403 名前:正解の無いある問題に対する一つの解答[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 16:30:59 ID:fkY3ktvw
404 名前:正解の無いある問題に対する一つの解答[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 16:31:33 ID:fkY3ktvw
405 名前:正解の無いある問題に対する一つの解答[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 16:32:02 ID:fkY3ktvw
406 名前:正解の無いある問題に対する一つの解答[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 16:32:36 ID:fkY3ktvw
407 名前:正解の無いある問題に対する一つの解答[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 16:33:41 ID:fkY3ktvw
408 名前:正解の無いある問題に対する一つの解答[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 16:34:33 ID:fkY3ktvw
409 名前:正解の無いある問題に対する一つの解答[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 16:35:06 ID:fkY3ktvw
410 名前:正解の無いある問題に対する一つの解答[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 16:35:42 ID:fkY3ktvw
411 名前:正解の無いある問題に対する一つの解答[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 16:36:09 ID:fkY3ktvw
412 名前:正解の無いある問題に対する一つの解答[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 16:36:49 ID:fkY3ktvw
413 名前:正解の無いある問題に対する一つの解答[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 16:37:19 ID:fkY3ktvw
414 名前:正解の無いある問題に対する一つの解答[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 16:38:00 ID:fkY3ktvw
415 名前:正解の無いある問題に対する一つの解答[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 16:38:52 ID:fkY3ktvw
416 名前:正解の無いある問題に対する一つの解答[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 16:39:14 ID:fkY3ktvw
417 名前:正解の無いある問題に対する一つの解答[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 16:39:45 ID:fkY3ktvw
418 名前:正解の無いある問題に対する一つの解答[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 16:40:10 ID:fkY3ktvw

 ヴァイス・グランセニックには悩みがある。
 最近付き合い始めた彼の恋人の事だ。
 
 恋人の名前はアルト・クラエッタ。
 ヴァイスと同じ管理局地上本部に勤務するヘリパイロットだ。
 もっともパイロットになったのはほんの数ヶ月前の事で、それまではヘリの整備員をしていた。

 スクリーン越しに百万の観衆を虜にする女優のような容姿は持っていない。
 万事においてそこそこ器用ではあるが、後世にその名を語り継がれる偉業を成すような突出した才の持ち主でもない。
 けれど、明るくて、気が利いて、優しい。
 そこに居るだけで周囲に元気を与えてくれる、そんな暖かい雰囲気を持つ少女だ。
 ヴァイスは彼女の事を本当に大切に想っている。
 彼女の未来には笑顔と幸福だけが待っていてほしいという子供染みた事を、真剣に考えてすらいる。
 だから――彼女がヘリパイロットという職業についている事を、彼は良く思っていない。

 パイロットという職業は危険だ。
 どれだけ入念に整備や点検を行っても、乗機が不測の故障に見舞われる可能性はゼロではない。
 また、悪天候の中を飛ばねばならない時もある。
 さらに人員や物資を前線に送り届ける管理局の輸送ヘリは、敵対する勢力にとっては格好の標的になる。
 多くのヘリは魔力に対する防御手段を持っていない。
 もしヘリよりも機動性が高い空戦魔導師に狙われれば、まず逃げ切る事は出来ないだろう。
 実際、長くパイロットを勤めてきたヴァイスは何人かの同僚の任務中の死を経験している。

 アルトは自身が職場で経験した事を、本当に楽しそうにヴァイスに話す。
 おそらく彼女は今、本当に毎日が楽しくて仕方がないのだろう。
 これまでは見上げる場所でしかなかった空を自由に翔る快感は、ヴァイスにも覚えがある。
 空に憧れる人間なら、最初は誰もがそうなのだ。
 光の当たる華やかな一面しか見る事が出来ず、その影に隠された恐ろしさに気が付く事が出来ない。
 空という場所の本質を理解する為に必要な物はある程度の時間と、そして経験。
 誰かのものではない、自分自身の経験を積み重ねなければけしてそれを知る事は出来ないのだ。 

 だから、ヴァイスはどれだけ言葉を駆使しようとも、アルトに彼の想いが届かない事がわかってしまう。
 だから、彼は彼女に言い出せないでいる――「ヘリパイロットを辞めろ」という、その一言を。
 

