790 名前:飛龍伝説 1[sage] 投稿日:2008/06/11(水) 22:32:40 ID:nbElwRen
791 名前:飛龍伝説 2[sage] 投稿日:2008/06/11(水) 22:33:10 ID:nbElwRen
792 名前:飛龍伝説 3[sage] 投稿日:2008/06/11(水) 22:33:48 ID:nbElwRen
793 名前:飛龍伝説 4[sage] 投稿日:2008/06/11(水) 22:34:17 ID:nbElwRen
794 名前:飛龍伝説 5[sage] 投稿日:2008/06/11(水) 22:34:58 ID:nbElwRen
795 名前:飛龍伝説 6[sage] 投稿日:2008/06/11(水) 22:36:12 ID:nbElwRen

 白銀色の長髪を首の後ろで結わえた痩身の大男、サンリン・フェイロンが機動六課の隊舎を訪れたのは、新暦七五年八月の事だった。

「全く、何処のバカだ? ミッドは低炭素社会のお陰で寒冷化が進んでいるだなんてほざいているのは」

 十二年前に利き腕となった左の腕で汗を拭う。

「でも本当ですよー、フェイロンさん。今年なんて、まだ四十度を超えた事が一度もないし」

 傍らに佇む小柄な少女が、年からは考えられない文句を垂れ流すフェイロンの様子がツボにはまったらしく、クスクスと笑う。

「五月蠅い、三十度を超えて寒冷なんて宣うほうが異常なんだ」

 そう言って、ワシャワシャと少女の頭を力一杯撫でる八つ当たり。

「アー、止めたってーフェイロンさん、せっかくセットした髪がー」

 しかし、少女の悲鳴はとても嬉しそうだった。

「はやてちゃんだけズルいですー、私も撫でて欲しいですー」

 うらやましさに、少女の融合騎が憤慨する。

「リィン、大人気ねーぞ」
「ヴィータちゃんの言う通りよ、リィンちゃん。順番は護らなくちゃ」

 金髪の医務官は、割と自分の感情に素直だった。





「で、副隊長的にはどなたが?」

 ヴィヴィオの何気ない一言で始まった、機動六課最強の魔導師は一体誰かという疑問。
 その謎を解明すべく、アルトが問うたのは古代ベルカの騎士、八神シグナムだった。

「隊長達四人でトーナメントでもすれば、やった回数だけ優勝者が違うだろうな。しかし、フェイロン殿がそのトーナメントに参加されたなら、百回やって百回ともがフェイロン殿の優勝になるな」
「フェイロンさん、たしか民間協力者。ですよねぇ?」

 成る程、機動六課に身を置くのだからただ者ではないと予想していたが、あの隻腕の男がそれ程までに強いとは思いもよらず、アルトは今一つ信じられないでいる。

「その通りだ。だが、十二年前まで本局二十枚の切り札の一つに所属していたのも事実だ」

 シグナムが切り札と称したのは、一番から二十番までの本局武装隊。
 八名一個小隊を基本とする彼等は特一級封印指定古代遺失物の臨界次元災害指定時に投入される、時空管理局の最精鋭部隊だ。
 そして、要求される魔導師ランクが最低SSSと異常なまでに高い為に、現在二十ある隊の三分の二が欠番となっている、幻の部隊でもある。

「レス・ザン・サーティーンの人だったんですか!」

 フェイロンが、管理局創設以来、一隊四名の時代を含め、一度たりとも十三隊以上が併存した事のない特殊部隊の出身だと知って、アルトは驚きの声を上げた。

「あぁ、フェイロン殿はとうの昔に枯れたと自称しているが、何処まで本当の事やら」

 三年前、グレアム提督の紹介で面会したときのことを思い出し、シグナムは小さく笑った。





「ねぇ、はやてちゃん。フェイロンさんって・・・やっぱり恋人とかいるのかなぁ?」

 食堂でなのはが、周囲の様子を気にしながら尋ねる。

「ン〜、それが居ないみたいなんよ。あの人朴念仁やから、何となく納得してまうけど・・・て、なのはちゃんも狙ッとるんかい!」

 A定食のプチトマトを振り回し、楽しそうに答えていたのは前半だけ、後半は寧ろ驚きに支配されていた。

「狙うだなんて・・・只、ヴィヴィオにもやっぱりパパとかいた方が良いかなぁ・・・とか思っただけで、本当に他意はないよ」
「せやったらユーノ君にしとき、幼馴染みで優しくてカッコええンやから、好物件やない!」
「やっぱり渋くて包容力のあるタイプが良いと思うの!」
「じゃあ、ナカジマ三佐なんかどうや? 今ならお姉ちゃんが二人も付いてくるで!」

 昼食を脇に追いやって、二人の少女が不毛な舌戦を繰り広げる。
 この戦いにゴチンという音と共に割って入ったのは、はやての頭上に着地したスペシャルランチのトレーと、呆れた顔のフェイロンだった。

