[157] pure monster(上) 1/14 sage 2007/10/05(金) 23:18:24 ID:FeYOP/m7
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[170] pure monster(上) 14/14 sage 2007/10/05(金) 23:30:19 ID:FeYOP/m7

 東奔西走、屍山血河のジェイル・スカリエッティ事件から早1年。
機動六課に居た面々は、あの頃が嘘のような平穏の日々を過ごしていた。
隊舎の建て直しも間もない内に、それぞれがそれぞれの道へと進路を決め、六課は解散。
フォワード隊のフルバックこと元雷隊四番のキャロ・ル・ルシエ二等陸士も勿論その一人であり、
過去に放浪していた中でも六課に来る直前にお世話になった自然保護観察任務を強く希望し、
功績や能力期待値からすれば明らかに役不足な任務であったが、まだ若年ということもあり
また母親代わりのフェイト・T・ハラオウン執務官の強い働きがけもあり、体よく再び動物達との日々を過ごしていた。
そしていつもの地味な服でしっかりフードを被った、初めて出会った時そのままの彼女が森の木陰で小鳥達と戯れている様子を、
小さき白い龍と一緒に緑色の自然保護隊員制服に身を包んだ元雷隊三番のエリオ・モンディアル二等陸士も優しく見守っている。
彼もまた先の事件の功労者であり、相方以上に地上部隊、本局共に明らかに年に見合わないようなポストまで用意してくれ兼ねない
勢いで転向を再考するよう再三勧められたが、フェイトすら呆れさせる勢いで興味ないですからと言い放ち、
一緒じゃなかったら局を辞めるとまで言い出しかねない幼い2人に、さすがの首脳陣をも陥落させ、今に至ったのである。
そして訓練も戦いもない平和な日々を――といいながら、早朝の訓練だけは誰に決められたわけでもないのにお互いに起き出して、
基本と、応用初歩の確認を少しずつステップアップしていけるように、自分達でコースを作り、装置を買い、
(購入とはいえないようなありえない端金で、母親代理他甘やかしすぎる先輩達が融通してくれたのはいうまでもない)
もちろん相方に見てもらいながら、ゆっくりと確実に成長していた。
そしてのんびりとした日々がこのまま続けばいいな、と2人とも思っていたのであるが――

〜あらすじ〜
そっと触れ合って、繋がったあの日から丸1年。
平和を取り戻し、ラブラブな日々を過ごすかと自他共に思っていた二人であったが果たして現実は…?
そして、意外な出会いと、思わぬ障壁とは――
まだもうちょっとだけ続いてしまう2人の旅にお付き合い下されば幸いです。
エリキャロエロは微妙かなwおもちゃ箱クロス
 エリオはいつものように小鳥達と戯れているキャロの様子を自然保護隊の緑の制服で木の枝に座って上から見守っている。
「どう?調子は」
「うう〜ん、ちょっと遠い所のお話になっちゃうと、やっぱりみんなあんまり分からないみたい…」
「あはは…」
元から動物達と仲がよかったこともあるが、エリオの手伝いと、1年間叩き込まれ続けてきた技術が良くも悪くも功を奏し、
配属された付近の鳥獣調査は、驚異的な完成度にまで達していた。
「タントさんとミラさんも、もう場所変えなきゃいけないかなーとか言ってたね」
「うん…」
エリオの口から出たのは現地で自分達の面倒を見てくれている、自然を研究対象にしている自然保護隊員のお2人。
無論研究の材料も、成果も十分に期待できる状態に既になっているから、2、3年も待てばいなくなる存在ではあるのだが――
2人にとっては、というか主にキャロにとっては、ちょっとだけ切なくなってしまう原因になっているのは否めなかった。
本当に親切で大好きなお2人なのだが、当然自分達は子供扱い、まさかエリオと一緒に寝たいと言い出すわけにも行かず。
恵まれすぎた環境が、返って不幸を呼んでしまった稀有な例になってしまっていた。
あと2、3年すれば、と何度もエリオは慰めたのであるが、しょっちゅう手を繋ぎたがる彼女に
やっぱり少し寂しい想いさせてるのかなー、と考えずにはいられない。
「違うところにいくのも面白いかも」
と話題を明るい方向に誘導しようとした矢先に
「え?」
鳥達の話題に何かが混じっていたのか妙な声が返ってきた。
「うんうん…」
「どしたの?」
「え、それは大変!」
たん、と軽く地面に降りると迎えたのは心配顔。
「エリオ君、あのね、怪我してる子が居るんだって…」
「え?うーん、でもそれは…」
言うまでもないことであるが、あくまで自然というのは単なる保護観察対象であり、
然るべき生態系に手を入れていいというものではない。
前々から自然の中で怪我した動物達を助け過ぎる嫌いのあるキャロを、諫めたことも一度や二度ではなかった。
最近はさすがにあまりその手の我侭を言わないので、ついエリオは怪訝そうな顔を返してしまったのだが――
「ううん、違うの。その子、普段は森に居ない子なんだって」
「え…?」
普段いない、となると未発見かまたは迷い込んだ可能性のある希少な存在である。