          ○正解の無いある問題に対する一つの解答


「言っちゃえばいいじゃないですか、ズバリと」
「自分の話を聞いていなかったのでありますか、准陸尉殿」

 いともあっさりと言うグリフィス・ロウランに、ヴァイスは皮肉を込めた言葉をぶつけた。

 クラナガンの歓楽街の隅にある小さな居酒屋、そこにヴァイス達は居た。
 そこそこ年齢が離れているこの二人だが、機動六課時代は某設定上の事情により数少ない男性職員扱いだったので、
六課が解散した後も今日のようにちょくちょく集まって飲む仲だった。
 まあそこそこ離れていると言っても――

「旦那も何とか言ってやってくださいよ」
「う……ううむ」 
「ザフィーラの旦那!」

 もう一人の参加者と比べれば微々たる差なのだが。
 ちなみにこの守護獣、厳つい外見からは想像もつかないが非常に酒に弱い。酒好きなのに弱い。いつも飲み始めて
一時間ほどで目が糸のように細くなり二時間を過ぎると完全に寝入ってしまう。

「完全に寝入る体勢に入ってますね」
「旦那、寝る時はちゃんと子犬フォームになってから寝てくださいよ。旦那担いで歩くの大変なんですから」
「心……得た……」

 ザフィーラの身体が縮んで行くのを確認すると、ヴァイスはグリフィスに向き直る。

「だから今のアイツは言葉で聞くような状態じゃないんだよ。なんつーか、自分に酔ってるって感じか? とにかく
言って聞かせるだけじゃダメだ」
「言葉にしてみないと、伝わるも伝わらないもないですよ。それとも彼女を怒らせて嫌われるのが怖いんですか?」
「なっ!」

 そんな事はない、と言おうとしたヴァイスだが、目の前の人間が『あの』グリフィスである事を思い出して
誤魔化すのを止めた。
 眼鏡の奥に秘めた彼の洞察眼は、若いながらも卓越した物がある。生半可な嘘では簡単に見透かされてしまうだろう。

「……そりゃまあ、確かにそういうのもあるけどよ」
「ですよねえ。彼女の意志を無視して一方的にパイロットを辞めるよう強制させるなんて、最近の『お互いの意思を
尊重して行きましょう』って男女関係の流れとは真逆ですし」
「ぐっ、おおおぉ……」

 頭を抱えて悶えるヴァイスを、グリフィスは楽しそうに眺める。
 酔うとやたらリアクションが大きくなる年上の部下(階級的な意味で)をいじって楽しむのは彼の中での
マイブームだったりするのだ。

「……俺だってなぁ、そんな事ぐらいわかってんだよ」
「ヴァイスさん?」
「でもな、ヘリパイってのはマジで危ない仕事なんだよ。魔導師じゃねえ人間が前線に出るのがどれだけ危ねえもんか、
お前も六課が襲撃された時に少しは感じただろ?」
「まあ、確かに……」
「アイツだってあの場に居たくせに……ぜんっぜん学習しちゃいねえっ! ヘリが出発する度に『大丈夫ですよ〜♪ 
チャチャッと送り届けて必ず帰って来ますから〜』って毎回死亡フラグを立てていく女を彼女に持つこの苦労を、
彼女をちゃっかりテメエの補佐にして毎日二人一緒にイチャイチャやってる誰かさんにも味合わせてやりてえよ」
「味わってヤりたいです」
「ぶち殺すぞ」
「すみません」

 話しながら段々涙目になってくるヴァイス。
 どうやら多少泣き上戸の気があるらしい。

「つーかな、ヘリ自体が無事でも他にもキツい事があるんだよ」
「キツい事?」
「ああ」

 ヴァイスが無言で卓上のつくねを指差す。

「これがどうかしたんですか?」
「ヘリパイの仕事ってのは送り届けるだけじゃねえ。自分が前線に送った連中を、任務が終わった後連れ帰る事も
あるんだ」
「はあ」
「けどな、現場ってのは何時でも全員が五体満足で帰れる場所じゃない。相手は当然非殺傷設定なんて使わねえし、
実弾系の武器を使う事もある」
「……」
「自分が送った人間が、次に来た時には"お持ち帰り"用のバッグに詰められてるってのは結構来るぜ、精神的に」
「……で、その話とつくねに何の関係があるんですか」
「そいつな、ヘリを出てく時、俺に向けてすんげえいい笑顔を浮かべてたんだよ。『これが終わったら一杯呑みに
行こうぜ』って感じの笑顔をさ。それでそいつを連れて帰る途中、どうしても気になっちまったんだよ。こいつは
どんな顔で死んでいったんだろうって……」
「えーと、あの……もういいです」

