[416] 悲しきしわ寄せ 1 ◆6BmcNJgox2 sage 2007/12/20(木) 19:19:56 ID:EOrvGa/6
[417] 悲しきしわ寄せ 2 ◆6BmcNJgox2 sage 2007/12/20(木) 19:20:57 ID:EOrvGa/6
[418] 悲しきしわ寄せ 3 ◆6BmcNJgox2 sage 2007/12/20(木) 19:22:51 ID:EOrvGa/6
[419] 悲しきしわ寄せ 4 ◆6BmcNJgox2 sage 2007/12/20(木) 19:23:32 ID:EOrvGa/6
[420] 悲しきしわ寄せ 5 ◆6BmcNJgox2 sage 2007/12/20(木) 19:24:59 ID:EOrvGa/6
[421] 悲しきしわ寄せ 6 ◆6BmcNJgox2 sage 2007/12/20(木) 19:25:54 ID:EOrvGa/6
[422] 悲しきしわ寄せ おまけ ◆6BmcNJgox2 sage 2007/12/20(木) 19:27:40 ID:EOrvGa/6

高町士郎はかつてテロに遭い、瀕死の重傷を負った過去を持つ。彼は本来ならば
そこで亡くなるはずだったのかもしれない。しかし彼は現在も生きている。
その為に後に他の者にしわ寄せが来る事になろうとは……誰も夢にも思わないだろう…。

時は流れ、高町士郎の娘・高町なのはは立派に成長し、ユーノ=スクライアと言う男と結婚。
そしてなのは=T(高町)=スクライアと改姓した。それからさらに数ヶ月の時が経過した頃、
なのははユーノの子を妊娠し、お腹の膨らみが分かる程にまで子が成長するに至っており、
産休を取って家でゆっくりしていた。
「ユーノ君行ってらっしゃい。出張先でも気を付けてね。」
「うん。なのはもお腹の赤ちゃんの為にも無理しないでね。ヴィヴィオもママの事を頼んだよ。」
「うん! なのはママはヴィヴィオに任せて! ユーノパパもお仕事頑張ってね!」
「それじゃあ行ってらっしゃい。」
なのはの夫・ユーノは無限書庫司書長をする傍ら、各地の講演会に出席して講義を行う事も度々あった。
故に今日もまたユーノは遠くの地まで講演会に出席する為に出張する事になっていたのである。
そして玄関でなのはと、なのはの養女・ヴィヴィオに笑顔で見送られながらユーノは出かけて行った。

ユーノが出かけて一時間後、ヴィヴィオは自室で学校の宿題をし、なのはは
ユーノの子の詰まったお腹を優しく摩りながらTV番組を視聴していた。
「今頃ユーノ君も空港に付いてる頃かな?」
ミッドチルダの芸人が身体を張ったコントを披露する番組でなのはも
不覚にも笑ってしまう代物であったのだが…そこで突然画面が切り替わった。
『番組の途中ですが臨時ニュースです。つい先程ミッドチルダ○○空港にて自爆テロが発生した模様。』
「え? 自爆テロ?」
自爆テロが発生したと言うニュースになのはは思わず耳を傾けた。
「しかも○○空港って行ったらユーノ君が行った空港じゃない…大丈夫だよね…ユーノ君…。」
なのははユーノの事を思い出しながら臨時ニュースに注目していたのだが、
今度は現場の映像に切り替わった。
『ハイ! こちら○○空港です! 現場は酷い有様です!』
○○空港の現場ではかなり大きな煙が立ち上り、消防隊も多数出動して消火活動を行っていたりと
かなり凄惨な状況にある事は想像に難くなかった。他にも自爆テロの被害者が多数出ているらしく
沢山の怪我人がタンカで運ばれていた。
「ユーノ君…大丈夫だよね…ユーノ君…。」
なのはは心配で仕方が無かった。まさかユーノも自爆テロの被害で怪我したりしてはいないかと…。
しかし…そこで現場のレポーターがADっぽい男から何かを手渡されていたのである。
『あ! ただいま入りました新情報です! 自爆テロの犠牲者の中には何と
あの無限書庫の名物司書長ユーノ=スクライア氏の姿もあったとの事です!
無限書庫は彼の手によって何とか機能し、様々なロストロギア事件解決に貢献していたと
言う事もあり、これは時空管理局にとっても大きな打撃になると思われます!』
「え……………………。」
なのはは一体何が起こったのか理解が出来ず…暫し硬直していた。
「あの…嘘だよね…。ユーノ君がテロの犠牲になったなんて…ただの冗談だよね…。
マスコミお得意の捏造だよね…。そうだよね…。そうって言ってよ…。」
なのはは信じられなかった。どうせマスコミが言っている事は事件の混乱によるただの勘違いで、
画面の奥の人込みの中からひょっこり無傷のユーノが出て来るに違いないと考えていたのだから…。

