707 名前:JUST COMMUNICATION 後編 [sage] 投稿日:2010/05/28(金) 03:34:38 ID:p5d0D02c [2/6]
708 名前:JUST COMMUNICATION 後編 [sage] 投稿日:2010/05/28(金) 03:35:20 ID:p5d0D02c [3/6]
709 名前:JUST COMMUNICATION 後編 [sage] 投稿日:2010/05/28(金) 03:35:51 ID:p5d0D02c [4/6]
710 名前:JUST COMMUNICATION 後編 [sage] 投稿日:2010/05/28(金) 03:38:25 ID:p5d0D02c [5/6]

クラナガンの西に位置する、高級でも低級でもないホテル。
15階建てのビジネスホテルにゼストが訪れたのは日付も変わろうとする時おっ句である。
急な呼び出しであった。
すでに連絡を取り合えるだけの情報交換をしていたリニスからの急な呼び出しは、

『会いたい』

との一言ですぐに切れた。
明瞭な意思の表明だが単純すぎて戸惑った。
何度か、ゼストからのかけ直したが出ない。
通信ごしのリニスは切羽詰まってこそいたが、通話内容からして即刻身に危険が降り注ぐ様子でもない。

そうして不審に思いながらも、リニスの滞在しているホテルまで足を運んだ次第である。
買い物で同行して、別れて5時間と経っていない。再度連絡するとして、リニスが帰る時分になるだろうと思っていただけに早い再会だ。

流石に時間も時間で、ホテルのロビーに人気はなかった。
手近なエレベーターに乗り込めば6階のボタンをゼストは押す。軽い重圧の後、浮遊感。
そして今更ながら考える。本当に一人で来てよかったものか。
例えばセプテム逮捕に連なる重大な事件に巻き込まれてしまっていたのかもしれない。
ならばたったの一言の後、一切の連絡が取れない事にも納得がいく。
ただ、それでは『会いたい』というメッセージには少々つながらない。
そう長い時間を共にしたわけではないがリニスの聡明さは伝わっている。
何かしら事件性ある事態であればより一層、ゼストを相手にして深く情報を送っていた事だろう。
そもそもホテルに招くような言動になるはずがない。
罠としてゼストと通話させたとしても、セプテムとの対峙で分かる。ゼストを誘き寄せる餌に甘んじるリニスではない。

目的の階についた。
625。
そして目的の部屋。
ノックは二度。

「リニス、俺だ」

一寸だけ、間。
そして強引に開いたドアの向こう。
突撃じみたリニスの抱擁を受け、暗闇の部屋にゼストは引きずり込まれた。



まだ日が昇っていた時分。
ゼストと同行してデバイスの専門店を巡りながらリニスは考えていた。
プレシアに対する嫉妬。
そう、嫉妬だ、これは。
混じりっ気のない嫉妬の想い。
それはフェイトを産んだという事。
それはフェイトの母であるという事。
なのにフェイトを省みない。見詰ない。抱きしめない。
フェイトに対する愛情を放棄破棄して無心に研究と向き合うばかり。

自分はその代わり。
フェイトを育てるために作られた。使い魔。一度、死んだ身。
そうだ、一度死んでいる。
故にもう子孫を残す機能を排斥された身。
死した山猫が黄泉返った意味はフェイトの教育である。
いや、ここにいるリニスという魂は死んだ山猫のものが返ってきたわけではない。
プレシアによってプログラミングされた魂魄。
ゆえに睡眠欲も食欲も、肉あるわが身を上手く運用するためのシステムにすぎない。

では性欲。
これまでに欠片も沸かなかった三大欲求の一角。
それは必要がないから。それは意味がないから。
一度、死んだ身。
そして与えられた目的ゆえに、己一世のみで良いから必要のない情念。
性欲は使い魔はすべからく備えていない、というわけではない。
愛玩道具として備えられている者もいる。
だがしかし、だから子を宿せるわけではない。
特例、特注、特級、特性でなければ、子を成せる使い魔というものは存在しない。
すでに死んでいるから。
主との契約による、一世のみの者であるから。

そんなリニスに、異変が起きたのはゼストと別れてすぐだった。
プレシアに対する黒い想いを整理している最中、それを見つけた。



子が、欲しい。



驚くほど純真、純粋な気持ちでそう思った。
フェイトを愛しく思う。プレシアを嫉む妬む。その最中。
自分も子を成したいと心から思った。
それはきっと、フェイトの心がずっといつもプレシアに向いていたから。
最後の最後で、きっとフェイトは自分ではなくプレシアを想う。
それが血の絆。血のつながり。
リニスとプレシアを比べて、どうだ、という話ではない。
最後の最後。最終の最終。最奥の最奥。
それはどうしようもない事で、否定しては人類が遺伝子を次世代へ次世代へつなげていった行為に首を振る事にさえなる。だ
から、結局の所仕方がないとしか言えない事。