 その後はなんとなく想像がつく。おそらくはもう一生つくねを食べられなくなりそうな展開だ。

「あの時ほどストームレイダーが居てくれて良かったと思った時はなかったぜ……っと。湿っぽくなっちまったな。
親父〜! 酒追加だ追加!!」
「ちょ、まだ飲むんですか?」

 今日のヴァイスは相当酔っている。これ以上飲むと明日に差し支えるだろう。
 流石のグリフィスも少し慌てて止める。
 ヴァイスが急性アルコール中毒でブッ倒れるのは構わないが、彼を止められなかったという事で自分のイメージが
悪くなるのは困るという至極自己中心的な理由でだがとりあえず止める。

「あァ? 大丈夫だよこんぐらい」
「いやいや、私も君は少し飲みすぎだと思うが」

 グリフィスに絡もうとするヴァイスに、見かねた店主が加勢する。
 恰幅の良い店主は鮮やかな手つきでヴァイスの背後に回り込むと、彼の手からグラスを取り上げた。 

「何すんだよ〜この髭親父」
「ちょっとヴァイスさん、悪酔いしすぎですよ……すみませんマスター。もう連れて帰りますんで」

 今度は店主に絡もうとするヴァイスをグリフィスが引っ張って行こうとするが、店主はそれを優しく制する。

「いやいや。この程度の酔っ払い、昔儂が相手にしておった連中と比べれば可愛いものだよ。ニコちゃん、悪いが水を
持ってきてくれ」
「はあい、ただいま」

 ニコちゃんと呼ばれた割烹着姿の美女が、コップに組んだ水をヴァイスに手渡す。

「はい、飲んで酔いを覚ましてね」

 ところで、どうでもいい話だがこの女性、店主と余りに年齢が離れているのでグリフィスは最初アルバイトだと
思っていたのだが、どうやら店主の妻もしくはそれに近い関係らしい。
 最も店主は独身らしいので若い妻や恋人が居ても問題はないのだが、彼女を密かに"食おう"と狙っていた
グリフィスには少々ショックだった。彼女はこんな小さな居酒屋には勿体無い妖艶な魅力を持った美女――たとえば
ソープならナンバーワンの嬢として君臨できるような逸材だし、人妻属性なんてむしろドストライクなのだが、
この店主と穴兄弟になるのだと考えるとこれはもう手が止まらざるを得ない。

「ほら、使い魔君も飲みなさい」
「私は……守護獣だ……」
「はいはいわかったからあーんして」
「ておあーん」

 ニコちゃんが守護獣の口にも水を流し込む。

「この状態で二人を連れて帰るのは大変だろう。もう少し休んでから行くといい」
「何から何まですいません、マスター。ほら、ヴァイスさんもお礼を言ってください」
「さーせーん……」


 閑話休題。
 店主達が奥に引っ込むと、グリフィスは呆れた顔でヴァイスに語りかけた。

「ほんといい加減にしてくださいよ」
「スマン……」
「ていうかさっきの台詞ですけど、あれは逆に考えればいいんですよ。毎回生きて帰って来てるんだからその台詞って
むしろ生存フラグだと思えばいいんです」
「いーや! それはない! そうやって俺を油断させておいて、忘れた頃にヘリを墜落させるんだ。そしてアイツは
一生後遺症の残る大怪我を負って俺は目からハイライトの消えた復讐者となってヘリを撃墜した違法魔導師を追うんだ」
「どれだけ想像力が豊かなんですか。どうせ想像するならもっとバラ色の未来を想像しましょうよ」
「うおああぁ! 俺は一体、どうすればアイツを止められるんだあっ!?」

 ゴロンゴロン。

「……」

 ゴロンゴロン。

「いい加減にしろよこの本編でのフラグ全折れ(死亡フラグ含む)誤射男」
「!?」
「どうかしましたか?」
「……あ、いや。多分気のせいだ。たぶん」
「ならいいんですけど。そういえば今ふと名案を思いつきました。彼女を翻意させるアイデア」
「何!? マジか、頼む教えてくれグリフィス!!」
「墜とせばいいんです。ヘリを」
「って自分から堕としてどうすんだよっ!!」
「いやだから彼女の乗ってるヘリじゃなくてヴァイスさんの乗ってるヘリを」
「俺のかよ!!」
「ヴァイスさんが犠牲になれば彼女もパイロットの怖さを身を持って……」
「ちょっと待て!! 俺が死んだらアイツはどうすんだ!!」
「それはボクが責任を持って」
「安心できるかっ!! お前をヘリに乗せて撃墜した方がまだナンボか安心だ!!」





