魔法少女リリカルなのはACF

[144]魔法少女リリカルなのはACF ◆erhU6I9J2g <sage> 2006/11/26(日) 04:15:02 ID:EQxMTD0v
[145]魔法少女リリカルなのはACF ◆erhU6I9J2g <sage> 2006/11/26(日) 04:16:00 ID:EQxMTD0v
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[147]魔法少女リリカルなのはACF ◆erhU6I9J2g <sage> 2006/11/26(日) 04:17:11 ID:EQxMTD0v
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[150]魔法少女リリカルなのはACF ◆erhU6I9J2g <sage> 2006/11/26(日) 04:19:02 ID:EQxMTD0v
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[152]魔法少女リリカルなのはACF ◆erhU6I9J2g <sage> 2006/11/26(日) 04:20:50 ID:EQxMTD0v
[153]魔法少女リリカルなのはACF ◆erhU6I9J2g <sage> 2006/11/26(日) 04:21:54 ID:EQxMTD0v

クロノ「平穏だった時空管理局が遭遇した
    史上最大の大事件」

グレアム「現れたのは古の文明、意思の疎通さえありえない敵
     灯った戦火は劫火となって戦士達を飲み込んでいく、」

ユーノ「多大な犠牲を出しながらも遂にルルイエ内部に到達した人間達、」

グレアム「そして、激戦の中でこそ紡がれる数々の物語、」

クロノ 「魔法少女リリカルなのはACF、始まります。」
**
歪んだ空が引き裂かれた。そこから露出するのはおよそ秩序立ったとは言いがたい次元空間だ。
その裂け目から幾つもの艦艇が進入してくる。次元世界連合のルルイエ先発突入師団である。
内部には予想通り、大量の敵が居た。異形の群れである。
直ぐに砲撃が始まり、魔導師達が飛び出してくる。
砲撃が飛び交い、爪やデバイスが火花を散らし、辺りは戦火の喧騒に包まれる。
それを遠方から見つる者がいた。その者、真実の幽霊はしばらくして空間に溶け込む様に消え去った。
それに気付いた者は誰も居ない、人間は愚か、異形さえ気付かなかったのだ。
ただ、遠い次元空間の向こうで、何かが、確実に、動き始めていた。