フェイトは、自分とプレシアならばプレシアを選ぶ。

気づいた。というか、気づいてはいた。というか、当然だと、考えていた。
自分は教育係り。
フェイトがプレシアの背を見続けるのは、当然だ。いつか追いつかせてやるために、フェイトを育てる。それが使命。使い魔が、命を使う理由。
それはそれで、いい。
フェイトとプレシア。親子のつながり、血のつながりはどうしようもなく存在するものであるから。

だが、しかし、では、リニス。
自分は?
愛情をフェイトに施せる。
命を燃やす使命もある。
そして本当に、自分の意味が尽きていなくなり、風に巻かれて消えて後―――

切なくなった。

技をつなぐ。
心をつなぐ。
フェイトへと心技体を伝える事をリニスは誇りとしていた。
だがしかし、その技術も、思いも、愛も、結局は全てプレシアのモノだ。
頑固で偏屈なあの主人は、自分自らでは恥ずかしいのか照れるのか、ただ自分というクッションを置いているだけだ。
だから自分が向けているフェイトへの愛情は、本当の本当には、足りてない。全然ちっとも、足りていない。
本来ならばプレシアがじきじきに、教えられる事なのだ。
リニスという緩衝材のせいで、プレシアの想いはむしろ何割も削れている。
いや、もしかすると1%にまで圧縮縮小を重ねてようやくフェイトまで届いているのかもしれない。

つなげるモノさえも、プレシアのモノ。
それを自覚して、リニスの胸が張り裂けそうになる。
子を。
自分の子を。
自分もつなげたい。

思いが爆ぜた。
ゼストへたったの一言を伝えてからノックまで、まさしく自分を慰めた。



勢い良く開かれたドアの向こうは暗闇であった。
一切、灯りをつけていなかったらしい。むっと、獣臭と甘い匂いが綯交ぜになったぬるい空気がゼストに絡みつく。
そして、突撃じみたリニスの四肢もゼストに絡みつく。
引きずり込まれた。引きずり込まれたという表現以外にできなかった。

「リ」

名を呼ぶまもなく唇が重なった。荒い息がゼストにかかる。
リニスの抱擁は痛いくらいで、ゼストもとっさに引き離せなかった。
そして、とっさに引き離せなくなると気づく。
まるで嵐の海の上で流木にしがみついているような、リニスの必死さに。
気づけばもう離せない。口付けも、受け入れた。舌が侵入する事も拒まず。

ゼストがドアにもたれかかって、リニスを優しく抱きしめ返す。
それが嬉しかったのか、一層リニスの接吻は激しくなる。
唇をなぞる舌。唾液を躊躇なく飲み干す喉。一切合切、夢中になってリニスが貪る。
リニスの舌を、あるいは押し返すように、あるいは絡めるようにゼストも応じてやる。

まれに切なげな嬌声が漏れるあたり、軽くだがリニスは断続的に小さな絶頂を感じているらしい。
暗闇に見えぬが、全裸である。そして乳房の先端も痛いほど屹立しているのが分かる。
そして秘所からぬるりと垂れている愛液も。

甘くぬるい部屋の様子から、ゼストが来るまで自らを慰めているのは瞭然だった。
昼に会話していた理知的な淑女が、驚くほどの変貌だ。
ただ、しかし、それでもリニスが内に淫乱な情念を抱えているとはゼストには思えなかった。
今、抱きしめるリニスには確かに痴態に悦び悶える様子もあるが、どうしようもなく切ない。

頭を撫ぜている最中、頭頂近くに違う毛質が触れた。

「ぁ…やぁ……」

猫の耳だ。
リニスの少しの拒絶でようやく唇が離れた。たっぷりと唾液が両者にこぼれた。

「やぁだぁ、そこじゃなくて……」

密着を少しとけば、ゼストの手を乳房と秘所に導く。
無骨な手が先端に触れればまたリニスが震えた。そして、そのままベッドまで誘導される。

「もっと触って、もっと触って」

媚びるような、無邪気なような。きっと艶然と、しかし無垢に頬を綻ばせているのが闇の中でもゼストには見えた。
強めに乳房を掴み、秘所は優しくなぞってやる。
仰向けに、さながら服従でもしているかのようにゼストの腕に寝転がるリニスが嬉しげに悶えた。
身をよじるが、よりゼストの指先を感じようと敏感な部分をこすりつけてくる。
そして唇も。