「……はあ。しょうがないですね。じゃあここは一つとっておきの情報をお教えしますよ」
「情報?」


          ◆


 数日後。
 その日、いつものようにヴァイスの部屋に遊びに来たアルトは、恋人の姿を一目見た瞬間から妙なプレッシャーに
襲われていた。

「……あの、先輩。何処か調子でも悪いんですか?」
「いいや、別に」

 いつもより優しい訳でもいつもより冷たい訳でもいつもより馴れ馴れしい訳でもいつもより突き放している訳でもない。
 ただ、いつもと同じではない。
 言葉にこそ上手く表せないが、何というかヴァイスの態度がアルトの知る彼のそれとは違う。
 何かあったのかと聞いても答えない。
 そんな状況が数十分続き、これはまさか自分で気づかないうちに何か彼を怒らせるような事をしてしまったのかと
彼女が考え始めた時、ヴァイスがその一言を口にした。

「……アルト」
「何ですか? 先輩」
「脱げ」

 オーダーはオンリーワン、パーフェクトにシンプルイズベストなキャストオフミッションである。

「えええっ!? え、え、先輩!?」

 恋人同士となってそこそこ月日も経っている。勿論その間お手々を繋いで楽しいな〜だけの清い関係を続けてきた
わけではない。しかしここまでド直球で欲望一直線な誘い方はかつてなかった。
 思わず聞き間違いかと問い返してしまう。

「そ、それって……お湯から立ち昇るやつですか?」
「それは湯気」
「頭がキラッ☆」
「それはハゲ」
「地獄先生」
「それはぬ〜べ〜、ってボケツッコミが両方地球人じゃねえのになんでこのネタが成り立ってんだよ! そもそもこの
タイプの掛け合いがまず古い!!」
「そんな事私に言われてもー!!」
「ええい、もういい! 脱がす!!」

 我慢弱く落ち着きのない狼と化したヴァイスが身持ちの固い眠り姫(ノン睡眠)に襲いかかる。
 アルトも一応は抵抗したが男性であるヴァイスの力に叶う筈もなく、あっという間にベッドまで運ばれ組み敷かれた。
 この間僅かに十秒足らず。今日のこの男、阿修羅をも凌駕する存在である。

「せ、先輩どうしたんですか!? こんなの先輩らしくないですっ! いつもの先輩はもっと優しく……っ!!」

 その時アルトに電流走る。


(も、もしかしてこれは『今日はいつもの甘々なプレイじゃなくて無理矢理っぽい感じの激しいプレイをしたい』って
いう先輩の意志表示!? 男の人はそういうの好きだってルキノさんもスバルもティアナも言ってたし……やっぱり
男の人ってみんなそうなんだ!)

 実はみんなじゃなくて特定のある男がそういうのが好きだというだけなのだが本筋と関係ないので深くは触れない。 

「……わ」
「……アルト?」
「わかりました、先輩。先輩がそうしたいなら、今日はいっぱい激しくしていいですから……あ、でも避妊だけは
ちゃんとしてくださいね」
「それは断る」
「ええー!?」

 今まで酔っ払った状態でする時もコンドーム装着とアルトの生理の周期のチェックは欠かさなかった男だった。
 それが今日に限って突然の豹変。頭の中がパニックで真っ白に染め上げられる。
 だがその後に放たれた言葉で、彼女の意識はもっと深い混沌の渦に叩き込まれた。


「アルト……俺の子供を産んでくれ」

「こおぉっ!? こ、こここここ子供ですかっ!?」

 あー。

 子供かー。
 沢山欲しいなー。うちも四人兄妹だったけどやっぱり多い方が楽しいし。
 でも女の子が一人だけだと昔の私みたいな事になっちゃったら困るから、男女二人ずつぐらい?
 流石にそれ以上は大変そうだし――

「アルト?」
「あ、え、あ、ごめんなさい……ってなんで!? なんでいきなりそんな事言い出すんですか!?」
「嫌か? 俺の子供を産むのは」
「それは……嫌じゃ、ないで……す……けど!」

 アルト自身、今まさに妄想したようにヴァイスと家庭を持って彼の子供を産みたいという気持ちはある。
 だが、それはあくまでまだ遠い未来の彼方に映し出された蜃気楼のようなもので、彼女の意識に『家庭を持つ』と
いう現実的なビジョンがあった訳ではない。その為いきなりこんな事を言われても混乱するばかりで答えが出る訳が
無い。
 しかしヴァイスはそんな道理は俺の無理でこじ開けると言わんばかりに、更に彼女に揺さぶりをかける。