それから一時して突然フェイトがなのはの家までやって来た。
「なのは!」
「フェイトちゃんどうしたの?」
その時のフェイトの顔はまるで恐ろしい事を知ったかの様に真っ青になっていた。
「なのは…絶望しないで聞いて…。ユーノが先程○○空港で起こった自爆テロに遭って…それで…。」
「酷いな〜フェイトちゃんも。いくら私とユーノ君の結婚を良く思ってなかったからって
ユーノ君が死んだみたいな嘘付くなんていくらフェイトちゃんでも許せないよ〜。」
どうせフェイトも変な冗談を言っているだけなのだろうとなのはは考えていた。だが…
「冗談じゃない! そりゃ私だって冗談だって信じたいよ! けどね…けどね…
本当に…ユーノが………自爆テロで………。」
フェイトの目には涙が浮かんでおり、明らかに嘘を付いている顔では無かった。
「え…本当に? もしかして…本当にユーノ君が自爆テロで………。」
なのはは呆気に取られた顔になり、そのままへたり込む様にソファーに座り込んだ。
「ユーノ君…死んじゃったの……? マスコミお得意の捏造じゃないの……。」
「残念だけど…本当……ユーノは……。」
「………。」
フェイトが目に涙を浮かべながら頷き、なのはも唖然と黙り込んだ。が…それも束の間
突然なのはは立ち上がるなり、首に掛けていたレイジングハートを手に取った。
その後なのはがやろうとしている事を悟ったフェイトはとっさになのはに抱き付いて止めた。
「やめて! なのはやめて!」
「離して! フェイトちゃん離して!」
「ダメ! 離さない!」
なのはの事だ。今直ぐ飛び立ってユーノの仇討ちをなそうとするに違いない。
幼馴染であり、愛しの夫であるユーノを非情にも自爆テロで殺した何者かに対して…。
それなのに何故フェイトが邪魔をするかはなのはには理解出来なかった。
「あ…そっか…。フェイトちゃんが邪魔する理由が分かったよ。フェイトちゃん
ユーノ君の事嫌いだもんね。だからユーノ君の仇討ちの邪魔するんだもんね。酷いよ…。」
なのはは目に涙を浮かばせ、軽蔑する目でフェイトを見ていたが、フェイトの目は真剣だった。
「違う! そんなんじゃない! これはなのはの為! ユーノを殺した自爆テロを起こした
連中が何者なのかまだ特定されてないし…それに仇討ち出来たとしてもユーノが生き返る
ワケじゃ無いんだよ! これで無理したらなのはだけじゃない! なのはのお腹の中の
赤ちゃんまで危険に晒される! もしそうなったら…ユーノだって…。」
「あ…………。」
なのははユーノの死に気を動転させる余り、大切な事を忘れていた。
自分のお腹の中にユーノの子供がいた事を…。もしこれで無理をして
ユーノの子にまで危険に晒されたら…そんな事をユーノは悲しむに決まっている。
そう考えれば考える程…ユーノに対して申し訳なくなって来た。
「あ…ユーノ君…うあぁぁ…。」
なのはは両手で顔を覆いながらその場に座り込むしか無かったが…そこで騒ぎを
聞き付けたヴィヴィオまでやって来て…。
「ユーノパパ…死んじゃったの? 嘘だよね…。悪い冗談だよね…。」
「ヴィヴィオ…残念だけど…。」
「え………。」
なのはとフェイトが涙目になっていた故、ヴィヴィオにとっても冗談を言っている様には
聞こえなかった。そして唖然としながらTVのリモコンを操作すると、先程まで
なのはが見ていたチャンネル以外でも○○空港の自爆テロの報道が行われており、
やはりユーノが無限書庫司書長と言う肩書きをもっていた為に実名報道でその死が報じられていた。
「そんな…ヴィヴィオは信じないよ。最近のマスコミは嘘しか報道しないってヴィヴィオ知ってるもん。
こういうのはTVなんかよりもずっとインターネットの方が当てになるもん!」
ヴィヴィオは慌ててパソコンのスイッチを入れ、インターネットを起動させるが…
そこでもやはりユーノの死が報じられており、ヴィヴィオも開いた口が塞がらなかった。
「嘘…ユーノパパ…本当に…死んじゃった……。」
今度こそユーノの死を認識したヴィヴィオの目からは大粒の涙が溢れ出ており、
直後になのはに強く抱きついて来たのだった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!! ママァァァァァァ!!」
「ヴィヴィオォォォォ!!」
大声を張り上げて泣き出したヴィヴィオに釣られる様に、なのはもまた子供の様に大声で泣き出した。
なのはにとって大切な夫、そしてヴィヴィオの義父がこんな思いがけない形で命を奪われたのである。
泣き出さない方が可笑しい。そしてフェイトは自分の涙を拭きながらこう言ったのである。
「ユーノ…そして空港の沢山の人の命を奪った輩は時空管理局が全力を持って捕まえてみせる!
だから…なのはは…無理しないで。ユーノの仇討ちがしたいのは分かるけど…
その為に無理してお腹の赤ちゃんが危険に晒されたら本末転倒だから…。」