ミッドチルダの辺境は俄かに騒がしくなったいた。
周囲には数多の機材が運び込まれ、フローターフィールドが空高くまで積み重なっている。
その中央には発信塔と大型魔力駆動炉を一体化させたようなのような巨大な建造物が今まさに組み立てられようとしていた。
そしてその周囲は無数のモニタが空中に表示され、現在の工事の進行状況を表示している。
その片隅で作業員達が話している。
「ついに突入したらしいぜ、」
「ああ、俺達は何のためにやってるんだ?結局間に合わないじゃないか、」
後ろから声がかかる。
「馬鹿野郎!なにサボってやがる!」
見るとチームリーダーが顔を真っ赤にして怒鳴っていた。
「いいか、この戦いには間に合わん、だがな、もう一つ有るんだぞ、
 それに間に合わさんといかんだろう!!」
へいへいと作業員達も立ち上がる。確かに、この戦いにこの装置は間に合わない、だが、
次の戦いにはきっと間に合うだろう、同じような発信塔はミッドチルダだけで、一万以上作られている。
もっとも、大型駆動炉から作るのはココとあと2箇所、時空管理局と直接繋がるシステムだけだ。
このような大規模な魔力送信システムは全次元世界で作られており、それら全てを合わせると、
ロスを大きめに計算しても<旧支配者>達と十分に渡り合える魔力が一箇所に集まる筈である。
問題は、それを誰が使うのかと言う事だが……
若い作業員は無言で自分達が築いている尖塔を見上げ、太陽の光に目を細めた。
(親父……あんたが作った……中央を追われたシステムはこうして役に立っている
 ……あんたは無駄じゃなかったんだよ……)
この駆動炉に使用される燃料は、大気中の酸素を消費して魔力を生み出すタイプの物で極めて危険な為、
現在では殆ど使用されていない、この燃料を使った初の大型駆動炉であるヒュウドラは暴走事故を起こし
何人もの人が亡くなり、肩書きだけで実権のなかった“主任”と彼女のシンパであった“共謀者”は
ミッドチルダ中央を追われ主犯である“主任補佐”と“上層部”は罪にすら問われずいた。
だから“共謀者”であった彼の父にいつも「何をやっても無駄だった。」と聞かされて育った。
だが、その親父を切った企業は6年ぐらい前に、突然時空管理局に目を付けられて、
重箱の隅を突付くような厳しい取調べを受けた。結果、株価が暴落、倒産し、企業はばらばらに解体され
別の企業に吸収された。
そう言えば、その辺りに時空管理局を名乗る少女が突然訊ねてきた事があった。それから父は少し明るくなった気がした。
「なにボサットしてやがる!!」
チームリーダーの声に彼は我に返って駆け出した。
あの少女も今戦っているのだろうか?遠い次元空間の向こうで
砲撃が絶え間無く飛んでいく、そしてその間を人間と異形が舞い踊る。はっきり言って人間の方が劣勢である。
流石に先発師団だけでは。異形の方が数が多い、そして異形の方が単体での戦闘能力が高い、
すでに先発突入艦隊は多くの艦を失っていた。
「くっ!」
フェイトの一撃が異形を2体纏めてなぎ払う、その直ぐ横を誰かの砲撃が飛んでいった。
横ではアルフが異形の頭を粉砕している。だが、この数相手にその程度の戦果が何の助けになると言うのか
「はっ!」
なのはが砲撃に叩き込んだ異形が蒸発する。確認する間も置かずに、
アクセルシューターで別の異形をなぎ払うと直ぐにフラッシュインパクトの為にその場を離れていた。
その彼女の先で目の前の船が爆発四散する。爆発した中央から飛び出してきたのは人間サイズの異形である。
だが、その力は圧倒的だ。
その異形は次の犠牲者としてアースラを選び突っ込んでくる。その異形に彼女は側面から突っ込んだ。
フラッシュインパクトが綺麗に側面に決まるさらに其処に強壮砲撃が直撃する。
そこで、その異形は動きを止めた。だが、
「嘘……」
その異形には傷一つ付いていなかった。悠々と彼女を見据え構え、まるで、騎士のように一礼する。
『なのは!聞こえるか!?そいつはオトゥームだ!!』
クロノの通信に一瞬凍りついた。クトゥルフ直衛のはずの異形の騎士、ソレが其処にいた。
迷わずカートリッジをロードする。ハッキリ言って勝ち目が無い、だが、遣るしかなかった。
