[258] なのはさんの教導!(外伝)inspired by 128君 sage 2007/12/18(火) 19:24:03 ID:ePwE/f01
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[269] なのはさんの教導!(その6) sage 2007/12/18(火) 19:36:53 ID:ePwE/f01

あるところに、小さな女の子がいた。

ある日、その子は、父親の書斎兼研究室にこっそり忍び込む。
どきどきわくわく。
女の子は珍しいものを見れるという期待と、
父親にばれるかもしれないというスリルを味わいつつ、
父親の研究室をくまなく探検してまわった。

――愉快な音を立ててクルクルまわる駒のようなもの
――液体を下から上へと螺旋状にあがっていく泡
――美しい紋様が織り込まれた香りつきの絨毯
――高速演算の結果が表示されてたモニター
――青や赤や緑、キラキラ光る何かの結晶
――奇妙に曲がりくねったカラフルな管
――どこかの世界のミニチュア模型
――ダンスをする観葉植物
――魚の骨の化石
etc...etc...


女の子の目に映ったそれらは、
どれも素晴らしいものに見えた。

(お父さんのお部屋ってびっくり箱みたい!)

うきうきしながら女の子は歩を進める。
やがて部屋の最奥にたどりつく。
そこにあったのは、円筒型の透明なケース。
そのなかには、点滅を繰り返す、小さな赤いビー玉がひとつ。
円筒型のケースの正面のボードに何かが書いてある。
少女は習いたての知識を総動員して文字を読む。

「えーと。んと…。アール・エイチ・タイプ・オー・エム・ヴァージョン7.5.2?」

《Yes, little lady. Good job (そのとおりですよ、お嬢さん。よくできました)》

「……!」
少女はとびあがった。
驚きのあまり、思わずしりもちをつく。

「いたたたた…」

《Are you O.K? (大丈夫ですか?)》

再び声がかけられる。
女性の声だ。無機質な電子音声。
だが、その声音はどことなく理知的な印象を与える。

少女が恐る恐る、ケースの中をのぞくと、
なかの赤くて丸い玉が答えるように点滅した。

「今の…しゃべったの、あなた?」
少女がそう尋ねると、赤い玉が《Yes》と答える。

「ほんとうに?」
《Yes》
「ほんとのほんと?」
《Yes》
「ほんとのほんとのほんと?」
《...How many times do I have to tell you?(…何度言えば?)》

「すごい!本当にこれがしゃっべってるんだ」
人間でない小さなビー玉みたいな物体が人と意思疎通をしていること。
そのことに対し、恐れとも喜びともつかない奇妙な衝撃を少女は感じた。
すごい。
しりもちをついた痛みも忘れ、何度もただそれだけをつぶやいた。
それ以外に湧き出す感情を表現する術を女の子は知らなかった。

それから、毎日、毎日、女の子は父親の目を盗んで、
研究室のなかのしゃべる小さなビー玉に会いに行った。
その不思議なビー玉は、彼女の初めての友達だった。

だがある日、その小さな友達は突然いなくなった。
彼女の父親が、それをどこかにやってしまったのだ。
わんわん泣き続ける娘に、
父親は言った。
「あれは極秘プロジェクトなんだよ」
「だから、見たことは誰にも言っちゃあいけない」
「忘れなさい」



しかし、誰が友を忘れえようか。
女の子は長じて、デバイスの開発や調整を行う技術者となる。
それは父親と同じ仕事だった。
だが、技術者を目指すきっかけとなった原体験は、
父親そのものの存在ではなく、赤くて丸い小さなデバイスとの出会い。
そんな彼女にとって、デバイスは単なる機械ではない。
心を通わせることのできる友達なのだ。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


新暦76年5月14日

時空管理局本局はパニックに陥っていた。
事態の収拾に、右往左往する局員達。

だが、ある人物が現われると、
さながらモーゼの十戒のごとく
人垣がきれいに割れていった。

その日のマリエル・アテンザの様相についてある局員は後にこう記している。

「マリエルの姿を見たものなら、
だれもがその光景を忘れえないであろう。
ボタンをかけず開きっぱなしの白衣はたなびくに任せ、
右手に一枚の紙を握り締めたまま、足ばやに歩いていた。
彼女の目は前方をまっすぐ見つめたままであった。
歩くたびに腕を大きくふりながら、だれにも注意を払わなかった。
自分のやっていることに心を奪われて、
その目には群集は映らないかのようでもあった。」と。


