[481] ビター・バラッド(第4話、1/5) sage 2008/01/07(月) 18:05:55 ID:ovfK3s0c
[482] ビター・バラッド(第4話、2/5) sage 2008/01/07(月) 18:07:01 ID:ovfK3s0c
[483] ビター・バラッド(第4話、3/5) sage 2008/01/07(月) 18:08:10 ID:ovfK3s0c
[484] ビター・バラッド(第4話、4/5) sage 2008/01/07(月) 18:09:18 ID:ovfK3s0c
[485] ビター・バラッド(第4話、5/5) sage 2008/01/07(月) 18:10:27 ID:ovfK3s0c

ゲンヤは大聖堂へ続く奥の扉を開けた。
コートの下から血が滴り落ちる。
さすがに魔導師相手に戦うのは、無理あるよなと自嘲気味に思いながら
脇腹の傷をかばい、ゆっくり歩いていく。

中は暗く三角形の魔方陣を模したステンドグラスからところどころ光がさしこんでいる。
そして奥には一人男が待っていた。

「来ると思ってたよ、ゲンヤ」
「ここだと思ったぜ、マーロゥ。取引現場からは近くて西廃棄区画の中じゃ
 一番目立たない・・・そして何よりお前と彼女が式をあげるはずだった場所だからな」
「ふっ、8年ぶりになるか。ギンガとスバル、二人はどうしてる?」
「元気にしてるぜ。二人ともますますクイントに似てきやがった」
「そうか、クイントさん似というと相当な美人なんだろうな」
「やかましいところと、おせっかいな性格だけ似てきたんだよ。嬉しくねえ」
「お前の頑固なところが似なくて良かったじゃないか」

旧交を温めあうように、お互い笑った。

しかし次の瞬間ゲンヤはマジメな顔になりこう切り出した。

「マーロゥ、自首してくれ」
「自首だと・・・クイントを失ったお前ならわかってくれると思ったんだがな」
「失ったやつはもう戻らないぜ」
「それが意図的であったとしてもか、奴らを消すことが彼女の手向けになるなら。
 もう止まるわけにはいかないんだ。邪魔するならお前も容赦しない!」
マーロゥがそう言うと、ゲンヤは警棒を握り返し、こう言った。
「安心しろ、マーロゥ。てめえは俺が止めるよ」
ゲンヤがそういい終わると同時にマーロゥはデバイスを掲げ、魔法陣を展開した。

周囲に魔力球がたくさん形成されていく。
そしてアクセルシューター発射されると同時に、マーロゥに向かってゲンヤは走っていき、
床に落ちていた空き瓶を拾って相手の頭めがけて投げつけた、マーロゥは一瞬ひるむがそれを杖でたたき落とす。
しかし、空き瓶に気をとられアクセルシューターの誘導が若干甘くなる。

ゲンヤはそのスキが出きたアクセルシューターを転がりよけようとするが、
しゃがむ寸前にシューターの一発が左腕に当たった。激痛が走り、左腕の骨が折れるのを感じた。
しかしもろともせずマーロゥに接近していき、警棒をふるった。

しかしその一撃はプロテクションで防がれる。
「ぐっ!!」
ゲンヤは鉄の塊を引っぱたいた様な激しい痺れと痛みを伴って弾かれるが、必死に踏みとどまり
また間合いをつめ、警棒をふるっていき、また相手の杖の攻撃をどんどんさばいていった。

魔法が使える相手に発動のチャンスを与える余裕を作らせないように、
リーチをとらせないようにするためだ。

『ガンッ、ガツッ、ガギィィィン!!』教会内に乾いた音が響く。

何度かのつばぜり合いのあと、ゲンヤはいったん自分からやや間合いを取ると、勢いをつけて
相手のボディに蹴りを決めようとした。マーロゥはシューター放ったが、蹴りを繰り出す
ゲンヤの動きの方が早く、頬をかすっただけであった。
蹴りは横腹に入り、マーロゥはのけぞる。
そして追い討ちをかけるように警棒の柄でマーロゥの顔を思い切りなぐり倒し、デバイスをけとばした。

『カランカラン・・・』デバイスが床に転がる。

ゲンヤは床に寝ているマーロゥに警棒を突き出しこう言った。
「マーロゥ、お前が襲う今夜の取引、相手さん警戒して相当数の魔導師を
 揃えてやがるんだ。管理局だっててめぇを追ってる。いくらエースでも
 死んじまうぞ!!」
「それが・・・どうした・・・」
「てめ・・・!!」
ゲンヤはそう言いかけ、不意に自分の真上にイヤな感じを覚えた。
次の瞬間、真上のステンドグラスが割れ、先ほど頬をかすった複数のシューターがゲンヤめがけてとんできた。
「!!」
とっさにその場から離れようとしたが、シューターは誘導、爆散し、爆風をもろにあびた
ゲンヤは教会の壁まで吹き飛ばされた。
アクセル・シューターをもろに受けたゲンヤは倒れて動かない。
身体の至る所から血が流れている。
そこへマーロゥはデバイスを拾い上げ、倒れてるゲンヤへ近づきこう言った。

