[404]仕事人エリオ<sage>2007/07/08(日) 08:38:08 ID:a8ezmLBR
[405]仕事人エリオ<sage>2007/07/08(日) 08:39:52 ID:a8ezmLBR
[406]仕事人エリオ<sage>2007/07/08(日) 08:41:44 ID:a8ezmLBR
[407]仕事人エリオ<sage>2007/07/08(日) 08:43:06 ID:a8ezmLBR
[408]仕事人エリオ<sage>2007/07/08(日) 08:45:50 ID:a8ezmLBR
[409]仕事人エリオ<sage>2007/07/08(日) 08:47:49 ID:a8ezmLBR
[410]仕事人エリオ<sage>2007/07/08(日) 08:50:20 ID:a8ezmLBR
[411]仕事人エリオ<sage>2007/07/08(日) 08:52:43 ID:a8ezmLBR
[413]仕事人エリオ<sage>2007/07/08(日) 08:54:45 ID:a8ezmLBR

少年は許せない悪を知った。
涙を流すものがいることも知った。
一番大切な人が狙われていることも知った。
そして少年は―――――



「ホラ、エリオ起きて?仕事に遅れちゃうよ?」
鳥達のさえずる声が耳に心地よい朝、フェイトはベッドに眠るひとりの少年を揺すっていた。
エリオ・T・ハラオウン。若干16歳の彼女の夫である。
背は少し追い抜かれたので昔の様に親子や姉弟ではなくキチンと恋人や
夫婦として見られるようになったのが彼女にとって結構嬉しい事だった。
「……すみません…あと五分…」
そして彼女の最大の悩み事は…彼のこの寝起きの悪さだ。
呟くエリオは布団を被りなおし、また寝込んでしまう。
「あと五分じゃないのっ!昨日もそう言って少し遅れて怒られたんだよね!」
気合一発、布団を一気に引っ張った。だが彼は布団を離さない。
流石は元フォワードだ、布団を掴む握力にはなかなかのものがある。
このままではまた遅刻してしまう…
(…こうなったら…)
少し恥ずかしいがしょうがない。彼女の持てる最大にして最後の手段に出た。
そっとエリオの横顔に顔を近づけ、その頬に唇を落とす。
一秒。二秒。三秒。
「うわわわわわっ!!!フェフェ、フェ、フェイトさんっ!?」
こうかはバツグンだ!エリオは顔を一気に真っ赤に染め上げ、ベッドから転げ落ちた。
「起きた?なら着替えて朝ごはんだよ?」
そう言って小走りで二人の寝室を出るフェイトの頬も真っ赤だ。
いつまでも新婚気分が抜けない二人であった。


「エリオ君にも困ったものですね」
そう言って苦笑いするリンディ・ハラオウンはこう見えても二人の孫を持つ
れっきとしたおばあさんである。本人に言うとスゴイ笑顔で訂正を求められるが。
いつも通り緑茶に大量に砂糖を投下するという見ている方が胸焼けしそうな
食後のお茶を楽しんでいる。
「うん、前はこんな事なかったんだけどね…」
そういうフェイトの顔は晴れない。そう、五年前の彼はここまで寝起きが悪くなかったのだ。
五年前に任務中の事故で失踪し、一年間行方不明になった。
発見したクロノから聞いた話では転送魔法の暴走で管理外の次元世界に飛ばされ、
そこで一年を過したらしい。時空管理局では比較的多いケースだ。
彼が行方不明になったという現実は彼女にある気持ちを気付かせたのである。
彼への恋心だ。
その後、彼は無事発見され、現在このような関係へと落ち着いた。
転送事故から発見出来ただけでも奇跡といえるが…
何らかの後遺症が残っているかもしれないというのはフェイトの心に暗い影を落とす。
「でも、最近は新しいお仕事にも慣れて頑張ってるんでしょう?」
「どうなんだろ?また居眠りで怒られてないかなぁ…?」
「朝ご飯ってもう出来てます?」
件の人物がリビングに入ってくる。制服姿は凛々しいの一言に尽きる。
最近仕事の関係で視力が落ちてきて作った眼鏡も彼の容貌に落ち着きを添えていた。
が、現実は非常である。
「もう私達はお先に頂きました」
「あはは…すみません…」
リンディに嫌味を言われ、頬をかくしかないエリオ。
勿論ハラオウン家に彼の権力など無いに等しい。
エリオが席に着き、フェイトがスープとトーストを持ってくる。
「あの…今日は僕が運転しましょうか?」
『当然』
見事にハモったリンディとフェイトはまさに実の親子顔負けのシンクロ具合であった。


