206 ワケありの子 1 ◆6BmcNJgox2 sage 2008/04/01(火) 18:36:27 ID:CXO2typV
207 ワケありの子 2 ◆6BmcNJgox2 sage 2008/04/01(火) 18:37:53 ID:CXO2typV
208 ワケありの子 3 ◆6BmcNJgox2 sage 2008/04/01(火) 18:39:24 ID:CXO2typV
209 ワケありの子 4 ◆6BmcNJgox2 sage 2008/04/01(火) 18:40:40 ID:CXO2typV
210 ワケありの子 5 ◆6BmcNJgox2 sage 2008/04/01(火) 18:43:04 ID:CXO2typV

これはミッドチルダに棲むごく平凡な親子のごく平凡な日常をつづった
って表現すると嘘になるけど、結構平和にやってる家族の物語。

「みんなー! ご飯出来たよー!」
夏休み中のまだ明るい夕方。母、なのは=T(高町)=スクライアは台所のある部屋から
ドアを開けて廊下へ出ると共に皆へとそう呼んだ。
「は〜い!」
そう言って最初に部屋に来たのは養子でもある長女のヴィヴィオ=T=スクライア。
「どんなご飯かな〜。」
「お腹空いちゃったよ〜。」
続いてやって来たのは次女のゆのは=スクライアと次男のナーノ=スクライア。
その後で父であるユーノ=スクライアがやって来る形となり、皆席に付いて
食事を取ろうとしていたのだが…
「あれ? ジェイハは?」
「あ、そう言えばお兄ちゃんがまだ来てない。」
「多分また部屋で何かしてるんじゃないかな?」
実はスクライア家にはもう一人長男がいるのだが、ここには集まっていない様子。
「仕方ないわね〜…。じゃあママがちょっと呼びに行って来るから皆先に食べてて良いよ。」
「ハ〜イ! いただきま〜す!」
と、なのはは不機嫌そうに廊下へ出て一番奥にある部屋へ向けて歩き出し、
その先にあるドアを開けるのである。
「ジェイハ! ご飯よ!」
と、勢い良くなのはは長男を呼ぶのだが………
「やったぁ!! 成功だぁ!!」
「キャァ!」
いきなり部屋中にその様な叫び声が響き渡り、逆になのはが驚いてしまった。
そして部屋の中にいた一人の少年がなのはへ人の手を模した機械を見せるのである。
「見てよ母さん! ついに出来たんだよ! 夏休みの自由研究で作っていた魔導師の
リンカーコアから発生する魔力に反応して動く義手が! これなら事故とかで手を
無くした魔導師とかでも元通りに魔法を使える様になるよきっと!」
彼がスクライア家の長男坊、ジェイハ=S=スクライア。
彼もヴィヴィオ同様になのはとユーノの養子なのであるが…少しワケありでもあるのだ。
彼が二人に引き取られるに至るまでにはこの様な逸話があった。

それはまだなのはとユーノが結婚したばかりで、結婚する以前からなのはの養子と
なっていたヴィヴィオを連れて三人で行った新婚旅行から帰って翌日の事だった。
かつて起こったJS事件と言う大事件によって管理局に逮捕された時空犯罪者にして
天才科学者ジェイル=スカリエッティを拘束している場所で問題が発生したとの事で、
なのはにも早々出動要請が来ていたのである。
「まさかスカリエッティが脱走したの!?」
一度は管理局に逮捕された身とは言え、スカリエッティは天才だ。
その気になれば脱獄する事も造作は無いであろうし、しかも彼の頭脳を腐らせるのは
勿体無いと考えた管理局によって拘束こそすれど、ある程度の研究の自由は与えられている。
それによってスカリエッティが脱獄する為の道具を作った可能性も捨て切れない。
とにかく嫌な予感を感じたなのははバリアジャケットを装着し、レイジングハートを
構えて現場へ向かった。