「ゲンヤ、さっきお前は死ぬと言ってくれたよな?彼女を失ってから俺はもう死んでるんだ。
 ジェイル・スカリエッティに協力していた奴らを道連れにして、彼女に会いに行ける。行けるんだ・・・」

「さ・・・せね・・え・・よ」
ゲンヤはそう小さくつぶやくと、カチンと小さな音がした。
そして、ボロボロになったコートのポケットから筒状の何かがコロコロと転がった。

スモークグレネード、JS事件のときにナンバーズの一人であったセインが地上本部の管制室を陥落させたときに
使ったものである。魔導師はBJにより毒や熱より守られていたが煙による視覚阻害だけは何ともならなかった。
「!!」
一瞬にしてあたりが煙に包まれ、かつての管理局のエースは一瞬気を散らせた。

その瞬間ゲンヤは最後の力をふりしぼって立ち上がり、警棒を前へ突き出した。
マーロゥも杖に魔力を込め、シューターを放つ。

−教会内にシューターの発射音が響いた−

そして、マーロゥのシューターはゲンヤの左肩をつらぬき、ゲンヤの警棒はマーロゥのボディに深く入った。
「はぁはぁ、お前は・・・死なせねえ、彼女のためにも!」
「がはっ・・・」

そして二人は倒れた。

はやてからの通報で、西廃棄区画を捜索していた近隣の陸士部隊と警ら隊員が
廃教会に到着したのはその直後であった。



三週間後、管理局軌道拘置所
「マーロゥ・リーガル。お前に面会者だ」
数分後、頭に包帯をまき、腕を吊ったゲンヤがやってきた。
「ボロボロだな」
「もう少し手加減しやがれ。こっちはスバルとギンガ、それに知り合いの嬢ちゃん
 らに泣かれたんだぜ」
「魔導師相手に無茶するおまえが悪い、それにお前、いつの間にそんなモテる様になったんだ?」
「秘密だ・・・どうだ、落ち着いたか」
「まあな」

しばしの沈黙が流れ、ゲンヤはゆっくり切り出した。

「教会で言ってたな『お前ならわかってくれると思っていた』と。俺も同じようなもんだ。
 クイントがいなくなったとき、俺の中の一部が時を止めたような思いがした」
ゲンヤは言葉を続ける。
「そして仕事の傍ら少しづつ事件を調べなおしていくうちに、薄々気づいていたんだ。
 クイントを死に追いやった奴らのことを。でもな復讐心はわいてこなかった」
「・・・」

「復讐よりも俺には大事なもの、守るべきものがあった。いやクイントが持たせてくれたんだ」

そう言って、ゲンヤは窓の外を見る。視線の先にはゲンヤを待つギンガとスバルがいた。
「あいつらがいてくれたから、俺は過去にとらわれず、今を生きていけたんだ」
「・・・」
「過去を捨てろとはいわねーよ。でも過去にとらわれて復讐のために誰かが犠牲になるなんてのは
 誰も望まない。何よりお前が犠牲になっていくのは、彼女は望まねーよ」
「・・・」
「彼女の、フィアンセのためにも、今を・・・生きてやれ」

刑務官が時計をみて言った。
「ナカジマ三佐、そろそろ時間です」
「わかりました・・・じゃあな、マーロゥ。また来る」
そうしてゲンヤがドアに向かっていくと。
「ゲンヤ」
今まで黙っていたマーロゥが口を開きこう言った。
「ありがとな、相棒」
ゲンヤは振り返らずにしかし、右手を上げ親指を立てこう言った。
「貸しにしておくぜ、相棒」

拘置所の出口で二人が待っていた、スバルが手を振っている。
今まで絶対安静だったゲンヤが心配になってついてきたのだ。
「お父さん!!」
ゲンヤも二人に対し、笑顔を向ける。
「おう、待たせたな!」
歩いている間に3人はゲンヤが寝ている間の話になった
「お父さんが寝ている間、ナンバーズのみんなも心配してたんだよ」
 特にノーヴェなんか脱走してでもお見舞いに行くってきかなかったんだから」
「八神部隊長も私たち二人と一緒に、つきっきりで病院につめ
 てくれたんだからね」

俺って人徳あったのかとゲンヤは改めて思う。
でも何で八神のやつがそんな俺なんかに親身になって?とも思った。

3人で話しながら転送ポートに向かって歩いていく途中で
ゲンヤはふと空を見上げる。季節は秋。空はどこまでも晴れ渡っていた。





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目次:ビター・バラッド
著者:44-256

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