ミッドチルダ郊外の住宅地にある高級マンションを出発したハラオウン家の車は
恐ろしいスピードで高速道路を駆け抜けて時空管理局へと向かう。
法廷速度は超えているが、エリオの寝坊をフォローするためである。
「執務官がこんな事していいのかな…?」
「執務官や提督が遅刻するワケには行きませんから」
「…ホントにすいません…」
いつものやりとり。
しかし今日はバックミラーに写るフェイトの挙動が怪しい。
何故かソワソワしているのだ。
「フェイトさん、どうかしたんですか?」
「えっ?あ、その…あのね?」
(…?あ、そっか…もうそういう時期なんだ…)
言いよどむフェイトにエリオは彼女の言いたい事を察したが敢えて促す。
「何ですか?遠慮なく言って下さい」
「あの…そのね?エリオがもし嫌でなければなんだけど…
 ホラ、またAランクへの昇格試験があるから…」
「遠慮しておきます。もう四回も落ちましたしね」
いつもどおりの笑顔でフェイトの要求を突っぱねる。
ココ最近でようやく習得した高等技術だ。
フェイトの肩が小さくなる事に少々の罪悪感を覚えた。
エリオは以前の機動六課の他のフォワード陣と違い、Aランク昇格試験に四回落ちたのだ。
本人曰く『才能の限界を感じた』という事で
今では時空管理局の経理部という完全なバックスの部署に勤めている。
「でも!エリオなら今度は大丈」
「これ以上落ちてフェイトさんや義兄さんに恥をかかせるワケにはいきませんから。
 あ、ホラ着きましたよ?」


時空管理局経理部第七経理課
組織が大きくなるとそれに伴って資金の流れも大きくなる。
経理部は第三十二経理課まであり、それぞれがフル稼働して
ようやく時空管理局という組織が運営出来るのだ。
現在エリオは端末を操作してある船の先月の収支報告書の監査をしている。
(…コレは…義兄さんに知らせないと…)
閲覧した事がバレないように細工をして、端末を閉じた。
(…うっわぁ…目、疲れてるなぁ…)
眼鏡を外し、まぶたの上から目を押さえてマッサージ。ついでに目薬をさす。
そういえば出勤から二時間休憩らしい休憩を取ってなかった。そっと目を閉じる。



『もう立てないのか?このサンプルは使えんな…別のサンプ』
まだ…まだやれます……!
だから…だからあの人には――――


「貴様また居眠りか!」
振り落とされる拳骨。上がる悲鳴。第七経理課のいつもの風景だ。
「エリオ!この前いっといたあのレポートはどうした!」
「っつぅ〜〜〜…ハイ!出来てます!もう課長のデスクに送ってる筈ですが!」
「む…なら次はコレだ!今日の午後の間にしあげとけ!」

「課長、本気でエリオの事目の敵にしてるな…ありゃ流石にかわいそうだ」
「アレ?お前知らねぇの?課長がエリオ嫌ってる理由」
「ん?何か理由あるのか?アイツ確かに居眠りは多いけど
 仕事は早いしイイ奴だぞ?ちょっと酒付き合い悪いけどな」
「……お前はアイツの嫁さん知らないからそんな事言えるんだよ…
 何と!去年の『時空管理局恋人にしたい女性ランキング』第二位!
 かのフェイト・T・ハラオウン執務官であらせられるぞ?」
「…それがどうした?」
「…それがどうしただと…!てめぇ!何人の独身野郎が血の涙を流し……
 …あぁそうか、そういや去年のランキングでお前リィンさんに投票してやがったな…」
「わかってねぇなぁ…人は誰しも老いるんだ…その何とかさんもいつしかババァだ。
 だがな…彼女は永遠の美少女だぞ?エターナル・ロリータだぞ?
 あぁ!素晴らしきかな我らが女神!
 我ら『祝福の風を見守る会』の組織票で!今年もランキング一位の栄光を捧げます!」

その時、課長のデスクの通信端末が光った。それに気付いた局員が課長に声を掛ける。
「課長!通信入ってますよ?」
「電話?こんな昼休み直前に通信入れるなんてどこの常識知ら―――
 ハイィッ!大変申し訳ありませんでしたぁっ!はい!はい!
 弟さんですね?今すぐ代わります!」
通信相手の画像を見て赤から青へと歩行者信号の様に一気に顔色を変化させる課長。
その様子だけでエリオはその通信相手が誰だか解った。
「ホラ、エリオお前だお前」
そうしてエリオの端末にうつる顔はエリオの予想通り、
彼の義兄であるクロノ・ハラオウン提督である。
「職場に直接掛けてこないで下さいっていつも言ってるじゃないですか…」
「すまないな。だが急ぎの用だ。今晩は行けるか?」
「―――はい」