フェイトは一度なのはの家を後にしたが、一時してまたなのはの家を訪れた。
やはり心配だったのである。自分がいない間にまたなのはがユーノの仇討ちをしようと
無理をしたりしないか? と言う事を…。しかし、部屋では泣き疲れて眠っていた
ヴィヴィオを優しく抱いた状態でソファーに座るなのはの姿があった。
「良かった…。ずっとそこにいたんだね?」
「フェイトちゃん…ごめんなさい…。」
「え?」
突然謝り出したなのはにフェイトも首を傾げる。そしてなのはは何故突然フェイトに
謝ったかの理由を話し出したのである。
「実は…獄中のスカリエッティでも締め上げてユーノ君のクローン作らせようなんて
変な事考えちゃった…。そんな事してもユーノ君が生き返るワケじゃないのにね…。」
なのはは目から涙を流しながらも…必死に作り笑いしながらそう言っていた。
なのはもフェイトを心配させまいと無理に明るく振舞おうとしていたのだろう。
「けど…本当にダメだよね。結局出来るのはユーノ君と同じ遺伝子を持った別人。
そんなのユーノ君じゃない。例え体は一緒でも『魂』は別物だから…。」
「なのは………。」
半ば冗談っぽい言い回し(?)もなのはなりに明るく振舞おうとした結果なのだろうが…
そうすればする程フェイトにも伝わってくる。ユーノを失った悲しみを…。
「だから…ごめんなさい…。ちょっとでもユーノ君のクローンを作れば…
なんて不謹慎な事考えちゃったから…。天国にいる本物のユーノ君に失礼なだけなのに…。」
「なのはが謝る事は無いよ…。悪いのはユーノと…他の空港を利用してた沢山の人の
命を不当に奪った連中だから…なのはは悪くない!!」
フェイトは目から涙を流しながらなのはの身体を強く抱きしめた。
「でもなのは…だからって自暴自棄だけにはならないで…。既に何度も言ったけど…
それでなのはだけじゃなくて…お腹の中の赤ちゃんまで大変な事になったら…
そんな事になったらユーノは何て思う!? だからなのは…無理だけは絶対にしないで!
なのははユーノの分まで生きなきゃダメ! お腹の赤ちゃんの為にも…。
もしなのはまで死んじゃったら…もっと沢山の人が悲しむ事になるんだよ!」
フェイトは必死だった。ユーノのみならずなのはまで死ぬ様な事になったら…
そんな事は絶対に嫌だ。だからこそ必死になのはを落ち着かせようと抱きしめていた。
「フェイトちゃん…ありがとう…。」
フェイトの想いが通じたのか、なのははフェイトを優しく抱き返していた。
「ユーノ君が殺されたのは悔しいけど……私…ユーノ君の分も生きるよ。
生きて…この子を産んで…ユーノ君の分も立派に育てて見せるから…。」
なのはは目に涙を浮かばせながらも…お腹を優しく撫でた。

