720 終焉のACE sage 2008/03/17(月) 00:33:22 ID:XlQsvpYC
721 終焉のACE sage 2008/03/17(月) 00:34:18 ID:XlQsvpYC
722 終焉のACE sage 2008/03/17(月) 00:35:17 ID:XlQsvpYC
723 終焉のACE sage 2008/03/17(月) 00:36:08 ID:XlQsvpYC
724 終焉のACE sage 2008/03/17(月) 00:37:19 ID:XlQsvpYC
726 終焉のACE sage 2008/03/17(月) 00:38:50 ID:XlQsvpYC

「ディバィィィーン、バスタァァァァッァァ!!!」

高町なのはの前では『安全地帯』など存在しない。
その強力な砲撃は、戦艦を構成する分厚い壁をたやすく撃ち抜いていく。
放たれたバスターがクアットロに向かって伸びる、伸びる、伸びる。

一方、今までに経験したことのないほど強烈な反動が砲手を襲う。
両腕から伝わった衝撃に上半身が後方にのけぞり、思わず数歩たたらを踏む。

「わっ! っとと…ちょっとやりすぎた…?」

<<No broblem. (いいんじゃないでしょうか) >>

さらに、その出力の凄まじさに、普段は安定して振れることの無い
愛機レイジング・ハートの砲口があらぬ方向に跳ね上がりそうになる。
反動に負けまいと、なのはは歯を食いしばり必死に押さえ込んだ。
なのははグリップを茶巾を絞るように固く握りこみ、
何とか、上下左右にぶれる砲口を安定させようと奮闘する。

(何…これ……? こんなにリコイルが重く…カートリッジ入れ…すぎ…た?)

が、安定させると今度は反動のベクトルが全て後方にかかってしまい、
ガッチリと握っていたはずの手から、レイジングハートが後ろに流れていった。

「ぐっ…!っうう……!」

予想以上の大出力に、なのはは強い危機感を覚えた。
必死の形相で愛機を抱え込み、
反発に耐えようと下半身に力を入れて踏ん張る。
既になのはは固い床を踏み砕いて、足首の部分まで床に埋まっていた。

だが、さらに悪いことに、ここでもう一つの反動がなのはを襲った。
ブラスターシステムの反動である。
限界を超えたオーバーロードと自己ブースト――その圧力に耐えかねた
なのはの体がミシリと軋みをたてて内部から壊れ始める。

見る間に皮膚が裂け、血が噴き出し、
白いバリアジャケットが鮮やかな紅に染まっていく。
自らの体内の血管や筋肉の繊維が、ブチブチと
千切れていく音がなのはの耳もとで聞こえるようだった。

「……!!」

脳から送られてくる強烈な痛覚に、声にならない悲鳴をあげる。
冷たい嫌な汗が全身をびっしょりと濡らす。
なのはは持ち前の不屈の精神でRHを握り砲撃を制御し続けるが、
それでも砲口は再び安定を欠き、ブレを見せ始めていた。
 


桜色の砲撃魔法が戦艦内部を砕きながら進む。
高町なのはの砲撃は、対魔力防御に対してだけでなく、
対物理的貫通作用も卑怯なまでに強かった。

「削る」ではなく、「抉る」。
否。むしろ「侵食する」。
船がガリガリと広範囲に砲撃に「喰われ」ていく。

その異常なまでの破壊力に耐え切れず、
不落を誇ったいくさ船が次第に瓦解し始める。

戦略兵器もかくやというべき猛威。
それが艦内を縦横に蹂躙し、破壊の限りを尽くしていた。
砲手ははじめて自らの力に恐怖した。
だが時既に遅し。
一度撃ち放たれた必殺の砲は、もはや何者にも止められはしない。

砲撃はあっという間にクアットロのいる最奥部に達する。


「イヤァァァァァァァァァァァァァァァッ――――!! 」

絶叫。

機人クアットロは生まれて初めて恐怖を知った。
足を縺れさせながら、迫り来る桜色の牙に背を向けて走り出す。
だが逃げることは叶わなかった。
逃げる場所などこにもありはしなかった。

