632 名前:十一番とツンデレ彼氏 ケンカときどきラブラブ [sage] 投稿日:2010/05/24(月) 17:26:25 ID:v9g1Rd4I [2/4]
633 名前:十一番とツンデレ彼氏 ケンカときどきラブラブ [sage] 投稿日:2010/05/24(月) 17:27:06 ID:v9g1Rd4I [3/4]

十一番とツンデレ彼氏 ケンカときどきラブラブ


 夕餉を終え、湯船で身を清め、一日で最も穏やかな時間を過ごせるそんな頃合。
 だが、彼は最悪な気まずさの中にいた。
 原因は自分の恋人、十一番の赤毛の戦闘機人、ウェンディという名の少女だ。
 後ろで束ねられたやや癖のある赤毛の女の子はクッションをぎゅっと抱きしめてソファに座り、じっとテレビを見ている。
 一見すると静かにテレビ番組に意識を集中しているようであるが、しかし実際は違う。
 ウェンディは今目の前で放映されている番組になど微塵の興味もない。
 傍らにいる恋人そっちのけでただテレビ画面に視線を向けているのは、暗に彼に対して“あたし今凄い怒ってるんだからね”というアピールなのだ。
 さてどうするべきか。
 まず何より必要なのはコミニケーションだろう。
 そう断じた彼は、まず言葉を掛けてみる事にした。


「なあ、おい」


 だがウェンディはすぐには反応せず、たっぷり数秒間の間をおいてからゆっくりと横を向き、じとーっとした目つきで横目に彼をねめつける。
 そして、少女は言った。


「なあおい、なんて名前の人はここにはいないッスよ」


 と。
 まったくもって完全にへそを曲げた反応。
 普段の朗らかさが嘘のような不機嫌ぶりだ。
 少女の言葉に、彼は頭痛を覚えた。
 さて、しかし何故どうしてこんな事になったのか。
 それは今から少しだけ時間を遡らなければならない。
 夕餉時、彼の家に訪れたウェンディは最近ギンガやディエチに習って覚えた料理の腕を振るい、自慢の手料理を作った。
 二人だけの楽しい夕食、自然と少女の顔は綻ぶ。
 が、それは一瞬だった。
 邪魔者の名は電話のコール音。音源は彼の携帯端末。
 無視するわけにもいかず、彼は即座にそれに出た。
 それが悲劇の始まりだ。
 どうやら電話相手は仕事の同僚らしく、最初は仕事に関する幾つかの事項を話すだけだったのが、次第に当たり障りのない私事に及ぶ。
 しかも問題だったのは、相手の同僚が女性であるらしい事だ。
 せっかく作った手料理が冷め行く中、恋人は自分以外の女の子と楽しくおしゃべり。
 幾ら爛漫な性格のウェンディだって不機嫌にもなる。
 ようやく電話が終わった時、やや冷たくなった料理を食べながら少女は不満をちらほらと漏らした。
 “あたしの料理より電話の方が大事なんッスか?” と。
 ここで素直に謝っておけば良かったのだが、しかし彼は少しばかり不器用で素直じゃない性格だった。
 不平を告げるウェンディの言葉に対し、彼は事もあろうか。
 “しょうがねえだろ、大事な話だったんだから。”
 などと返してしまったのだ。
 不機嫌になりかけの女の子にこれは不味い。
 その言葉が出た瞬間、ウェンディの中で怒りが沸点を超えたのは言うまでもない。
 あとはご想像の通りである。
 “鼻の下伸ばしてどういう大事な話ッスか!”
 と言えば。
 “んな事ねえよ!”
 と返す。
 言い合いの泥沼にハマった二人は、しばし言葉と憤りを交え続け、そして今に至る。
 めちゃくちゃツンツンしたオーラを全身に纏ったウェンディはひたすら興味もないテレビに噛り付いて彼からそっぽを向き。
 彼はといえば冷静になった思考で少女を怒らせてしまった事を反省しながらも、なかなか謝るきっかけが掴めずにいた。
 先ほどのやりとりからも、ウェンディが未だに不機嫌ぶっちぎりである事は言うまでもない。
 いかにも困ったといった風情で頭をぼりぼりと掻き、彼は考える。
 一体どうしたものか、と。
 よくよく考えれば全ての原因は自分が彼女を蔑ろにした結果である。
 久しぶりに出来た二人の時間を大事にしなかったのは、確かに悪い。
 これはもう、小さなプライドにこだわっていられる状況ではなかった。
 彼は一度深くため息をつくとゆるりと歩を進め、クッションを胸に抱いたウェンディの隣にどすんと腰を下ろす。
 まだ不機嫌なウェンディは一瞥する事もなく前を向いたまま。
 だが眉だけはぴくりと動き、ちゃんと彼に注意を向けている事がわかる。
 

「ああ、その……な」


 そんな少女の横顔を見つつ、彼はゆっくりと言葉を選び、告げた。


「ウェンディ、俺が悪かった。何でも言う事聞くから許してくれ」


 力なく眉尻を下げ、ついでに頭も下げて、彼はきっちりと謝罪した。
 すると、今までツンとそっぽを向いていた少女がようやくこちらを向いてくれた。


「ほんとにちゃんと反省してるッスか?」


 まだちょっと不機嫌そうに、少しだけ眉を吊り上げたウェンディはむくれたように問う。
 彼女の言葉に、彼はいつになく素直に言葉を連ねた。


「してる、超してる。だから許してくれ」

「むぅ……しょうがないッスねぇ」


 言いながら、ウェンディは胸に抱きしめていたクッションをぽいと投げ捨て、彼に身体ごと向き直る。
 すると次の瞬間、思い切り彼に抱きついてきた。


「うお! ちょ、いきなり、んぅ」


 それ以上、彼には何も言えなかった。
 なにせ、柔らかい胸の膨らみを押し付けるように抱きついてきた少女が、そのまま口付けで唇を塞いできたのだ。
 無理矢理唇を重ねるだけの、幼く稚拙なキス。
 だが、その分だけ気持ちが良く伝わってくる。
 しばらく身体と唇を重ねあうと、ウェンディはゆっくりと身を起こす。
 頬は淡く紅潮し、瞳は切なそうに潤んで彼を見下ろしていた。


「反省してるなら……ちゃんとお詫びして欲しいッスよ」


 ウェンディだって彼とケンカしたかったわけじゃない。
 本当はすぐにでも彼にこうして甘えたかったのだ。
 先ほどの不機嫌さが嘘のように愛らしいその媚態。
 いつもならここで皮肉や憎まれ口の一つでも叩く彼の唇は、まるで先ほどのお返しとばかりに再びウェンディに口付けた。
 身体を起こすと共に自分に跨ったウェンディを抱きしめ、そのままソファに押し倒す。
 細い腰に回した腕はあらん限りの力で少女を掻き抱き、唇はひたすらなまでに甘い口付けを求める。
 たっぷりと舌を絡めた後に唇を離せば、つぅと唾液が糸を引いて電灯の光を受けて銀色に輝いた。


「ああ、そうだな……じゃあ今日は思いっきり優しくしてやるよ」


 告げた言葉通り、彼はその日今までにないくらいウェンディを優しく抱いた。



終幕。


著者:ザ・シガー

このページへのコメント

あぁ、糖○病になりそうwww

0
Posted by ・ 2010年08月17日(火) 22:56:10 返信

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