人為的であろうがなかろうが、下手に凶悪なウィルスなどを持ち込まれた日には、誰も救われない森になってしまう。
それは、最低でも避けねばならない。
「ん、じゃいこっか」
「うん!フリード!」
「キュクル〜」
白い光に包まれ、ふわっとそれが大きな翼の形に変わると、本来の姿である翼竜の姿に戻った。
2人を乗せてぐっと首を大きく下げると、羽ばたきながらゆっくりと空に浮かび上がっていく。
「どっちだって?」
「ついてきてって」
数羽の鳥が羽ばたいて脇を通り過ぎるのを確認してから、フリードはその後を追い始める。

 鳥達の案内で該当の場所に辿りついて地面に降りるや否や、
フリードから飛び降りてうずくまっている小さな黄色い毛並みの動物に駆け寄るキャロ。
「もう…」
ちょっと優しすぎる相方にいつも通りの苦笑いをしながら降りて追いつくと、その動物を腕に抱えあげた隣りから覗き込む。
「三角の耳に、尻尾の先が茶色…これなんだろう?」
「なんだろう…私もみたことがないかも。データベースじゃないとだめかな」
「そうだね。かなり弱ってるみたいだし連れて帰ろうか」
「うん」
助けられたことに気づいたのか、弱々しい瞳が抱えていてくれる人をなんとか見上げたが、再びうずくまって瞳を閉じた。

 茶色い保護隊制服のメガネのお兄さんとポニテのお姉さん、タントとミラと一緒に、画面を覗き込む。
タントがコンソールを軽くとんとん、と叩くとよく似た動物が画面に表示された。
「あ、これかも」
エリオの声に、タントも頷く。
「多分これで間違いないね。管理下の12、38とか管理外の50、97…」
「え?97番?」
「あー、うん。管理外の97番世界ではキツネって呼ばれてるみたいだね」
「狐…ですか」
表示されている、先輩達がよく使っていた文字を復唱する。
「もしかしたらフェイトさんが何か知ってるかも…」
キャロの問いに、ミラも頷くと食事の項を読み上げてくれる。
「雑食…肉からミルクまで可だってさ。これならなんとかなるね」
「はいっ!」
怪我の治療から一生懸命だったキャロは、それを聞くといそいそとミルクの準備を始める。
「もうキャロは甘いんだから…」
お姉さんでなくても呆れてしまいそうな献身振りに、男性陣に異論があろうはずがない。
「じゃあ僕はちょっとフェイトさんに聞いてみます」
「ああ、うん、回線使っていいよ」
「はい!ありがとうございます!」

 数十分後、エリオとキャロが開いた画面の向こう側にはかなり嬉しそうな表情の管理局制服の母親代わりの人、フェイトの姿があった。
「どうしたの?エリオ、キャロ」
通信自体も勿論嬉しいのであるが、それ以上に頼って貰える事がそれを何倍も増幅させている様子であった。
「あのですね、実は――」
素直にミルクを飲んで、細菌検査も全く問題ないどころか、この子毎日シャンプーされてるかも、
とか言われるほどのお嬢さんのお狐様は、キャロの腕の中でじっとしているものの、
ときどきしっかりとごそごそと動く程にまで既に回復していた。
「この子、この世界には居ない子みたいで、管理外の97番にならいるから、もしかしたらフェイトさん何かご存知ではないかなーと…」
くぅん、と小さい鳴き声が聞こえた。
「わー、可愛いキツネちゃんだね。その子がその世界に居たの?」
「はい。何か報告とかありませんか?」
「うーん、とね…ちょっとまって…」
側の端末やら書類やらをごそごそと漁り始める。すると、すぐに思い当たる節があったのか返答があった。
「あ、そうだ。これこれ」
ぽん、と浮かび上がるある書類の画面。
「ヒドゥン報告書…?」
耳慣れない言葉についキャロが題を読み上げてしまう。
「ヒドゥンってなんですか?」
「あー、うーんとね、次元世界における嵐というか台風と言うか。要は自然災害なんだけど」
「自然災害?次元震とかの仲間ですか?」
「うーん、まあ小さい意味では正解、なんだけど、いわいる次元震とか言われるものから比べれば凄く小規模。
時空世界での、川が氾濫したー、がけ崩れが起きたー、程度と言うとわかりやすいかな」
「えっと、つまりそんなに影響はない、ということですか?」
「場合によるけどね。でも最近は余り大きなものも起きていないし、対策もしてなかったんだけどついこの間――」
書類の画面をぴっ、と切り替えると管理外の97番世界の惑星、現地名称地球の映像が映し出された。
「私達の馴染みの深い、この世界でね、実はごく小さなヒドゥンが発生したんだ」
「えっと…大丈夫だったんですか?」
「うん、発生直後にすぐ消えてね。だから報告書一枚で終わったんだけど――場所はどこだったかな」
ぴぴぴっ、と再び指を動かすフェイト。
「あ、これか」
しばらくして該当の資料が発見できたのか、ぽん、とキーを叩くと海沿いの某都市の俯瞰図が出現した。
「あれ?これどこかで見たような」
海沿いに続く道と、その脇にある小学校。
山側には小さな御社、とそこはどうみてもなのはが生まれ育った土地であった。
「…あれ?これ海鳴じゃない…。うーん、まあかなり龍脈の強い土地だからしょうがないんだけど…」
「ここってフェイトさんたちの?」
「うん。私となのはと、はやての出会った場所。エリオとキャロも一回行ってるよね」