数日後、『聖王寺』と言う寺でユーノの葬儀が行われた。
無限書庫の司書長であり、また要でもあったユーノの死は時空管理局全体を震撼させ、
無限書庫関係者のみならず管理局の他課の者達等、様々な人々が葬儀に参列していた。

「南無阿弥陀仏…南無阿弥陀仏…。」
ユーノの遺影を前に、坊主が木魚を叩きながらそうお経を唱える中、
意外にもクロノのすすり泣く声が葬儀場に響き渡る。普段なんだかんだで
ユーノと口喧嘩の絶えなかったクロノだからこそ…ユーノの突然の死はショックだったのだろう。
「畜生…何で死んじまったんだよ…これからは誰をおちょくって楽しめば良いんだよ…。」
なまじ葬儀場が静かなだけに、その様な彼の愚痴もまた坊主の念仏に混じって聞こえて来る。
しかし、不思議な事にユーノの妻であるなのはは思いの他静かであった。
愛する夫であるユーノが死んでしまったのだからこそ、大声を張り上げて泣き出すのは
仕方ないと誰もが考えていただけに…両目を閉じた状態で静かに祈っているなのはの姿は…
誰の目にも不思議にな物に映った。

葬儀が終了した後、棺桶の中のユーノの遺体との最後の別れの際にも…なのはは
静かなままだった。しかし、火葬場へ移動する際のバスの中でなのはは皆に対し口を開いた。
「あのね…私が子供の頃ね…お父さんも空港でテロの被害に遭った事があったんだって…。」
「なのは…さん?」
突然口を開いたなのはに誰もが驚くが、彼女の言葉は続いた。
「同じ空港でテロ被害に遭ったのに…お父さんは大怪我だけで済んで…ユーノ君は死んじゃった……。
そう考えたら本当に神様って意地悪だよね…。お父さんを生かしてユーノ君を殺すなんて…。
でもね…最近になってこうも思い始めたの…。お父さんが生きて帰ったからこそ…
逆にそのしわ寄せでユーノ君が死んじゃったんじゃないかって………。どっちにしても
凄く悔しいけどね……。出来る物なら神様の頭冷やしてやりたい位だよ…。」
その言い終えてからやっと…なのはの目に涙が浮かび…泣き出した。
「酷いよ…本当に酷いよ…。私とヴィヴィオを置いて一人遠い所に行っちゃうなんて!
って怒ったって…ユーノ君だって被害者なんだからユーノ君に悪いよね………。
私もせめて………ユーノ君の最期を看取ってあげたかった…………。」
「なのは…。」
なのはの隣の席に座っていたフェイトは泣きじゃくるなのはを優しく抱き、
他の者もまた悲しげな顔になっていた。
「どっちにしても…あの空港でテロを起こした連中は許せないよ。」
「実質無限書庫が無力化されたも同然だしね。管理局も全力を挙げて犯人逮捕に動き出したよ。」
皆はユーノの死を悲しむ傍らで、その死を無駄にしない為に犯人逮捕に全力を尽くす決意を固めていた。