「一体何が起こったと言うの!?」
なのはが現場にやって来た時、そこで既にスカリエッティは他の局員によって
取り押さえられていたのだが……………
「こ…これは!!」
なのはは絶句した。何故ならば、その部屋の中には培養液を満たした巨大な試験管の中で
蹲って寝ている一人の赤ん坊の姿があったからだ。それを見た瞬間なのはに
スカリエッティに対する憎悪の炎が燃え上がる。スカリエッティはかつて人造生命研究を
行っていた。俗にプロジェクトFと言われる計画によって幾多のクローン人間を製作し、
それによって様々な悲劇が生まれた。幸いなのはの親友のフェイト=T=ハラオウンや
フェイトに保護されたエリオ=モンディアルの様にクローンでも良い仲間と出会って
人並の幸せを手に入れた者もいる。しかし、全てがそうでは無い。大部分はクローンで
あるが故にムシケラ以下の様な扱いを受けていたのである。
だからこそなのははスカリエッティを許せなかった。命を人為的に操作し、弄んだ
スカリエッティの所業を…そして今まさに彼は再びその悲劇を繰り返そうとしていたのである。
「ジェイル=スカリエッティ! 貴方また可哀想な子を増やそうって言うの!?」
なのはは珍しく熱くなり、スカリエッティ目掛けレイジングハートを向け、それまで
スカリエッティを取り押さえていた局員さえビビって飛び退く程だったが、
スカリエッティは目から涙を滝の様に流しながら叫んだのだ。
「違う!! 私の話を聞いてくれ! 確かにこの子は試験管の中の培養液で育てているが
プロジェクトFとは何の関係も無いし、クローンでも無いんだ!!」
「え………。」
スカリエッティの必死の主張になのはも思わずレイジングハートを下げるが、
スカリエッティはなおも必死の形相でなのはへ頭を下げ……
「それにこれは高町なのは君…いや今はなのは=T=スクライアか…。君にも関係のある事なんだ!」
「それってどう言う事…? 良く話を聞かせて…。」
再び局員にスカリエッティを取り押さえさせた後でなのはは彼から事情を聞く事にした。
「それは君達がレリック事件とかJS事件とか呼んでる事件にまで遡る。
その時はまだ私は君など眼中に無かった。例えエース・オブ・エースと
呼ばれようとも、あくまでも管理局員と言う範疇での話だから高が知れると
思っていたんだ。しかし実際は違った。私が手塩にかけて作り上げた
ナンバーズはおろか………古代ベルカの聖王さえ屠った実力を見せ付けて
くれたでは無いか! 何故だ!? 何故君はそこまで強い!?
遺伝子を操作したワケでも…何か改造されているワケでも無いと言うのに…。
その日以来私は君に興味を持つ様になった。そして君の遺伝子を採取して
それを基にしたクローンを作ろうと考えたが…流石にプロジェクトFは
管理局にマークされていて今の状態では出来そうに無い。だが、遺伝子操作では無く
品種改良ならばどうだ!? つまり遺伝子を書き換えるのでは無く…
優秀な卵子と精子を組み合わせる事によって優れた人間を生み出そうと考えたんだ!
そうと決まれば早速私はナノサイズのガジェットを作ってなのは君…
君の膣内に進入させて卵子を一つ採取させてもらった。そして別に用意した
優秀な精子と結合させ、培養液の中で育てて…………………。」
「馬鹿――――――――――――――――――!!」
「んご!!」
なのはの拳がスカリエッティの顔面にめり込んだ。
「貴方一体何を考えているの!? クローンじゃなければ何だって良いって
言うのは間違ってる! 結局命を玩具同然に扱っているのは同じだし………
何よりも………この女の敵――――――――――――――!!」
なのはは股間を両手で押さえ、顔を真っ赤にされながら叫んだ。
無理も無い。人の知らない間に膣内に変な機械に侵入させられて
卵子を一つ抜き取られてしまっていたのだから。これは女として非常に屈辱だ。
そしてなのはは目から涙を浮かばせながら試験管の培養液の中で眠る赤ん坊を指差す。
「じゃ…じゃあこの赤ちゃんは私の卵子が使われてるって事?」
「うんそうだよ。」
「精子は? 精子は誰のを使ったの!?」
そこもなのはにとって気になる事。なのはが直接産んだワケでは無いが、
試験管の中の子がなのはの卵子を使っている以上、立派になのはの子と言う事になる。
ならば当然父親も存在するワケで…一体誰が父親なのだろうと考えていたのだが……
突然スカリエッティは笑い出しながらこう言ったのだ。
「ハハハ! 私に決まってるじゃないか! 最高の卵子を受精させるに相応しい
最高の精子を持つのはこの私以外には存在しない!! でもね、私が後十年は若ければ
そんなみみっちいマネはせずに直接君を抱いてやってる所だよ!」
「何が最高の精子よこの馬鹿――――――――――――!!」
またもなのはの顔は真っ赤になり、拳がスカリエッティの顔面を捉えていた。

こうしてスカリエッティは再度取り押さえられ、より厳しい監視下に置かれる事となった。
なお、試験管の中で眠っていたなのはの卵子とスカリエッティの精子によって
生を受けた赤子は、もう培養液から出しても良い程度に育っていると判断された故、
試験管の外へと運び出された。