「はい」
「そっか海鳴かー。海鳴なら確かに起きても不思議はないかなー。
しかしそうするとその子、海鳴の近くでヒドゥンに巻き込まれちゃったのかもしれないね」
「なるほど…」
「でも、どうしましょう。この子多分飼い主さんとか居ると思うんですけど」
「そうだね…どうしよっか」
「街の人に聞いて歩くしかないんでしょうか…」
「あ――」
何かを思いついたのか思わせぶりな笑顔に変わるフェイト。
「じゃ、ちょっと遊びに行ってみようか」
「え?」
「ふふふー私にまっかせなさい!」
 果たして翌日の午前中に第97管理外世界への移動許可が下り、お昼過ぎにはフェイトに連れられて海鳴の海岸公園に転送で降り立っていた。
夏の潮風を心地よく感じながら、とりあえずの目的地に徒歩で向かう。
フェイトは長い黒のワンピース、エリオは赤いTシャツに長いズボンと2、3日は宿泊できるようにと2人分の荷物、
キャロの方はいつもの民族衣装のフードと地味な服装で、そして大分元気になったキツネさんの入ったバスケットを抱えていた。
十数分歩くと、小奇麗な喫茶店の前に辿り着く。
「喫茶店…この名前なんて読むのでしょう?」
地味な暑さにフードを降ろしたキャロは、初夏の陽に容赦なく照らされている看板の文字「翠屋」の文字を見上げた。
「みどりや、って読むんだよ。じゃいこっか」
ちりんちりん、という音と共に扉を開いて中に入る。
よく冷房の利いたひんやりとした空気と、店員と思しき若そうな茶色の長髪の奥様が、
胸に翠屋と小さく書かれた黒いエプロンでフェイト達を出迎えた。
「いらっしゃいませー…ってわぁフェイトちゃん!」
「お久しぶりです、桃子さん」
知り合いなんだ、とふたりはきょとん、と様子を見守るしかない。
「あら、この子達は後輩、かな?」
とても優しく明るい笑顔を向けられて、自然と姿勢を正す。
「エリオ・モンディアルといいます!はじめまして!」
「キャロ・ル・ルシエと申します!よろしくおねがいします!」
ぴっといつもの癖で片手に額を添える。
「ふたりともそんなに堅苦しくしなくていいんだよ」
「あっ…」
染み付いてしまった習性に2人して苦笑いを見合わせると、桃子はころころと笑った。
「あはは。エリオ君とキャロちゃんね。よろしくね。えーっと私はー…この店の店長でなのはのお母さんです!」
「えっ…」
驚きと畏怖と、やっぱり驚きとでフリーズするのも無理はない。
あのおっかない先輩のお母さんがこんなに朗らかな人だというのもあるが、それにしても若すぎである。
「お若いですね…」
「本当に、見えません…」
「あらぁ、ありがとうね!これでも一応、3人の子供のお母さんなんだけどねー」
「えっ」
驚かされてばかりで言葉が続かないのも無理はない。
「童顔って昔は悩んだけど、こうなると幸せねー。あーでも士郎さんが愛してくれるからかしら?」
「そう思います」
短くフェイトが答えて、軽く何気ない惚気をかわす。
「あ、っとごめんね。私の話ばっかりで。でー、フェイトちゃんはお仕事できたのかな?」
「あー、はい実はこの子飼い主さんを探しているのですが…」
視線を向けた先はキャロが開いたバスケットの中に見える小さなキツネ。
その子がふっと顔を上げて桃子を見ると――
「って、くーちゃんじゃないの!」
「くぅん」
とん、と飛んでフェイトの肩に飛び移ると視線の高さが桃子とぴったりになった。
「一週間もどこ行ってたの!みんな心配したんだから!」
「くぅん…」
誰の目からみてもしょげかえっているのが見て取れる。
「あーでもよかったわー!那美さんも心配してたんだから」
「あの、この子の飼い主さん、ご存知なんですか?」
フェイトの問いに、会話の対象が戻る。
「うん、この子探してたのよ〜。どこにいたの?」
「この子達のところで行き倒れ?になってたみたいなんですけど」
「はー、フェイトちゃんたちの国に?」
「えっとまあ…そうです」
「わー、どうやっていったのかなー」
「不思議ですけど…原因不明なんです」
「なんにせよよかったー、あ、飼い主さんに電話してきていい?」
「はい、お願いします」
とっとっとと電話に向かう奥様の背中を見送りながら、肩のキツネに微笑みかけるフェイト。
「よかったね、くーちゃん」
「くぅん!」
「本当、よかったねー」
心から嬉しそうに通称くーちゃんを軽く撫でるキャロ。
「これで、事件、解決かな?ちょっと早すぎだけど」
「あはは…」
エリオは乾いた笑いを返しながら、無駄になってしまった荷物を少しだけ持ち直す。
電話を終えるのを待っていると、かちゃん、と言う音を響かせてから再びとてとてと戻ってくる桃子。
「飼い主さん、迎えに来るって。すぐ来るとは思うけど、それまでゆっくりしてってね」
「あ、はい…じゃあちょっとお茶していきます」
「はーい。なににする?」
「あ、じゃあえーっと…」

 適当にゆったりと会話しながら冷たい飲み物を飲んでいると、セミロングの茶色い髪と大人しめの顔立ちをした
若くて綺麗なお嬢さんが現れて、くーちゃんを見ると本当に安堵した表情で飛び込んできたその子をしっかりと抱きしめた。