マリーがやってきた場所は、円筒形の空間。
円筒の上部にあるはずの天井は
あまりに遠く、可視することができない。
内部のあちこちに細い通路が縦横に走っている。

無限書庫。
時空管理局本局内にある、
管理局が管理を受けている世界の書籍やデータが
全て収められた超巨大データベースである。


その部屋の中央にぽつんと、男がひとり坐っていた。
緑色の紐でゆるく結わえた淡い栗色の髪に細身の体躯。
モニターを手元に表示させ、何かを読んでいるようだ。

マリーはそっと男の背後から、画面を覗き見た。



スレッド名 ▲           ┃◆時空管理局板◆┃
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
1:故ゲイズ中将について語るスレその27(51)
2:【もう】教導隊員はドS集団の集まりVIII【許して】(604)
3:管理局の白い悪魔は化け物かッ!第28戦目(100)
4:某教導官が本局で暴れてる件(992)
5:【KO☆RO☆SE】 魔 王 降 臨 祭 【KO☆RO☆SE】(708)
6:ちょwwwwwwタカマチ強すぎワロスwwwwwww(437)
7:【教導隊員】これは聖王教会の陰謀【暴走】(139)
8:タカマチ教導官はなぜあれほどまでに凶暴なのか?(152)
9:【危険】タカマチは死刑でおk【人物】(41)
10:魔法文明がもたらした最も悪しき有害な砲撃魔導師(272)
11:正しい遺書の書き方5通目(521)
12: 【人柱】B区画の人々を弔うスレ【生贄】(32)
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14:ちょwwwwwwwwだれか助けてwwwwwww(82)
15:【魔王に】誰かアインヘリアル持って来いよ【対抗】(623)
16:【俺の】Y二佐は婚約済とかいうガセネタが流れてる件【嫁】(883)
17:堀の中でなぬはさんを待つ香具師の数→(553)
18:【魔王に】誰か古代ベルカの聖王連れて来いよ【対抗】(372)
19:これはハンニャさまの祟りじゃ(828)
20:タカマチのタイーホマダァ-? (・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン(53)
21:【犯罪者】タカマチオワタ\(^o^)/【ブタ箱】(4)
22:管理局の白い悪魔は化け物かッ!第27戦目(1000)
23:■白に選ばれし漢の体制への逆襲 by Nanoha(20)■ (79)
24:なのはさんが俺にもっと輝けと囁いている (263)
25:なのはさんハァハァ(´Д`;)その30なの!(718)
  ……


「うわぁ……見事なまでになのはさん一色ですね…」
マリーは苦笑しながらそうつぶやいた。
ユーノ・スクライアは、その様子に眉をひそめた。
「マリーさん、笑い事じゃないですよ。こんな大事になっちゃって」

人差し指でメガネを直しながらユーノは深くため息をついた。
「なのはったら、一体何を考えているんだ…」

マリーはその言葉を聞くと、腰をかがめ、
声をひそめるようにしてユーノの耳元でささやいた。
「本気でなのはさんが、自分の意思で、こんなことをしていると思っているんですか?」


「…それは…どういう意味だい?」

ユーノが怪訝そうにこちらを見つめるのに構わず、
マリーは手元にモニターを開き、ウィンドウを操作して、
あるデータを呼び出し、ユーノのほうに見せた。
「これは、レイジングハートが構築した封鎖結界です。でもこの術式、ミッド式ではないですよね?」
「……!」

マリーが示した情報に愕然とし、
食い入るようにして、
モニターの術式データを読み出したユーノに、
マリーはさらに語りかける。

「現存の魔法術式にはこれと一致するものはありませんでした。
では、これは一体どこの術式なんでしょうねぇ?未知の文明の術式でしょうか?
しかし、これほどの技術力を持つ魔法文明が発見されてない、というのもおかしな話です。」
ここで、マリーは一息おいた。
ユーノの顔は目に見えてこわばっていた。

「『現在にないのなら過去を探せば良い』と、いう言葉のとおりです。
 この魔法は、過去に滅んだ魔法文明の術式――つまり
 ロストロギア(古代遺産)――である、と推測するほうが自然です。
 レイジングハートの、もとの、持ち主であるあなた。
 ユーノさんはかの有名なスクライア族です。
 遺跡発掘を生業としていたスクライア一族ならば、
 ロストロギアに触れる機会も多いでしょうね。
 それに、P・T事件のきっかけとなったジュエルシードだって、あなたが発掘したものでした」