オトゥームの背後に突然人影が現れる。フェイトだ。彼女は音より速くバルデッシュの刃をオトゥームの首に
突き立てる。しかし、
「!?」
魔力の刃をオトゥームは掴んでいた。それもなのはの方を向いたまま、
そのまま腕を振るうとフェイトはバルデッシュごと投げ飛ばされる。その間にも動く影があった。
なのはの部下の遊撃班が誘導弾を連続で打ち込む、バリアを張られるのは承知の上だ。
魔力を削れば其れで良い、他のフェイトの隊の一部も攻撃に回る。それを意に関せずと言った素振りで
オトゥームは踏み出した。その時にはなのはの魔法も準備が完了していた。
「Divine buster」「行けーー!!」
気合の掛け声と共に、カートリッジ12発を使い切った砲撃が飛んでいく、だが、それをオトゥームはワンステップで
回避、砲撃は砲台に襲い掛かろうとしていた異形を3体纏めて蒸発させただけだった。
(避けた!?ってことは行ける。ダメージが入る!)
ワンアクションで弾倉を二つとも取り替える。オトゥームはすでに眼前に迫っていた。
瞬時になのはとオトゥームの位置関係が入れ替わる。トランスポートによる強制転移、遊撃班の魔導師が
なのはをオトゥームの背後に飛ばしたのだ。自分自身は黄緑と紫のカードを同時に展開、
防御結界と不可視の甲冑、それに自前のバリアの三重の防御でオトゥームを迎え撃つ、
破られるのは承知の上だ。目的は相手を一瞬制止させる事、ただそれだけ、彼は死を覚悟して目を瞑る。
同時に衝撃と鈍い痛みが走り……それだけだった。目を開けるとパンツァーガイストに魔力刃を食い込ませ
オトゥームが止まっている。防御結界とバリアは貫通されていた。反射的にスフィアを生成、
それを拳で眼前のオトゥームに叩きつける。爆風にのって上に飛び、その場を離れた。
それと、なのはが渾身のデバインバスターを叩き込むのはほぼ同時だった。
その時になって初めて彼は自分が助かった理由を知った。狼の使い間、たしかアルフと言ったが、
オトゥームと自分の間にバリアを張ったままの異形を叩きこんだのだ。
御陰で、それを潰して攻撃が途切れたと言うわけだ。その彼の横を黄色い砲撃が飛んでいく、
もっどて来たフェイトがプラズマスマッシャーを叩き込んでいた。しかし、それすらまともにダメージが入っていない、
オトゥームはスフィアを展開、それを超高速誘導でなのはに襲い掛からせる。その一瞬の隙を突いて、フェイトが
飛び込んだ。全力を持ってバルデッシュの魔力刃を突き立てる。その横で同じ隊の魔導師2人が同時に突撃する。
時間差で襲う3連の攻撃、そこに無数の誘導弾が炸裂する。だが、フェイトが見にしたのは、オトゥームの誘導弾に
バリアを貫通され吹き飛ばされたなのはと、自分の眼前に迫り来る。混沌としか形容しようの無い色の砲撃だった。
成すすべもなくフェイトは吹き飛ばされる。
「フェイト!」
怒りに任せてアルフがフォトンランサーを生成した時、オトゥームは突然魔力の爪を何も無い虚空に突き立てる。
その瞬間、空間から滲み出る様に、この場に居る筈の無い、黒衣の魔導師が現れる。それもその爪を避けた形で、
彼は己のデバイスをオトゥームに触れさせていた。彼、クロノのデバイスが魔法の発動を告げる。
「Break Impulse」
無機質な声と共にオトゥームの体内で爆発が起こった。
「やった!」
歓声を上げた魔導師が次の瞬間肉片になり飛び散った。やったのはさっき爆発したはずのオトゥームだ。
オトゥームはまだ動いていた。動きは鈍くなったものの魔力は十分らしく、魔方陣を展開する。
周囲に生まれるは視界を覆わんばかりの混沌の剣(つるぎ)、だが、その魔法の行使を阻む者が居た。
桜色の弾丸と化したなのはが突っ込んで行く、狙いはエクセリオンバスターA.C.S
それと丁度対角線上で金色の風が吹いた。先に混沌の剣(つるぎ)を掻い潜ったファイトの刃が襲う、
だが、それはあっさりバリアで弾かれる。だが、それで良い、これはバリアを消費させる囮に過ぎない
その背後から剣(つるぎ)を砕いて突っ込んできた渾身の突撃方が炸裂する。迎え撃つのは
オトゥームが急遽展開した混沌のシールド、桜色の刃が混沌の盾に突き刺さる。

