64 名前:野狗[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 09:44:37 ID:UXEbpKJM
65 名前:野狗[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 09:45:13 ID:UXEbpKJM
66 名前:野狗[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 09:45:48 ID:UXEbpKJM
67 名前:野狗[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 09:46:23 ID:UXEbpKJM
68 名前:野狗[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 09:46:57 ID:UXEbpKJM
69 名前:野狗[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 09:47:38 ID:UXEbpKJM
70 名前:野狗[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 09:48:12 ID:UXEbpKJM
71 名前:野狗[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 09:48:43 ID:UXEbpKJM
72 名前:野狗[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 09:49:14 ID:UXEbpKJM
73 名前:野狗[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 09:49:47 ID:UXEbpKJM
74 名前:野狗[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 09:50:18 ID:UXEbpKJM
75 名前:野狗[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 09:50:52 ID:UXEbpKJM
76 名前:野狗[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 09:51:22 ID:UXEbpKJM
77 名前:野狗[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 09:51:56 ID:UXEbpKJM
78 名前:野狗[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 09:52:27 ID:UXEbpKJM

 
「えーと……」

 案内された部屋の中、隅のほうで椅子に座っている姿を見て、スバルは我が目を疑った。
 一番近場にいるのが自分だと言われたので迎えに来たのだが、まさかこんなことになっているとは。

「あ、スバル。来てくれたん?」
「えっと……はやてさん……ですよね?」
「そうや、正真正銘の八神はやてやよ」

 まじまじとはやての姿を眺めるスバル。どうみても、自分の半分以下くらいの年としか思えない。
 すくなくとも、はやては自分より年上のはずだ。
 見た目がここまで若すぎるのはヴィータだけのはず。

「変身魔法……じゃないですよね? 何があったんですか?」
「面目ない。ロストロギアの暴発に巻き込まれてしもたんよ」
「ええっ!? それって、大丈夫なんですか?」
「うーん。この姿は一時的な物で、精々十日ほどらしいんやけどな。今、シグナムもシャマルもザフィーラもヴィータも手が離せへん状況のはずやし、
リインは力仕事無理やから……申し訳ないけど、スバルを呼んだんよ」

 スバルははやてとゲンヤのつきあいを知っていた。時期が来れば、はやてが戸籍上の母親になるのだろうなとも気付いている。
 だから、元部下としてではなく家族として助けを求めているのなら、それはそれで嬉しいとスバルは思う。

「あたしは、何をすればいいんですか?」
「とりあえず、だっこ」
「……は?」
「だっこ」

 はやてが両手をさしのべて、スバルを手招く。

「おんぶでもええよ?」
「それは構いませんけれど、どうしてです?」
「あ、スバルは知らへんかった? 私、この年の頃は足が不自由やったんよ。足まで、そのころに戻ってしもうたみたいやから」
「はやてさん飛べませんでしたっけ?」
「それが……魔力まで、当時のものになってしもた」
「当時って……まさか?」
「うん。故郷の平均的人間と同じ。魔力0や」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 いい知らせと悪い知らせがあった。
 いい知らせは、当時使っていたのとそっくりな車椅子がすぐに調達できたこと。
 悪い知らせは、ヴォルケンリッター全員がすぐには帰ってこられない任務中だったこと。
 もっとも、はやてが一言帰ってこいと言えば、全員が命令違反だろうが敵前逃亡であろうが駆けつけるのだろうけれど、はやて自身が
「大したこと無い。みな、自分の任務優先や」と釘を刺してしまったのだ。

 とりあえず、スバルは実家にはやてを運んだ。スバルが暮らしているマンションでもいいのだけれど、スバルはほとんど家にいない。
実家ならば、誰か一人は家にいる可能性が高いのだ。
 何しろ、ギンガ、ノーヴェ、チンク、ディエチ、ウェンディ、ゲンヤが暮らしているのだ。
さらにはディード、オットー、セインがしょっちゅう顔を出していくという。
 はやては一人暮らしには慣れていると言うが、何しろ相手はロストロギアだ。万が一のことがある。身体が昔に戻っただけでは済まないのかも知れないのだ。
 喜んだのはチンクだ。自分と同じようなタイプ――身体は子供、中身は大人――が一人増えたのだ。