恐縮するぐらい、何度もお礼を言われて、その後夏休みの間はこっちにいますから遊びに来てくださいね、と言い残し、
また何度もおじぎをしてから、ようやく店を去って行った。
カウンターに並んで座った3人の前に、手の開いた桃子が戻ってくる。
「本当に喜んでたね、那美ちゃん」
「はい。やっぱりちゃんと飼い主さんのところに戻るのが一番ですからね」
「心配してくれてる人のところに戻るのが一番ですね」
キャロの言葉に、大人2人は、ほとんど同時にうん、と頷きを返した。
「でー、フェイトちゃん、この後はどうするの?」
「うーん、どうしましょうか。こんなに早く見つかるとは思っていなかったので。
2、3日はかかりそうだと思って一応準備もしてきたんですけど…」
ちょっと皮肉っぽい視線で一瞬だけ足元の荷物を見る。

「お母さんのところとかは?」
「あー、そうですね…甥っ子達の顔も見たいし。エリオとキャロも行く?」
「はい!」
「アルフさんもお元気でしょうか…」
「じゃあとりあえず母さんのところへちょっと行ってみよっか」
「はい!」
まとまりかけた話に、少しだけ桃子が口を挟む。
「あ、もしよかったら夕飯とか泊まりとかはうちに来てくれると嬉しいんだけど…」
「えっ?でもご迷惑では?」
「それがねー、旦那と息子は武者修行だーっていってなんかどっかいっちゃうし、なのははさっぱり帰ってこないし」
フォローのしようもなく、エースオブエースに対する苦情に苦笑いで答えるしかない。
「今、美由希ぐらいしかいなくて広い家がさみしいのよねー。あーもう一人いることはいるけど…どうかな?」
「うーん、私は難しいんですが、この子達ならゆっくりしていっても…」
幼い2人は帰っても特にやることもない現状もあり、なんともいえない表情になる。
「とりあえず、母さんのところへ行ってみてからでいいですか?」
「あー、うん。決まったら連絡してねー。出来るだけ早めに」
「はい、お心遣い感謝致します。じゃ、エリオ、キャロいこっか」
「はい、では失礼します!」
「おじゃましました!」
「はーい。またあとでね〜」
後ろ髪を引かれる台詞をしっかりと背中に浴びながら、静かに店を出る。
「素敵な方ですね…」
「本当…もっと厳しい方かと思ってました」
ハラオウン家に向かいながら、わかりやすい感想を述べるエリオとキャロ。
「んー、ああ見えてもかなりしっかりした人なんだけどね。なんてったってなのはのお母さんなんだから」
「はー、そうなんですか…」
「ちょっと想像がつきません…」
「ふふ、そのうちわかるよ」

 ハラオウン家に辿り付くと、リンディにエイミィにアルフに甥っ子に姪っ子に派手に歓迎されてそれはもう
けたたましいどころの勢いではなく、ただでさえ遠慮を知らない年頃のクロノjrx2の元気の良さが増幅され、
何がどうなってるのやら把握しようのない喧騒の中、あっという間に時間は過ぎ去っていく。
ひとしきり遊んだ後、宿泊のことをリンディに相談したが、ただでさえ手狭なハラオウン家、フェイトはまだしも
エリオにキャロとまでとなると寝るならソファか床かなんていう悲しい現実が待っていた。
しかたなし…と覚悟を決めて、エイミィに頼んで高町家に電話をかけてもらうと、美由希さんが迎えに来てくれることになった。
しばらくしてやってきたメガネ黒髪ポニーテールのなのはのお姉さんに、親友でもあるエイミィママは2人のことを託すと、
また今度ーと子供達と一緒に手を振って見送ってくれる。
玄関の扉が閉じると、ふあー、っと疲れはともかく耳のキンキンするようなひと時からようやく開放されたエリオとキャロに
美由希さんも微笑まずにはいられなかった。
「元気だよねー、あの子達」
「ええ…本当に」
ゆっくりと歩き出しながらキャロが答える。
「私達もあんな感じだったんでしょうか」
「うーん、いっぱい珍しい人が来たからはしゃいでたんじゃないかなー」
「あー、そうかもしれませんね」

 だんだんと夕焼けになり始めた閑静な住宅街の道を並んで歩くと、すぐに高町家の入り口に辿り着く。
ただいまーと声をかけつつ玄関をあけると、気配を察したのか、美由希さんとよく似た薄い黒髪を顎のラインに揃えて背中にだけ細く伸ばした、
彼女より一回り程年齢を重ねた落ち着いた感じの、青いジーンズと薄手の白い長袖を纏った雰囲気のあるすらっとした女性が出迎えてくれた。
「ただいま、母さん」
「…お帰り、美由希」
母さん?と若干の疑問符を問う前に先に問いかけられる。
「この子達は?」
「あーっとねー、なのはの後輩、ね」
「ああ…」
「エリオ・モンディアルといいます」
「キャロ・ル・ルシエと申します」
先の反省からぺこり、とキャロだけがお辞儀をした。
「…御神美沙斗といいます……とりあえず、お上がり」
と静かだが良く通る声で告げられる。ただし、表情の動きはあまりなかった。
「あ、はい」
促されて美由希に続いて靴を脱ぐと、美沙斗さんの背中の綺麗な髪に先導されてリビングへと向かう。
エリオは思念通話で初対面の人の感想をキャロにだけ聞いてみる。
(物静かな人だね)
(うん、あんまり怖くはなさそうだけど…)
(みかみ、ってきいたことある?)