快音

変化は一瞬だった。行き成り混沌の盾が砕けた。
なのはの魔力に耐えられなかった分けではない、自ら砕けたのだ。混沌の破片が刃の濁流となって彼女を襲う、
彼女はなすすべも無く破片の洗礼を受ける。咄嗟に張ったプロテクションは無いも同然に消し飛び
鮮血が真紅の霧となって空間を朱に染め上げ、激痛に流石の彼女も声になら無い叫びを……
上げられなかった。喉に突き刺さった破片が声帯を切り裂いていた。
破片は体中を切り裂き、一部は完全に貫通、それでも彼女は意識を保っていた。否、
正確にはその激痛こそが彼女の意識を繋ぎとめていた。余りの痛みに意識は飛んでは、その痛みに引き戻されるを繰り返す。
視界は霞み、三半規管は位置を見失い、風を感じる皮膚は激痛しか返さない、
混濁した意識の中で、半分しか繋がっていない腕の、二本の指を失った手で必死にレイジングハートを握り締め、
それが導くままに後方に下がる。だが次の一撃が来る心配は無かった。何故なら彼女は
己の役割を完全に全うしていたのだから、
「Break Impulse」
再び戦場に無機質な声が響く、フェイトとなのはを囮に近づいたクロノが2度目のブレイクインパルスを叩き込んだのだ。
周囲の剣(つるぎ)が消えた。魔力を失ったのだ。だが、それでもオトゥームの戦闘能力は失われていなかった。
魔力の篭った爪の一撃をクロノに見まう、彼はそれをデュランダルで受け、その衝撃を利用して上昇する。
そして……
「Break Impulse」
三たたび無機質な声が響き、オトゥームが3度目の爆発を起こす。クロノが上空に居るにも係らずだ。
声の主はバルデッシュ、義妹として過ごした7年の歳月はフェイトが必殺の魔法を学ぶのには十分であった。
デュランダルから送信された固体振動数を使用し、最短でソレを叩き込んだ彼女は結果を確認するより早く
魔力刃を更に突き立てる。流石に三度も喰らうともう魔力が付きて居るのかあっさりバリアを貫通、
オトゥームに刃が突き刺さった。そこに上空より飛んできたクロノのスティンガーブレードが立て続けに突き刺さる。
それでもオトゥームは動いた。戦線から離脱しようと加速する。だが、それを見逃す魔導師は居ない、
突然甲板から伸びてきた白い楔がオトゥームを貫き固定する。遊撃班の一人がザフィーラのカードを使用したのだ。
集中攻撃で動かなくなったオトゥームは、4度目のブレイクインパルスで爆散し、強壮砲撃で蒸発した。
流石にもう復活はしないだろう、なのは安堵して治療用の結界の中からアクセルシューターを発射する。
バリアジャケットは真っ赤に染まったままだが傷口は大分ふさがっている。眩暈がするのは出血多量による貧血のためだが、
ここに居ればそれも直ぐに回復するだろう。指も直ぐに生えて来る筈だ。
オトゥームを倒す為だけに緊急出撃したで有ろうクロノにアクセルシューターを操りながら敬礼する。
彼はそれに敬礼で返し帰艦していった。そして……その前方でまた一隻船が沈んで行く……
左翼後方支援師団のドッグ船、そこにスッポリと包まれた巡航L級艦の艦橋にグレアムは居た。
艦長と今後の事を軽く話し合う、
「思ったより被害が軽微だな、これなら補給終了と同時に出撃できそうだ。」
彼の言葉に艦長は頷く、ルルイエの外の戦況は予想されていたものより幾分良かった。
先発突入師団が打ち込んだ楔が確実に異形の戦線を掻き乱し、崩壊へと導いている。
御陰で、各支援師団も一部を残して上昇しており、随分と早く補給を受ける事が出来た。
今、こうしている間にも輸送船団がこの艦隊まで補給物資を運んできているはずだ。
(……しかし……)
グレアムは被害状況が表示された空中モニタに目を走らせる。そこに有る項目で一つだけ極端に少ない物があった。
(確かに彼の言う通りだったな……)
その欄は異形と接触した事による精神汚染、すなわち狂気に走った者の数である。
作戦会議中、大きな不安要素として取り上げられたのが、この狂気である。多くの書物が示す通りならば
多くの兵が戦わずして脱落する。それをはっきりと否定したのが会議に資料を提出したユーノであった。

曰く、異形による精神汚染はどんなに多くても誤差範囲とどまり、考える必要な無い、
曰く、例外が考えられるとすればクトゥルフの活動開始時においてであるが、頭痛が短期間する程度である。
曰く、但し、上記のことは“理解しようとする者”には当てはまらない、

彼の発言を纏めるとこうなった。彼によると異形との接触による発狂は、文明の衝突におけるヒステリーと本質的に
同じであり、自分とは異なる者への恐怖である。神話の時代ならいざ知らず、
散歩感覚で異なる次元世界を渡れるようになり、さらに彼らの武器であった魔法さえも解き明かし使用する今の時代の人間には、
<旧支配者>の力に対する畏怖はあれど異質に対する畏怖は無い、これが彼の結論である。
これは人類が、かつて<旧支配者>が支配していた時代に比べ彼等に近づいている事を示している。
そして彼は最後に付け加えた。

ただし、これは自ら進んで内面に踏み込まなかった場合だと、
人間と彼等がもつ内面の異質さには未だに大きな隔たりがあり、
それが恐怖となって精神を蝕むのだと、
だから彼等を理解しようとしてはいけない、
したが最後、狂気に陥いり二度と社会復帰が出来なくなると

