549 クラナガンズ・プロファイル(1/6) sage 2008/03/30(日) 13:06:02 ID:uW89AmOG
550 クラナガンズ・プロファイル(2/6) sage 2008/03/30(日) 13:07:25 ID:uW89AmOG
551 クラナガンズ・プロファイル(3/6) sage 2008/03/30(日) 13:09:01 ID:uW89AmOG
552 クラナガンズ・プロファイル(4/6) sage 2008/03/30(日) 13:10:36 ID:uW89AmOG
553 クラナガンズ・プロファイル(5/6) sage 2008/03/30(日) 13:11:45 ID:uW89AmOG
554 クラナガンズ・プロファイル(6/6) sage 2008/03/30(日) 13:12:59 ID:uW89AmOG

ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐は地上本部へ部隊長講習へ参加するために歩いていた。
デバイス調整に来てくれたマリエルがついでに送るといってくれたのだが、丁重に断った。

断るに相応する理由が「一応」あった。

というのも、今日地上本部で行われる講習のタイトルが「健康管理・あなたに合ったメタボリック対策」
対象も40代以上の陸士部隊長と限定されている。

よけいなお世話だと思ったが、ギンガやスバルと違って、食べた分だけ腹が出てしまうのが中年オヤジの悲しいところである。
こんな時に戦闘機人がちょっとだけうらやましく思った。

講習を受ける前の最後の悪あがきということで、歩いて行く事にしたのだ。

地上本部までそう遠くない。もう少しで着く。

そんなときだ。通りかかったビルの路地裏が少し騒がしかった。
「おう、さっさと出すもん出しやがれ!!」
「おっ、何大事そうに抱えてるんだよ!?」

そうして悪漢たちはうずくまっている、少年から袋を横取る。
「た、頼むよ。それは・・・」

「おい、てめえら」
「ああ?オッサンはひっこんでろよ」

「見ちまったら、そういうわけにもいかないもんでな、袋をそいつに返してやれよ。それとも警ら隊員を呼んでやろうか?」
「・・・っち、行くぞ」

そうして悪漢たちは路地の奥へ引き上げていった。

悪漢たちが引き上げ、ゲンヤは少年に寄って話しかけた。

「大丈夫か?」
「ああ、本当に助かった。恩にきるよ」

『ぐぅ〜〜〜』
少年の腹が大きく鳴った。

「お前メシ食ってないのか?」
「ああ、まあ。ついさっきここに着いたばっかで何も食べてなくて。クラナガン、というよりミッドチルダ自体初めてでさ」

「ならいいとこ連れてってやるよ」
「あんた、仕事じゃないのか?」

そしてゲンヤは 空を見上げた。10月の午後。オフィス街のビルから見える太陽がさんさんと輝いていた。
秋にしては少し熱いくらいだ。

ゲンヤはコートと上着を脱いで肩にかけ、ネクタイをゆるめてこういった。
「今日くらいいいだろ、こんな天気の良い日に仕事してるなんて、明らかに犯罪だぜ」

そしてゲンヤは青年を1ブロック先の4thアヴェニューまで連れてきた。
歩道の脇に立ち食いホットドック屋がたっている。その店主にゲンヤは手を振って話しかけた。

「よう!」
「あっ、ゲンヤさん、お久しぶりです!」

「とりあえずホットドックを4つくれ。俺は・・・」
「ケチャップ抜きですよね」

そうしてゲンヤはホットドックを少年にすすめた。そうしてホットドックを口に運ぶ。
「うまい!」

ゲンヤは店主にこう言った。

「お前にノビ(泥棒)以上にこんな才能があったとは、本当に恐れ入るぜ」
「軌道拘置所にいるとき、模範囚は調理場を担当してたもんで」

拘置所という言葉に少年は少し驚き、ゲンヤは説明した。
「ああ、こいつはホットドック屋やる前は、もともと泥棒だったんだよ」

「ゲンヤさんと出会ってから、シャバに出てこの屋台を立ち上げるまでお世話になりっぱなしです。本当に感謝してます!」
「何言ってんだよ。100%お前さんの実力だ。こんだけ美味しけりゃ俺が口利かなくても、すぐに開業できただろ?」

そうしてゲンヤは青年に聞いた。
「そういや、何でクラナガンなんかに来たんだ?」
「えっ?いや、ちょっと出稼ぎに・・・」

「出稼ぎというと、急に金が入用なのか?」
「ああ、俺には妹がいて・・・あいつ生まれつき眼と足に障害があって、治療するにはたくさんの費用が必要なんだ。
今は遠い北部ベルカにいる。聖王教会の医療院なら、金がない人間でも当分は面倒見てくれるから」

「そいつは、大変だな」
「ああ・・・でも・・・」

そう言って少年は袋を握りしめてこう言った。
「こいつが、こいつがあれば治療費ができる・・・もう離れ離れにならずに一緒に暮らせる・・・」
そして少年はクラナガンのマップをポケットから出して何かを確認した。
マップには走り書きで『クラナガン中央駅・倉庫区画』にマルがつけられ『20時』と書いてあるのが見えた。

