ひくひくと身体を震わせるなのはの手が羞恥に堪えかねて顔を覆う。
その耳許にクロノは顔を寄せた。
「なのは」
視覚は遮断できても、聴覚はそうもいかない。むしろ鋭敏になった感覚で、なのははその声を聞いた。
行くよ? と、心なしか震えるような響きを伴うその囁きに、こくこくと二度三度頷くことで返事とする。
「ふぁっ……や、ああああんっ」
戸惑いはあっても加減など分からない。ひといきに突き込まれたクロノ自身に、なのははたまらず嬌声を上げた。
「い、痛いの? なのは」
「わかんにゃい……じんじんしてゆ。……くろの、くんは?」
舌足らずな口調、涙の浮かんだ瞳も視線が覚束ない。けれど本人のいう通り痛みに耐えているわけではなさそうで、その事にクロノは安堵を得る。
「なんだろ、僕もわからない。でも、なのはの中、あったかいよ。熱いくらい……」
「そ、なんだ……」
互いに脈打つ鼓動を直に感じた。一点から全身に温もりが広がって、身体の内の熱をあげていく。
「ゃあんっ!」
唐突になのはの身体が、打ち上げられた小魚のように跳ねた。
「なのはっ!?」
気遣い、差し出されたクロノの手を揺れるなのはの手が掴む。
「あ……らいじょうぶ。いま、なかでピクンって……くろのくん?」
「ごめん、その……勝手に動いちゃう……みたい」
顔を赤らめて俯いたクロノに、謝る必要はないとなのはは首を降る。
「ううん、あのね、いま……すごく……その……」
「うん?」
か細く小さな声で囁かれた言葉を聞き取ろうと、クロノはなのはの口許に耳を近付ける。
 
きもちよかったの

その言葉がはずみをつけた。
ならばもっと心地好くなって欲しいとクロノが動けば、それを受けたなのはの身体が、更なる快楽をクロノへと返す。
真似事のように睦み合う幼い恋人たちは、たちまち悦楽の連関の直中に放り込まれた。
経験値など0に等しい二人はそれに抗う術を持たない。
「やっ…あああっ、らめっくろのくっ、とまっ……」
「っあ、ごめ、むりっ……」
なのはの懇願を受けてもクロノは止まれない。本能からの強烈な後押しを受けて、その動きはむしろ急激に加速していく。
もっと、もっとと高みへと至ろうとする。
「あ、あ、あ、くりゅ、きてりゅのっ、なんかきちゃうよぉっ!」
初めて得た、快楽という強烈な感覚に翻弄されてなのはが叫びを上げた。
シーツを掴む指先と、その身の内に一層力がこめられる。
「あぐっ……!」
絞り出すような圧力の高まりに、たまらずクロノは己を解き放った。
「はぁっ、あ、あああぁぁ……!」
注ぎ込まれる行為の余韻に瞬間海老ぞり、なのはは戦慄く。見開かれた瞳から涙がこぼれ落ちた。
「あっ……は、……なのはっ……?」
「は、……ふっ、……んっ、くろの、くんっ」
沈むようにベッドへ倒れこみ、荒い息のなか互いの手が相手を求めてさ迷う。
手探りで掴まれた指先が、絡み合って結ばれた。
もう二度と離れたくないと、強い願いの証のように。
 
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風の吹くあの草原に降り立った。海を臨む、この丘に。
軽やかに草を踏む音が近づいてくる。
確かめなくてもクロノには分かる。その足音の主が誰なのか。
六年の月日が彼女をどの様に変えていたとしても、自分にだけは分かる。
確信とともに振り向き
「なのは」
名前を呼んで、しばし固まる。
「クロノくん」
美しく成長した彼女のその足に、すがるように立っている幼子がいた。
年は5歳くらいか。頭の上に久遠を載せ、なのはを盾にするような位置にいながらも、こちらを見上げてキラキラと好奇心に輝く瞳。やや赤みの強い黒髪。それは互いの何かを思い起こさせるもので。
戸惑いながらも口を開いた。
「あの……なのは、その子は?」
なのははニッコリと微笑み、言った。
「私とクロノくんの子どもだよ。よろしくね、お父さん」
 
 
ギャフン!


著者:ひら

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