今の所、彼の警告は守られており、御陰で精神の変調により脱落するのは各艦隊に一人居るか居ないかだ。
正確な情報ほどありがたい物は無い、だが……それをグレアムは疑念に思う、余りにも正確すぎる。
(まるで……いや、まさかな。)
無限書庫の司書達が不眠不休でサルベージした資料の塊を彼自身が纏め上げたモノである。それぐらいは当然だろう、
慎重な人間は、完璧で有れば有るほど、上手く行けば行くほど、不安になる。おそらく自分もその症状が出たのだ。
そう考え直して紅茶を飲み干す。艦長の方を見ると師団長から命令が来たらしく、モニタの前で話し込んでいる。
彼がサンドイッチを食べ終えた所で艦長が向き直った。
「もう出撃です。どうも嫌な連中が戦場に来たそうで、」
「嫌な連中?」
彼は大きく頷いた。
「クトゥルフ教団の武装艦隊です。どうも相当な数の大艦隊だそうで、この艦隊に討伐命令がなされました。」
ふむ、とグレアムが頷く、どうも理解しようとしてしまった連中がやってきたようだ。
「司書長の資料によると旧式の戦艦が数隻、後は違法改造した商用船らしい、」
「司書長の?」
見るとモニタには確かに無限書庫司書長ユーノ・スクライアの署名がある。
そしてそれは詳細なクトゥルフ教団艦隊の情報であった。確かに大艦隊であるが大した事は無い、
「……」
「どうしました?」
艦長の声に彼はハッとしたように答える。
「いや、何でもない、側面を突かれると貧弱な兵装でも脅威となる。とっとと片付けた方が良いだろう。」
彼の言葉を待たずして、すでに周囲は慌しく動き出し、出撃に向けて動き始めていた。
「突入準備完了しました。」
「よし!ミッドチルダ第295艦隊、突入せよ!!」
提督の号令と共に、ミッドチルダ第295艦がルルイエ内部に転移する。最も突入したのは彼等だけではない、
そばに艦隊単位で大量と言っても差し支えの無い量の艦艇が犇いている。
右翼師団が残存兵力掃討様の艦隊を残してルルイエに突入したのだ。
天を埋め尽くし、次元空間おも覆う艦艇は、これでも本隊、中央師団に比べると
見劣りする量の艦艇しか存在しない、そして、
これが、この数こそが、今の次元世界の、今の人類の力である。
最もルルイエは超大規模を通り過ぎた世界、そしてそこの住人が全員戦闘員と来ているのだが……
彼等は師団の切り込み部隊として陣形の最外縁部に陣取っていた。
周囲に敵影は無い、その事に気付き艦橋でポーズを決めていた彼は嫌な予感がした。
何かがおかしい……瞬時に知識を思考がまとめ上げ、直感と言う形で彼に答えを告げる。
「おい!先発師団の反応は有るか!!」
「……不明で……ん!」
「どうした!?」
「10時の方向で異常魔力反応!!」
彼は破顔した。そこには先発突入艦隊が居る筈である。そして彼等は今通信が出来る状況に無い、
また、ルルイエの主、クトゥルフは完全には目覚めていない、敵は完全な統制が取れていない、
つまり……敵さえ居れば其処に群がる可能性がある……
「師団長に繋げ!急げ!」
「はっはい、」
直ぐに通信が繋がった。彼は無礼を承知で相手の返答を待たずして叫ぶ、
「師団長!!先発師団の救出に行かせてください!!彼等まだ戦闘を続行しています!」
血相を変える彼に師団長は半ば呆れながらも答える
「落ち着きたまえ、今こちらも通信が来ない事と戦闘が続行されている事を確認した。」
師団長の目が細くなる。何かを考えている目だ。
「よし!右翼師団全艦隊に命令!!全軍、10時の方向に進撃!先ずは先発突入師団と合流する!!」
「……師団長、」
師団長は少しだけ肩を竦めると、とぼけた口調で命令してきた。
「何をしている?速く動かないか、切り込み艦隊が動かなければ他の艦隊が動けん、」
「了解!全艦進撃せよ!」
彼の号令でミッドチルダ第295艦隊が、そして後続の艦隊が進撃を開始する。
脳裏にアースラの姿と其れを率いる若い提督、そして次元間兆弾爆砕を成功させた二人のエースの姿が浮かぶ、
(生きているんだろうな、あいつ等……)
ただそれだけが心配だった。

