206 名前:エンカウンターズ・ウィズ(1話 1/4)[sage] 投稿日:2008/09/27(土) 20:58:30 ID:WR8Iwvn+
207 名前:エンカウンターズ・ウィズ(1話 2/4)[sage] 投稿日:2008/09/27(土) 21:01:28 ID:WR8Iwvn+
208 名前:エンカウンターズ・ウィズ(1話 3/4)[sage] 投稿日:2008/09/27(土) 21:03:05 ID:WR8Iwvn+
209 名前:エンカウンターズ・ウィズ(1話 4/4)[sage] 投稿日:2008/09/27(土) 21:05:00 ID:WR8Iwvn+

JS事件から数ヵ月後のとある昼下がりのロング・アーチ。
テラスに新人4人と、アルト、ヴァイスがいた。

午前中の訓練を終えた新人たちは、はやてに呼びとめられ

『せっかくやから、海鳴でキャンプした時みたいに久しぶりに腕をふるおかな。みんなテラスで待っててな』
といわれ、はやての昼食を待っているところであった。

そんな青空にアルトの腹の虫が思い切りなる。
「遅いよ〜、八神部隊長」

「あの、部隊長の出身世界の故郷の料理作るっていってました。結構時間かかってるんでしょうか?」
「アルトさん。もし良かったら僕、様子見てきますか?」

「アルト、料理なんか逃げやしないぜ。スバルを見ろ。ちゃんと落ち着いて待ってるだろ」
ヴァイスは6課の武装局員や整備班の人間から賭けでせしめられそうな金の皮算用をしながらそう答える。

今回の賭けのテーマは「隊長陣で誰が一番ラブレターを局員からゲットしているか?」などという、シグナムに見つかったらレヴァン
ティンとアギトで即、地獄の業火に焼かれそうなしょうもない内容であった。

そしてスバルは先ほどから黙っていた。
「っは!!いけない腹がすきすぎて一瞬、記憶回路と身体回路がフリーズモードに入ってました!!何か言いました?」

「・・・何でもない。というか言う気が失せた。それより4人とも、今度AAランクの昇進試験受けるんだって?
掘り出し物をみつける八神部隊長たちの眼力もすごいが、お前らのどこまでも伸びていく実力も、とんでもないな」

「えへへ、それほどでも」
ヴァイスが感心した様にいうと、スバルは照れた。
「スバル。これも全部なのはさんや副隊長が私達の訓練につきあってくれたからでしょ!!」
相変わらずティアナは相方に厳しい指摘を加えるとヴァイスに質問した。

「そういえば、前から聞きたかったんですが、ヴァイス陸曹って私達みたいにスカウトされたんですか?」

「俺の場合は志願したんだよ。シグナム副隊長からの推薦もあったんだけどな」
「珍しいですね。6課は設立当時は無名の実験部隊だったのに」

ティアナの質問はもっともだった。いくら恩義を感じている上官といっても、かつてはやてが危惧していたように
設立当初は地上本部からその存在を疎まれていた部隊である。当然、そうなることをヴァイスが知らなかったはずは無い。

実力を認めてもらい推薦を受けたとはいえ、自分達新人と違って入局してウン年たつ自分のキャリアをかけてまで実験部隊に所属する
こともなかったはず。

「まぁ、そうだな。借りがあったんだよ。小さい嬢ちゃんに・・」
そうやってヴァイスは昔を思い出した。


(バカ・・野郎・・逃げ・・ろ・・・・!)
辺境の次元世界、荒野の廃墟、焼け付く太陽。砲撃魔法に飲み込まれようとしている無抵抗の少女をヴァイスは見た。
しかし自身も重症で身体が言う事をきかない。

あまりにも無力で何もできない絶望の中、爆風に舞い落ちる漆黒の羽を見た。
それは自分の絶望が生んだ幻影?死出に向かう自分を出迎えに来た悪魔のもの?それとも・・・


『魔法少女リリカルなのはStrikerS  pre story  〜エンカウンターズ・ウィズ〜』

(7年前、ヴァイス17歳)