ユーノの顔が蒼白になっていく。
ひとつ首を振って、マリーに向き直る。
「RHがロストロギアだっていうんなら、おかしいよ。
 管理局の、君の手によって何度も検査や修理が行われてきたのに
 そんな、今更……」

「ええ、私もRHがロストロギアだなんて考えたこともありませんでしたよ。
でも、そうでないなら、これはどう説明するのですか?」
モニターの術式を指しながら、マリーは鋭く切り返す。

「ユーノさん…あなたなら何か、知ってるはずですよね。
原因は不明ですが、何かのきっかけでRHが暴走しているのは確かです」

相変わらずユーノは険しい顔で黙りこくったままだった。
そんな彼の態度に、マリーはじれったさをもはや隠せない。
マリーは本来、このように弁で人をやり込めるような柄ではない。

そんな彼女がここまで、積極的に動くのには理由があった。
マリーは怖いのだ。

現在、管理局のほうでは、秘密裏に対策チームが組まれ、
レティ提督が対策チームの陣頭指揮をとっている。
これは、身内で人員を固めた、あくまで秘密裏の動きだ。
管理局上層部が本格的に介入してくる前に、
できるだけ穏便にことをおさめなければならない。

それは勿論、なのはの教え子達の安全と、
なのはの身を将来とを案じた故のものであった。
無論、マリーにも、かれこれ十年の付き合いがある
なのはのことを心配する気持ちはある。
しかしマリーはそれとは別に、RHについて憂慮していた。
(レティ提督が考えていたあの作戦が実行されたらRHは……)

ユーノの態度に、業を煮やしたマリーは、唇を噛んだ。
「ところで」
普段なら決して見せないような、シニカルな笑み。
「ロストロギアを無断で保持、
あまつさえ当時、民間人だった女の子に渡し、
さらに暴走事故を引き起こしたとなれば、
そのロストロギアを引き渡した本人はどうなるんでしょうねぇ?」

「君は」ユーノは思わずうめいた。
「僕を脅しているつもりか?」

「高飛びします?今なら間に合いますよ。管理局も混乱してますし」
おそらく、ユーノは、様子からしてレイジングハートが、
ロストロギアであるとは知らなかったのだろう。
そして、マリーも短くない付き合いから、ユーノの責任感の強さを知っており、
彼が一人尻尾をまいて逃げだすとは思っていない。

挑発するように、マリーは言葉を紡ぐ。
これは、一種の賭けだった。
「高飛びするんなら手伝っちゃいますよ?その代わり」
言葉に力を込める様にしてユーノに叩きつける。
「話していってください。レイジングハートのこと」

ユーノは微かに身じろぎし、視線を揺らした。
マリーはユーノから目を離すことなく、問いかけた。
「どうします?逃げるんですか?」

マリーはユーノを見つめ、その視線をユーノも受け止め、見つめ返す。
しばらく沈黙が続いた。

逡巡の後、ユーノは言った。
「まさか」


「では、答えてください。…あのデバイスは、何処で手に入れたんですか?」



●●●

本局の一画、第101会議室は、レティ・ロウラン率いる数十人の局員に
よって占拠されていた。表札も何も掲げられてはいないものの、此処は
実質、《高町なのは対策本部》と化していた。
会議室の長机で向かい合わせに坐っているのは、対策本部長である
レティ・ロウランと、マリーに連行されてきたユーノ・スクライアであった。


「……つまり何?レイジングハートはロストロギアだった、と?」
「僕も今の今まで気づきませんでした」
「レイジングハートは元々あなたのものじゃないの?」
「あれは、スクライア一族の兄貴分だった人がお守り代わりにくれたものなんです。
 古代オグズ文明の発掘品のひとつだったらしいですけど。」

ユーノの言葉に、レティは思わず頭を抱えた。

「なんで古代文明の発掘品を勝手にほいほい私物化してんのよ?
それだからスクライア一族は盗人一族だのなんだのって言われるんじゃないの」
「あはは…すいません…」

二人の会話に、結界の術式を解読中のマリーが口を挟む。
「でも、やっぱり変じゃないですか?RHはどうみたって、ミッド式のデバイスでしたよ」

マリーの突っ込みに、ユーノは言い辛そうに切り出した。
「いやぁ。なんかあのデバイス、起動させようとしても、うんともすんともいわなくって、
 誰も使えなかったらしいんですよ。それで、あれは多分、不良品か未完成品、つまり
 ガラクタみたいなものだと思ったらしくて、リサイクルというか何というか、強制的にミッド
 式の術式と技術で上書きして改造したものでして……」