グレアムが所属する艦隊はすでに臨戦態勢を取っていた。敵の艦艇の数は自軍の5倍強、普通なら撤退するか
援軍を要請する数である。しかし、彼等の表情は寧ろ落ち着居ていた。笑みさえ見せる物も居る。
提督が敵旗艦に通信を入れる。
「貴君等に勝ち目は無い、よって降伏勧告を行う、貴君等が速やかに武装解除に応じれば、
 貴君等は捕虜として名誉ある扱いを受ける事が可能だ。しかし、
 もし、万が一その程度の兵力で我々に刃向かうので有るならば、貴君等はテロリストとして
 この世から抹殺される事となる。」
一拍も待たずしてクトゥルフ教団の指導者は返答をよこす。
『だから如何した!?世界の真理も見つけられぬ、愚か者どもが、我々は<大いなる>クトゥルフの尖兵
 に過ぎん、我々が此処で戦えば我々の勝ちだ!』
理論事態が破綻している返答に、提督は大げさ気味にため息を付いた。
「言っている意味は分からないが……降伏の意思が無いことは分かった。」
通信が切れた。同時に敵の砲撃が開始される。だが、それは散発的なものだ。旧式戦艦と武装だけ辛うじて
最新式の物を取り付けられた武装商用船が撃ってくるに過ぎない、だが、敵も承知で全力で突撃してくる。
対してグレアム達は反撃の砲撃を開始した。最新式の艦艇はそのクトゥルフ教団艦隊全てを射程に治めている。
前方に配置されていた艦隊は瞬時に火達磨になり爆発四散した。
狂信者の意地かそれでも突っ込んで来るクトゥルフ教団艦隊の一部で変化があった。
旧式戦艦が行き成り爆発したのだ。
「なに!?」
教団の艦長は横で何が起きたのか分からなかった。そして、自分の船の甲板に一人の老人が立っている事に気がついた。
「このタイプの戦艦は実は旧式戦艦としては申し分無い装甲と兵装を持っている。
 搭載量、機動力、動力炉出力、航行距離ete,eteどれを取っても今現役で動いている戦艦と引けを取らない、
 なら、何故旧式になり払い下げられたのか、」
分かるかね?とグレアムは誰にでも無く問いかける。当然返事は返って来るはずが無い、其処には彼しか居ないのだ。
だから彼は落ち着いて己のデバイスで甲板を突いた。一瞬の静寂、

爆音

彼の足元で戦艦が爆発した。シールドを足元に展開して爆風に乗り上空へと飛び上がる。
「こういう事だ。燃費を追求したまでは良かったが、その結果、知っている者なら誰でも駆動炉を
 爆破出来る様になった。それも、ほんの少しの魔力で、」
発覚したのは生産が開始されてからだが、と彼は付け加える。そして6発ほどの
スティンガーブレイドを作り出す。それらは一瞬で目視不可能なレベルに加速して、
全てが武装商船の燃料タンクを炎上させる。燃料タンクの爆発に武装商船は成すすべも無く爆発四散した。
「もろい!!
 やっぱり商用船は商用船だな
 商用船の安価さに目を付けたのはいいアイデアだが
 これでは!!
 <旧支配者>の眷属には程遠い。」
圧倒的な強さを持つ彼にクトゥルフ教徒が身じろぎする。周囲を取り囲みながら手を出す事すら
叶わない者達を彼は一瞥した。
「小便はすませたか?」
一歩前に出た。
「クトゥルフへのお祈りは?」
魔方陣が展開された。
「世界の隅でガタガタふるえて 」
周囲に数百本のスティンガーブレイドが出現した。
「命乞いをする心の準備は 」
それらは一斉に向きを変え……
「OK?」
挑発とも死刑宣告ともとれるその言葉が終わると同時に破壊と絶望を撒き散らす。
それを後方から見て苦笑いする少女達が居た。
「お父様楽しそう……」
「なんか、昔に戻った感じねー。」
何時もと違う姿に少し不安(主にぎっくり腰)になりながらも二人は最愛の主の援護に全力で駆け出した。
戦闘開始から僅か10分、すでにクトゥルフ教団の戦団は瓦解を始めていた。
先発師団は壊滅の危機に曝されていた。いや、正確には既に壊滅していると取って差し支えの無い状況だった。
もはや残存する艦艇は2隻、旗艦とアースラを残すのみとなっていた。
その2隻もすでにバリアを展開するのがやっとの状況だ。撤退する余力は無い、
機会なら有った。オトゥームを撃退した時もそうだったし、ズールーが3体纏めて襲ってきた時もそうだ。
だが、平和が長く続いた事が仇になった。大規模な軍事行動の経験不足から来る
些細な判断ミスが致命的な事態を招いた。それが皮肉にも異形の軍団を引き付ける事になり、
他の師団の突入を助けた事を彼等は知らない、知る余裕も無い、
『すまないな、こんな事に付き合わせてしまうとは、』
クロノの前にモニタが映し出される。相手は先発師団の師団長だ。映し出される艦橋にクロノは息を飲む。
そこには彼しか居なかったのだ。
「師団長!?」
クロノの呼びかけとほぼ同時に、旗艦の一部で爆発が起こった。旗艦のバリアが消えていた。
モニタにノイズが走る。
『見ての通りだ。私はこの年だ……アースラには辿り着けん、だからだ……この瞬間より……
 先発師団の全権を……君に預ける。分かったな……』
クロノはアースラのメインモニタを見る。今まで旗艦を守っていた。ほぼ全ての魔導師が
異形の囲みを何とか突破してアースラに辿り着こうとしているのが見えた。
『若い君達には……もうし分けない事をした……本当……』
モニタは何も移さなくなった。旗艦が更に爆発する。その旗艦が動いた。瓦解しながらも
目の前の敵、ペシュ=トレンに吸い寄せられて行き、爆発した。恐らく手動で残った全ての燃料に
引火させたのだ。傷つていたペシュ=トレンはそれで活動を停止した。

