銀行員錯誤無効事件(最高裁平成元年9月14日第一小法廷判決)

事件の概要

 Xは、妻Yとの離婚に際し、同居していた建物・敷地等をYに譲渡する財産分与契約を結び、その旨、所有権移転登記を経由。しかし、Xは、離婚後、2億円を超える譲渡所得税を自らが課税されることを知り、本件財産分与契約の際、自己に課税がされないことを合意の動機として表示していたとして、同契約の要素の錯誤による無効を主張して出訴、Yに所有権移転登記の抹消登記手続を求めた。

第一審

 要素の錯誤を認めない。

控訴審

 第一審と同様。

判旨

 原判決破棄、差戻し。
 意思表示の動機の錯誤が法律行為の要素の錯誤としてその無効をきたすためには、その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要するところ、右動機が黙示的に表示されているときであっても、これが法律行為の内容となることを妨げるものではない。
 本件についてこれをみると、Xは、その際、財産分与を受けるYに課税されることを心配してこれを気遣う発言をしたというのであり、記録によれば、Yも、自己に課税されるものと理解していたことが窺われる。そうとすれば、Xにおいて、右財産分与に伴う課税の点を重視していたのみならず、他に特段の事情がない限り、自己に課税されないことを当然の前提とし、かつ、その旨を黙示的には表示していたものといわざるをえない。
 本件財産分与契約の目的物はXらが居住していた本件建物を含む本件不動産の全部であり、これに伴う課税も極めて高額にのぼるから、Xとすれば、前示の錯誤がなければ本件財産分与契約の意思表示をしなかったものと認める余地が十分にある。

参考

水野忠恒・中里実・佐藤英明・増井良啓・渋谷雅弘編『別冊ジュリスト租税判例百選(第5版)』有斐閣(2011)

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