「ワンズ・ベセル」
本局艦隊に所属するL級航行艦。1ヶ月の巡洋航海に出ており、あと2週間で本局に帰港する予定であった。

夕食の時間になったのか、航行隊の武装局員が食堂になだれ込んできた。
「お〜い、おやっさーん。みんな来たぜ〜!」

いつもなら厨房からはシェフの怒鳴り声が聞こえてくるかと思いきや。
「ちょっと待ってな〜」

そうして厨房の奥から来たシェフは、ごついオヤジではなく、まだ11,2くらいに見える幼い少女であった。
肩くらいの茶色がかった黒髪のセミロングで、左にワンポイントとしてバツ印の髪留めをつけている。しかもかなりの美少女である。
コック帽に調理服からして料理人だとは思うのだが・・・

一人が食堂を見渡して、疑問を口にした。
「あれ?いつものおやっさんは?」

少女は申し訳ない顔に言った。
「ああ、急に熱出してしもうて。さっき寄港した支局の補給基地でウチと交替したんです」

「あの頑健なシェフが病気・・・信じられない」「給料少ないから本局にストライキ起したんじゃ・・・」
武装局員達はざわつき、あることないことを話し始めたとき、少女はペコリと頭を下げた。

「あ、あの!!短い間ですが、よろしくお願いします」

少女は申し訳なさそうに頭を下げた。美少女に頭を下げられ百戦錬磨の武装局員達は恐縮する。
「おう!!こちらこそ、よろしくな」

「おおきに、それじゃあ夕食出しますね、ちょっと待っててください」
そうして少女は料理を運ぼうと、奥の厨房へ戻っていった。

「(こんなかわいい子が作る料理、更に今日のメニューはステーキ。さぞおいしいんだろうな〜)」
などという甘い幻想を武装局員は抱いた。

少女がそう言うと、奥から配膳係が料理を運んできた。銀髪に褐色の肌という外見に、武装局員より屈強で長身な男であった。
少女と並んで配膳の支度をする様は、何ともアンバランスなコンビであった。

そうしてでてきたのは黄色いケーキのようなものであった。生地の中にキャベツがまぜられ、上にはソースがたっぷりつけられている。

少女は申し訳なさそうに言った。
「急に艦に乗ることになって時間が無かったもんで、厨房の冷蔵庫にあった、ありあわせのクズ野菜と小麦粉だけでしか作られへん
かったんや。メニューにない料理だしてしまって、ほんまにごめんなさい!」

「クズ野菜と小麦粉だけ使った料理・・・」


その言葉に武装局員たちは落胆した。ワンズ・ベセルの食事は航行艦隊の中ではE−ランクのまずさである。
しかしそれでも今日のメニューはステーキと、武装局員にとってはまさに最高の夕食となる予定であったのだが・・・

突如として変わった幼い料理人、しかも予定外に貧相な料理。過去の食堂は期待と不安に包まれた。

「・・・」
そして配膳を行う大男は無言のまま、並んだままたちつくす局員達に皿を差し出した。そのかもし出す雰囲気は料理家というより武道家
や殺し屋のようなものを感じさせる。

「(あ、明らかにただの配膳係じゃねえ、というかむしろただの人間じゃねえ!?)」
『人外の者』と武装局員からレッテルをはられた男のその無言の威圧感におされ、次々と武装局員達は皿を手に取っていく。

しかし、皿からは香ばしい香りがただよってくる。小麦粉の生地の中にクズ野菜以外に何かを入れているのだろうか?
一人がおそるおそる食べてみた。

「う・・・うめぇ!!すんげーーうまいぞ!!!」
「何?」「本当か!?」

一人がそういうと武装局員は次々に口に運び始めた。数分後にはかなりの空の皿が、テーブルに積まれていた。

「ご馳走さま。おいしかったぜ。大変だったろう、大メシ食らいのヤツらばかりで」
食事を終えた食堂を出て行く中で、武装局員の一人が話しかけてきた。

「ほんまに嵐やったわ。みなさん虚数空間なみに何でも飲み込んでしまうんやね。せやけどあんなにおいしく食べてもらえば
嬉しいです。料理人としての本懐や」

「それよりさっきの料理は?」
「お好み焼きいいます。わたしの世界の郷土料理です。さっきみたいに野菜のみのもあれば色々なバリエーションがあるんや」

「そうか、俺はヴァイス、ヴァイス・グランセニックだ。よろしくな」
そういってヴァイスは長いコック帽を珍しがって軽くポンポンした。

『むぅ〜、ポンポンしないでほしいです〜』
「ん?(そんなに強くはたいたかな?)」
不意に少女のコック帽の中から声が聞こえた気がしてヴァイスはコック帽に眼をやる。彼女のコック帽がもぞもぞと動く。
ヴァイスの視線に少女は気づいたのか少女はあわてた。