「こらはやて、他人の割と触れられたくない話題で盛り上がるな。俺だって傷つくんだぞ」

 理不尽な仕打ちに涙を浮かべるはやてを無視し、フェイロンは彼女の隣に腰を下ろすと、スープから食べ始めた。





 世界政治の表舞台たるクレナガンの摩天楼。
 優に百メートルを超えるそれらのビル群をも睥睨する漆黒の双塔・時空管理局地上本部。
 ミッドチルダの平和と繁栄をも象徴するその巨塔に、無数の無人機械が大挙して押し寄せる。
 それらの機械群から展開される高濃度のAMFは、魔法文明に浸かりきった魔導師達を戦士から獲物へと変える。

「全く、見ちゃらんねーな」

 呟いたのは十三本の飾り帯を垂らした漆黒のバリアジャケットを纏うフェイロン。その立つ地は、クレナガン随一の巨塔・地上本部の屋上。
 フェイロンが口の中で呪文を唱えると、半径三十メートルはあろう巨大な緋色の魔法陣が展開される。

「噛み砕け・・・」

 その言葉に誘われて、飾り帯達が緋色の眼を開き、鎌首を持ち上げる。

「ヒュードラ」

 宣告したトリガーボイスに刃となった帯紐が、フェイロンの魔力を担保とし、喰らうべき獲物達へと超音速で伸びていく。
 一体のがジェットを破壊する度に帯紐は分裂し、最終的には伝説にあるヒドラよりも遙かに多い三六二四七の鎌首をもつに至った。





 一週間前のスカリエッティ一味による地上本部襲撃戦。
 全てのがジェットを切り裂き、ナンバーズと呼ばれる戦闘機人達を逮捕したフェイロンであったが、それは戦術的な勝利に過ぎなかった。
 スカリエッティはその対価として見合うもの、即ちベルカの古代戦船「ゆりかご」の鍵となる少女を誘拐する事に成功したのだ。
 そして、かつて世界を席巻したその次元航行船は今、ミッドチルダの上空三八万キロ、二つの月の交差軌道を目指していた。
 そんな中、かつての武勲艦アースラの第一格納甲板にある男子トイレで、フェイロンは何度も咳き込み、血を便器へと吐き捨てていた。
 消毒薬の匂いがきつい水で口を注ぎ、トイレを出たフェイロンを待っていたのは、機動六課隊長のはやてであった。

「こんな所で油を売って、どうしたんだ?」
「フェイロンさんにお願いがあるんです」
「出撃するな。とかいう類の話なら聞けないぞ」
「ボロボロやないですかッ、フェイロンさん!
私かて、知っているんですよ、フェイロンさん。ヒュードラは術者本人も喰らう禁呪やて、右腕がないのも、ヒュードラの暴走を押さえきれなくて喰われたんやて・・・・
せやのに出撃しようだなんて、自殺行為です!」

 しかしフェイロンは、そんな言葉で止まる様な男ではない。それを知るが故にはやては泣いた。
 愚図るはやての頭に、フェイロンは残された左腕を載せる。

「泣くなはやて。自殺行為だなんて言ったがな、俺はそんなつもりはないぞ。
死ぬには未練が多すぎるからな」

 くしゃくしゃとフェイロンははやての頭を何度も撫でる。

「・・・未練、てなんですか」
「はやてに協力してもらわなけりゃ、解決が難しそうな事だ。
あのデカ物を落としたら、少しだけ時間をくれ」
「ハイ・・・約束ですよ」

 はやてはこぼれ落ちる涙を拭きながら、笑おうとした。





 J・S事件の残務処理に追われるはやてが、聖王教会病院を訪れる時間をひねり出せたのは事件から二週間も経った後の事だった。
 特別病室には秋の柔らかい日差しが差し込んでいて、リンカーコアをすり減らしたフェイロンがたった一つ置かれたベットの上で本を読んでいた。

「お久しぶりです、フェイロンさん」
「おう、はやて。見舞いに来てくれたのか?」

 変わらぬ気さくさを見せるフェイロンであったが、明らかに二週間前の彼よりもずっと窶れていた。

「はい、それとあの時約束したやないですか。ゆりかご落としたら私がフェイロンさんに協力する、て」

 答えながらはやてはベットの脇に置かれた丸椅子に腰を下ろす。
 「あの時の約束」が一体何を指すのか、フェイロンは一瞬悩んだ後、ゆりかご撃墜に及んだ佳日の記憶に思い至る。

「協力してくれるのか?」
「勿論です」

 フェイロンの問いにはやては間髪を入れずに頷いてみせる。

「そうか。だが、その前に一つだけ確認させて貰えるか?
グリフィス君に彼氏はいないよな?」

 この日、はやては夜天の書が人を殴打するのに使える事を知った。




著者:超硬合金

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