「んむっ!?」
 
 いつもの愛しむようなそれとは違う、情熱的な口付け。
 まだ少女特有の瑞々しさが色濃く残るアルトの唇。
 その唇を、道端に咲く小さな花を子供が無造作に摘み取るようにヴァイスの唇が奪い取る。
 
「ん……っ」

 荒々しく貪る様なヴァイスの口付けだが、そこには確かな彼女への愛情があった。
 暴虐かと見紛うほどの激しいその愛情表現を受け止め、理解した肉体が理性より先に反応する。
 少女の頬が仄かに朱を帯び始め、瞳が潤んでゆく。
 発され始めた雌の香りを嗅ぎ取ったヴァイスが、機を見計らって舌を差し入れた。

「……んちゅ、むちゅ」

 アルトは抵抗するどころかむしろ悦んで恋人の一部を受け止めた。
 拙い動きで自分の舌をヴァイスの舌に絡ませ、彼と一つになろうと動かす。
 とくん、と小さくアルトの喉が動いた。
 口の中で混じり合った二人の唾液、重力に従って下へと落ちてきたその極上の蜜を飲んだのだ。
 ヴァイスの動きが激しさを増す。お返しとばかりに、彼女ごと吸い尽くさんばかりの勢いで残った蜜を舐めとり
吸い取った。
 今度はヴァイスの喉が蠢く。
 そうしてたっぷりと唾液を交換し合った後、ようやく二人の唇が離れる。

「……せん……ぱぁい」
「アルト」

 突然のヴァイスの発言に、今まで体験した事もない激しい接吻。
 吹き荒れる疑問符と衝撃の嵐に、アルトの脳はまるで熱病に侵されたように判断力を失っていた。

「責任は持つ。お前も生まれてくる子供も、全部俺が守ってみせる」

 その中にあって、確かに感じられるものが二つあった。
 一つは目の前の男性を愛おしいと想う気持ち。
 そしてもう一つは、目の前の男性を求める体の疼き。

「だから――」
「いいですよ」

 二つの奔流が混じり合い、あっけなく最後の堤防が決壊した。
 アルトは魔導師ながらに鍛えられた恋人の肉体を抱き寄せ、耳許で囁く。


「作りましょう、子供」


 その言葉に対する返答は行動だった。   
 乱雑な動作でアルトの抱擁を解いたヴァイスは、手早く彼女の衣服を脱がせながら自身の服も脱ぎ去る。
 露になった恋人の秘所に視線を落とすと、既にそこは彼女の愛液で濡れそぼっていた。
 ここまで只管に攻勢をかけてきたヴァイスだったが、これには少し動きを止めてアルトの表情を窺う。

「あの、先輩……マジマジと見られると恥ずかしいです……」
「あ、ワリぃな」

 熟れた果実のように羞恥で赤く染まったその顔を見るうち、ヴァイスの本能が激しい熱を持って滾ってゆく。
 こうなると後は考えるよりも先に体を動かすだけだ。
 ヴァイスは既に戦闘態勢に入っている肉棒を秘所に宛がうと、力任せに押し込んだ。
 普段ならば多少なり準備をしてから肉棒を迎え入れている秘所だが、いきなりの挿入にも関わらず普段と同じように
スムーズに肉棒を飲み込んだ。
 しかし肉体の持ち主の方はいつも通りとはいかず、まるで初めて挿入された時のような初々しい悲鳴を上げる。

「あぁあっ、ヴァイス、せんぱ、いぃっ! き、ついっ! ですっ! くうっ、あ、あっ、ああっ!!」
「ああ、確かにキツいな……ギリギリ締め付けてくるぜ……っ!」

 小刻みに震えながら訴えるアルトに言葉を返しながら、ヴァイスは腰を動かし始める。
 あまりに激しい締め付けは軽い苦痛すら齎していたが、肉棒と膣壁が擦れ合う事で生まれた快感が苦痛を上書きし
彼方へと追いやってしまう。