ミッドチルダ郊外にある管理局局員の共同墓地。
何万という墓が規則正しく並ぶそこに、その建物はある。
今では誰も信じるもののいない神を祭った古い教会だ。
もう何十年も掃除されていないのか、埃がセンチ単位で詰まっているそこに五つの人影があった。
クロノ・ハラオウン、エイミィ・ハラオウン、ユーノ・スクライア、
ヴァイス・グランセニック、そしてエリオ・T・ハラオウンである。
「これが…今回の目標だ」
そう言って三枚の写真が五人の中心に置かれた。全員の視線がそこに集中する。
「フォーデン運輸の社長とカルタス・アルトラパン執務官、そして…カムリ・アリオン提督だ。
 フォーデン運輸があるものを商品として扱っているのをこの二人が黙認していたんだ。
 勿論、それなりに見返りを受け取ってな」
クロノのぼかした言い方にヴァイスが当然の事を問う。
「あるものってのは?」
「……………獣人だ。
 管理外の次元世界の原住民を誘拐して好事家や研究所に売っていたらしい」
ヴァイスが唾を吐く。ユーノが眉をひそめる。
そしてエリオの表情が……………変わる。暗い闇とその底に熱く黒い何かを湛えたものへと。
「今回は」
そのエリオが口を開いた。
恐らく、一生フェイトには聞かされる事の無い、彼らしからぬ声。
「今回はあいつら絡みじゃないんですか?」
「あぁ。調べつくしたがあいつらとの関連性は無い」
「そうですか」
エリオの表情は変わらない。
「プランはエイミィから受け取ってくれ。では、解散だ」



ヴァイスが立ち去り、エイミィとエリオが立ち去った。
教会に残されたのはクロノとユーノの二人だけだ。
先程のエリオの表情を思い出し、思わずクロノは呟いた。
「僕は…間違っているのかもな…」
「間違ってるさ」
即座に返された辛辣な言葉。そのあまりの物言いにクロノは苦笑いしか出てこない。
「誰かを殺して得る結果なんて間違ってるに決まってる。
 それは君が否定してきた犠牲の上に成り立つ世界だよ?」
「もっと他に言い方があるだろう…流石にそこまで言われると決意が鈍る」
「なら、もっと偉くなれよクロノ・ハラオウン。
 誰かの涙を正しく止められるように。
 君が目指したのはそこなんだろう?」
そんな事を言われたら拳を握るしかない。前を見るしかない。
「そうだな…今はこれしか出来ないが…いつか…」
「君はそれでいいよ。じゃ、僕も行くね?」
ユーノも教会の扉を開け、出て行った。クロノだけがそこに取り残される。
「あぁ…いつかだが…必ず…必ずだ!」

フォーデン運輸。ここ数年で急成長した運輸会社だ。勿論その急成長には理由がある。
数々の禁制品の密輸だ。
特に三年前に始めた獣人の人身売買が大当たりした。
権力者の中には特殊な性癖を持つものも多く、
それらの趣向を満足させて色々と便宜をはかってもらえた。
更にはより人間に近いサンプルとして数々の研究所がこぞって売ってくれといってくるのだ。
こちらは単価は低いが数を必要とする。総合的な儲けではこちらの方が上だ。
故に…今、会社は順風満帆で、社長は笑いが止まらなかった。
取り巻きが扉を開く。目の前には自分専用の高級車。


「ストームレイダー、データ頼む」
『ok』
ストームレイダーのAIを移した携帯端末がデータを伝えてくる。
湿度、風速、風向、ターゲットとの距離、その他の細々としたデータだ。
それらが全てヴァイスの中で感覚として消化されていく。
旧時代の質量兵器、スナイパーライフルを構えた。
魔法とは違って質量兵器は色々な制限を受ける。
こと狙撃においては重力加速度、空気抵抗、全てが狙いを狂わせる。
スコープを覗いて撃てばそこに当たるという単純な世界ではなく、
様々な要因を組み合わせ、繊細な計算を行った上でようやく成功するのだ。
が、彼は何事にも適当な男だ。
本人に言わせればこの狙撃だって適当に狙えばあたるとの事。
そんな適当な彼だが、しかし許せないものも確かに存在した。
彼の怒りが込められるのはただの、しかし必殺の銃弾。
息を止め、筋肉のブレを無くす。
「死ね糞野郎」
その呟きが届く前に標的の頭が砕け散った。