桜色の光の奔流がクアットロを飲み込み、
そして、クアットロもろとも、艦船の底を撃ち抜いた。
その瞬間、艦船全体が大きく揺れ、急速に失速しはじめた。

まるで悪夢のような光景だった。
クアットロにとっても。
なのはにとっても。
そして、船外で戦っていた管理局の魔導師達にとっても。

巨大艦船を大破させたというのに砲の勢いは衰えず、
真っ青な空の中を急勾配で降下していく。
巨大な光柱が地上に伸びていくのを目の当たりにし、
空で戦っていた空戦魔導師たちは戦慄した。

下にはミッドチルダの首都クラナガンがある。
守るべき街がある。
地上で戦いつづける仲間達がいる。

そこに向かって、ゆりかごの残骸の破片が、一筋の桜色が荒れ狂う。
狂気の砲は地上に向かって牙を剥いた。



クアットロは船外に放り出され、上から下へと落下していた。
下方から吹き付ける風圧がクアットロを翻弄する。
ゴゥゴゥと風を切る轟音が、クアットロの鼓膜を破らんばかりに鳴り響く。

「あ、悪魔め……」

それがクアットロの正直な気持ちだった。
茶化して高町なのはを「悪魔じみた」と形容したことはあった。
だがそれは本心からのものではなかった。
所詮は一介の魔導師。そう思って舐めていた。
あの頃の自分を張り倒したい衝動に駆られる。
あれは、断じて人間ではない。人の姿をした「何者か」だ。

「ドクターの夢が……私達の、世界が……」

彼女の計画では、例え追い込まれたとしても逃げおおせるはずだった。
だが、全ては打ち砕かれた。高町なのはによって。
古代ベルカの叡智の粋を尽くしたロストロギア――聖王のゆりかご。
それをたった一撃の砲撃で破壊するなど、誰が予想し得ようか?
もはや技ではなく、業。
それも悪魔の業としか思えない。
人の身では到底不可能な所業だ。

見誤っていた。アレの危険性を。アレの凶悪さを。
自分達よりも、人には過ぎた力を持つ
あの悪魔のほうが何百倍も危険ではないか。

クアットロの脳裏に十年前の光景が蘇る。
雪の降りしきる中、自分達が試験運用していた機械兵器に
よって瀕死の重傷を負い、倒れ伏した白い服の少女。
当時は武装隊のエースとはいえ、特段興味の対象ではなかった。
何より彼女はほとんど死に掛けだったのだから。
しかし今思えば、あれはあのおぞましい悪魔を屠る絶好のチャンスだった。

「こんなことだったら、あの時……殺しておくべき…」

クアットロが最後に見たのは、いっそ憎憎しいほどの真っ青な空。
「ゆりかご」の破片もろとも、機人クアットロは墜ちていった。天から地へと。



壁という壁が傾き、通路がひしゃげる。
床は轟音をたててゆっくりと沈んでいき、
船の内部が甲高い軋みをあげて崩れ落ちる。
どうみても「ゆりかご」の崩壊は時間の問題だった。

RHからの魔力放出はいまだ止まらず、なおも船内を壊し続けていた。
思うように出力の制御ができない。まるでダムが決壊したかのようだった。
なのはは思わず、噛みしめた歯の隙間から呻き声を漏らす。


(私は何を……)

ガァン。唐突に鈍い音が響いた。
甲板を支える梁が外れた音だった。

なのはがその音に僅かに気を取られたその瞬間。
利き手である左腕の肘から、何かが割れたような音がした。
ガラスや金属が割れるような音ではなく、
むしろ薄い木板が割れたかのような無機質な乾いた音だった。

それが骨が砕ける音だったと気づく間もなく、
RHの柄を握っていたなのはの左手がグニャリと形を歪めて垂れ下がる。
それとともになのはの体がガクリと左にかしいだ。
一体何が起こったのか、なのはは理解できない。