「ちゅー、ちゅー……」

黙って、重ねた。征服するように。
何度かリニスの身がゼストの腕の中で跳ねた。
失禁に至るまで性感帯らしい性感帯を全て撫ぜてやるが、それでもまだリニスはゼストに愛撫してもらいたがる。
やがて、ゼストの股間へとリニスが顔を突っ込んだ。ズボンごしに頬ずるのは、もういきり立ってしまっている一物だ。

「欲しいか?」
「うん」

とっくに、何を欲しがっているかゼストは察していた。ようやっとと言った風に衣類を脱ぎ捨てて、リニスを抱きしめて遠慮なく挿入してやる。
今までにないほどにリニスが痙攣してゼストにしがみついてきた。
落ち着くまで、待ってから動いた。喉の奥からリニスが悲鳴を上げる。
獣じみた大きな声。いや、獣の嬌声なのだろう。
片方の乳房を鷲掴み、唇を唇で塞ぎ、存分に膣を蹂躙した。体格差故に、まるで犯しているような気分にゼストは襲われる。
膣の蠢きごしに、リニスが連続で絶頂を味わっているのを感じながらさらに動きを激しくした。
くぐもった悲鳴が一段と高い音程になる。
リニスの体力が減っていくうちに体位が後背位になっていく。
派手な痙攣ではなく小刻みに震えては鳴き声を上げるリニスを組み伏せるように犯して、犯して、犯した。

「リニス……もう、」
「あ、あ、あの! その……待って!」
「分かっている」

そして、中に射精した。これ以上ないほどに鈴口を押し付けて、リニスに精を注ぎ込む。
ぴくり、ぴくりと悦びに打ち震えながらリニスがすすり鳴いた。

「満足したか……?」

抜かぬまま、リニスを抱きかかえてゼストが聞いた。

「……もっと聞き方があるでしょうに」

応えるリニスの声色は、疲労の色こそあるが理性が戻っていた。

「すまん」
「……いえ、私の方こそ、とんだ痴態をお見せして、その、お恥ずかしい……」
「いや」

リニスがゼストの腕から離れた。まだ硬いゼストのモノが抜かれ、膣内から熱く濃い白濁が漏れ出す。

「……むしろ騎士ゼスト、あなたのほうが不満では?」
「いや、俺は良い」
「いえ、しかしですね……」
「子が、欲しいのか?」

リニスが黙った。
怒りの気配と、悲しみの気配と、陰陽が混沌としたリニスの胸中をゼストは感じる。

「欲しい」

そして、その一言を皮切りにリニスが泣いた。

「欲しいです、子供が。なぜ、私には本当の子供ができないんですか?

私だって、私にだって、私を向いていくれる子供が……欲しい。

フェイトも、アルフも、私を見てくれる。で、も……絶対に、帰る場所はプレシアだ……私じゃ、ない。

私も、私にも、欲しい。私の子供が。私の、つながり……私の、本当の、子供。私の…………私が産んだ、私が愛する。

あ、あぁ…あ、ち、ち、ち、違う。フェイトを愛している。アルフを愛している。でも、違う。

本当に、私とつながってる……私の、子……私が……なんで、なんであんな犯罪者にもできるのに、私には……!

なんであんな血統が残っているのに、私は! 私だけは! 私だって……! 私のほうが、子供を……作る資格を………」

堰を切ったように溢れるリニスの言葉をゼストは黙って聴いた。
いくらか支離が滅裂した内容でも、痛いほどにその想いが伝わる。
獣性と理性の狭間で、愛に狂うリニスの悲痛な気持ちが胸を衝く。

血のつながりは重要ではない。
絆が連なる事に意味がある
思いを重ねていけば良い

いくつか、慰めるような言葉がゼストに思い浮かぶが、嘆くリニスに届けるにはあまりに空虚だった。
妻帯をゼストはしない。
天涯孤独な自分が、家族というものを本当に作れるかどうか恐かった。
レジアスという親友がいる。信頼できる部下もいる。
ただ家族を作る勇気がない。そんな自分が、リニスに何かを言えるはずがなかった。

いつしかリニスの涙も止まる。

「お前は、つなげない」

ゼストがつぶやくように、言った。
残酷な事実でも、言った。

「はい」

リニスもつぶやくように応えた。

「インテリジェントデバイスにするといい」
「……はい?」
「決めかねているのだろう?」
「あ……」

灯りのない、暗闇の中。
リニスはまるで、光明を見たような気がした。

「残すのだろう、デバイスを」
「……はい」

自分にも残せる子を、作れるのだと。


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著者:タピオカ

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