爆発の直前に辛くも脱出した彼はその様子に満足げに頷くと、向かってくる異形に向き直る。
単体でアースラに辿り着けるなどとは思っていない、だが、
アースラに辿り着こうとする者の援護は出来る筈だ。だから彼は声を張り上げる。
「こい異形ども!!ココに大物が居るぞ!しかも一人で!」
叫びながら有りっ丈の魔力でスフィアを展開、己の体が傷つくのにも構わずに発射した。

「くっ」
クロノは戦況を確認する。旗艦から向かってくる者達を助ける事が出来る戦力は残されていない、
それでもアースラは一応持っていた。駆動炉の出力は低下しているが、バリアは間だ展開できている。
そして既存の戦力に加え、すでに撃沈された艦艇の魔導師達も一緒になって戦っていた。
すでに守るべき船はアースラしか存在しないのだ。最もアースラまで辿り着けた魔導師と
既存の戦力を合わせても、出撃時の戦力と大差が無いのだが、
勢い良くアクセルシューターが飛んでいく、今の激戦区は甲板に張られた治療用の結界周辺である。
なのはその一つから少し離れた所に陣取り、多数の敵を引き付けていた。
魔力の消費を最小限に抑える為に殆ど動かずに、
動かなくなった砲台を盾代わりにして、異形の死骸を囮に使い、仲間の亡骸からカートリッジや
カードを奪って(もらって)休む間も無く魔法を打ち続ける。
フェイトもアルフもここ暫く見ていない、戦場で便りが無いのは危険な証拠だ。
だが探しに行く余裕は無い、
アクセルシューターの一つが背後に降り立った異形の頭部を打ち砕いた。
疲労で狙いが甘くなって居る。頼りはレイジングハートの補正機能と、
疲労を誤魔化す一種の合法ドラックだ。もっともドッラクの方は気休めにしかならないが、
もしかしたら中毒になっているかも知れない、時間の感覚も無くなって来ている。
「しまった!」
一体の異形を打ち漏らした。異形の放った10発の誘導弾が弧を描いて襲い掛かる。
だが、その異形の喉元に一本の槍が突き刺さった。その槍は貫通して飛んで行き
主を失った誘導弾は消滅する。
「無事ですか?」
槍の主は砲撃班だった一人である。敵の猛攻にメンバーを失い、班として機能していない班を解体
再編成して二人から三人一組で行動させている。もっともすでに片割れを失った者も多い
彼もその一人だ。彼は彼女と並んで己が得意な魔法の槍をカートリッジが無くなるまで連射する。
それらは全て異形に命中、貫通した。中には3体同時に仕留めた物もある。
そして慣れた手つきでレイジングハートと同じ規格の弾倉を取り替えた。
その後自分の教官に弾倉が入った袋を渡す。
「コレが最後です。アースラに積んだこの規格の弾倉はもう有りません、」
一瞬袋に目を落すが、直ぐに顔を上げアクセルシューターを補充する。
「分かってる。他の連中には?」
彼も槍を発射する。
「はい、全員に配ってきた所です。」
そうか、と彼女は頷き、念話を飛ばした。
『高町中隊はたった今より、自分の魔力を攻撃、防御に使用する事を許可する!以上!!』
今までは緊急回避以外認め居なかった魔力の使用が解禁された。つまり、もう後が無くなった。
その事実に顔を顰めながら彼女はある事に気がついた。
「お前は何故此処を動かない?」
「隊長を一人にしておけません、」
言い切った彼に対して彼女はため息を付いた。
「此処は一人で十分よ、」
そう言って弾倉を取り外し、バラになっているカートリッジを一つねじ込んだ。一応コレでも機能する
「そのカートリッジは?」
疑問に思った彼に彼女はデバインバスターを放ちながら砲台の影を指差した。
「!?」
そこには流れ着いた魔導師の衣服が落ちていた。胴体だけは残ったままだった。
「彼等の遺物、大切に使う事、決して無駄にしたらだめ、分かった?」
「は、はい、」
「返事は了解、」
「了解!」
彼の泣きそうな顔を見て胸が痛んだ。死体を漁れと言ったも同然である。少し残酷だったかなとも思う、
だが、こうでもしないと死んでしまうのだ。生きている以上はきっと助けが来る。
根拠は何も無かったが信じるしかなかった。今はただ仲間の無事を祈って……

