[481] CRR sage 2007/09/15(土) 01:33:17 ID:psldqLbO
[482] CRR sage 2007/09/15(土) 01:35:45 ID:psldqLbO
[483] CRR sage 2007/09/15(土) 01:40:25 ID:psldqLbO

―――――――ドクターが捕まってしまった。
『ゆりかご』は陥落し、聖王の器も元の少女に戻り。
ナンバーズも軒並み確保され、ドクターの夢は儚く消えてしまった。

それから数ヶ月。
ドクターは裁判がまだ終わらず、未だ檻の中。
ナンバーズは管理局の監視下にこそいるが、それぞれの道を歩みだし。
私は―――――――

「ふぇぇぇぇぇん!!!ふぇぇぇぇぇぇ!!!」
「あー!!いい子だからもう少しガマンしてくれ!!」

―――――――『母親』になっていた。





チンク姉のピーカブー





「チンク姉ー!!買って来たっすよ!!」

ドアを開け、救世主・ウェンディとノーヴェが現れた。
手にはドラッグストアの袋、その中身は私が頼んだ粉ミルク。

「すまないなウェンディ、台所のお湯を使ってくれ!」

手が離せない私は、子供をあやしながら、ウェンディにお願いをする。

「あーバカ!そりゃ熱湯だ!そっちのヤカンに人肌の湯があるじゃねーか!」
「うっさいっす!だったらノーヴェが作ればいいっす!!」

「ふぇぇぇえええぇぇぇえええぇぇぇぇぇぇぇえぇえぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!」

「「「頼む、いい子だから泣き止んでくれ(っす)………」」」



泣き疲れたのか、それともお腹が一杯になったのか。
ゲップを出し終わると、わが子はすやすやと眠りだした。

「ふー、やれやれっす……」
「大体チンク姉がミルク切らすからこんな事になるんだよ」
「……申し訳ない、ウェンディ、ノーヴェ……」

管理局の本局局員用の宿舎の一室。そこに私は今住んでいる。
ごく普通のパンツルックに、家事に邪魔だからという理由で髪を後ろでポニーにした私は、
部屋の絨毯の上にペタンと足を投げ出して座ったウェンディと、胡坐をかいてぶーたれるノーヴェに頭を下げた。
ちなみにウェンディはミニスカートにカットソー、ノーヴェはカーゴパンツにTシャツといった出で立ちだ。

そう、私がうっかり粉ミルクを切らしてしまったばっかりに、先ほどのような惨事が起こってしまったのだ。



「本当は母乳が一番、って書いてはいるんすけどねー……そうもいかないっすから」
「しかたねーよ、その母乳が出ねぇ体らしいからな、私ら」

ウェンディとノーヴェは、床に無造作に置かれていた「ひ○こクラブ」の最新号をペラペラとめくりながら雑談をしていた。
この「ひ○こクラブ」、私が買った物ではなくて八神はやてから貰った物なのだが……

『いやー私もリイン育てる時はお世話になったから、きっと無駄ではないはずやで。安心しいや、定期購読にしといたから』

だそうだ。そういえば八神は19歳、あのユニゾンデバイスが稼動し始めてから8年、
……どんな11歳だ……



ドクターが捕まって1ヶ月後。
他のナンバーズの体内の『ドクターのコピー』は除去されたが、私のだけは残されていた。
『プロジェクトFの応用技術』を使った生命が『戦闘機人』から誕生する。
管理局サイドとしてもこれほど魅力のある研究材料は無いだろう。
ナンバーズ12機の中で、生体ポッドに入ったままで戦闘によるダメージが一番少ない……
というか、全く無い私の体内の『ドクターのコピー』が一番成功する確立が高い、そう判断されたのだろう。
しかし、生まれてきたのは『全く普通の赤子』。
ドクターの記憶を一切持たず、体も人間の乳児と全く変わらない。
つまりドクターの研究は、この土壇場で失敗に終わってしまったのだ。

