魔法少女リリカルなのはA’s −提督の受難−

[271]640 ◆CaB8KPh.gs <sage> 2006/10/11(水) 20:29:52 ID:VoWfDbMD
[272]640 ◆CaB8KPh.gs <sage> 2006/10/11(水) 20:31:32 ID:VoWfDbMD
[273]640 ◆CaB8KPh.gs <sage> 2006/10/11(水) 20:33:50 ID:VoWfDbMD
[274]640 ◆CaB8KPh.gs <sage> 2006/10/11(水) 20:41:17 ID:VoWfDbMD
[275]640 ◆CaB8KPh.gs <sage> 2006/10/11(水) 20:44:06 ID:VoWfDbMD

ケースその1。相手がシグナムの場合。

『はい』
「ああ、シグナムか?僕だ……」
『失礼』

あ、通話切られた。

ケースその2。相手がシャマルの場合。

『もしもし?』
「僕だ、クロノだ」
『ああ、協力はできませんから、そのつもりで』

……くそう。満面の笑みが携帯越しでも見えてくる。

すずかやアリサには、着信を拒否された。


魔法少女リリカルなのはA’s −提督の受難−

第三話 土下座


「いいかげん、出てったら?」
「……できたら、とっくにやってる……」

呆れたように、ユーノが言った。
転がり込んで5日目になろうかというのだ、無理もない。
無理もないとわかっていても、クロノはそれを渋らざるを得ない状況であった。

「なんでそんなに怒るんだ、朝帰りくらいで……」

子供じゃないんだぞ。
あれから何度も首を捻ったが、まったく原因が頭に浮かばなかった。
朝帰りが続いたくらいでこれほど、長い間フェイトたちの怒りが持続するものだろうか。

「なんかの記念日だったとか、は?」
「へ?」
「クロノのことだから仕事仕事で、日付感覚なくなってたんじゃないの?」
「いや、そんなことは───……待てよ」

5日前?いや、6日前か。
6日前というと────……。

「あ」
「おお?何か思い出した?」

あった。とんでもなく重要なものが。
そりゃあ間違いなく怒るよなぁ、っていうものが。

「───彼女の、誕生日だ」

ああ、怒るわな、それは。

*   *   *

「……僕が悪かった」

ユーノに付き添ってもらい、なだめすかしてもらい。
ようやくのことで家に入れてもらうことのできたクロノは、深々と頭を下げた。

向かいの席には、憤懣やるかたない表情で腕組みをするエイミィと、フェイト。
そして面白そうに見ている母、リンディもとなりに座る。

「で?クロノくんはこの状況の原因をわかってて、戻ってきたのかな?」
「……すまなかった」
「謝る理由を言いなさい、理由を」
「せっかくの誕生日を、すっぽかしてすみませんでした」
「っちっがあーう!!くぉの、鈍感朴念仁!!」
「へぶっ!?」

ソファから立ち上がり、零距離の殴りつけウエスタンラリアット一閃。
ロングホーンに雄叫びつきで右腕がフルスイングされる。

「な、なぜ……」

傍から見ているユーノが引くようなえぐい角度で喉に入り一回転宙に舞ったクロノが、
床で痙攣しながらつぶやくように言った。
日ごろから鍛えていてよかったね、クロノ。

「もちろんそれもある!!先週の木曜は、たしかに私、エイミィ・リミエッタ21歳の誕生日!!」

ようやく頭をフローリングから持ち上げたところに、びしりと指差される。

「誕生日スルー!!私かわいそう!!みんな怒る!!」
(何故片言……?)
「でもね!!私やフェイトちゃんが怒ってるのはそれだけじゃないっての!!」
「あだだだだだだっ!?頭が、頭蓋骨があぁっ!?」

指差し確認後に、頭を鷲づかみにされアイアンクロー?シャイニングフィンガー?を食らう。

ああ、そういえば士官学校時代、魔力なしの格闘術、エイミィは主席だったっけ。
痛い痛い痛い。というか割れる割れる割れる。

もう身長だってこちらのほうが高いはずなのに、
エイミィに片手一本でクロノは頭から吊り上げられていた。

「エイミィ、私のぶんも残しておいてね」
「御意」
「フェイトぉっ!?っていででででで!!!」

指の隙間から、フェイトがにこりと笑うのが見えた。
我が妹ながら、ぞっとするような冷たい微笑みで。
というかエイミィさん、なんか湯気を立てている左手を右手首に添えるのは何故ですか。
まさか某筋肉魔人よろしくヒートエクステンドとかそんなものやらかそうなんてことは───……、

「ヒィート……」

してた。してました。できるんかい。

「まてまてまて!!それは死ぬ!!死ねるから!!勘弁してくれ!!怒ってる理由を言ってくれ!!」
「……」
「え、エイミィ?」
「……フェイトちゃん、もうやっちゃっていいよね?」
「うん、私が許す」
「何故に!?」

