◆第6話 「忘れていた男」

『昭和58年6月に私が殺される』
『その死の運命に立ち向かうことを決意した私は』
『どの世界でも綿流しの晩に殺されてしまう富竹と鷹野に』
『その死の運命を伝え 二人に協力を求めた』
『彼らの返答はまだわからない』
『でも 赤阪との奇跡の再会こそ 幸運の神様が私を後押ししてくれている何よりの証』
『サイコロを振る前から必ず6が出ると分かっている――そんな幸運が私を後押ししてる』
『もう どんな不吉な運命も』
『私を押し留めることは出来ない 私は運命を打ち破る!』
「!」
「大丈夫ですよ沙都子 ボクにお任せなのです」
「無いわ」
「でも こんな障害 物の数じゃないわよ」
「今の私の強運ならきとなんらかの形で回避してくれるはずよ」
『―――それを今 証明してみせる!』
「消え失せろ三下ども 私の運命をその程度で邪魔立て出来ると夢にも思うな」
『さあ どうやって私を守ってくれるの?』
『必ず6が出る強運の力見せてみなさい!』
『――彼らは…』
『あ…』
「ええ 驚いたわ あれは鷹野の部下 山狗たちだわ」
『山狗――鷹野の指揮下にある秘密部隊――荒事のプロ中のプロだ』
『そして 山狗が私を助けてくれたということは 私のガードを命じられたといういこと』
『それはつまり 富竹と鷹野が私の話を信じてくれたんだ』
『山狗がずっとガードしてくれるならこれほどの安全はない!』
『私を殺そうとする者も簡単に手を出せないはず』
「見てなさい羽入」
「この世界ならすべてがうまい行く!!」
『穏やかな日々が過ぎていく』
「行ってらっしゃいなのです」
『綿流しまであと1週間』
『すべては順調に行っている』
『すべては順調…』
「まだかしら沙都子 遅いわね」
『え?』
『何?』
『なに?この感覚は…なんなの?』
『沙都子は半額セールを狙って帰りが遅くなることなどよくある』
『この時間に帰ってこなくてもおかしくはない』
『でも……でもでもなんだろう』
『よくわからない』
『よくわからないはずなのに』
『今 すごく嫌な感じがした』
「羽入いる!? 沙都子を探して!!」
「いつもはうっとおしいくらい側にいるのに どーしてこういう時だけいないのよ!」
『商店街へ行こう! 沙都子はきっとそこにいる!』
「今 沙都子を見なかったのですか?」
『どこ?どこにいるの!?』
『沙都子……!?』
「レ レナ! あの 沙都子を見なかったですか?」
『……え!?』
『えっと…今日は特売日でっ』
『そうだったら沙都子は絶対に来る?』
『それで それで会わなかった?』
『まさか…まさか!?』
「レナ…沙都子が帰……」
『何を……言えばいい?』
『沙都子が急にいなくなるようなきがして…?だめだ!』
『そんなこと言ってもレナにはわからない』
『――だけど』
『そうだ』
『私にはわかる』
『いや 私にしかわからない――』
『沙都子がある日忽然といなくなってしまう世界が あることを!!』
『あの男が帰ってくる世界を―――』
「さおならっ」
『そんな バカな』
『なにもかもうまくいってる世界だったじゃないか』
『あの男が帰ってくるなんてハズはない』
『もともと それが起こる確率はとても低いんだ』
『幸運に恵まれたこの世界で起こるハズがない!』
『あいつがこの家に帰って来るなんて―――』
『神様どうか どうかお願いします』
『今まで私に恵んでくださった幸運をもう一度だけ恵んでください!!』
『神様…!!』
『あ…』
『沙都子―――』
『……ああ』
『殴られた赤いあざ』
『うつろな瞳』
『やっぱり あいつが帰ってきたのだ』
『北条鉄平が−』
『同じだ 1年前と――』
『北条鉄平――下品で粗暴な沙都子の叔父』
『3年前 両親を失った沙都子は 兄の悟史と共に叔父の北条鉄平夫婦に引きとられた』
『しかし 人の愛情など持たないこの夫婦は 悟史と沙都子を虐め抜いた――』
『沙都子には身も心もボロボロにされる日々だった』
『それは昨年 叔母が撲殺され 悟史が失踪し 鉄平が興宮に引き上げるまで続いたのだ』
『その北条鉄平が帰ってくるなんて…』
『あいつと一緒にいたら また沙都子はボロボロにされてしまう』
「沙都子」
「こんなとこにいないで お家へ早く帰りましょうなのです!」
「沙都…子?」
「ど…どうしてなのですか!」
「意地悪な叔父さんなんかと一緒にいたって楽しくないのですよ!!」
「だって そのほっぺは…」
『違う 昨日までの沙都子じゃない』