(うーん…ないかも。なのはさんは高町、だよね…)
リビングのソファに荷物を脇に置いて座らされると、美由希はお店に電話してくるーと去り、
美斗はじゃあ、私はお茶でも…と部屋から消える。
見渡してみるがごく普通の洋風のフローリングに大きめのTVに夕日の差し込む広い窓――と、
ミッドチルダでも良く見るような有体で非凡さなど欠片もなかった。
会話もなくぼーっと座っていると、綺麗な物腰でお茶を持ってきた美沙斗が2人の前にそっと置いてくれる。
「ありがとうございます」
2人そろって答えると、うん、と短く答えた。
「…隣、いいかい?」
「あ、はい!」
確認を取ってから隣り合って座るキャロの隣に、見事に音もなく体を降ろした。
そのまま穏やかな瞳でそっと見守るように見つめられて、少しだけ居心地が悪そうに何度かエリオを見遣った後、
思い切って聞いてみる。
「…あの、聞いていいかわからないのですけど…」
「…ん?」
「美沙斗さん、も美由希さんのお母さん、なんですか?」
「ああ…」
自然に笑みが零れる。
「……どうなふうに、みえるかい?」
「え、えーっと…うーんと、どっちもお母さん?かなー…変ですけど」
「……ふふ……正解」
「え、えっ?」
もう一度だけ優しく微笑むと、答えを教えてくれる。
「……私は……美由希の産みの親……なんだ」
「ふあー…」
なんとも反応のしようのないキャロに、エリオがなんとかフォローを試みる。
「えっとじゃあ、桃子さんは、育ての親ってことですか?」
「……うん……そうだね」
「いいなぁ」
素直な感想がキャロの口から漏れる。
「……うん?……なにが……いいんだい……?」
「お母さんが2人って…」
「凄いうらやましいです…」
「……?」
押し黙ってしまった2人に声のかけようが見つからず、沈黙が部屋を支配したが――
扉と一緒に明るい雰囲気を運んできた美由希さんに救われる。
「かーさん、早めに帰ってくるってー」
「……ああ」
ちょっと沈み込んでいる2人と、ちょっと困っている感じの母親に気づいてお姉さんらしく
美沙斗のさらに隣りに座りながら原因を聞かれるキャロ。
「ん?母さんと何のお話?」
「えー、えーっと美由希さんお母さんが2人居てうらやましいなーって…」
「え?あ、ああ。びっくりした?」
「ちょっとだけ…あの、一緒に暮らしてるんですか?」
「……今は……休暇中、だから……普段は……遠いところで……働いているよ」
「そうなんですか…」
そこでまた押し黙ってしまう2人に、さすがに気になったのか美沙斗が問いかける。
「……私も……聞いていいのか……わからないけれど……ご両親……は?」
「えーっと私は…小さい頃に村を追い出されてそれっきり…」
「僕は、実験室で産まれましたから…」
「……そうか……すまない」
本当に悪いことを聞いてしまったな、とさすがに曇った表情に心配された側が慌てて主張する。
「いえ、あの、私達いまはちっとも不幸じゃないですから!」
「今はフェイトさんにも、他の先輩達にもたくさん可愛がってもらってますから、大丈夫です!」
「……うん……それなら……いいが……」
とても優しい母親の瞳で見つめられて、慣れないこそばゆさに、キャロが照れる。
「あー、なんか母さん、この子達のこと好きになった?」
「……ん……美由希も……この位の頃が……あったのかな、と……」
「ああ」
恥ずかしげに俯くキャロを見て、美由希も納得する。
「私のこの位の頃は、母さん、みてないもんね」
「……そうだね……」
さらに照れて真っ赤になっていくキャロを助けるべく、次の案が提案される。
「あー、そうだ。この家の間取りとか、教えておこっか」
「……ああ……私が……教えようか」
「うん、じゃあちょっとだけ夕飯の準備してるね」
「……じゃ……いこうか」
「は、はい!」
 庭、廊下、階段、キッチン、トイレ、浴室、と少し広くはあるがごく普通の家庭を変わらない構成を紹介されつつ
華奢な背中についていく2人だったが、一箇所だけ、普通の家にはないところがあった。
一度靴を履いて外にでると、その施設の扉を開く。
一面の木の床張り。
奥の高い所には小さな神様が祭ってある。
完全に橙に変わった夕日が窓を区切って、綺麗な四角を床に作っていた。
「ここは…道場?」
「……そう……鍛錬の……場所」
靴を脱いで軽く一礼してからそっと床に足を運ぶ美沙斗に倣って、2人も同じ所作をしてあとに続く。
ぎし、っと響く音に若干驚きながら中を見回すと、心地よい静寂に包まれていた。
「なんか、すごく落ち着く気がする」
「うん…」
空間の心地よさに身を任せてぼーっとしている2人に、ふとよぎった疑問を問いかける美沙斗。
「……そういえば……なのはちゃんの後輩……ということは……まさか君達も……戦うのかい……?」
「あー、えーっと一応、というか普通に、そうです」
さすがにこんな幼子が?とわずかだが驚いて瞳が大きくなった。
「……まさか、銃とか……?」