「十日ぐらいなんだろ? 治るまでいりゃあいい。もともと女だらけの家だ。子狸一匹とおチビさん一人ぐらい増えたって、どってこたぁねえよ」
「ご迷惑おかけします、ゲンヤさん」

 出かける準備をしていたギンガが、そんな二人を妙な眼差しで見ている。

「なんでぇ、ギンガ」
「……はやてさん、嬉しそうだな、と思って」
「ちょ、ちょお、ギンガ?」
「本当ですぅ」
「リインまで、何言うてるの?」
「じゃあ、行ってきます」

 慌てるはやてを残して夜間勤務に出かけるギンガ。それをニヤニヤと見ているウェンディ。

「あ、やっぱ当たりッスか? ギン姉の言うとおりッスか?」
「やめておけ、ウェンディ」

 チンクがたしなめた。

「ことによると、我らが母上と呼ばねばならぬ相手かもしれんのだぞ」
「ひょお、ママりんッスね」

 にやりと笑うチンクに、さらに慌てるはやて。苦笑するゲンヤ。微妙な顔でその場から去るノーヴェ。
 ちなみに、ディエチはいつの間にやら車椅子係になっている。

「はやてさんなら、あたしは嬉しいかな」
「あ、ありがとな、ディエチ」

 はやてが夕食の支度をかってでた。
 支度をするのは、初めてではない。これまでにも何度か家を訪れている。泊まったこともある。
 その意味では、はやてがナカジマ家にいること自体は特に珍しくないのだ。

「すまない、はやて殿」

 食事を終え、ディエチとウェンディを含めた三人で皿を洗っていると、チンクとノーヴェが顔を出す。

「N2Rに緊急呼び出しだ。出かけなければならない」
 
 手伝えることはないか、と言いかけてはやては口を閉じた。
 今はリンカーコアの使えない身だ。手伝えることなど何もない。

「あ、そや。リイン、一緒に行ってきて」
「へ? はやてちゃんは?」
「今の私が行っても足手まといや。リインやったら、お役に立てるやろ?」
「はいです」
「ディエチ、ウェンディ。お皿は私がやっとくから、急ぎ」
「わかった」
「了解ッス」

 タオルで手を拭きながら、二人は台所を出る。

「後をお願いします、はやて殿」
「まかしとき」
 
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 二人分のお茶。
 妙に静かな屋内。
 ゲンヤがやや首を傾げそうな姿勢でお茶を飲んでいる。
 はやてがここにいること自体は最近では珍しくない。それでも、これまでは娘の誰かがいる時に限定されていたのだ。
 任務で娘たちが全員いない時ははやてが遠慮して帰っていく。しかし、今夜は話が別だ。ここではやてを帰らせるわけにはいかない。

「ゲンヤさんは出動ないんですか?」
「ああ。N2Rの基本は災害救助だからな。俺まで勤務時間外で出張らなきゃならねえ場面は滅多にねえよ」

 それこそ、あの空港火災クラスの災害だ、とゲンヤは言い添えた。
 あれから結構経ちましたね、と話題を受けるはやて。
 
「特別捜査官から六課の部隊長。今じゃあ、奇跡の指揮官扱いだ。お前さんも忙しいこったな」
「とどめに、お子様に戻ってしまいました」

 笑う二人。はやては車椅子を器用に操って、ゲンヤの隣に並ぶと、そのまましなだれかかる。
 ゲンヤは逆らわず、小さな頭を胸元で抱きしめるように体勢を替えた。
 こうしていると、ギンガたちを引き取ってすぐの頃を思い出す。