フェイト・テスタロッサがアリシア・テスタロッサになり切れなかった様に、この子もジェイル・スカリエッティにはなり切れなかった、という訳だ。
仮に、この子が無事に成長し、ドクターと瓜二つの外見になったとしてもだ。



「お?『ビシソワーズ』?……面白そうっすね。チンク姉、じゃがいも有るっすか?」
「ああ、台所のカゴにいくつかあったはずだが……台所使ったら片付けてくれよ」
「大ー丈夫っすよ!ノーヴェじゃあるまいし」
「あん!?おい、ウェンディ!もういっぺん言ってみろよ!」

時々他のナンバーズが私を訪ねてくる。
特にウェンディとノーヴェはよく顔を出してくれて、この様に離乳食レシピを試したりと、私の支えになってくれている。
……まぁ、どこかの眼鏡のように一回も顔を出さない奴もいるにはいるが。

……私は彼女らの『希望』なのだ。
芽生え始めていた、母親になる権利を剥奪された彼女らの代わりに、この子を育て上げる義務が生じてしまった。



「……なぁ、私は、母親としてよくやっているか?スクーデリア……」

乳児用のベッドですやすや眠るわが子……スクーデリアの頬を撫でながら、独り言を呟く。
今でこそ、母親としての義務を果たそうとしているものの、スクーデリアが生まれたばかりの頃からその気持ちがあったかといえば……
残念ながら、そうではない。



生まれたばかりの頃は、わが子だというのに世話を研究員に全部押し付けていた。
管理局の勝手な都合を優先して生まれてきたのだ、お前らが面倒見ろ……正直そんな気持ちだった。

そんなある日、ふとベッドを覗き込んだ時、スクーデリアは私に手を伸ばしてきた。
その小さな体で、私を求めるように、精一杯。
それを見たとき………何かが私の心の中で変わった。
なぜか私は涙を流しながら、スクーデリアの伸ばした手を握った。

……それを『母性』というのだろうか。私はそれから必死になってスクーデリアの母親として相応しくなろうと努力した。
先ほどの八神の「ひ○こクラブ」も、実は願ったり叶ったりだったので、二つ返事で受け取った。
妹達に協力してもらい、育児に関する情報は不足無いまでに集まった。
戦闘機人ゆえの身体能力のおかげで、夜鳴きで寝不足になるような事は特に無かった分、
もしかしたら人間の母親よりは楽だったかもしれない。



「うわっ!ミキサーから溢れたっ!!」
「ちょっ!なにやってるんすかノーヴェ!!台所がじゃがいもだらけっすよ!」
「うっせぇ!だったらお前がやってみろ!」

台所からノーヴェとウェンディの声がする。こら、そんなに騒ぐと……

「……ふぁ?ぁ……ふぇ………ふぇぇ………」

あー……スクーデリアが起きてしまった……
しかもぐずりだした。しょうがないか、あのおてんば妹達の大騒ぎを聞いてしまっては。

しかしここでいつもの様に泣かれてしまうのもそれはそれで困る。
二人がまだこちらに気付かないのを確認し、私はスクーデリアの顔を覗き込む。
……八神から教わった方法だ。


「おーい、スクーデリア」

両手で顔を覆うように隠す。

「いないいない……」

後はその両手を開くだけ。
教わった当時は「こんなもので?」と疑っていたが、どうもスクーデリアはこれがお気に入りのようだ。
そんな事は集めた情報にはなかったが、八神の一言で納得した。

『子供いうんはな……お母さんの気持ちがこもっていれば、些細な事でもうれしい筈や』

成程。ならば、私は些細な事でも精一杯母親を務めよう。この子に届くように。
ドクターの研究成果という呪縛から解き放たれたお前は、紛れも無く私の子なのだと、気持ちを伝え続けていこう。


「ばあっ!!」





「あーチンク姉、いないいないばぁやってるっすね?かわいいっすよ♪」
「……っ!!見るなぁぁぁぁああああ!!!!!」



おわり。

著者:CRR

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