やや遅れて、なのはの脳神経に左肘の激痛が届く。

「――!!」

あまりの激痛になのはの目前に火花が散った。
気が遠くなり、失神しかけるが、右腕の力を抜いた瞬間、
砲撃の反動に対する抑えを失ったRHの柄頭が、
なのはの腹部に勢いよく深く突き刺さり、
なのはを強制的に現実へと引き戻す。

「ぅあ……がはっ…!」

腹部を貫かんばかりのRHの反発の勢いに、
たまらずなのはの身体が「く」の字に折れ曲がる。

右手で必死に愛機を抑えるが、RHの反動はなおも収まらず、
なのはの腹に無情にめり込んでいく。足がガクガクと震える。
荒々しい力の揺り戻しに、遂になのはは膝から崩れ落ちる。
なのはが膝をつくと、RHの矛先がわずかに上を向いた。

ぼき。めき。ごき。がき。

なのはのわき腹から立て続けに破砕音が響く。
その間、一秒にも満たない。
内臓を取り囲むあばら骨が一気に砕ける。
なのはの口から悲鳴は出なかった。
その代わりに、喉の奥からドロリとしたどす黒い血があふれ出す。

RHの柄に押され、なのはの体が後方に一気に弾け飛ぶ。
その肉体はとうに、生きているのが不思議なくらいズタズタだった。

それでもRHを離さないのは、砲撃魔導師としての意地か。

なおも砲口から放たれる砲撃は、なのはの吹っ飛んだ方向に沿って、
壁から壁へと弧を描き、遂には「ゆりかご」の天井をも吹き飛ばす。
壁に叩きつけられた手負いのエースは、愛機を握り締めたまま
壊れた人形のように床にバウンドして転がった。

ようやくRHの魔力放出は止まったが、
「ゆりかご」の崩壊は止まらない。

仰向けに倒れこんだなのはの目に映ったのは、
大きく裂けた天井からのぞく、真っ赤な空だった。

「――!!」

その異様な光景に思わず息を飲む。

ややあって、視界を血が染めているのに気づき、
奇跡的に唯一無事だった右腕で目をこする。
もう一度なのはが目を開けると、いつもと変わらぬ真っ青な空が見えた。

しかし、幾度となく飛び回った慣れ親しんだはずの空なのに、
今のなのはには何故かひどく遠く感じられた。



私は一体何をしたのか。     
頭上の空と崩れゆく光景のなか、なのはは自問する。
だが、その問いに答える者はいない。

こんなはずではなかった。
ヴィヴィオを助けて、ゆりかごを止めて…。
ヴィータちゃんと合流して…。
フェイトちゃんにも、ヴィヴィオと二人で
一緒に帰ってくるって約束したんだから。

ああ…。寝ている場合じゃ、ない……!

ヴィヴィオを連れて、脱出しなきゃ。
私はどうなっても構わない。
でもあの子だけは。
せめてあの子だけでも助ける。

ヴィヴィオは何処だろう。
玉座のあった所に目を向けると、
漆黒の騎士甲冑に身を包んだ大きな
ヴィヴィオが呆然とした突っ立っていた。

ヴィヴィオ。

名前を呼ぶと、ヴィヴィオは緩々と
顔をあげて、私の方に視線を向けた。
そして私と目が合うと、ヒッと小さく悲鳴をあげた。

なんで。

どうしてそんな脅えたような顔をするのか。

「ママ…ママはどこ……? 」

ヴィヴィオ、ママはここだよ。
なのはママだよ。
そう言おうとしたが、声が出ない。

私が仰向けの状態から、わずかに身を起こそうとすると、
ヴィヴィオは肩をビクッと揺らし、後ずさった。
オッドアイの瞳には恐怖の色が浮かんでいた。

「悪魔……来ないで…」

雷が落ちたときのような轟音があたりにひびく。
それは艦船の断末魔の声にも似て。
船の崩壊とともに、私の中で、
何かが崩れていく音がした。

                                        BAD END



著者:鬼火 ◆RAM/mCfEUE 

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