その日の晩、なのはは久し振りにヴィヴィオと二人一緒に同じベッドで眠った。
ヴィヴィオが学校に通うようになって以降はヴィヴィオがしっかりして来た証拠として
別々のベッドで眠る様になっていたのだが…今日は別だった。
ユーノがいなくなった寂しさを紛らわすかの様に…二人は一緒に眠っていたのである。

そしてなのはは夢を見た。自分が始めてユーノと出会ってから現在に至るまでを
振り返る夢を…。まるでアニメの総集編を見ているかの様な…その夢に…自分とユーノの
様々な付き合いを思い出し…自然となのはの目にも涙が浮かんでいた。

それから、フェイトやはやてを初めとする様々な人達がなのはを心配して
仕事の合間にちょくちょくと彼女の家を訪れていたのだが、なのはは落ち込んでおらず、
むしろ明るかった。しかし皆には分かっていた。それはなのはが皆を心配させまいと
必死に明るく振舞っているだけなのだと…。やはりユーノの死はなのはの心に
大きな傷を作ったのだとますます実感させ、表面的には見せずとも皆悲しかった。

なのはが本当に心から明るい顔を取り戻すのは…それからしばらく経った後の事だ。
なのはのお腹の中の子供も育ち、ついにはお産の時がやって来たのである。
かなりの難産にはなったが…それでも何とか無事に産んだ。
ユーノを思わせる翠色の目をした元気な男の子を…。
「ユーノ君…心配しないでね。この子は…私が立派に育てて見せるから…。」
その時のなのはは…苦しそうでありながらも…心の底から嬉しそうだった。

なのはが心の底から笑顔を取り戻した事は、後に見舞いに訪れたフェイト達も直ぐに気付いた。
「なのは、元気になって良かったよ。」
「え? 私は何時も通りだけど…。」
「いやいや、やっぱり今までとはどこか違うよ。本当になのはが嬉しそうなのが分かる位。」
「そうかな?」
なのは自身としては、そういう事がどうも自覚無かったのだが、その後でこう言った。
「ねぇ…これから私ちょっと変な事言っちゃうけど…笑わないで聞いてくれる?」
「何? なのは……。」
ベッドの上で静かに微笑むなのはにフェイトを初めとするお見舞いに集まった皆が耳を傾ける。
「何となく…こう感じる時があるの…。ユーノ君が直ぐ隣で見ててくれてるって…。
お産で苦しくて…もうダメだって思ってしまった時なんかも…まるでユーノ君が直ぐ隣で
頑張れって応援してくれてた様な感じがして……やっぱり変だよね…。ユーノ君もう死んじゃったのに…。」
なのははかすかに笑いながらそう言っていたが、誰もなのはを笑う者はいなかった。
それ所かフェイト等涙を流し始めていたでは無いか。
「フェイトちゃんどうしたの? そんないきなり泣き出して…。」
「違うよ。嬉しいんだよ。私は…。」
「え…?」
フェイトは嬉しかった。なのはが本当に笑顔を取り戻した事もそうだが、
なのはが先に言った言葉で…例えユーノが死別してしまおうとも…二人は繋がっていると悟ったのだから。
確かに少々百合の気のある彼女にとって…なのはをユーノに取られるのは悔しいが…
今となってはそんな事どうでも良くなる位に嬉しかったのである。

「所で赤ちゃんの名前は何にしたん?」
次ははやてがさりげなくなのはにそう言っており、なのははそれにも笑顔で答えた。
「実は二つ候補に上げてたんだ。男の子なら『ナーノ』、女の子なら『ゆのは』って…。
生まれたのは男の子だったから…『ナーノ』かな。」
「どっちにしても安直な名前やな〜。ただ単に二人の名前くっ付け合わせただけやん。」
「アハハハハハハハ!」
「そうかな〜。でもナーノでも悪くないと思うんだけどな〜。」
はやての突っ込みに皆も笑い出し、なのはも余り嫌そうな感じはしなくとも少々不貞腐れていた。

