「格闘ゲームに強制女性化する技はある」

 目の前の人外の者が笑う。月の光を背景にそれは優雅にマントを翻す。
「今宵はイイ月だ…そうは思わないかね?」魔性の徘徊者は口元から垣間見える牙を
隠そうとしない。対峙する者はその闇の気配にジリ…と僅かに後ずさる。
「こんな美しい夜に、拳を振るうなど野暮の極みだ」楽しんでいるかのような口調で
闇の者は話しかける。ダンスのステップのように歩を進め、人の子の傍らへ。
「…ハッ」いつの間にか視界を覆うほどの接近を許し、男は我に返る。月の光と放た
れる魔力に幻惑されていたと気付き、愕然とした。
「もう、遅い」ニィ、と魔物が笑った。男に身構える暇は、なかった。差し伸べられ
る腕が男の喉首を掴み、魔力を注ぐ。
「あ…グァァ…!」ギシギシと全身が軋む。与えられる魔力によって自らが変貌を遂
げるのが知覚され、声をあげた。苦痛はなく、ただ全身から力が奪われ、抵抗を封じ
られた。自身の身に何が起こっているのかは分からなかった。ただ、変貌への本能的
恐怖が声をあげさせたのだ。
「安心したまえ。命を奪いはしない…ただ、我が糧にするだけだよ…食事は見た目も
重要だからね」魔性の者は捕らえた男を軽々と引き寄せる。そして、その夜目にも白
い牙を輝かせ…。
「ウアアアアアア…!」捕らえられていた男が恐怖の限界を超え、力を取り戻させた。
暴れたせいか、捕らえていた魔物の手が離れる。

「ハァッ…ハァッ…」
「…フゥ。大人しくしていれば、永劫の快楽と夜を与えてやったものを…」聞き分け
のない子供に言い聞かせるように魔物が言った。
「うるさい…! 化け物の施しなど不要!」まだ、力の入りきらない体を叱咤しなが
ら、魔性を睨み付ける。月光がその表情を美しく照らす。
「ククク…だが、私の呪縛から逃れ得るとはね。その血…勇者の血こそ美味。私の糧
にふさわしい。…今宵はこれで退こう。また逢える日を楽しみにしている…それまで
その呪われた姿で居るがいい…」吸血する魔物は楽しげな笑いを残して、飛び去って
いった。共の蝙蝠達の甲高い鳴き声と羽音が消え失せるまで、男は虚空を睨み付けて
いた。
「…ク…呪われた姿、だと?」膝から力が抜け、頽れる。そして去り際の魔物の言葉
が不吉に甦る。変貌、いかなる姿に変えられたものか。男は掌を見る。
 異常はなかった。5本の指は欠けることなくそこにある。その手で全身を確かめる。
そして違和感。硬さを持った男の肉体はそこになく、やわらかな感触が手に伝わる。
「!?」着衣の下、厚い胸板は失せ、豊かな乳房がそこにある。引き締まった腰がやわ
らかな丸さとふくよかさを持っている。
「まさか…」男は駈けて近くの水たまりを探し、姿を映す。月の光がハッキリとその
変貌を照らす。
 男は女に変わっていた。

ここから、まぁあれやこれやハァハァな話になる…みたいな。
2008年02月13日(水) 01:25:49 Modified by ss_tsf




スマートフォン版で見る