「膝に座ってもええですか?」
「おい、お前、まさか……」
「今夜はそっちはなしです。それとも、お子様が好きですか?」
「馬鹿言ってんじゃねえ」
「結構、本気ですよ?」
「さすがにな、娘より若い女を抱く趣味はねえよ」

 第一、そんな身体に欲情できるほど飢えていないし獣でもない。
 ゲンヤはお茶を飲み干すと、湯飲みをやや乱暴に置いた。

「一つ聞くが、風呂は一人で入れるのか?」
「介助してくれます?」
「悪戯するなよ?」
「それ、私の台詞のような気が」
「狸は小さくても油断ならねえ」
「うう……信用あらへん……」

 釘を刺しておいたのが功を奏したのか、それとも当たり前だと言うべきか。おとなしく湯船に浸かっているはやて。

「ゲンヤさん?」
「なんだ? 背中を流すッてんなら断るぞ」
「お風呂、出てからの話です」
「冷たいビールでも欲しいのかい?」
「そやなくて。一緒に寝て、ええですか?」

 頭を洗いかけていたゲンヤは、手を止めてはやてをまじまじと見つめる。

「恥ずかしい話ですけど……不安……なんです」
「そうか」

 もっともなことだとはゲンヤも思う。自分の身体の異常である。理屈ではいずれ元に戻るとわかっていても、不安でない方がおかしいだろう。
 それに、今更同じベッドで眠ることを照れるような関係でもない。
 だから、素直にはやてに応じることにした。

「ああ。それぐらいなら構わねえよ」
「やったぁ」

 子供のような喜び方に一瞬小さい頃のギンガとスバルがシンクロして、ゲンヤは苦笑しつつ首を振る。
 今はまるで祖父と孫だが、普段の状態でもはやてとは親子のような年齢差だ。それを考えると、このつきあいを続けたものかどうか考え込んでしまう。
もっとも、それがはやてに知られれば「年なんて関係あらへんっ!」と烈火のごとく怒り出すだろうこともわかっているのだが。
 上機嫌のまま風呂を出たはやてはチンクのパジャマを身につける。すでに借りることは承諾済みだ。
 鏡に映る自分の姿に顔をしかめるはやて。

「……この格好……」
「どうした?」
「えらいファンシーなパジャマですね」
「ガキっぽいか?」
「少女趣味というか、お子ちゃま趣味というか」
「チンク本人には言うなよ? そういう話をされるとえらく不機嫌になるからな、あいつは」
「ほぉ」

 また、余計なネタを一つ仕入れたな、こいつ。とゲンヤは心の中で小さく溜息をつく。
 それに合わせるかのように、はやての大きな欠伸。
 やはり、疲れているのだろう。気苦労がほとんどだとしても、疲れに変わりはない。

「寝るか」

 車椅子を押しても、はやては抵抗しない。
 洗面所で歯を磨かせて、寝室へ連れて行く。本人の希望通り、ゲンヤの寝室だ。
 抱えて、ベッドに寝かせる。

「ゆっくり寝ろよ」
「ゲンヤさんは?」
「俺はゆっくり寝酒でもやってくるさ」

 はやての手が電光石火の早業で伸びる。
 しっかりとゲンヤの服の裾を掴むはやての手に、去ろうとしていたゲンヤは足を止める。

「なんだ?」
「ダメです」
「何が」
「一杯飲む間くらいやったら我慢しますけど。それだけですよ?」
「頭ッから一緒に寝ろってか?」
「一緒に寝てくれる、言うたやないですか」
「やぁ、まあ、言ったけどな」
「嘘はあきませんよ?」
「……わかった。トイレくらいは行かせてくれるか?」
「行ってらっしゃい」
       