「まっ、やめ! はや……激し、やんっ、あふぅん! も……ゆっく、あっ、こわ、壊れちゃいますっ!!」

 より強い快感を求めて動きに激しさを増すヴァイスにアルトがペースを落とすよう懇願するが、代わりに返って
来たのは胸への愛撫だった。

「んんっ! あっ! ほんと、も! や、だめぇ!! んんんぁ!!」

 まるで塩味を砂糖の甘味で中和するようなヴァイスの行為に、アルトの意識が徐々に混濁していく。
 子宮の内側を抉られる快感に軽く意識を飛ばされ、また強烈な快感で現実に引き戻される。
 その繰り返しが延々と続く内に、ヴァイスの顔からもまた余裕が失われつつあったのだが、彼女に恋人の変化を
知覚する余裕は当然ない。

「くうっ……!」

 一方、ヴァイスの方は着実に一度目の限界に近づきつつあった。
 最奥まで突き抜いて、また入口近くまで引き出す。
 少しだけ試した胸への愛撫ももう止まっている。技巧を無視した、けれど勢いだけは強烈なストロークを反復する
今のヴァイスは正に"雄"と表現される獣そのものだった。
 これではいけない、と理性が訴えかけている。
 アルトの目に浮かぶ涙と普段より艶の少ない声が心を痛める。
 だがその一方で遠慮も気遣いもなく、欲望のままに彼女を犯しているという背徳的な快感が脳髄から背筋を貫き、
自分の物ではないかのように腰を動かし続ける。
 そして――
 
「あっあっ、ああぁんっ! だめ、だめ、もうだめぇ!! ヴァイ、ス、せんぱぁいっ!!」
「射精すぞっ!!」

 その一言を合図に、肉棒から放出された精が膣内を蹂躙した。
 一瞬の内に子宮を染め溢れ出た白濁が、結合部から次々と溢れ出す。
 同時にアルトも絶頂に達しており、二人は重なり合ってベッドに倒れ込む。
 しばし、荒い息遣いだけが室内を満たした。
  

「……生まれますかね」

 先に言葉を形作ったのはアルトの唇だった。
 期待と不安の混じった声色で、傍らのヴァイスに問いかける。

「……あ?」
「生まれますかね、赤ちゃん」
「……一回じゃ、多分無理だろ」

 ヴァイスがゆっくりと起き上がる。
 第二ラウンドを開始する、という意味だろう。
 それを制して、アルトが仰向けに寝転がった彼の上に跨る。

「ダメです。今度はこっちでやりましょう」
「あー……さっきはやりすぎたよ。スマン。今度はちゃんと加減するからそんなに心配するなって」
「あ、そういう事じゃなくてですね。やっぱりこういうのは共同作業だから、主導権は交替制がいいかなあなんて
思いまして……」
「……ま、色々やるのも悪くねえか」

 ヴァイスはしばし考えた後、アルトに主導権を預ける。
 確かに一人だけ頑張りすぎるのは良くないだろう。

 夜はまだ、始まったばかりなのだから。


          ◆


「今思えば、彼の作戦勝ちだよねえ」

 アルト・グランセニック――旧姓クラエッタはからからと笑う。
 彼女の両手は自身の腹部に添えられ、そのうち左手の薬指には真新しい指輪が輝いている。
 傍目にはまだ変化を確認できないが、検査の結果既に彼女の胎内には新たな命が宿っている事が判明していた。

「急に避妊無しでエッチを迫るのが作戦?」

 ルキノ・リリエの問いにアルトが頷く。
 部屋には二人の他にスバル・ナカジマとティアナ・ランスターの姿もある。
 元機動六課の四人組、今日はグランセニック家(新居、35年ローン)でプチ同窓会を開催中なのだ。

「たぶん。私がフライト中にあった話とかすると、いっつも何か言いたそうな微妙な表情してたし」

 本人は隠してたつもりみたいだけど、とアルトは付け加えた。

「口には出さないけど、本当はパイロットを辞めて欲しかったんだと思うよ」
「まあ、パイロットって危ない事も多いもんね」
「私はあんまり関係ないと思ってたんだけどな。前線に出ないオペレーターでもやられる時はやられるんだって
六課が襲われた時に実感したし」
「いやいや、でもやっぱりパイロットの方が危険だよ」
「そうかなー……けど不思議なのは、お腹の中に赤ちゃんがいるってわかった時に『もう自分一人の体じゃないから
危ない事は出来ないなあ』って凄く自然に思えた事だよね。きっとこの子がいなかったら私、彼にパイロットを
辞めろって言われても素直に言う事聞かなかったと思うんだ」