「いえ、僕達はなんていいますか、不思議な力っていうか魔法っていうか…」
「……ESPや……サイコキネシス……HGSの類……か?」
「あ、はい、そのような感じです」
「……能力者、か……それでは……教えられることは……ない、か……」
少しだけ残念そうに瞳を逸らす。
「僕は一応、槍騎士で、キャロは召喚師、なんですけど…」
「……槍……?能力者が……槍を……?」
「はい、まあほとんど力任せで、型とか、無茶苦茶ですけど」
「……そうか……それなら体捌き、ぐらいなら……少し……見ようか……?」
「えっ、いいんですか!美沙斗さんってひょっとして剣術とかできるんですか?」
「……不破の……娘だからね……」
意味ありげにふわっと微笑んで、壁にかけられた2本の短い木刀を取る。
「……槍は……これしか……ないが」
美沙斗が暇を見て一応磨いていた、本当に粗く削っただけの細長い棒を丁寧にエリオに渡す。
先は尖っておらず、丸くしてあるのはこれもまた彼女の心遣いであった。
す――と促して道場のほぼ真ん中で正対する。
両の手に1本ずつ長さの違う短めの木刀を持ち、ごく自然に持っているだけだったが、その姿を目の前にしてエリオは恐怖すら覚えた。
(――すごい、この人、できる!)
「……どこからでも……かかっておいで……あまり……力を使われるのは……困るが……」
「は、はい!」
穂先をすっと下げ、じっと美沙斗を見つめてから、いつもと同じようにふっ、っと飛び込むが…
すっ、と短い方の木刀で柄を逸らされると、全く淀みのない動きでふっと踏み込まれ、長い方の木刀はぴたり、
とエリオの喉もとの手前で止まっていた。
「……確かに……なってないね……」
ふんわり、と微笑まれたが、だがエリオはこれだけでも、その迫力に額に汗を浮かべていた。
(すごい…全然無駄がない。しかも速い…)
「……少しぐらい……力……使ってみても……いいよ……」
「は、はい!では、いきます!」
全ての魔力を全身の力に変え、速度を上げて再び突きかかっていく。
――そして10分後。
「……はぁ……はぁ……」
魔力攻撃以外、速度に関して言えばほぼ全力を尽くしたにも関わらず、完璧に見切られ、槍が体に触れることすら叶わず、
挙句汗びっしょりのエリオに対して、それこそ準備運動以下といわんばかりに、涼しげな表情を浮かべたままの美沙斗。
「……とりあえず……これぐらいで……」
「は、はい……ありがとうございました……」
なんとか静かに木の槍を床に置くと、へばりこむエリオ。
「だ、大丈夫?エリオ君」
「美沙斗さんって、凄い強いんですね」
汗だくでも尊敬の念を禁じえず、自然体で佇むその人を少年らしい輝く瞳で見上げる。
「……まあ……私でよければ……教えるが……」
「是非、お願いしたいです……こういうの教えてくれる人、全然いないから」
「……うん……とりあえず……戻ろうか……お風呂も使った方が……いいね……」
「は、はい……」
 風呂の使い方を教わって、2人とも入ってしまうといいよと言われて、一緒に?――と
キャロに突撃されかけたエリオは慌てて断って、キャロからでもいいよ、と汗だくの自分を見ながら勧めたが、
大丈夫、と割と強く否定され、素直に浴室へと向かう。
美沙斗に昔は殿方から先に入るものだったのにな、と不思議なことを呟かれて、そうなんですか?と問いかける。
「……昔はね……女性は……卑下された存在だった……からね」
「へー…」
「……さて……私達は……夕飯の手伝いでも……してようか」
「はい!」
キッチンの美由希に合流すると、程なくして桃子も帰ってきた。
すっかり暗くなって電気のつけられた台所に、女性4人が集れば当然賑やかにもなろうというもの。
風呂から戻ったエリオが会話の輪に参加できずに所在無くキッチンの入り口で立ち尽くしていたのすら
笑いの種になるのであるから、げに恐ろしきは女性陣であろう。
代わってお風呂に行ったキャロが戻ってくる頃には、すっかりと食事の準備もできあがり、
かなり豪勢になってしまった夕食を前に、全員でそっと手を合わせる。
「いただきまーす」
「はぁーい、どうぞー」
桃子の声に促され、少しずつそれぞれの皿からとりわけて食べていく。
桃子の作った皿も、美沙斗の作った皿も、かなりの出来でそれこそ手放しで褒めることができたのだが――
果たして美由希の作った皿の番になると、途端に表現が際どくなった。
「独創的といいますか――」
「不思議な?味ですね」
「ううう……」
やっぱり?とがっくりと肩を落とす美由希さん。
それに対して桃子は容赦もにべもなかった。
「まだまだ、修行不足かな?」
「うう、かーさんも母さんも上手で肩身がせまいよぅ」
「あはは…お料理、結構難しいですもんね」
「そーだよー、好きな人ができれば上手くなるっていうけど、そっちもなんかさっぱりだしぃ」
「……美由希は……ぼーっとしてる……からね……」
「あー、母さんもひどーい」
拗ねて見せる美由希さんと優しく微笑む美沙斗さんの雰囲気は、2人にはとてもうらやましく映る。