 ゲンヤは一旦台所へ入って、酒の入った棚を眺め、寝酒にちょうどいいのを目に留める。
 そして、コップを出そうとして……やめた。
 酒を片づけ、洗面所で歯を磨く。

 ……お父さん、怖い。
 ……スバル、お父さんは忙しいの。
 ……だって、オバケが。
 ……ギンガお姉ちゃんを見習いなさい。
 ……だって、だって……

「いいさ、クイント。よし、一緒に寝るか、スバル」

 そこまで口に出したところで、鏡に映った自分の姿に顔をしかめる。
 想い出の中の自分は、もっと若かったのだから。
 時々夢の中に出て来るクイントはいつまでも若くて。スバルとギンガは小さな子供だったり今の姿だったり。 

 寝室に戻ると、ちょこんと座ったはやてが待っていた。

「お帰りなさい」
「じゃ、寝るか」
「はい」

 ベッドにはいると、いそいそとはやてが身体を寄せてくる。

「おい」
「ダメですか?」
「いや、別に構わねえよ」

 電気を消そうとすると、はやてがその手を取った。

「ゲンヤさん」

 真剣な声に、ゲンヤは思わず手を下ろす。

「今の私、本当にダメですか?」

 言外に込められた意味に、ゲンヤはすぐに気付いた。
 勿論、是と言えるような質問ではない。
 だから、ただ一言答えた。

「おやすみ」

「おやすみ」と言って、無理矢理に電気を消す。
 暗闇の中で、はやての身じろぐ気配がした。

「ゲンヤさん?」
「寝ろ」
「聞いてくれます?」

 胸の上に体重が乗った。そして、囁くような温かい息が耳元に。

「悪い冗談も大概にしねえと笑えねえぞ?」
「……話を聞いて欲しいだけです」
「わかったよ……」

 ゲンヤは手を頭の下に組むと、闇に慣れてぼんやりと見え始めた天井に目を向ける。

「女の子は、好きな人に初めてをあげたいんです」

 そんな話は聞いたことがある。ただ、どうして突然こんな事を言い始めるのかがわからない。
 すでに二人の間にそれなりの関係はあるのだ。
 それに、はやてはあのとき言っていたはずだ。「初めて」だと。それが嘘だとしても、何故今になってそれを明かそうとするのか。
 過去にはやてが誰とつきあっていたとしても、ゲンヤは態度を変えるつもりなどないのだ。

「お前さんの初めては、もらったと思っていたんだが……な」
「……騙したんと違いますよ?」
「騙されていたとしても、それで態度を変えるような男に見えるかい?」
「見えませんし、ゲンヤさんを騙すつもりもありません」
「だったら、いいじゃねえか」
「……聞いてくれますよね?」

 ゲンヤは口を閉じて、手探りではやての頬に触れた。その手をはやてが掴むのがわかる。残った手で、ゲンヤははやての手を包んだ。
 なにやら、話しにくいことがある。だったら、自分にできることははやてを安心させることだけだ。
 はやての手が自分の手をしっかりと握りしめているのを、ゲンヤはただ感じていた。そして、同じように握り返す。

 ――お前には俺がついている。

 それを伝えようとするかのように、ゲンヤは手を握り続けた。

「初めてと、違うかもしれへんのです」

 違う、ではない。
 違うかも知れない、とはやては言ったのだ。
 疑問を抑え、ゲンヤはただ聞き手に回る。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 まだ、ヴィータたちに会う前、私は独りぼっちでした。
 何も知らんと、一人だけで生きていくんやと思うてました。
 けれど、女の子の一人暮らしって、そんなに甘いものやなかったんです。
 リーゼロッテとリーゼアリアは、私を監視するだけやのうて、それとなく警備もしてくれてたんです。

 そやけど、その事件は起こりました。

 図書館の帰り、急な雨に降られた私は、雨具の準備もなくて仕方なく雨宿りしてました。
 そこに、男がおったんです。
 車椅子に乗った女の子を見ても、自分の餌食やとしか思わんような、卑劣な男が。