ユーノ・スクライアは学者である。
今は無限図書館の司書長などをしているが彼の本質は研究者なのだ。
だから、どんな手段を使っても何かを求めるという意思は理解していたつもりだった。
だが違ったのだ。理解出来ないものも確かに存在した。
ある研究所で進められているという研究プランが『突然変異体』についてのものだった事、
そしてその研究サンプルのひとつに『高町なのは』が存在した事。
サンプルとして扱う?誰を?『なのは』を?あの『なのは』を?
許せるワケが無かった。許すつもりなど無かった。
その研究を叩き潰す。だが彼だけでは無理だ。
その研究所がどこにあるかも解らず、誰が関わっているかも解らない。
だから、クロノに協力し始めた。

彼の目的はひとつだけだ。
なのはを守ること。
彼女に救われた命だ。彼女の為ならいくらでも汚れられる。
泥を被ってもそれが何だって言うんだ。
彼女が笑えるならそれでいい。



結界を張る。管理局に気付かれないように彼の持てる最高の隠蔽技術を駆使した。
目標が異変に気付くが、もう遅い。
「チェーンバインド」
呟きと共に彼の足元から緑の鎖が伸び、真下にいる目標の首に絡みつく。
「カルタス・アルトパラン執務官ですね?」
問うが、答えは返ってこない。
当然だ。
彼の足は既に地についておらず、その全体重が首にかかっているのだから。
「すいませんがあと少し我慢して下さい。それで全部終わりですから」
微笑むユーノ。
それはもう長い間なのはをまっすぐ見ていない自分への嘲りの笑いだった。





それは6年前から始まった事件。
そして5年前に表面化し、4年前に表向きは解決した事件。
6年前、それはスカリエッティが関わった一連のレリック事件だ。
彼の発言でフェイトとエリオがプロジェクトFATEの成功例だと知られたのだ。
勿論、即座に情報統制をしいたが…時空管理局の上層部のものは例外だった。
そして、5年前にある事件が起こる。
転送事故を装ったエリオ誘拐事件。
そこでエリオは一年の地獄を味わう事になる。
4年前、クロノ率いる一団が研究所を襲撃しエリオを救出したが
研究者は誰一人として捕まえられなかった。
あまりに動きを察知され過ぎている。
だから少年は―――――

(フェイトちゃんと仲良くしてる?)
(仲の良さには自信があるつもりなんですけど…)
カムリ・アリオンの邸宅に潜入しながらの会話。
最初の頃は緊張で何も喋れなかったが今では念話で世間話も出来る。
随分遠くに来てしまった事にエリオが自虐の笑みを浮かべた。
(うぅ〜ん…でも最近悩んでたよ?あんまりしてくれないって)
(フェイトさん、ああ見えて激しいですから。毎日なんてもちませんよ)
(あはは。実は好きそうだよね、フェイトちゃん)
(それに、今悩んでるのは別の事だと思いますよ?
 例えば…僕が未だにBランクでオーバーSランクの自分とは釣り合わないとか)
(…………………………)
(エィミィさん?)
(今言った事、絶対にフェイトちゃんに言わないでよ?
 あの子、そんな冗談とかまず通じないから本気で泣くからね?
 ホラ、セキュリティのコントロール奪ったからいけるよ)

寝室の扉が開く。
その異常事態にカムリ・アリオンの意識は一気に覚醒した。
いくら昔の理想を忘れたからと言って経験までが彼の体から消え去るわけではない。
歴戦の魔導師である彼は枕元に置いてある待機状態のデバイスを取り、立ち上がった。
「カムリ・アリオン提督ですね?」
声がした方に目をやるとそこには闇夜の中でも赤と解る燃える様な色があった。
「君は…誰かね?こんな夜中に訪問とは随分無作法だと思うのだが」
「貴方に払う敬意を生憎持ち合わせていないもので」
「全く…最近の若者は」
待機状態を解除し
「けしから」
デバイスを向
『sonic move』
けた先には既に誰もいなかった。
背中の中央に感触。
「ん」
「動かないで。この写真を見てください。誰か解りますか?」
肩の後ろから伸びる手につままれている一枚の写真。
そこで初めてカムリは自分が背後をとられた事に気付いた。
「…………この写真は?」
背中を流れる冷や汗を感じながら写真を見ると、そこには微笑む一組の男女が写っている。
だが、彼の記憶にはその男性も女性も無かった。
「流石に動じませんか。でもこの写真の人物は…解って…欲しかった……!」
『Thunder Impluse』
心臓へと流れる電流。鼓動が止まる。
「―――――がっ…ぐっ…ぁ」
「その男性が貴方の不正を告発しようとして消された局員で、傍らの女性は恋人だそうです。
 せめて…意識を失うその時までは懺悔に費やして下さい」
もがく。苦しい。この男は何を言ってるんだ。
カムリの意識はそのまま闇へと落ちていく。