 妊娠が判明した後、アルトはヘリパイロットの職を辞し管理局を離れた。
 しばらくは出産と育児に専念するつもりで、将来的に局に復帰するかは今のところ五分五分といった感じである。
 ただもし仮に復職するとしても通信士か整備員で、もう操縦桿を握るつもりはなかった。

「やっぱそうなるんだね。この前シャマル先生に会ったんだけど、なのはさんも最近は随分無茶する事が
少なくなったんだって。ヴィヴィオ様々だって笑ってたよ」
「あー……」
「確かに……」

 これにはスバルとティアナが納得顔で頷く。
 
「ヴィヴィオ、すごくお母さん思いの子だからねー」
「あんなに慕われたらなかなか無茶出来ないわよねえ」
「そういえばさ」

 ルキノが思い出したようにアルトに問う。

「ヴァイスさん、アルトの実家に挨拶に行った時袋叩きにされたって聞いたんだけど大丈夫なの?」

 アルトとヴァイスの結婚はいわゆる"できちゃった結婚"である。
 両者合意の上で子作りを行ったアルト達だが、まさか最初の一発がいきなり一撃必中するとは思わなかったので
互いの両親への挨拶などは日々の雑事にかまけて先伸ばしにし、一切行っていなかった。
 当然籍も入れていなかった為、妊娠が発覚してから急いでそれらを済ませたのである。
 その際いくらかトラブルがあった事をルキノは風の噂で聞き及んでいた。

「んー……父さんと母さんは意外に喜んでくれたんだよね。『まさか生きてる間にお前の孫を見れるとは』って。
ただお兄ちゃん達がね……」
「アルトの兄弟って……確かみんな格闘技か何かの経験者だよね」
「うん。全員ハンチャーフッドグリバンバーミチャーンの有段者だよ」
「ティア、ハンチャーナンチャラーって何?」
「何で私に聞くのよ」
「ハンチャーフッドグリバンバーミチャーンはうちの世界のポピュラーな格闘技だよ。競技人口は確か5000万くらい
だったかな」
「「「へー」」」
「で、お兄ちゃん達が私を傷ものにした責任を取れ! って大騒ぎしちゃって……責任を取りに来てるのにね」
「……で、どうなったの?」
「一応一人につき一発って事で手打ちになったみたい」
「一発かあ……」

 三人の脳裏に浮かぶのは、リ○グにかけろよろしく屈強な男達の攻撃を食らって宙を舞うヴァイスの姿である。

「まず上のお兄ちゃんが太腿の内側に膝蹴りを」
「あ、意外と地味っ! 確かに痛そうだけど!!」
「そのあと下のお兄ちゃんが太腿の内側に膝蹴りを」
「なんで執拗に太腿の内側を狙うの!?」
「最後に弟が太腿の内側に膝蹴りを」
「そうだよね! やっぱ流れ的にそこだよね!!」
「入れると見せかけてもう片方の脚の太腿の内側に膝蹴りを」
「何ですかその無駄なフェイント!?」
「それに比べると彼の家に挨拶に行った時はまだ平和だったかな。グランセニック家の"お兄ちゃん"が妹にナタ持って
追っかけ回されたぐらいで」
「「「それはアウトオオオォォ!!」」」
「でもお兄ちゃんには厳しいけど私には優しいんだよラグナちゃん。挨拶に行った日だって、帰り際に『夜道には
気をつけてくださいね』って声かけてくれたし」
「気をつけて! アルトそれホントに気をつけて!」
「何かあったらすぐ連絡してね! 駆け付けるから!!」
「中の人的にこんな事言うとフラグっぽいけど、私達アルトさんの味方ですから!!」
「あはは、みんな大袈裟だよ」

 そう言って笑いながら、ふと――アルトが窓の外を見た。
 彼女の動きに釣られたように、三人も窓の方に目をやる。
 窓から見える空は、抜けるような蒼天だった。

「……空に、未練ある?」
「うーん、そんなつもりじゃなくて、そろそろ洗濯物を取り込まなきゃって思っただけなんだけど」

 アルトは懐かしむように空を眺める。
 ほんの数ヶ月前までは、あの空をヘリで飛び回っていた。
 整備員をしていたぐらいだ、彼女は元々空への憧れは強かった。
 その空と一体になるようなあの心地良い感覚に、全く未練がないと言えば嘘になる。

「まあちょっと惜しい気持ちはあるけど、月並みながらお嫁さんっていうのも子供の頃からの夢ではあったわけだし、
そういうのは」
「あ、じゃあ私取り込んであげる」
「アタシも手伝います!」
「アルトさんはそこに座っててください!」