 男は、私を尾行したんです。そして、人通りのない道で突然……

 気がつくと、石田先生がいました。図書館を出たところで倒れて、親切な人に運ばれたんやそうです。
 病院の帰りやったんでポケットに入ってた診察券を見て、運んでくれたそうです。
 うなされてたって、先生が教えてくれました。
 嫌な夢やと、私は思ったんです。最低の男に汚される夢。
 家に帰った後、自分で自分の身体を調べました。どこにも、されたと思てた痕はありませんでした。だから、夢やと思ってました。
 夢やと信じてたんです。あの事件が終わるまでは。

 ふと目を離した隙に、見張ってた相手がおらんくなる。気がついたら、変なことされてる。
 助けたあと、どうします? 本人に気付かれへんように治して、ついでに記憶も曖昧にして?
 そうです、魔法があったら、不可能やないんです。魔法のことを全く知らんかった女の子相手やったら特に。
 もしかしたら、私はリーゼに助けてもろうたかもしれへん、治癒魔法を受けたんかもしれへん、夢と思うように誘導されたんかもしれへん。
 全てが終わったあと、リーゼやグレアムおじさんにそれとなく尋ねました。勿論、答えはありませんでした。

 今でも、時々夢に見るんです。
 私の初めてはあのとき、あの男に奪われたんかもしれへんのです。
 だけど、今は違う。今の私の身体は、あの時より前の身体になってるんです。
 だから、いまやったら、正真正銘の初めてなんです!
 それを、ゲンヤさんにもらって欲しいと思ったんです!
 私の悪夢、ゲンヤさんに消して欲しいんですっ!

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 重い。と思った。
 それが、ゲンヤにとって掛け値なしの最初の印象だった。
 それでも、告白したはやての想いは十二分に伝わっている。徒や疎かにできるものではない。
 自分がはやての告白相手に相応しいのかという疑問もある。
 いや、相応しいのだ。相応しくあるべきなのだ。その覚悟があるからこそ、娘ほどの歳の女を抱いたのではなかったのか。
 一時の快楽のためでも、それ以外の打算でもない。ただ、愛しいから抱いた。単純な、筋の通った話だ。
 何を今更、怯える必要があるというのか。
 懸念があるとすれば今現在のはやての年格好、それだけのことだ。
 口に出せと言われると躊躇してしまうのが自分の悪い癖だが、自分なりにはやてを愛しているつもりはある。いや、愛していると断言できる。
人前ではっきり言えと言われると躊躇してしまうが。
 だからといって、一桁にも満たない女の子とセックスする趣味は断じてない。嫌悪感が先に立つ。グロテスクと言い換えてもいい。
 それとこれとは、話が別だ。
 中身は違うと言っても、少女と言うにも幼い女の子を肉欲の対象とするのは間違っている。確実に間違っていると言い切れる。
 だから、ゲンヤには言葉は一つしかなかった。

「……俺は、お前さんの初めてをもらった男だよ」

 そう言うしかない。

「さっきのは、お前の見た悪夢だ。俺はそう信じてる」
「でも……」
「すまねえ……さすがに、今のその身体じゃ無理だよ。お前だって、下手すりゃ怪我ものだ。わかってくれ」
「……ごめんなさい」

 わかってくれるか。ゲンヤはそのままはやての頭を撫でようとする。と、はやてが移動した。素直にゲンヤの横に並ぶように仰向けになっている。

「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」

 もう少しただをこねるかと覚悟していたゲンヤだが、はやての素直さにやや拍子抜けして、それでも目を閉じて眠ろうとする。
 それは、思っていたよりうまくいった。
 はやての隣で眠りにつく。それだけで心は満たされる。きっと、はやての心も。
 そう思いながら、ゲンヤは微睡み、そして眠りについたのだった。