(…そういえば…あの男…ブリッジの端で…いつも…)

夜の高速道路を一台の車が走る。勿論法定速度は守っている。
運転席にエイミィ。そして助手席には眠るエリオがいた。
(この子もこの年で色々背負っちゃって…)
エリオは一年間ある研究所で研究対象として様々な実験をされた。
人工のリンカーコアの完成体であるエリオのリンカーコアを観察する為に
様々な投薬と模擬戦闘が繰り返されたのだ。
ボロボロになったエリオは一度絶望に自我を放棄しようとした。
それを察知した研究者の一人が、ある一言をエリオに告げる。

『お前が駄目なら別のサンプルを取ってくるしかないな。
 そうだな…あの金髪のお人形さんなんてどうだ?』

エリオの目に火がまた灯る。
彼は、フェイトを守る為に彼に出来るたったひとつの抵抗を開始した。
それは研究者を満足させるデータを出し続ける事。
研究者達の望む理想的なモルモットとして実験に協力し続ける事だった。
課せられたノルマは過酷で、たった一年、それだけの期間で
エリオのリンカーコアは一時期手の施し様が無いほどに磨り減った。
現在もその実験の影響は残っている。
日常の行動でもリンカーコアが磨り減り、その回復に多くの睡眠時間を必要とする。
魔法など使用したならばこの様に一時的に昏睡状態まで追い込まれてしまうのだ。
だが彼はこれを続ける。
あの研究を指示したものが管理局にいるのは間違いない。
ならば、そいつを突き止め、追い詰め、叩き潰すまで彼は続けるだけだ。
そうしなければフェイトを守れないのだから。

規則正しい寝息を立てるエリオを見て、エイミィは思う。
止めたって止まらないのだろう。この男の子は。
だからこう呟いた。
「頑張れ、男の子」




マンションの部屋まで辿り着いた。
もうすっかり夜は明けていて結果的に朝帰りとなってしまった。
(怒ってるんだろうなぁ…)
鍵を開けて、ドアノブを引っ張り、気付く。
(チェーンかけられてる!)
しかも…チェーンのせいで僅かにしか開かない扉の隙間から見えてはいけないものが見えた。
見覚えのある艶やかな金髪である。
(いる!)
「あの…フェイトさん…?」
「…………どこ行ってたの?」
きっと自分は死神の呼び声でもここまではビビらない、そう思える程ビビれた。
「えっと…同僚の皆に誘われて…おさ」
「エリオの同僚には全員連絡とってます」
退路も塞がれた。いや、まだひとつあった。
「じつは義兄さんに誘われて!」
「またクロノなのっ!?」
(よし!怒りの矛先が逸れた!……あとすみません義兄さん)
心の中で最大級の感謝を捧げる。
「義兄さんの誘いですから断れなくて…僕も泣く泣くついていったんですよ…
 ホラ、その証拠にお酒全然飲んでませんし!匂ってもらえれば解りますよ!」
その言葉に沈黙が続く。
エリオは胃が締め付けられるのを感じた。
いや、胃どころではない。今なら小腸くらい余裕で吐けそうだ。
突然、扉が閉められた。エリオの鼓動が止まる。
が、金属音が響いた。チェーンを外す音だ。
扉が開く。
エリオは感激のあまり泣きそうだ。というか一筋涙が流れ落ちた。
「検査します」
フェイトが両手を開いている。どうやらハグしろという意思表示だ。
当然エリオに拒否の意思は無い。フェイトを抱きしめた。
フェイトがエリオの首筋に鼻を押し当て、匂いを堪能している。
「…どうですかフェイト捜査官。お酒は感知出来ましたか?」
「まだわかりません。今日は一日中検査に費やすので有給を取りなさい」
「一日中ですかっ!?」
「何か弁明が?」
「いえ、ありません………」


ちなみにリンディ提督はこうなると解っていたので早朝に出勤したそうです。


著者:一階の名無し

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