皆が帰った後、病室にはベッドの上のなのはと、一人残ったヴィヴィオの姿があった。
「ねぇねぇなのはママ…。」
「どうしたのヴィヴィオ…。」
突然話しかけて来たヴィヴィオになのはも顔を向けるが、そこでヴィヴィオは言った。
「ヴィヴィオも頑張るからね。ヴィヴィオももっと強くなって、天国のユーノパパの代わりに
なのはママと…ナーノを守って見せるからね。」
「ありがとうヴィヴィオ…。でも…あんまり無理はしないでね…。じゃないと…
なのはママがヴィヴィオの頭冷やしちゃうかも…。」
「あ…あ…うん…。その辺りも良く考えに入れておくよママ…。」
せっかく格好良く決めたと言うのに、やっぱりママには勝てないなと言わんばかりに
気まずい顔になるヴィヴィオであったが、それでも二人の顔には笑顔があった。

ユーノは死んでしまったが、代わりに新たな命であるナーノをなのはは授かった。
しかし、後にこのナーノが亡き父の仇を討つ事になろうとは…
その時誰にも想像も出来はしなかった。

                  おしまい





          おまけ【ナーノ=スクライアの生い立ち】
外見のみならず、能力的にも父ユーノの血を色濃く受け継いでいた為、父親同様に
非攻撃魔法に関して類稀なる才能があった反面、母親の様な派手な攻撃魔法に
関する資質はゼロに等しかった。やはり世間的には派手な攻撃魔法使える魔導師の
方が持て囃される傾向にある故、周囲から派手な攻撃魔法の名手である母親と
良く比較されたりと辛い少年時代をすごす。母親は「天国のパパも攻撃魔法は
使えなかったのだから気にしないで。」と優しく励ますが、やはりナーノとしては
自分が生まれる前に亡くなった為に直接会った事の無い父親よりも、今生きて
教導官をやっている母親や、同じく高い資質を評価されてベルカ式戦闘魔導師への道を進んだ義姉に
憧れを抱くのは当然で、憧れれば憧れる程攻撃魔法の使えない自分に強く劣等感を抱いてしまう。

そこで凡人と呼ばれながらも努力で成り上がった某執務官を師と仰いで
何とか努力で攻撃魔法会得出来ないかと無駄なあがきを始めるのだけども
無茶しすぎて逆に頭冷やされてしまう。で、その後で某執務官から
自分もかつて良い所見せようと無茶をした為にナーノの母親から頭冷やされたと
言う話や、某執務官も昔聞かされた、昔話風のオブラートに包んだ
ナーノの母親に関しての話を聞かされて納得&和解。

頭冷やして反省したナーノは攻撃魔法を諦めて、自分の長所を伸ばす方向に切り替えて
自身の技を磨き始めるのだけど、その中で『得意な非攻撃魔法を何とか工夫して攻撃に転用』を思い付き、
『バインドで敵の頚動脈なんかを締めて落とす』
『超強固なプロテクションを直接ぶつけて敵を叩き潰す』
『バインドを極限まで細く絞り込む事で切れ味を作り出して対象を切断する』
『プロテクションで敵の攻撃を防ぐだけでなく、180度反射させて敵を攻撃する』
『プロテクションを一点に集中凝縮させる事で弾丸化させる』
『プロテクションを細く絞り込む事で刃物化させる』
などと言った独特のファイトスタイルを確立し、攻撃魔法が使えない為に
ランクそのものは低くとも実戦では実質S級の実力を見せ付けた事もあって
『攻撃魔法は使えないけど戦闘のこなせる魔導師』位には認められる。

さらには『医者は人の殺し方も知っている。』をヒントに『逆回復魔法』をも開発。
その名の通り通常の回復魔法とは逆に治癒能力を逆転させ、傷口を広げてダメージを
与える逆回復魔法は忽ち恐怖の的となり、『下手すりゃ母親よりえげつねぇよ。』
『母親とは違う意味で悪魔だなこりゃ。』とか呼ばれる事になる。



著者:◆6BmcNJgox2

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