 そして夜中に目が覚めた。
 下半身の微妙な感覚で、目が覚めた。
 誰かが、パジャマのズボンを脱がしている。いや、性器に触れている。いや、触れているというか、確実に刺激されている。
 それに気付いたゲンヤの意識が急速に覚醒する。

「はやて!?」
「あ、起こしてしまいました?」

 いつの間にか毛布まで剥がされていて、全裸になったはやての身体だけがゲンヤに乗っている状態だった。

「起こしてしまいましたって……お前、何のつもりだ」
「さっき言うたとおりです。私の初めてをゲンヤさんにもらって欲しいんです」
「寝付いたところに実力行使ってわけかい」

 殴りつける、とまではいかなくても、ゲンヤは腹を立てていた。
 そこまでするとは思っていなかった、はやてがこんな馬鹿なことをするとは思っていなかったのだ。
 感情のままに詰る言葉を口に出しかけて、しかしゲンヤは口を閉じた。
 はやての表情がおかしい。まるで何かを思い詰めたようにも、投げやりなようにも見える。
 そしてはやては、ゲンヤの腰の上に自分の腰を持ち上げようと苦心していた。つまりは、騎乗位の体勢になろうとしているのだ。
 
「……あはっ……うまいこと、いかへん……」
 
 片手で身体を持ち上げ、残った手で秘部を広げ、ゲンヤのペニスをくわえ込もうとしている。
 ただでさえ小さな身体、そのうえ両足が不自由なのだ。うまくいくわけがない。
 そして、気付いたゲンヤが黙っているわけもない。

「やめろ」
「嫌や」
「はやて、お前……」
「好きな人と結ばれたいって言うんがそんなにおかしいですか!」

 泣き叫びそうなはやての剣幕に、それでもゲンヤは反する。

「今のお前は普通じゃねえんだ、普段のお前ならここまでしねえだろっ」
「今の私やから、やるんですっ! ゲンヤさんに初めてをもらってほしいって、何回言うたらわかってくれるんですかっ!」
「だからっ!」
 
 手を伸ばしかけ、ゲンヤの脳裏に何かが閃いた。

 ……まさか?

 手が止まる。

 ……まさか……はやて……

 本当に、そのときリーゼ姉妹がいたのか?
 リーゼ姉妹は常にはやての傍にいたのか?
 闇の書の復活は、近くにいなくてもわかるのではないのか。詳細な監視は、闇の書の目覚めた後でいいのではないのか?
 リーゼ姉妹が、いや、グレアムが望んでいたのは蒐集後の破壊である。言ってしまえば、目覚めた直後の闇の書には用はないのだ。
 目覚める前に詳細な監視が必要とは思えない。
 だったら、リーゼ姉妹がはやてを助けたというのは嘘なのか。
 そして、男の存在が現実だとしたら?
 男は存在し、リーゼ姉妹が存在していなかった。
 はやては助けられたのではない。男の用が済んで解放されただけだとしたら?
 本当にリーゼ姉妹が記憶を改竄したのなら、どうしてはやては疑いを抱いている? 完全な改竄は無理なのか。
 だとしても、何故未だにそれが是正されない。今のはやての魔法ランクはリーゼ姉妹を超えている。
 専門ではないから? では、シャマルならば? 他にもリーゼ姉妹以上の能力を持つ魔道師は局にはたくさんいるだろう。

 はやての記憶はリーゼ姉妹によって改竄されていない。改竄した者がいるとすれば、それは他ならぬはやて自身。
 忌まわしい記憶を自分の中に封じ込め、魔法の存在を知ってからは魔法によるものだと自分に言い聞かせた。
 覚醒前の出来事なのでヴォルケンリッターの誰もその事実を知るよしもない。