「ええっ…それは……」
「ほんっとスクライア一族はロクな事しないわね…」
マリーは絶句し、レティは胃を押さえながら八つ当たり気味に呻いた。
ユーノは、それに返す言葉もなく、気まずそうな顔で身を小さくしていた。

はぁ、と息をひとつはいてレティは何気なく呟いた。

「それにしても古代オグズ文明ねぇ…ミッドチルダの魔法文明にも影響を与えた
 文明のひとつだったわよね。じゃあ、まあ、ミッド式との親和性は高いか……」

その言葉にマリーも昔を思い出すようにして、合いの手をうつ。

「古代オグズっていったら、『白い悪魔』の伝説で有名ですよねー。
 あれ、子供の時、私もお父さんによく絵本で読んでもらいましたし」

ユーノもその話題に乗っかる。伝説といえど、それも歴史を知るための史料と
なりうるため、考古学者でもあるユーノはこういった類の話にも造詣が深かった。

「英雄譚の一種だね。ふたつの槍を自在に操り、民を苦しめる怪物を退治して
 まわった民衆のヒーロー。彼はあまりの強さに『悪魔』とすら呼ばれたとか」


「ふーん。まぁ、いまの私達には関係ない話だけどね」
「そうですね。御伽噺ですし。でも『白い悪魔』だなんて、なのはさんみたいですね」
「あはは。そういえば。凄い偶然だね」

三人は偶然の一致にひとしきり笑った。





「マリー、結界抜き、いけそう?」
話が一段落したところで、レティがマリーに問いかける。

「ううぅ〜。この結界2枚重ねなんですよぉ〜。
一枚目はもう抜けますけど、二枚目の方にてこずってて…」
「確かにこれは。何て複雑な術式なんだ…」
マリーとユーノが結界の術式が表示された画面を見つつ、唸っていると
威勢のいい声で、会議室に通信が飛び込んできた。

<<あたしに任せときなっ!内側の一枚なら、なんとか抜いてみせるよ!>>

「アルフ!」
「アルフさん!」

驚きの声をあげるマリーとユーノに、「私が呼んだのよ」とレティが説明して、
通信画面のアルフに向き直る。アルフは近年の子供の姿とは違い、
昔、フェイトの補佐をしていた頃と同じ、大人の女性の形態をとっていた。

「実際に実力行使でなのはさんを抑えるとなると、かなり骨よ」
<<まぁ、何とかなるさね。こっちにゃ、ストライカーがいるんだし>>

あっけらかんと言うアルフの楽天的な態度に、少々不安を覚えながらも、
レティはアルフの後ろにいる増援を通信越しに確認した。
「確か、起動六課のアタッカーだったスバル・ナカジマ…一等陸士?」
<<はい!>>

レティはすばやく、脳内で計算をめぐらせる。
(この子ならいけるかもしれない。)

「まぁ、くれぐれも無理はしないこと。二人ともいいわね?」
<<わかってるよ!>>
<<はいっ!!>>


「何とかRHの方を、止められれば…」
画面に向き合いながらマリーが苦しげに言う。

「勿論、それが一番穏当な解決方法だわ。
 でも、保険はかけておかないとね…」
その言葉に、マリーは苦虫を噛み潰したような表情になる。
「最悪、RHを破壊して止めるつもりですか?」
「そうならないように最善は尽くすわ」

交わされる会話にユーノの顔色も悪くなる。
「はっ…破壊って…」
「あのままじゃ、なのはさんの立場がどうなるか…わかるわよね?」
「くっ…」
唇を噛みしみてユーノはうつむく。

会議室まで響いてくる砲撃音に、レティはため息をつく。
「長い一日になりそうね…」

●●●



<<アルフ!今だ!>>

聞こえてきた念話に瞬時に反応し、アルフは拳を振りかぶった。
マリーとユーノによって解読済みだった二枚重ねの結界の外側部分が、
ジグソーパズルをブチ撒けたように崩れおちる。
狙うのは、その先にある二枚目!

