285 名前:魔性の獣毛 [sage] 投稿日:2011/05/29(日) 00:32:57 ID:ZbzW6LVQ [2/4]
286 名前:魔性の獣毛 [sage] 投稿日:2011/05/29(日) 00:33:54 ID:ZbzW6LVQ [3/4]

「はー、やっぱりモフモフはええなー」
「いいよなー」
 八神家のリビングでは、蒼い巨躯の狼に2人の少女が寄り掛かり、その毛並みを堪能していた。
 盾の守護獣ザフィーラ。彼は無言で床に寝そべったまま、主である八神はやてと、同じ守護騎士である鉄槌の騎士ヴィータの為すがままになっている。
 その微笑ましい光景を眺めるのは他の守護騎士達だ。リビングのその様は特に珍しいものではない。いや、むしろよくある光景だった。
「はーい、今日のモフモフタイムはここまでー」
 湖の騎士シャマルが、パンパンと手を叩いて言った。楽しい時間の終わりを告げるその声に、はやてとヴィータが不満の声を漏らす。
 しかしシャマルは続ける。
「お風呂の準備ができましたから、今度は入浴タイムですよー」
「そっかー。残念やけど仕方ないなぁ」
「じゃーな、ザフィーラ」
 はやてとヴィータが、名残惜しそうにザフィーラから離れた。シャマルがはやてを抱き上げて、3人はそのまま風呂へと向かう。
「ご苦労だったな、ザフィーラ」
 残ったザフィーラに、烈火の将がねぎらいの言葉をかけた。守護獣は何でもないように応える。
「主が喜んでくださるのだ。苦などあろうはずもない。実際、私はじっとしているだけだからな」
「まあ、そうか。主はやてのスキンシップも、お前には問題ないか」
「その点は、お前達の方が違う意味で大変なのだろうな」
 ザフィーラの視線が、ほんの一瞬だけシグナムの胸へと動いた。
 主であるはやては、女性陣(ヴィータ除く)の胸に触れたがるのだ。シグナム、シャマル、そしてリインフォースは何度も主に胸を触られている、というか揉まれている。
 あれさえなければな、とシグナムが溜息をついた。そんなシグナムにザフィーラはそれ以上何も言わず、この場にいるもう1人、祝福の風リインフォースに目を向けた。
 瞬間、視線が絡み合う。リインフォースの視線は、ザフィーラに向けられていたのだ。
「どうかしたか?」
 硬直してしまった祝福の風に、何事もなかったように問いかける盾の守護獣。
「いや、別に……何でもない……」
 しかしリインフォースは視線を逸らすと言葉を濁した。ザフィーラは少しの間リインフォースを見ていたが、そうか、とだけ言って立ち上がると、
「私はこれから日課だが、お前はどうする?」
 と、更に問う。ザフィーラの日課とは、近くの公園で行われる訓練のことだ。リインフォースはそれに時折ついて行くことがあった。
 リインフォースは首を横に振ることでその答えとする。それ以上は何も言わず、ザフィーラはリビングを出て行った。
「ザフィーラと何かあったのか?」
「? 何故だ?」
 今度は眉をひそめた将が、気遣うように問うも、リインフォースは首を傾げるだけだった。