 だとすれば……?
 はやての訴えは、さらに真摯なものにならざるを得ないだろう。
 そして、それを受け止めることができるのはゲンヤだけなのだ。
 恥ずべき暴漢によって喪われるのか、それとも愛する相手によって喪われるのか。
 それは、静観で済ませるにはあまりにも重すぎて、様子を見ることすら許されない内容だ。
 ゲンヤは、返答を迫られている。と感じていた。今のはやてにかけるべき言葉を発せねばならない。
状況に流されるのではなく一人の男として、はやてを支えるべき男として。
 ゲンヤは、少し前の自分を悔いていた。いや、腹立たしく思っていた。
 もう少し話を聞くべきだった。諧謔に紛れた本音をきちんと聞き取るべきだった。紛らわさなければ話せないものもある。
自分はそれを、知っていたのではないのか。
 受け止めなければならない。はやてを。受け止めると決めていたはずだった。あの日、初めて抱いた日から。
 だから、決意はすでにある。後はただ、その決意を表に出すタイミングを待っているだけ。
 ゲンヤは、はやての肩を取る。

「やめろ、はやて」
「ゲンヤさん……」

 目に見えてはやては狼狽していた。

「なんで? 嫌なん? 私が小さいから? 足が動かへんから? 動くよ、ちゃんと動かすよ、だから、だから、な……」

 自らの足を自らの手で持ち上げようとするはやてを、ゲンヤは優しく制した。

「そんなことはどうでもいいんだよ」
「でも……」
「俺がお前を抱くんだ。お前が動く必要はねえだろ?」
「ゲンヤさん」
「……一つだけ。本当にいいんだな?」
「勿論です」

 はやての身体を持ち上げて、引き寄せる。
 軽すぎる身体に戸惑いながら、ゲンヤははやてに口づけた。子供特有の匂いが鼻腔をくすぐる。
 口づけたまま、手を胸元に這わすと、頼りないというか、心許ないというか、薄っぺらい胸元に思わず怯んでしまう。
 元々はやてがスレンダーという体型ではないので、抱き心地は悪くない。それでも、性的対象かと言われると未だに首を傾げてしまう。
 キスを終えると、はやての目が潤んでいるのがわかった。中身は今のはやてなのだ。身体が追いついていないだけで、経験している記憶はあるのだ。

「……難しいかな」
「協力するよ?」

 はやてが悪戯っぽく笑うと、器用にゲンヤの腕を潜り抜けて、くるりと腹の上で回る。
 小さなお尻を向けられ、一瞬ゲンヤは目のやり場に困るが、やや背徳的な興味も同時に覚え始めている自分に気付く。
 すると、はやてが前置き無しにゲンヤのペニスに唇を這わせ、そのまま半ば無理矢理にくわえ込んだ。

「んんんんっ!」

 苦しそうな声に不安になるが、身動きがとれないわけではない。息が続かなければ自分で離れるはずだった。
 小さな口いっぱいにくわえられたペニスが、頬の内側や歯茎をがんがんと突きながら口内で暴れ回っている。
意識せずとも、サイズの問題で口内全域を蹂躙しているのだ。
 実際に全体を包み込まれている感覚に、ゲンヤは頂点が早くも近づいているのを感じていた。今夜は、長丁場で快楽を貪る目的ではない。
実際に結ばれること、端的に言うならばはやての処女を散らすことが目的なのだ。
 それに、実際に長丁場だとはやてが耐えられるかどうかがわからない。はっきり言えば、まだ身体が出来ていない少女なのだから。
セックスという行為自体が無茶なのだ。

 ゲンヤは目の前に差し出された小さなお尻を掴み、そこから続く秘部へと指を滑らせる。
 当たり前だが閉じきった襞は侵入を硬く拒んでいるようで、ゲンヤは自分が萎えるのを感じた。
 優しく、デリケートに愛撫をくわえ、舌でほぐしながら徐々に襞を開いていく。
 この少女を無理矢理に汚した唾棄すべき男がいたのだ。そう考えると妙に高ぶる自分に一瞬の自己嫌悪と、種としての男に対する諦念がよぎる。
 半ば機械的に、しかしはやてへの想いを込めて愛撫を続けると、何とか受け入れられるように形が整っていく。