「バリアァァアアア!ブレイクッ!!」

裂ぱくの気合もろとも、アルフは結界を拳で殴りつけた。
打ち抜いた部分からヒビが入り、薄桃色の結界は、盛大な音をたてて割れた。

即座にスバルが割れた結界を越えて、内部に突入していくが、すぐに足を止める。
突入したスバルの目の前には、白い服の魔導師が仁王立ちしていた。
驚いてスバルは思わず名前を呼んだ。

「な、なのはさ…っ!?」

だが、言い終えないうちに、白服の魔導師は、
無表情でショートバスターを撃ってきた。
ノーモーションからの砲撃だったため、スバルの反応が遅れる。

が、アルフが飛び込んできて、間一髪でシールドを張る。
「こらっ!ぼさっとしてんじゃないよ、スバル!」

「す、すいませ…え?」
またしても、スバルの反応は遅れた。
十分に強度もあるはずのアルフののシールドが一撃で砕け散ったのだ。

「だぅううわああああああ!?」
爆発の余波でスバルはしりもちをつき、
アルフは壁を突き抜けてはるか後方まで吹き飛ばされる。

スバルは呆然と、なのはを見る。
そして気づく。
なのはの足元には、ボロボロになった人の形をした物体が、多数転がっていた。

「ぁ……」

なのははゆっくりと長槍をスバルに向けて構える。
その動作にはじかれたように、スバルは立ち上がり、疾走した。
彼女の心の中はたったひとつの思いで満たされていた。

(止めなきゃ!なのはさんを!止めなきゃ!)

壁を足場にして一気に跳躍。
(なのはさんは優しい人だもん!なのはさんにこんなことさせちゃ駄目だ!)

「マッハキャリバー!」
<<All right buddy >>

「ドライブ!」
<<Ignition >>

「止めるんだ!私が!」

強迫観念にも似た思いに突き動かされながら、
スバルは敬愛する自らの師に向かって、自身の拳を打ち込む。

「うおぉおぉおおおおおおおおおおお!」

だが、破れない。
なのはとスバルを隔てる一枚の壁。
シールドがスバルのリボルバーナックルを阻む。
今まで幾多もの敵を退けてきた、なのはのシールドはビクともしない。

「うおおおぉうぅらぁあぁあぁああぁあぁぁあぁあぁあぁああああ――――!!」

スバルはカートリッジを使い、さらにギアをあげて、打ち込むがやはり破れない。

「堅……すぎ、るっ!!」

しゃにむにシールドに向かって殴りかかるスバルの上から、
冷や水を浴びせかけるような声がかけられる。

「おかしいなぁ、どうしちゃったのかなぁ、スバル」
「な、なのはさん?」

その瞳は、まるで虫けらを見るような目であった。
スバルはいつかどこかで聞いたような台詞回しと声色に、我知らず身震いした。

「本気でやったら、スバルが私に勝てるわけ、ないじゃない…」
「ぅ…あ、あの…なっ、なのは、さん?」

対峙する憧れの人のどこまでも冷たい声に、
スバルはその身ばかりか声までも震わせた。
スバルはすがるような目線でなのはを見るが、
なのはの表情は微塵も揺らがない。

「そんなこともわかってなかったなんて、私の教え方間違ってたかなぁ…」
「…っ!なのはさんっ!目を覚ましてください!」

目を伏せわずかに考え込むような仕草。
スバルは正気を取り戻すことを願って必死に呼びかけるが、
当のなのははそれをまったく意に介さず、自問自答してひとりで完結する。

「間違ってるなら、修正してあげなきゃね…うん」

そういい終えるが速いか、シールドの向こうで
黄金の槍がA.C.Sモードに移行されるのを、スバルは見た。
戦慄が走る。
エクセリオンバスターA.C.S
――それは高町なのはの誇る最も危険な奥の手。
いわば零距離砲撃での特攻である。

スバルは危険を感じ、いったん後ろに下がって遮蔽物に身を隠そうと
飛びすさった。が、そこから足が動かない。
まるで、根っこが生えてしまったかのように、スバルの足が動かない。

<<It's a Delay Bind !(遅延設置型のバインドです!)>>

マッハキャリバーが叫び、バインドを解除しようと試みる。
だが、目の前の相手は待ってくれない。
なのははRHを前のめりに構え、すでに突貫態勢に入っていた。

顔をひきつらせるスバルを見て、
なのははニィッ、と歯を見せて嗤った。
それは、スバルが大好きだった
いつもの人を安心させるような優しい笑顔ではなかった。
血も凍るような凶悪で獰猛な笑みだった。

「じゃあ、スバル、いくよ?たっぷり、可愛がってあげる」



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目次:なのはさんの教導!
著者:鬼火 ◆RAM/mCfEUE

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