「私も、お料理覚えたいな…」
「あらー、私が教えるわよ?ついでに翠屋の手伝いもしてくれると尚嬉しいけど」
「かーさん、餌で釣りつつ勧誘してる…」
「あははは。昔はなのはも良く手伝ってくれてたんだけどねー」
「そうなんですか…」
あのおっかない先輩が喫茶店の娘でウェイトレス――はっきりいって想像ができない。
クレーマーとかいようものなら、ちょっと頭冷やそうかとか言って、飲み物の氷をぶちまけそうである。
「僕も、もっと色々教わりたいかも」
「……ん……?」
内心しめたっと思いながら、桃子が追撃をかけるのは言うまでもない。
「なら、少しのんびりしていったら?夏休みとか取れないのかな」
「あー、えーっとどうでしょう…フェイトさんに聞いてみないとわからないですけど」
「それに、あんまり長居するのも…」
「大丈夫大丈夫、母さんだって居候なんだからー」
「そうかも、しれませんけど」
「……私も……夏の間は……居ると……思う」
「うーん…」
「じゃあ、あとでフェイトさんに聞いてみます」
キャロのそれなりの結論に納得し、この場は収まったのだが――
あとで電話をかけてきいてみると、2週間でも一ヶ月でも多分大丈夫、六課の頃の休暇も山ほどあるしーとの答え。
しばらくお世話になります、との結論を桃子に告げると、それはもう喜んでくれて、2人してさすがにちょっと気が引けるね、
っと顔を見合わせてしまうことになるのであった。

 あてがわれた和室の8畳間に表面がござのマットを敷いて、タオル状の薄い毛布を引き寄せつつ、その上に2人はようやく腰を落ち着ける。
ありきたりの照明と、扇風機の風を浴びながら、ふぅ、とキャロが疲れたため息をついた。
「なんか…凄いことになっちゃったね」
「あはは…」
縁側に面した開いた障子と、半分ほど開けられた外の窓、そこから入り込んでくる夏の匂いと時折入り込んでくる涼やかな風。
確かに夏の熱気はあったが、肌に当たる扇風機の風がひんやりとしていて、心地よかった。
「でも、平気?なんか僕のわがままに付き合せちゃったみたいで…」
「大丈夫だよ?それになんか、ここ、静かで…凄く落ち着く」
「あー、そうだね」
「私も、料理は本当に覚えたいし」
「うん…」
えへ、っと笑われて返す言葉が見つからない。
「もう、寝ちゃうかな?」
「うーん…」
ちょっとだけ視線をさまよわせて思考を巡らせるが、案外安易な結論に達する。
「じゃ、エリオ君とお話しながら、ねるー」
「あはは、いいよ。明かりは消しちゃう?」
「うん」
電灯を消すと、扇風機の回る音だけが暗闇に響き始めた。
エリオもそっと横たわると、自然とこちらを向いていた相方と視線があう。
「すごい、静かだね」
「うん…」
心地よい沈黙。
穏やかに扇風機の奏でる音だけが気持ちよく耳に響く。
「なんでだろう、初めてのとこなのに不安が全然ない…」
ごろっと転がって天井を見上げる。
「むしろ、こういうお泊りってしたことないかも」
「あー、そうだね…」
思い返してみるが、自分達の過去はといえば、管理局の施設か、部隊の相部屋ばかり。
自然保護隊の今ですら相部屋なのは(勿論男女別で)、ちょっとした神様の意地悪なんじゃないかと今更に思うのも無理はない。
「なんかずっと旅してる感じだから…故郷ってこんな感じなのかな?」
「なのかなぁ…私もちっちゃすぎて覚えてないけど、きっとこんな感じだったかも」
「うん…」
「そういえば…美沙斗さんって強かった?私よくわからなかったけど…」
「かなり強いよ。今の僕じゃ魔法使っても負けると思う…」
「ええっ?そうなの?」
いくらなんでも生身の人間が魔導師に勝てる道理はないのであるが、彼女は数少ない例外の一人であった。
「うん。多分本気を出されたら、防御も間に合わずに切り殺されるかな…」
「えええ?そんなになんだ。シグナムさんとどっちが強いのかな?」
「うーん、さすがに魔法使われると無理だろうけど、体の動きだけなら間違いなくあの人の方が凄いよ…」
「へー」
「もっと、色々教わりたいな…そしたらもっと強くなれると思う」
「…強くなってどうするの?」
その問いに、もう一度視線を戻すと、暗がりの中の幼い恋人の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「強くなって…キャロを守りたい」
「えへへ…ありがとう」
「うん」
彼のこういう何気ない一言がどれだけ乙女心をくすぐっているか、本人が知る良しもないのであるが、
だがしかしキャロにとっては直撃もいいところであった。
畳に落ちた手に、そっと手を重ねられる。
「エリオ君、一緒に寝ていい?」
「い、いいけど…」
了解を得ると、一緒に寝るどころかいきなり飛びついて襲い掛かられる。
「きゃきゃきゃろろろろっ!」
「あははは」
畳の上でごろごろとじゃれあいながら、キャロが上になったところで静かに見つめあう。