そして少年はゲンヤに振り向きこう言った。
「おっさん、ホットドックごちそう様!本当に美味しかった」
「おう!お前さんもさっきみたいのに絡まれるなよ!!」

そう言ってゲンヤと少年は別れた。

その直後、ゲンヤの元にはやてから通信が入った。
「よう、どうした?」
『どうしたじゃないです、ナカジマ三佐こそ健康管理の講習受けられへんのですか?ギンガから私のところにも、心配で連絡あったんですよ』

「いや、屋内で講習受けるより外をぶらついた方が健康にいいと思ってな」
そんなゲンヤのとぼけた返事にはやてはため息をついた。

『もう、これじゃあまるでどっかのお気楽査察官と思考パターンが一緒や!それより、ナカジマ三佐にお知らせする事があって』
「俺に、何だ?」

『実はロストロギア、それもレリックがクラナガンに密輸されたようなんです』


ゆりかご撃墜後、機動6課は残されたレリックの回収を教会騎士団と合同で行っていた。
ロストロギアなど違法性の高い物の密輸はもともとゲンヤの部隊が担当していた。

『持ち込んだ人間もあてはついてるんです。カムタイ・グエンチャムいう、なんや言いにくい名前で、魔力資質はないようです。
昨日、辺境世界からこっちへ密航してきて・・・今から写真送りますね』


そうしてゲンヤは送られた写真を見て驚いた。さっきの少年であった。
夜のクラナガン中央駅・倉庫区画。そこに少年はあらわれた。

暖かかった昼間と打って変わり、ホームには冷気と霧がたちこめていた。
少年は警戒しているのか、あたりを見渡した。


『カツコツ、カツコツ・・・』奥から足音が聞こえてくる。


少年は霧の奥から聞こえてくる足音の主に呼びかけた。
「待ってたぜ。約束のものを渡す。金は持ってきたよな!?」

そうすると足音の主はこう答えた。
「・・・残念だが、相手は来ないぜ」

奥から現れたのはゲンヤであった。そして周りが急に明るくなった。少年が周囲を見渡すと
デバイスを持った魔導師や騎士たちに囲まれている。

「あんた、昼間の!?そうか・・・あんた管理局の人間だったのか」
「お前さんとこんな形で再開する事になるとは思わなかったぜ。そいつを、レリックをこっちに渡してくれ。とても危ない代物なんだ」

少年は袋を胸に抱きしめて身構える。
「ダメだ!これは妹の・・・!」

周りを囲んでいた魔導師たちはデバイスを持って身構えたがゲンヤは手を上げてそれを抑えた。

「そいつで多くの人が傷ついてしまう。妹さんが望むと思うか?」
ゲンヤは話を続けた。

「カムタイ、お前みたいに大切な人のために、他人を傷つけようとしようとしたヤツを知ってる。でもそんな犠牲から生み出される解決策なんて
ないんだ。ただ悲しみしか残らないんだよ!!」

「なぁ、それ以上大切な人を悲しませるな。頼む・・・!」
ゲンヤの話に少年は泣き崩れて、袋を床に置いた。そこにティアナとキャロが近づき封印処理に入った。



北部ベルカ自治領、聖王教会医療院

南側の小部屋に少女が一人いた。
ドアをノックする音が聞こえ、車椅子を押して前に出た。

「誰?カムタイ兄さん?」
「いや、その知り合いだ」

扉を開けて入ってきたのはゲンヤであった。ゲンヤは見舞いの花を置くと、横の椅子に腰掛けた。

「実はな、お前さんの兄さん、当分会えないんだよな。代わりにお前さんの世話を頼まれたんだ」
「どうして?何かあったの?」

ゲンヤが答えずらそうにしていると、少女は顔をうつむかせて言った。
「・・・何かあったかはわかる、捕まったのね・・・」

そうして少女は横の引き出しを空けて手紙を取り出した。

この前手紙が届いたの。もう少しで金が一気に手に入る。兄妹二人でまた暮らせるって。すごく不安だった。
私は兄さんが元気でいればそれで良かった、良かったのに・・・」

光を失った少女の眼から涙がこぼれる。ゲンヤは自分のハンカチを貸し、2人のこれからの処遇を話した。

「それじゃあな」

説明を終えるとゲンヤは席を立った。

別れ際に妹はゲンヤの背中に問いかけた。

「ねえ、兄さんは本当に罪を犯したの?」
「ああ、残念だけど犯罪者として拘束されちまってる・・・」


ゲンヤの言葉に妹はうなだれた。そんな妹にゲンヤは振り向いてこう言った。
「・・・でも犯罪者である前に一人の妹思いのアニキだ。お前さんがよく知ってるようにな」


そう言ってゲンヤは外へ出て行った。
季節は秋、医療院の回廊に吹く風、これから冬になろうとしているのを感じた。

end



著者:44-256

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