助けて。誰か助けてくれ。
心底クロノがそう願ったとき、ようやくリンディが助け舟を息子へと出してくれた。

「はい、はい。クロノもエイミィも、その辺にしときなさい」
「……提督」
「僕も一応提督なんだが……いて」

頭を握っていた右腕を離され、落下して尻餅をつく。
エイミィの様子はうって変わり、恥かしげに俯くその顔はなぜか赤い。

「さて、クロノ」
「はい」
「何故エイミィたちがこんなに怒っているか、わかる?」
「え?だから朝帰りが続いて、誕生日をすっぽかしたからじゃ───……」
「もう。本当に鈍感なのね」

肩をすくめ苦笑する母は、なんだか懐かしそうにしていた。

「こんなところまであの人に似なくてもいいのに」
「は?」
「隠し事はするな、ってことよ」

───隠し事?
クロノは軽く頭を捻った。これといってやましいことを彼女達に対してしたり、
隠したりしていた覚えはない。

そんな疑問に満ちた表情も、母の放った次の言葉で氷解し、一変する。

「───特に、家族には。……これから家族になる人には」
「……あっ!?」

鈍いクロノでも、ようやくわかった。

「話したのか!?エイミィ!!」
「話したのか、じゃないでしょ!?私てっきり、もうクロノくんから聞いてると思ってたんだから!!」

立ち上がったクロノも、言い返すエイミィも、真っ赤になって怒鳴りあう。
怒鳴りあって見つめあい、目を逸らす。

「……だ、だって。あんまり遅いもんだから。知ってるものだと思って、ついフェイトちゃんに話振って」
「……ごめん。誕生日のこととあわせて、済まなかった」

なんだか通じ合い、理解が完了している二人。
一方で唯一おいてけぼりなのは、ソファで見ているユーノである。

「どういうことです?」
「つまりね。隠してたのよ、クロノ」

リンディの声にそちらを向くと、彼女は母親そのものの顔で
二人のやりとりに目を細めていた。

「エイミィとお付き合いをはじめた、ってこと。照れくさかったんでしょうね、きっと」
「え!?……ああ、わかる気がします」

そういうことだったのか。
……まあ、自分も未だに部族の皆にはなのはのことを紹介できていないし。
実感を込めてユーノは理解し、頷いた。

「まだ結婚とか、そういうのはまだのようだけれど……さっきの様子を見る限りは、
 私も孫の顔を見る日はそう遠くなさそうね。なんだか嬉しいわぁ」
「あはは……でも、今は」

すっと右の指を横へ向ける。

その先には、鬼神が待っている。

「あいつには生き残ることのほうが先決じゃないですか?」
「……そうねえ」

*   *   *

「……クロノくん」
「なんだ?まだ何か……」
「がんばってね」
「は?」

抱き寄せようと身を寄せたというのに。
エイミィは首を振って離れていった。

まだ怒っているのだろうか?
いや、彼女の顔に怒りはもう感じられない。
むしろひきつった笑いを浮かべている感じだ。

「一体───……」
「お────に────い────ちゃ────ん────……」
「!?」

そう。彼女のことを忘れていた。

フェイトに対する、説明が必要であったということを。

「どうして、教えてくれなかったのかな……?」
「い、いや。それはだな。つまり」
「恋人としてお付き合いするようになったのはつい最近とは聞いたけど、ねえ……?」

そりゃそうだ。
変化がなさすぎて自分でも恋人というより相変わらず家族としての認識が
強かったんだから。
言わなかったんじゃない、忘れてただけだ。

だがクロノの言い分を無視するように、
フェイトの普段着がバリアジャケットに変化していく。
また右腕には、黄金の刃もつ剣が握られる。

カートリッジも、フルロード。容赦なし。

「家族に隠し事はよくないことだよね?だまってるのは悪いことだよね?」
「ばっ……!!こんなとこでザンバーなんて使ったら……」
「あ、クロノ。結界張っといたから大丈夫。がんばれ」
「ユーノっ!?」
「悪いことするお兄ちゃんには────……」

あ、まずい。
ちょうどデュランダルもS2Uも、立ち上がったソファに置いた上着に、
電源を切って入れっぱなしだ。

防御魔法を起動しようとして気付いたが、あとの祭りだった。
デバイスもなしのシールドで耐えられるか、んなもん。

「おしおきっ!!!!」

とりあえずもう妹に隠し事をするのはもうやめよう。
クロノは思った。思いながら、プラズマザンバーを甘んじて受けることにした。

目覚めたときにフェイトの機嫌が直っていることを、祈った。

──完

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目次:魔法少女リリカルなのはA’s −提督の受難−
著者:640

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