「リインフォース」
 珍しく人型で過ごしていたザフィーラが呼びかける。リビングのソファに座って本を読んでいたリインフォースは顔を上げてザフィーラを見た。
「どうしたザフィーラ?」
「お前に聞きたいことがあってな。構わんか?」
「なんだ改まって? 私に答えられることならいいが」
 本を閉じて膝の上に置き、快諾するリインフォース。それを受け、ザフィーラは口を開いた。
「何か悩みでもあるのか?」
「唐突だな……」
 目を瞬かせる祝福の風に、守護獣の言葉は続く。
「なに……ここ最近、お前の視線がよくこちらに向いているのでな。それで気になったのだ」
 とさり、とリインフォースの手から本が落ちた。ザフィーラへと向いていた視線が泳ぎ、落ち着きがなくなる。たっぷり1分ほどその状態が続き、
「な、何のことだ? 別に私は……」
 ようやくリインフォースの口から出たのはいつもよりややトーンの高い声。動揺に満ちた声だった。
「主もシグナム達もいない。今、この家にいるのは私とお前だけだ。だから、聞いた」
 そこまで言って、ザフィーラは口を閉じ、リインフォースを見つめる。それは決して答えを強要するものではなく、気遣いの込められたものだ。
 しかしリインフォースは答えない。先程よりも長い時間が経過し、先に漏れたのはザフィーラの溜息だった。
「どうやら私では力になれぬことらしい。要らぬことを言ったようだ、忘れてくれ」
 珍しくやや気落ちした声を残し、ザフィーラが踵を返す。
「ま、待ってくれっ!」
 その背を慌ててリインフォースが呼び止めた。立ち止まり、振り返ったザフィーラの顔には困惑が浮かんでいる。
「……一体、どうしたというのだ。お前らしくもない」
「はは……確かに、私らしくないのだろうな……それを言えば、今、私が溜め込んでいること自体が、らしくないのだろうが……」
 自嘲気味に呟いて、リインフォースはぽつぽつと話し始めた。
「じ、実は、だな……興味があったのだ……」
「興味?」
「ああ……そ、その……主はやてとヴィータが、お前の、毛並みを堪能していることが、だな……」
 赤面しつつリインフォースは続ける。次第に声が小さくなり、顔も俯いていくが、ザフィーラはその告白を静かに受け止める。
「べ、別に羨ましいとか、そういうことではなくてだなっ!? 微笑ましい光景だ、いつまでも見ていたいと思える程だ。
ただ……ただ、どんな感じなのかというか、好奇心というかだな、その……とっ、とにかく、別にいいんだ。確かに私らしくないし、そんな事を言う私はおかしくて――」
 混乱の極みだった。ここまで取り乱すリインフォースを見たことのある者などいないだろう、と断言できるほどに。
 しかしザフィーラはそれを宥めようとはしなかった。ただ無言のまま、その場で狼形態へと変化し、床に伏せたのだ。
 そしてその姿は、勢いよく顔を上げたリインフォースの視界に納まることとなった。彼女の望んでいたものが目の前にある。ザフィーラの態度が何を意味するのかは明らかだ。
「い、いいのか……?」
「お前にだけ許さぬ理由はなかろう」
 震える声で念を押すリインフォースに、あっさりとザフィーラは答えた。
 ゆっくりとリインフォースはソファから立ち上がり、ザフィーラへ近付くとすぐ傍に座る。そして震える手を伸ばし、その毛並みへと触れた。細く白い指がまるで櫛のように、蒼の毛を梳く。
「艶やかで、柔らかいな……」
 その感触を楽しむように、何度もリインフォースの手が行き来する。しばらくすると、ひとしきり撫でて満足したのか、その手が止まった。そして、
「ほ、本当に……いいんだな?」
「遠慮することはない」
 再度、念を押すようにリインフォースは問う。守護獣に二言はなかった。
 ごくり、と喉を鳴らし、それでもリインフォースはザフィーラの腹に身を預ける。
「ああ……温かい……もふもふ……」
 長い毛に顔を埋め、頬を擦り寄せ、うっとりとリインフォースが呟いた。先程までの動揺が嘘のように、その顔は安らぎに満ちている。
目を細め、頬を緩めた祝福の風は、一切の遠慮無くザフィーラを堪能する。
「ザフィーラ……」
「どうした?」
「ありがとう……やはり、お前は優しいな……」
「……どうだかな……」
 蕩けるような声に応えたのは、満足げな、そして照れ臭げな声だった。

  
 なお、そのまま眠ってしまったリインフォースはその姿を帰宅した主以下に見られてしまい。
 しばらくの間そのことで皆にからかわれ、その度にザフィーラのモフモフに慰められるという悪循環に陥ったそうな。


著者:KAN?

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