編隊から逸れた異形が一瞬で絶命した。此処は元々先発師団の艦隊があった場所である。
今その船は全て破壊され残骸のみが漂っている。そこにフェイトは居た。
さっき異形を襲ったのもフェイトである。彼女はもう一体異形を仕留めると
艦隊の残骸に身を潜めて異形の群れをやり過ごす。アルフは連れてきていない、
彼女の使い間は今治療用結界の防衛に行かせている。だが、此処に居たのは彼女だけでは無かった。
彼女は元々一人部屋だった所に開いた小さな穴から、持ってきた備品を掘り込んだ。
その辺を漂っていた友軍の亡骸から取った物だ。
そして合図をして中に入る。
そこには一人の男が横たわっていた。パッと身30歳ぐらいだろうか、
見つけた時は虫の息だったが今は治療用のカードで大分回復している。
「大丈夫ですか?」
「ああ、有難う」
彼はそう言うと身体を起こす。彼女はそこに近づいって回復魔法が込められたカードを渡した。
その後バルデッシュに見つけたカートリッジを込めて行く、
一番最後に規格が有っていない小型のカートリッジをセットして、それを最初にロードするように
リボルバーを合わせた。こうするとまずジャムる心配は無い、
「君は……何時まで此処に居る気だい?」
彼の問いに彼女は答える。
「……分かりません、帰艦出来なくなったっと言った方が良いかもしれません、」
そう言って見つけてきた携帯食を食べ始める。
「……さっきアルフから連絡がありました。旗艦が落ちたそうです。」
「なに!?」
彼は彼女の目を見るが嘘を言っているようには見えない、
「私は間だこの艦隊が健在の時に、他の隊員と一緒に援軍に来ました。
 連絡要因としてアルフをアースラに残して……
 しかし、この艦隊、及び私のいた部隊は全滅です……」
言葉を濁すが彼女が何を言おうとしているのか彼には分かった。つまりは
旗艦が沈んだ今、アースラに敵が集中、単身帰艦するのは自殺行為と言うことだろう、
「……今は生き残る術を探して潜むのがやっとです。」
そう言って床に置かれていた箱を覗いた。そこには色とりどりのカードが入っている。
これでも見つかったカードは全てではない、効果が薄いカードは床に散乱してたり、
直ぐに使ってしまったりしている。さっき渡した治療用魔法のカードも発動が遅くて
戦場での使用に耐えれる物ではない、恐らく艦内の医療スタッフが用意していた物だろう。
「でも……」
彼女の目に微かな光が灯った。
「これだけ物資が見つかったのなら貴方が回復ししだい帰艦を試みるつもりです。」
「どうやってだ?」
彼はそこまで言って思考を停止した。彼女が自分を指差していたからだ。
「貴方は確か整備員でしたね、」
「ああ、そうだが、」
「囮兼トラップに使えそうなものが色々健在なんです、燃料タンクとか、脱出用の小船とか、
 ……別の船に行く必要が有りますけど、」
彼はようやく納得した。治療用のカードをもう一枚使い起き上がり、
手渡された食料を口に運ぶ、
「そう言うことなら案内してくれ、即席で何所まで出来るかはわからないが
 起爆装置ぐらい作れるだろう、」
そう言って笑ってみせる。二人は直ぐに荷物の整理をし始めた。
アースラの物資は欠乏している。一部の規格の弾倉は尽きたとアルフから報があった。
一刻も早く帰艦する必要がある。
艦橋に警報が鳴り響く、もう当たり前の事のはずだが今回の警報は少し違っていた。

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目次:魔法少女リリカルなのはACF
著者:480◆erhU6I9J2g

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