 ……小さくても、女か。

 一種微妙な感想を抱きながら、ゲンヤはフェラチオを続けようとするはやてを引きずり、体勢を入れ替える。

「多少の痛みは、我慢しろよ」
「はい」

 覚悟はしていたのだろうが、それでも返事は堅い。
 仕方がない、と思いつつも若干の罪悪感、そして大きすぎるとまどい、ほんの微かな背徳の悦びを込めて、はやてと繋がろうとする。
 ゆっくりと埋められていくペニス。はやては大きく深呼吸をしながらゲンヤを受け入れていた。二人は知らないが、それはまるで出産中の妊婦のように。

 とんでもない締め付けに、ゲンヤは呻く。気持ちよさよりも痛みすら覚える狭さだ。逆に考えれば、はやては身を裂かれる痛みを感じているのだろう。

「はやて……」
「ゲンヤさん」
「これで、俺がお前の初めてをもらったんだ。確実に、俺が、初めてなんだな」
「はい」
「ありがとうな」
「……嬉しいです」
「俺もだ」
「……ゲンヤさん」
「ああ」

 唇を合わせようにも身長差が大きすぎる。ゲンヤは、はやての頭を優しく力強く抱きしめた。
 そして、頂点に達する。



「……」
「大丈夫か?」
「……ちょっとだけ、痛いです」
「本当に、大丈夫か?」
「ほんまにあかんかったら、シャマル呼びます」
「……任務中じゃなかったのか?」
「あ」
「お前な……」

 とりあえず、シャマルを呼ぶほどではなかった。
 ただちょっと、シーツに血が付いただけ。
 ただちょっと、そのまま寝てしまっただけ。
 ただちょっと、ギンガたちの帰ってくるのが早かっただけ。
 ただちょっと、寝過ごしただけ。
 
 そして、翌朝。

「お父さん……?」
「父さん?」
「パパリン?」
 
 そこでようやく目が覚めたゲンヤ。
 夜中に起こされるような形だったので、中途半端に眠いのだ。

「お? お前ら、なんで俺の部屋まで……」
「はやてさんが客間にいませんでしたから」

 ニッコリ笑うギンガの視線をゲンヤは追い、そして青ざめた。
 はやてが裸で寝ている。というか、子供が寝ているようにしか見えない。
 ディエチとウェンディは、シーツの赤い染みに注目している。

「怪我……したの?」
「はやてさんと喧嘩でもしたんスか?」

 そしてノーヴェはあろうことか、チンクを背中に護衛している。

「あ、あ、あんたがそんな人だったなんて……」
「いや、待て、ノーヴェ。なんでチンクを守ってるんだ」
「チンク姉、速く逃げて!」

 おいおい、と肩を落とすゲンヤ。

「お前らな……」
「おはよう、ゲンヤさん」

 はやてがゆっくりと身体を起こす。

「あれ? ギンガらも帰ってたんやね」
「はやてさん、いったい何が」
「何て……ああ、これか」

 合意の上だと説明し、決してゲンヤはそういう趣味ではない、どちらかと言えば自分が強引に仕掛けたのだと言うはやて。
 
「そやけど……」
「なんでぇ?」

 不機嫌なゲンヤに、はやては上目づかいで笑う。
 
「ゲンヤさんノリノリでしたね。もうここにはヴィータ連れてこんほうがええでしょうか?」
「お前が言うなぁっ!」


 ――後日

「ゲンヤさん。この前のロストロギア、調整可能みたいなんですけど」
「で、俺にどうしろと? あれからチンクがなにかと俺を警戒しているような気がするんだが」
「気のせいです。それより、ゲンヤさんも体験若返りしてみません?」
「いいよ俺は」
「私も、ゲンヤさんの初めてが欲しいなあって」
「懲りろよ、お前は」


著者:野狗 ◆gaqfQ/QUaU

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