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『24話another・2』/ラミリア



「・・・あの、北村君?」
「なんだ逢坂?」
なんだとか言いますか?
北村に抱き締められたまま、大河は如何ともし難い羞恥に晒されていた。
「えーっとぉ・・・」
抱き締められてるよね?
自らの置かれた状況を再認識する。
間違いない、それを理解して声をかける。
「・・・そろそろ離してほしいかも・・・」
真っ赤になっているのは認識している。だって大好きな人だったんだから。
ひとまずの葛藤を越えたら、あとは恥ずかしいってのみだった。
確かに分かる。
だって惚れた腫れただもん。
自分達以外にはいらないものだもん。
でもそれが、今は心地いい・・・マジか?
愕然とする大河の耳に、北村の甘い声が響いた。
「離したくない・・・って言ったらどうする?」
瞬間ぐらりと頭が揺れる。なんだこれ?なんなんだこれ?
「・・・こ、困る・・・」
当たり前だ。私はさっき迄他の人を好きだった。
それをいきなり、前の好きだった人にって・・・。
「・・・せっ、節操なしすぎるもん」
「気にしないぞ、俺は?」
私が気にするんだって。
北村君にも失礼なんだって。
「わ、私はり、竜児が好きなんだよ?」
「知ってる」
見上げると優しい微笑み。
ヤバい。やっぱりこの顔は反則だ。
「俺だって会長が好きだ。」
そうだ、そうだよ。北村君にも好きな人いるじゃん。ナニを今さ・・・。
「でもそれは、忘れられない恋ってだけだ」
「え?」
私は驚いて北村君を見上げた。
「逢坂覚えてるか?お前が会長に殴り込みをかけたあの日のこと」
うんと頷く。
忘れるはずなんか、ない。
「あの時俺は、正直嬉しかった。お前が突っ走ってくれたおかげで、俺はあの人の気持ちを聞けた」
「・・・」
「そしてあの人の夢の邪魔になるならと、キッパリと諦めることができたんだ。終わらせることができたんだ」
「・・・北村君・・・」
「すべて逢坂のおかげだ。ありがとう」
・・・お礼なんて言われる筋じゃない。私はただ感情に任せて暴走しただけ。・・・なのに・・・。
「・・・泣いてるのか?」
「き、北村君が、か、感謝なんか、す、するから・・・」
こんなにも嬉しいなんて。
「・・・あのあと土下寝してお礼したはずだが?」
「あ、あんなの、ふざけてるようにしか見えなかったし・・・」
「ひどいな逢坂。俺の全霊のありがとうを」
「い、今のほうが・・・万倍伝わってきた・・・」
「ならいいか」
そうして抱き締めてる腕が強くなった。
また私の心臓が、ワンテンポ早くなる。
「なあ、逢坂?」
「な、なに?」
「今度は・・・俺が頑張る」
「え?」
頑張る?頑張るってなに?
「お前が高須を好きなのはわかってる。だから、それを忘れさせることは、俺にはできない」
「・・・」
・・・それはその通りだ。
だって今だって、竜児の名前が出るだけで胸が痛む。
「・・・だからな、逢坂」
「・・・うん」
「それ以上に、俺を好きにさせてみせる!!」
「・・・ふぇっ!?」
今なんて?今なんて?今なんて!?
「いいいいまなななんて!?」
直接聞いてみた。
「お前が好きだ、逢坂!」
「!?」
直球で返された。
き、北村君が・・・私に告白!?・・・聞き間違い!絶対聞き間違い!!
「げ・・・幻聴が・・・」
「幻聴でも聞き間違いでも、ましてや言い間違いでもないぞ。俺は、逢坂が、好きだ」
一音一音、わかりやすく伝えられた。

耳がそれを拾い、脳がそれを認識。途端にパニック。
そしてそれに拍車をかけるように、北村君に強く抱き締め直された。
「今はまだ、俺はこの位置だけど・・・」
正面から抱き締めてる北村君。この位置ってそこ?
「いつかは・・・俺が高須のポジションに立つ」
「!?」
そこで思い出されるあの日の朝。
『俺は竜だ。昔から竜は虎と並び立つんだ。だから俺は竜としてお前の傍に居続ける』
「・・・」
あの言葉は、違えられてしまった?
ううん違う。
竜児はきっと前のように、朝私を起こして、ご飯を作って、頼み事を聞いてくれる。
きっとそう。
だって、そこには恋はないけど、確かな愛があるから。
恋人ではなく・・・家族としての。
「・・・虎と並び立つのは、竜に決まってるらしいよ?」
恥ずかしさと、なんとなく今の気持ちを知られたくなくて、軽口を叩いた。
「竜がどうした。俺なんか神なんだぞ?」
失恋大明神だが。
そう言って胸を張る北村君がおかしくて笑った。
涙を溢れさせながら。
「・・・ありがとう北村君・・・」
「お礼を言われるところじゃないけど、どういたしまして」
・・・ううん。本当にありがとう。
あなたのおかげで、私も一歩踏み出せた。
この恋に終わりを告げられた。
だから・・・ありがとう。
「へ・・・返事は待ってくれる?ち、ちゃんと考えたいから・・・」
「ああ、いくらでも待つよ」
ごめんね北村君。
返事はもう決まってるの。
でも今日一日は、この悲しみと幸せをゆっくり吟味したいから。
じゃないと・・・。
「オッケー出せないもんね・・・」
「ん?なにか言ったか逢坂?」
「う、ううん。なんにも!」
そうして私は窓から見える空に目を向けた。
抜けるような青い空。
どこまでも透き通るようなそんな空。
そこに私は、想像で作った紙飛行機を飛ばした。
かつての恋を綴った紙で作った飛行機を。
それは何処までも飛んで行き、やがて見えなくなった。
そして流れる一筋の涙。

『バイバイ竜児・・・』

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