889 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2012/06/20(水) 23:28:02 ID:U3SjXIro [2/8]
890 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2012/06/20(水) 23:28:34 ID:U3SjXIro [3/8]
891 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2012/06/20(水) 23:29:09 ID:U3SjXIro [4/8]
892 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2012/06/20(水) 23:29:44 ID:U3SjXIro [5/8]
893 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2012/06/20(水) 23:30:21 ID:U3SjXIro [6/8]
894 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2012/06/20(水) 23:31:05 ID:U3SjXIro [7/8]

 大いなる力には大きな責任を伴う。

 それは、たった一人でどんな強敵にも命を懸けて戦い続ける、ただ一筋に無敵の男。
 召喚した巨大ロボが棒立ちのまま剣を投げて、登場して数秒で敵を粉砕するヒーローの言葉だったろうか。

 彼は、強かった。

 あれに匹敵するのは、清らかな花咲き誇る四人の少女達の祈りによって現出し、登場して数秒で敵を鉄拳粉砕する巨大女神くらいだろう。
 因みに女神は時々ビームも撃つ。

 だが、その巨大な力を振るっていた彼、彼女らは無慈悲だったろうか?
 否。
 ヒーロー達は常に慈悲を知っていた。思いやりを知っていた。
 自らを犠牲にして友を、家族を、世界を救っていた。

「わかるな、なのは」

「うん」

 なのはは、父士郎の言葉に頷く。
 例え話の部分で少々不安もあったけれど、これはきっとまだ小学生の自分にわかりやすいように色々とアレンジしてくれたのだろう。
 特に、女神召喚少女など、フェイトちゃんやリンディさんを思い出す部分もあるような気がする。気がするったらする。

 それは数日前のことだった。

「ザフィーラさん、模擬戦に付き合ってくれませんか?」

「ああ、構わん」

 それが間違いの元だった。

 実はザフィーラがその前日、シグナムの全力模擬戦に付き合っていたとか、
 実はザフィーラがその早朝、ヴィータの全力模擬戦に付き合っていたとか、
 実はザフィーラのその日の昼食はシャマル特製汁かけご飯だったとか、
 そういう些末なことは問題ではなかった。

 問題は、なのはの一撃がザフィーラの護りを貫いてしまったことである。

 幸いなことに命は取り留めたが、数日の絶対安静が必要との診断が下されたのだ。
 当然のように、なのはは責任を感じている。
 ザフィーラ相手には勿論のこと、その主である八神はやてにもだ。
 はやてがヴォルケンリッターの主として日夜頑張っていることは皆知っている。
 ヴィータには実の姉のように面倒を見、シャマルには料理を教え、シグナムの胸を揉む。ヴォルケンリッターの主としての当然の行動である。
 そのはやてが、ザフィーラの事故に心を痛めないわけがない。
 しかもそれだけではないのだ。

 今のはやては、まだ足が完治していない。魔力を通せば歩くことも出来るが、常にそうしているわけにも行かない。
 日常生活ではまだまだ車椅子が欠かさせないのだ。
 そんな彼女にとって、狼姿のザフィーラに乗ることが、ささやかな楽しみの一つなのだ。
 その楽しみを奪った罪は異様に重い。

 怪我は治る。
 過ちは謝ればいい。
 しかし、はやての楽しみはどうすればいいのか。

 アルフを呼ぶ、と言うことも考えた。
 しかし、アルフは今は正式にハラオウン家の養女となったフェイトの世話で手一杯である。
 具体的には思春期クロノからフェイトを護っている。いくら優秀なクロノでもこんな美少女相手では色々あるのだ。色々と。
 頑張れエイミィ。

 ならば、ザフィーラの代わりになる者がいるのか。
 そこで名乗りを上げた者がいる。

「娘の過ちは、父親である私が正そう」

 他でもない、高町士郎である。

「私が、ザフィーラ君の代わりになろうじゃないか」

 士郎は早速、昔の伝手で狼の毛皮を取り寄せた。そして、着ぐるみのように加工して着込む。

「ておあー」

「お父さん、凄い。ザフィーラさんにそっくりだよ」

「元々声は似ていたようだからな」

「うんうん」

「では行ってくる。なのは、恭也、あとを頼む。母さんがフランス味巡りから帰ってくるまでには戻ってくる」

 士郎は八神家につくと、早速四つんばいではやての部屋に向かう。

「……士郎殿、ご苦労様です」

「なのはちゃんのお父さんですね。はやてちゃんのためにありがとうございます」

「なにこのおっさん」

 ヴォルケンリッター三人は既になのはから連絡を受けて事情を知っている。一人伝わっていないのがいたような気がするが。

 仲間が怪我をしたというのに自分の事を気遣ってくれるとは、なんという素晴らしい連中なのか。
 彼女らのためにも、この身代わりは成功させなければならない、と士郎は新たに誓うのだった。

「ておあー」

 部屋に入ると、ちょうどはやてが靴下を穿いていた。

「あ、ザフィーラ、どしたん?」

「ておあー」

「なんや、今日は調子が悪いんか? 最近風邪が流行ってるみたいやからな、気ぃつけなあかんで?」

「ておあー」

 軽く戯けて見せて、元気だとアピールする士郎。

「そっか、元気やねんや。そやけど、なんで喋らへんの」

 ザフィーラが狼形態でも喋れることを士郎は忘れていた。

「いえ、主、深い意味はありません。この姿で話せることをこの世界の人々に見られては具合が悪いため、普段から自制しております」

「ふぅん。それもそやな。さすが、ザフィーラは賢いな」

「ておあー」

 士郎は早速背中をアピールする。

「うん。今日も乗せてな」

「ておあー」

 車椅子の前で寝そべると、はやては器用にザフィーラの上に移動する。

 はう

 士郎は背中に乗る温もりを感じていた。

 な、なんだ、この暖かさは。
 なのはとは違う。実の娘とは違う。
 これが、これが、血の繋がらない少女の温もりか!?

「ておあー」

 とにかく、じっとしているわけにはいかない。士郎は部屋の中を歩き始める。
 はやての身体が揺れる。
 当然、背中の触れた部分とはやての跨った部分が摩擦する。

 はう、はう

 いかん。と士郎は慌てていた。
 少女恐るべし。
 背中から伝わるこの温もりは……全身に広がるこの温もりは……主に下半身に感じるこの昂ぶりは……
 いかん。いかん。

 考えろ、士郎。実の娘なのはを!
 考えろ!

 だが……
 だが……
 これはなのはじゃない。
 そう、これはなのはじゃない。

 なのはじゃない なのはじゃない 素敵な世界
 なのはじゃない なのはじゃない 現実なのさ
 なのはじゃない なのはじゃない 不思議な気持ち
 なのはじゃない(ナノハジャナイ) なのはじゃない(ナノハジャナイ) 本当のことさ

 脳内に歌が流れたような気がしたがきっと気のせい。
 猫の子を食べたりアキバからハカタに島流しにするようなプロデューサー作詞の唄なんて関係ない。

 だがしかし、この温もりは本物なのだ。
 少女の下半身の温もりが背中に。そして、微妙な振動が。

 はうはう

 駄目だ。このままでは駄目だ。

 このままでは!!


    な の は に 腹 違 い の 妹 を 作 っ て し ま う




 虫の知らせを受けて速攻帰国した桃子さんにボコられるまであと三秒。


                                      終


著者:野狗 ◆NOC.S1z/i2

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