そのままごく自然に唇が触れ合って、抱き合っていたが、途中からキスに苦味を感じて目をあけると、
目の前の人の瞳から涙が零れていた。
「キャロ?」
「ずっと…寂しかった…もっともっとしたかった」
自然保護の任務中は2人っきりとはいえ仕事中。
生真面目な2人が任務中に行為に至るだなんて発想にすらなく、そして帰ってくれば平たくいえば監視付き。
軽く手を繋ぐだけで平気だったエリオと違って――彼女の方はそれこそ一年分、抑えに抑え、積もりに積もっていた。
「ごめんね…」
「ううんもういいの、いっぱいしよ…」
柔らかい唇に激しく求められるが、嫌がることなくエリオはそっと抱きしめる。
(あったかいよぅ甘いよう)
(キャロ…)
半ば狂気じみた欲情に多少戸惑うが、一年分と言われては否定する根拠はない。
吐息まで奪いつくされかねない勢いの深い口付けに、当然2人の体の間で硬く大きくなるものがあった
その反応に濡れた瞳の人は、妖艶さを伴った淫靡な笑顔に悦びを浮かべる。
「薬なくても…できるようになったんだ」
「う、うん…」
そっと体を離して、どんどん大きくなっているそれを豪快に剥き出しにすると、何のためらいもなく小さな唇で貪りつく。
「きゃ、きゃろ…!」
ぐちゃぐちゃとそれは激しく濡れた音を遠慮なく響かせながら、唾液を絡ませ、暗闇に光ってもなお唇を這わせ、
何度も喉の奥まで往復させるように頭をよどみなく動かす。
「んーvんーvんーvんーv」
(エリオ君の、いっぱい、いっぱい)
(キャロ…)
壊れかけた思念が直に伝わってくるが、快感の波になだめる暇もなく、先端との境目に唾液を塗りつけられる。
「うぁ……っ!」
(ここ、いいんだ)
大好物の獲物を見つけた肉食獣もかくやというほどの悦びの浮かんだ瞳を閉じて、剥いた皮との間に舌先を滑り込ませた。
「ぐ、うあ…!」
果たして我慢どころか、理性すら半ば飛ばされつつ、再び深く咥えこまれて3度目に、若く白い液体が激しく噴き出した。
しかしそれすらも、しっかりと奥まで口に含んだその人には許容範囲もいいところで、嬉しそうに完璧に全てをごくごくと飲み込まれた挙句、
うっすらと残ったものまで舐め尽し、先端の割れた部分に舌を這わせてから、中に残っていたものまで吸い出される。
「うん、すごくよかった…」
うなされるように呟きながら、まだ大きい舐めつくしたものに軽く頬ずりをしたあと、精を吸い尽くされて動けないでいる
エリオの隣りに服を全て脱ぎ捨てて、そっと寄り添う。
「エリオ君、抱いて」
「ん…」
なんとか意識をはっきりさせて、恋人に覆いかぶさり、ゆっくりと繋がっていく。
「あはぁvvvvvvv」
ずぶ、と半分も差し込まれないうちに首を仰け反らせ、快感に酔いしれる。
「あはっ、いいっv」
「キャロ…あんまり声出すと…」
「あ…」
タオル状の毛布を自ら口に挟み、声を殺して、思念で哀願する。
(いっぱい、いっぱい動いて!)
(う、うん…)
ずっ、ずっ、と動かされるたびにんーっ、んーっ、と音にならない喘ぎを漏らしながら、涙目になるほどの快感に身を任せていく。
(いい、よすぎ、こわれる、おかしくなるっ)
「う…くっ」
ただでさえ狭いのに中の熱さも引き込み方も尋常ではなく、入ったものが溶けているのかと錯覚するほど。
「んーvんーvんーv」
ぐちゃぐちゃと繋がる音と彼の息遣いの耳から入ってくる刺激の全てを脳内の麻薬に変え、自らも腰を動かしていく。
(い、い、いいっ、えりお、えりおくん)
ずっ、ずっ、と突き入れている側も、再び弾けそうな衝動を覚えるが、まだ僕は出せるんだ、
とシニカルにまるで借り物の体のように自身の体を感じずにはいられなかった。
だが意図しようがしまいが、生殖行為の流れがとどまる事はない。
「ぐ、あ…」
ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゅ――
「んんんんんんんんんんんんんんんん!!!」
「くあっ…!」
ひときわ激しくキャロの体が震え、唇から毛布が離れるのと同時に、残っていた体液が全て中へと注ぎ込まれていく。
「はぁー……はぁー……」
汗で滑って体を支えきれなくなったエリオが倒れこむと、本当に愛おしそうにぎゅーっと抱きしめる。
「ご主人様…」
「…………え?」
「私はおまけで、いいから…ずっと側にいさせて……」
「キャロ…?」
「私の……ご主人様」
疲れ果てたエリオが、それに対する思考を巡らせることができるわけもなく、そのまま共に眠りへと堕ちていく。
このときから――いやそのずっとはるか前から――歯車が狂い始めていたのであるが、それに気づくものはまだ、誰もいなかった。



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目次:pure monster
著者:どっかのゲリラ兵

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