「あっ・・・いや、あはは〜。この帽子気に入ってるんや、触らんといてな〜」
そうして少女は必死に帽子を抑える。

「そ、そうか、すまなかったな(まだもぞもぞ動いてる・・・)」
そう言いながらこの明らかに不審で、極上の料理を作る不思議な美少女の事を気にしつつもヴァイスは食堂を後にした。

「お兄さん、ヴァイスさん言うんやね、ん?もしかしてエースの・・・」
「エース?」

ヴァイスが少女の言葉を繰り返して言うと後ろから、武装局員の仲間がおぶさった。
「コックの嬢ちゃんよ、どこで仕入れた知識か知らねーけど、こいつがエースなわけないぜ」
「まだ魔導師ランクもCランクだしな」
「せ、先輩!!重いっス!」

もう一人の副隊長の記章をつけたの武装局員が言った。
「まあ、お前がこっちに来てから、訓練や戦闘らしい戦闘もしてないし。こいつの実力を全く見た事がないってのもあるけど」

そして先輩武装局員の手を振りほどいてヴァイスは言う。
「というかエースなんてそうざらにいるもんじゃない。俺だってエースと呼ばれる人は身近に一人しか見た事ないしな」

「そうなんや・・・私の聞き間違いかな?」
ヴァイス自身にそう言われたが、少女はどうにも納得しない顔をしてクビをかしげた。

「それよりヴァイス、艦長が呼んでたぜ全員ブリーフィング・ルームに集合だってよ」
「ありがとうございます、というわけでまたな」


そう言ってヴァイスは食堂をあとにした。

艦のブリーフィング・ルーム。そこには除き武装局員やクルーの主だったもの達が集合していた。
人のよさそうな艦長は用件に入る前に、ヴァイスの方を向いた。

「ヴァイス君、空からの出向ご苦労様、海の生活は慣れたかね?」
「はい多少は、しかし少ない人員での警戒や哨戒任務はあまりしたことがないので、やはり新鮮に感じます」

「艦長、グランセニック二等空士・・・よろしいですか?それでは作戦を伝える」
官制司令がそういうと奥に画像が現れた。
「これから本艦は第137準管理指定世界へ寄航する」

「(第137準管理指定世界・・・数年前まで長く内戦が続いていた辺境世界だ)」
数年前に空士学校で見たニュースをヴァイスは思い出していた。

「管理局航行艦隊の介入で、治安状態が落ち着いてきている。近年、無限書庫の調査でこの世界が、かつて古代ベルカ時代の戦場
である事がわかった」

官制司令の説明にあわせて、現地の急峻な砂漠や岩肌がむき出しの高原の風景からデバイスカードの画像に切り替わる。
しかし、不気味な形状や文様も、大きさも管理局技術部や他のデバイスや武器メーカーで採用されているのとかなり違う。

「先週、その無人区域から遺跡が発見されたと現地から通報があり、そこを調査したところ、古代ベルカ時代のデバイスが発見された。
現地の簡易鑑定ではD級ロストロギアに該当するレベルらしい」

D級ロストロギア。
一次元世界や大都市とはいかずとも、利用されれば、多くの事件や紛争に使用される殺傷能力の高いものに指定がされる。

「本来なら転送魔方陣で本局まで送りたいのだが、古戦場や近年までの内戦による魔力素の乱れで、遺跡付近では転送魔法を発動させる
事ができない。そこで今回は現地世界にヘリにて本艦までの護送を行ってもらう」

そして画像には遺跡から転送魔方陣、そして矢印で護送ルートが示される。

「なお、現地の状況だが。すでに無人地域と言うこと特段、治安レベルに問題はない。ただ砂漠と廃墟が広がる平和な場所だ」
「そうか。なら、ピクニックの料理を、あのかわいいコックの嬢ちゃんにつくってもらうか」
誰かの軽口にブリーフィング・ルームは艦長も含めてどっと沸いた。

「おほん、作戦開始は12時間後だ、当直の者も交代して休みをとること!以上、解散!!」
官制司令の号令でクルーはブリーフィング・ルームをあとにした。


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目次:エンカウンターズ・ウィズ
著者:44-256

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