『叔父夫婦の虐待は 沙都子の心に強い恐怖心を刷り込んだ』
『鉄平はその恐怖を暴力で呼びさまし 沙都子の心を支配したんだ』
『ここにいるのは1年前……』
『昭和57年の心をボロボロにされた沙都子だ…』
『だから今 沙都子の手を引いても ついてこようとしないのだ…』
『なんてこと…!』
『私が1年もの歳月をかけて癒し慈しみ手当して ようやく取り戻した沙都子の笑顔なのに』
『こんなにもあっさりと―――』
『この男に打ち砕かれるなんて―――』
『沙都子…』
『沙都子!!』
『くそ!』
『この男に抗議しても 後でさあ都子が余計に居酷い目に遭うだけ…』
『…私は睨むことすら出来ないなんて!!』
『神様は残酷だ』
『北条鉄平は 愛人の間宮律子が殺された場合だけ沙都子のところにやってくる』
『それはとても確率の低い出来事なのに……』
『私の努力の及ばないサイコロの目で こんな世界に決まるなんてあんまりだ…!!』
『このままではこの世界は 沙都子はボロ雑巾のようにズタズタにされてしまう』
『沙都子がいなきゃ 私は幸せになれないのに―――』
『…昨日まで』
『あんなに最古の世界だったのに……!!』
『もう終わりだ―――』
『……いや』
『待て――』
『私は相変わらず無力だけど 今までの世界とは違う強運があったじゃないか』
『まだ諦めるな!!!』
「大石 赤阪とお話がしたいのですがいますですか?」
『赤阪なら私の力になると言ってくれた』
『彼なら 沙都子をきっと助けてくれるはず!』
「……和倉?」
『近くの地名じゃない…――どこ?』
『…………』
『………え?』
『たしかあの時 ……そう言ってたのに…』
『――――――!』
『そうか…』
『「こっちにいる」というのは こっちの地方に滞在するという意味だったのか』
『こちらに帰ってくるまであと1週間』
『それじゃあ赤阪は頼れない』
『あの男に1週間も時間をあたえてしまえば 沙都子は滅茶苦茶になってしまう』
『赤阪はダメだったけど 私には最後の一手がある!』
『大丈夫 彼らならきっと助けてくれる!!』
『きっと!!』
『入江と鷹野なら沙都子を救えるはず――』
「!」
「そんなことしても沙都子は助けを求めないのです!」
『いくつもの世界で私たちはそれを試した!』
『だけど沙都子は虐待されてないフリをするのだ』
「沙都子は試練(虐待)に耐えようとするのです!」
「1年前 兄の悟史消えた時 弱かった自分せいだと思うから」
「そして強くなって虐待に耐えていれば兄が帰ってくると信じているから…!」
「だから そんな時間なんてないのです」
「鷹野の力で沙都子を助けてくださいなのです」
「はい――」
『沙都子を救うためならどんな手段でも構わない――』
「入江……!」
「入江!」
「鷹野――!」
『入江と鷹野が頼みを聞いてくれた――』
『これで沙都子は救われる――!!』
『この世界はやっぱり 今までの世界とは違う――』
「入江 ありがとうなのです」
『……は?』
『そんなのしたわよ』
『これも数多くの世界で圭一たちが訴えた』
『そんなのそんなこと』
「何度もやったけどムダだった!!!!」
「私は前たちになんの見返りも求めず ただただこの身を捧げてお前たちの研究に協力してきた!」
「それなのにどうして沙都子の一人だけが救えないというのか!」
「あれだけの力を持ちながらどうして…!」
「お前たちは私の母だって消したじゃないか!!」
「どうして同じことが出来ないんだ!!!」
「なんの力にもならない警察や役所 そして利用するだけして何も助けてくれないお前たち!」
「もういい」
「もういい!」
『沙都子が壊れてしまう世界』
『それがこの世界の運命――』
「私はまたこの運命から逃れられなかった!」
『何が努力だ』
『何が運命と戦うだ』
『結局運命には勝てやしないんだ!!』
「ああ そうさ!」
「またいつもの運命!!!」
「お前は山奥で焼かれて死ね!」
「お前は睡眠薬で自ら死ね!」
「そして私も死ぬ!」
「こんな袋小路の世界に用は無い!」
「みんなみんな死んでしまえぇぇ!!!」
「うわぁぁあぁぁあぁあぁあぁぁああ」
『この世界では沙都子は救えない』
『それなら早く 次の世界へ行こう』
『次の世界では笑顔の沙都子が待ってる……』
『さあ』
『早く沙都子に会いに行こう』

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