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『幽霊を見ようと君は』‐3‐/R29


遊び疲れたまま掃除と夕食を済まし、流れるように旅行1日目が終了したわけだが……
午前1時。
用を足した後に大河と出くわしてしまい下へ来てカレーまで平らげて、そして。

「股間じゃんかよ……」
「おまえが自主的に潜ろうとしたんだよ!」
危うく大河に股間に頭を突っ込まれそうになっていた。

***
「北村くんとずっと一緒なんてどんだけ幸せだと思ってたけど……
幸せより緊張の方が大きいもんだ。なんだか疲れたわ」
「お、う……まあ全裸で登場したしな」
「みのりんは全裸で登場はしないけど、疲れたでしょ?」
「まあな」
大河は結っていた髪をほどき毛先をいじりながら、鼻からも口からも息を吐き、
ため息とも深呼吸とも取れないようなことをした。

「あんたとなら平気でいられるのに……遺憾だわ」
「遺憾とか言ってんじゃねえよ」
そう言いつつも大河は離れる気はないらしく、竜児も無理に離れる気はない。
確かに不思議と平気でいられるのだ。腕も足も重なる数十センチの域だと言うのに。

「好きな相手といるのは楽しいけど、これは非日常だ。毎日だったら心臓が保たん」
うんうん、と同意するように大河が小さく首を縦に振った。
「でも一緒にいて緊張より幸せが勝(まさ)った時が……」

――恋が愛に変わる瞬間なんだな。

「………」
「………」
ぞくり、と背中に悪寒を感じて大河が震えあがった。
「キっっっモっ……本当に気持ち悪い、お願い離れて……やだ鳥肌たったじゃない!」
「おう!? ひでえな」
先ほどまで離れる気など全くなしに体を密着させていたというのに急に距離を取り、腕を擦る。
その白い腕には本当に鳥肌が立っていた。

「あんた……世界の真ん中で愛を叫ぶとか絶対言いそう」
「言わねえよ、んなこと」

「……というか、そうよ!このばっか犬がっ!!」
「おうっ!?」

突然再び距離を縮めてきた大河にぶん殴られた。
「いてえなおい、何すんだよ」
「何すんだよ、じゃなわよ。今さらだけど……あんた何やってるわけ!?」
「な、何って」
「みのりんのことよ。怪我までさせちゃって、おまけにナイト登場作戦……
自分で考えておいてなんて馬鹿馬鹿しい作戦なのかしら……それだって全部全部パアじゃない!!
ほんっっと、何をやらせても駄目ね。」
広いリビングなのに六畳間の距離で、くるぶし同士が当たっていることにも気付かず
大河は少しだけ声をひそめて竜児を罵倒する。

「だって、よお……」
「だってもへったくれもあるわけないじゃない。私は北村くんを棒に振ってまであんたの叶わぬ恋に協力してんのよ?」
「叶わぬとか言うなよ!」
大河は随分とご乱心のようだが、竜児は大河の『叶わぬ』にご乱心しそうな勢いだ。
「だって本当のことじゃない。このままだと咲くどころか芽も出ず土の中で腐るわよ?
どうせ次の作戦なんて考えてないんでしょ?」
「……いや、ある」
だが竜児はその言葉をハッキリと否定する。
作戦、だなんて大それたものじゃなくて計画性なんてものも全くの皆無だけれど、
それでも『約束』はしたのだ。
「え? なによ、それ?」
大河は竜児のそんな発言に驚いたのか目を見開いて竜児との距離をさらに詰めよる。
「それは……教えられない、すまんが」
「どうしてよ?協力者じゃない私」
「すまん」
内緒だと言ったから、二人だけの秘密だから。

「ふーん、駄犬の癖に生意気。意外だわ……」
竜児が決して教える気がないことを悟ったのか、大河は諦めてソファーに大の字になった。
大河の細い腕が、足が竜児に容赦なく当たる。
「ね、竜児。私思ったんだけどさ、案外あの夢さ」
「ああ、警告夢か? あの未来になんねえよう頑張るからよ……どうした?」
「……ううん、何でもない」
天井から横へと視線を移したとき、そわそわとした、
それでもどこか嬉しそうな竜児の表情が目に入り大河はその先の言葉を続けるのを止めた。
そして自分の思考を否定するのだ。
今の竜児を見ているとこの前の警告夢は、本当に警告夢になっていたのではないかと今度はそう思い始める。
きっとそう。
言葉に出来ないようなこの寂しげな気持ちは夜だから、そう思うことにした。

そうして夜は更けていく……。



***
幽霊を探しに行こうだなんて、おもしろくも滅茶苦茶な提案をされた、高須くんに。
昼間は勢いでうなずいちゃったけど、よくよく考えたらおかしな話だ。
私があんな話をしたから――というか、私が幽霊を見たいと望んだからなんだろうけど……。
本当高須くんは人を楽しませることばかり考えているんだね、感心感心。

でも、でもね。幽霊なんてそんな簡単に見つかるもんじゃないよ。
そりゃ見えてしまう時は突然かもしれないけどさ。
私にはやっぱり見えないって思っちゃうんだよね。
だけどなんだろう……。
おまえがいつか、幽霊を見れたらって思う、って言われた時、
おまえに見られることを望んでる幽霊が、多分、この世にはちゃんといると思うから、と言われた時、
ちょっぴり――ううん、かなりびっくりしたし嬉しかった。
そこまでちゃんと答えてくれるなんて思ってもいなかったから。
涼しい風が吹いているのに体の奥が熱くなるような、火照ったような不思議な感じがした。



そういえば……高須くんも幽霊見たいって言ってたっけ?
「幽霊……幽霊かぁ」
改めて呟いてみて、なんじゃそりゃと自分の声に返す。
彼氏がいるかと訊かれて幽霊の話をし始めるなんてどう考えてもおかしかったな、と。
でも確かに変な話だったけど、高須くんはちゃんと聞いてくれた、ちゃんと答えてくれた。
そして幽霊を見ようと誘ってくれた。
だったら、私に出来ることはひとつだけ。
「うーし、やったるか」
腹に溜めた空気を一気に吐き出す。

「………?」
何やら下の階では大河と高須くんが一緒にいるようだ。
本当に仲良しさんだなあ、アチチだぜ。
窓の外には小さく光るUFO――ではなく人工衛星が見えた。
だから私はどこか期待はずれにもう一度、今度は声に出して呟く。
「幽霊なんてそんな簡単に見つかるもんじゃ、ないんだよ」

続く

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