 アルトをリビングに残し、ルキノ達がバタバタと庭に出ていく。

「……人の話は最後まで聞こうよ」

 取り残された彼女は溜息を吐きながら親切な友人達の背中を見つめる。

「でもまあ」

 見つめながら、思う。
 けれど、今の自分は幸せだ。

 だから――

「これでよかったんだよ……ね♪」

 アルトは自分の下腹部を優しく擦りながら、まだ見ぬ彼女の子供に語りかける。
 その柔和な表情は、正しく母親のそれと呼ぶに相応しいものだった。


          ◆


「これでよかったんだよ……な?」

 ヴァイスは空のグラスを揺らしながら、対面に座る年下の友人に語りかける。
 その微妙な表情は、正しく迷える彼の心の中を映し出したものだった。

「ボクがどういう風に答えれば満足ですか?」

 語りかけられたグリフィスは眼鏡を拭きながら淡々と返す。

「あの時ボクは、確かに『アルトが貴方の子供を欲しがっていると、以前ルキノから聞いた事がある』と貴方に
言いました。でもその言葉を聞いてどうするか、決めたのはヴァイスさんです。その結果がどういうものだったと
しても、ボクに責任を問うのはお門違いだと思いますよ」
「誰もお前に責任を取れなんざ言っちゃいねえよ」

 ヴァイスは不機嫌そうに言う。

「テメエでやった事の責任はテメエで取るよ……けどよ」

 妊娠が発覚して、アルトはヘリパイロットの職を辞した。
 今では新居でお腹の中の子供と二人、朝は出勤するヴァイスを見送り夜は帰宅した彼を出迎える毎日を送っている。
 自分の目から見れば、彼女は今幸せそうだと思う。
 しかし彼女を想う故とはいえ、自分の勝手な行動で彼女の夢の一つを奪ってしまった事は紛れもない事実だ。
 ここ数ヶ月、ヴァイスは罪悪感に似た感情が心の中に少しずつ澱を作っているように感じていた。
 
「なんかアイツの顔を見れないっていうか、前と同じように接しててもいいのかとかつい色々考えちまうんだよ」
「それで新婚の奥さんをほったらかしにしてこんな所にいる、と。最低ですね」
「……お前ってホント言い方に遠慮がないよな」
「きっと寂しがってますよ、彼女。何ならボクが行って慰めて」
「ぶち殺すぞ」
「すみません」

 はあ、と深い溜息を一つ吐いて、ヴァイスは隣で酔い潰れているザフィーラをモフろうと手を伸ばした。

「ずるいですよ、一人だけモフモフしようとして」
「じゃあ下半分はお前にやるよ」
「下半分っていったって狼なのは上半身だけじゃないですか。ボクはそっちの趣味はないですよ」

 それは上は狼、下は人間という不思議な光景。
 通称ワーウルフ形態、ザフィーラが酔っ払った時にだけ見られるリリカル珍百景の一つである。

「でもヴァイスさん」
「あん?」
「これは、ボクの個人的な意見なんですが――
 人生っていうのは確かに選択の連続ですけど、でもどんなに選択肢を上手く選んだとしても悪い事を全て
 回避する事なんて出来ません。たとえどれを選んだとしても、一つの選択と次の選択の間には回避不可能な
 良い事と悪い事の両方があって、最初から最後まで良い事ばかりの人生なんてきっと有り得ない。
 だから――せめて自分で何かを選択出来た時は、その選択によって生じた結果は自分や周囲にとって絶対に
 良い事なんだと自信を持って生きる方がいいんじゃないでしょうか。
 少なくとも、ボクはそうやって生きてきたつもりです」

「……言ってる事はすげえ立派なんだが、何故か釈然としないのは俺だけか?」
「ておあーん」
「そうっスよねえ旦那……っておいグリフィス、おま、どこ触ってんだよ!?」
「いや、だって下半身でモフモフ出来るほど毛がある場所って此処しかないじゃないですか」
「だからってそのオチはねえぞオイ!? さてはお前酔ってるな! とりあえず指を止めろ……あ、ほらマスターも
憤怒の形相でこっちを睨んでるって! おい止まれグリフィス、おいってば……!!」


 結局、三人はしばらく店に出入り禁止になった。
 そのせいかはわからないが、その後ヴァイスは勤務時間を終えると真っ直ぐ帰宅するようになったという。



 終わり


著者:ておあー

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