スカリエッティの問題はとりあえずの解決を見たが、彼が試験管の中で生み出した赤ん坊と言う
問題は残っている。しかもクローンや遺伝子操作によって生み出されたワケでは無く
純粋に卵子と精子を結合させて生み出された存在と言う点に管理局も頭を抱えてしまった。
「どうしよう…この子…。」
とりあえずはタオルに包んだ状態で揺り篭に寝かされはいるが…
これにはなのはは当然のごとく、騒ぎを聞き付けてやって来た他の皆も悩んでいた。
「なのはちゃんの卵子とスカリエッティの精子で……ねぇ…。別になのはちゃんが
直接産んだ子ってワケでも無いけど……でもなのはちゃんとスカリエッティの子でもある…
その子をどうしようか…難しい問題やな。」
はやてもまた腕組みしながら悩んでおり、またフェイトもショックを受けた顔で言うのだ。
「何で…何でよりにもよってなのはとスカリエッティの間に子供なんて…。」
「あの…フェイトちゃん? 誤解されそうな言い方はやめてね?」
余りにもショックの凄さになのはも呆れてしまっていたが、既にフェイトの脳内では
スカリエッティがなのはを直接手篭めにして孕ませる光景が繰り広げられていた。
それだけならまだ良いのだが…
「いやいや! これは面白いかもしれないわ! いわゆるギャップ萌えって奴!
なのは×スカリエッティ! 管理局のエースと凶悪時空犯罪者! 立場を超えた禁断の愛と
二人の間に誕生した新たな命! 今度のコミケはこれで決まりね!」
「馬鹿ぁ! 場をわきまえろシャマル! なのはの気持ちを考えろ!」
と、ドサクサに紛れて不謹慎な事を言い出したシャマルが
ヴィータに殴り飛ばされると言った光景も見られた。だがいずれにせよ問題の解決には程遠い。
「この赤ちゃん…可哀想…。」
「ヴィヴィオ…。」
何時の間にか揺り篭の赤ん坊に顔を近付けるヴィヴィオの姿があった。そして目から涙を
浮かばせながらなのはへ訴えるのである。
「ねえなのはママ! この子はママの子でもあるんでしょ? なら家で引き取ろうよ!」
「ちょっと待ってヴィヴィオ! この子はスカリエッティの子でもあるんだよ!」
慌ててフェイトがヴィヴィオを抑えようとするが、ヴィヴィオは止まらない。
「うん…ヴィヴィオもあのおじちゃんから色々酷い事されたけど…でもこの子は
関係無いじゃない! おじちゃんは悪い人だけど…この子は悪くない! だから…だから…。」
「ヴィヴィオ…。」
ヴィヴィオは真剣だった。彼女もまたスカリエッティの手によって作られた存在だからこそ…
この子を大切にしてあげたかったのである。
「ねぇママ…ダメなの?」
「………………………………………。」
ヴィヴィオはなおも涙を流しながらなのはへ訴え、なのはも暫し沈黙するのだが………
「あーもーしょうがない! この子も私が面倒見てあげるから! 私の卵子使ってるって事は
私の子供でもあるわけだから……本当仕方が無いでしょ!?」
「うわ〜い! ママありがとう!」
なのはは半ばヤケクソ気味に揺り篭の上の赤ん坊を抱き上げながらそう力強く言った。
それにはヴィヴィオも大喜び。
「しょうがあらへんな…確かにスカリエッティの子でもあるけど…なのはちゃんの子でもあるし…
なのはちゃんから育てられるんやから悪い子にはならんやろう。」
と、はやてもとりあえずは納得し、こうして赤ん坊はなのはの養子として引き取られる事となった。

赤ん坊はジェイハと名付けられ、フルネームはジェイハ=S=スクライア。
Sは当然スカリエッティを意味し、スカリエッティの子供でもあると言う事を
忘れない為の物であったが、そこで管理局は妙に気を遣ったのか
スカリエッティがなのはの卵子を本人の知らない間に採取して、自分の精子と
組み合わせて子供を作っていた事実を隠蔽し、ジェイハは事故によって両親を亡くし、
なのはによって養子として引き取られた孤児と言う事にされ、それに伴う戸籍も作られた。
もしジェイハがスカリエッティの子であると公になれば、何をされるか分かった物では無いし、
また本人の知らない間に卵子が使われただけのなのはにも被害は予想される。
それ故に管理局はその全てを隠蔽し、無かった事とした。それ故にジェイハ=S=スクライアの
Sの意味がスカリエッティを意味する事は関係者等ごく一部のみに留められていた。

その後ジェイハはなのはとユーノの子として、間も無くして誕生したゆのは・ナーノ共々に
何不自由無くすくすくと育って行った。しかし育つに従って顔が実父であるスカリエッティに
似てくるし、また能力に関してもスカリエッティの血の方を色濃く受け継いでいる為、
スクライア家の中で魔力資質は最低だが(ただし必要最低限の魔法は使える)、
その代わり手先が器用で様々な物を作る事が出来た。そしてついには作中冒頭の様に、
リンカーコアから発生する魔力によって作動する魔導師用の義手まで作り上げてしまったのである。

「と…とにかく…ご飯出来たから一緒に食べようよジェイハ…。」
「うん。分かったよ母さん。」
なのはの血と育て方がバランサーになっているのか、とりあえずは実父スカリエッティと違って
素直な良い子に育ってはいるが…やはりなのはには夏休みの自由研究で義手を作ってしまう彼の
才能が恐ろしかった。
「(お願いだから…スカリエッティみたいなマッドサイエンティストにだけはならないでね…。)」
そう心から祈りながら、なのはとジェイハの二人は食事の為に部屋を出た。

                      おしまい



著者:◆6BmcNJgox2

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