真陽・華限・八卦〜真陽を取り巻く思惑〜

〈はじめに〉
 物語調でまとめています。 byカサハリ


39番目の神王・聖帝コリュウ、そして彼が治める39番目の神国【真陽】。
聖帝コリュウ・神国【真陽】の誕生に関わって、様々な謀略が噂された。その噂の一つを紹介する。

[1] 神国【華限】の神王・隗神テイカクの思惑

 ヴァジアルサーガの物語が始まる、神暦300年より少し前、神暦28X年〜29X年ごろの話である。

 皇国(皇陽&皇陰)を揺さぶり、世界の均衡を崩そうと目論んでいた、神国【華限】の神王・隗神テイカクは、【皇陽】の神王・皇帝ソウエンに仕える侍女・リュネイ(後の妖妃リュネイ)に目を付けた。
 リュネイは、かつては皇帝ソウエンの寵愛を受けていた身であったが、心無い者の讒言により失脚、今は皇帝ソウエンの後宮の片隅で、幽閉に近い状態で放置されていた。
 隗神テイカクは、そのリュネイが幼い息子と一緒に居るということ、そしてその息子は皇帝ソウエンの血を引いている疑いがあるということ、この二つの情報を掴んだ。(この情報を隗神テイカクに流した存在については不明。覇帝ソウリュウ、またはホーハイホクが情報源、と言う説が有力)
 隗神テイカクは、後宮に出入りする交易商(宮女達を相手に装飾品を売りに来ている)を抱き込み、リュネイとの接触に成功する。

 余談:この交易商達の中から、家臣武将となる「易商ヒィス」を見出したらしい。



[2] リュネイ、幼き息子を連れ、【八卦】に往く。

 はじめ、隗神テイカクは、リュネイとその息子を“反乱”の旗頭として利用するつもりであったらしい。反乱の成否や、リュネイ母子の生死に関わらず、その結果がもたらすものは【皇陽】の国力低下であり、それは隗神テイカクの望むところであった。
 しかし、リュネイと対面した隗神テイカクは、彼女の持つ“妖力”に気付き、「とある可能性」を閃く。その「可能性」を現実に移すため、隗神テイカクはリュネイに、隣国【八卦】への亡命を勧める。
 リュネイ母子亡命の手筈は、隗神テイカクが整えるまでも無かった。【皇陽】の家臣の中には、リュネイに対して好意以上の想いを抱いていた者達がおり、彼等の手によって、亡命が実行されたからであった。首謀者の名はソウカク。彼は、リュネイを慕っていた、腹心の部下・ガトツに、亡命の手引きをさせた。
 ソウカクとガトツは、後に、宰相ソウカク・懐刀ガトツとして、聖帝コリュウと妖妃リュネイに忠誠を誓い、【真陽】を支えていくことになる。



[3] リュネイの秘術、聖帝コリュウを誕生させる。

 【八卦】に亡命したリュネイは、かの地を治める神王、“盲目の”結界神 想武に接触する。
 たしかに、結界神 想武がリュネイに面会したかどうかについては、正式な記録には残されていない。しかし、リュネイが息子コリュウを“神王化”、すなわち“不老不死化”させたことは事実である。そして、ただの人間を“不老不死化”させるような、高度な秘術のノウハウ・技術体系を持っている可能性がある者は、全神国の中で、結界神 想武、ただ一柱のみである。であるならば、リュネイと結界神・想武との間に接点があった可能性は、かなり高いと思われる。

 魔法・神霊・秘術といった、“神秘術”に関わる技術については、「【八卦】・結界神 想武」の他にもいくつか源流となる場所・人物(神王)が推測されているが、それらについては後で述べる。

 結界神 想武は、穏やかで情に厚い性格であったことから、リュネイ母子を「客人」として歓迎したと思われる。
 たしかに、“想覚”に優れていた結界神 想武は、突然の亡命者に対して、何らかの警戒心を抱いていただろう。しかしながら、母子を「隣国の神王に捨てられた、哀れな愚民」とみなしてしまい、いくらかの油断が生まれていたのではないだろうか。弱者に対して慈悲深いのが、かの神王の長所であり、急所である。


 ちなみに、【八卦】の民達は、結界神・想武が「隠れた」後も、かの神王の善政を口伝で語り継いでいた。


 また、結界神 想武には、“呪術の研究者”として、押さえ難い気質・習性を秘めていたかもしれない。「優秀な術者には、力量を試さずにはいられない」「指導・援助を施さずにはいられない」といったような。

 「300年掛けて集めた“呪術に関する資料”のごく一部を、わざと見せる」「呪術に関する問答を投げかけてみる」もしかすると、「実際に呪術をかけてみせる」など、「八卦想弦結界」をはじめとする“神国の機密”に触れない程度に、リュネイを試したり、また教えたりしていたのかもしれない。



 ともあれ、リュネイ母子は、暫くの間【八卦】に滞在する。そしてこの間に、結界神・想武から、神王化=不老不死化の秘術を盗み出すことに成功する。その後、ソウカク・ガトツの助けによって、リュネイ母子は【皇陽】に帰還。東の国境付近で、コリュウに不老不死の術を試み、成功する。39番目の神王・聖帝コリュウの誕生である。



[4]39番目の神国、【真陽】誕生。

 不老不死化したコリュウの下へ、秘密裏に、続々と愚民達が集結する。(愚民の扇動、情報の隠蔽など、主な工作はソウカクとガトツが行っていた。二人の才能、“遠洗”と“忍”をもってすれば、秘密工作はそれほど難しくなかったことと思われる)
 やがてその規模は、村・町の段階を過ぎて、塞(防壁都市)を築くことが可能なまでに膨れ上がる。ここに至り、コリュウ側の秘密工作は効果を失い、集結の動きは【皇陽】の神王・皇帝ソウエンの知るところとなる。

 皇帝ソウエンは、直ちに軍を向け「不穏分子の鎮圧」に当たらせる。コリュウが治める塞を、完全に包囲する皇陽軍。しかしここで、【司啓】からの特使が皇帝ソウエンの元を訪れる。

 【司啓】の神王・赤法神リシュは「西の法主国」の権限を用いて、「コリュウを“39番目の神王”と認めること」「コリュウの塞から、直ちに皇陽軍を撤退させること」を、“勧告”の名の下に、皇帝ソウエンに迫った。
 たしかに、権威ある「西の法主国」とは言え、神界の最上位に位置する【皇陽】の神王を動かすことには無理がある。しかし、【華限】神王の特使の手には、「コリュウを39番目の神王と認める」ことに合意を示した、黒帝シンリュウをはじめとする各神王達の連判状があった―――!

 多数の神王達の意見が無視できるほど、皇国の権力は強くはない。かくして皇帝ソウエンは、歯噛みしながら皇陽軍を、不穏分子の長・コリュウの塞から引き上げた。
 この後、コリュウは、39番目の神王「聖帝コリュウ」となり、治める塞は、39番目の神国【真陽】の都となっていった。
 


[5]西の法主国【司啓】の真意

 ところで何故、西の法主国【司啓】は、【皇陽】国内の反乱鎮圧に対して介入してきたのであろうか。

 皇国(皇陽&皇陰)は、神界の長として、各神国の治安維持に携わる義務と権限があった。要するに、他神王の統治範囲内であっても、一定レベル以上の異変が発生すれば、兵士を派遣できる大義名分があったわけである。そして、【皇陽】の神王である皇帝ソウエンは、その名分を大いに利用し、自国の兵士を酷使し続けた。武力を用いることが、皇国の権威と神界の秩序を守る最良の手段であると信じて。

 ゆえに、西の法主国【司啓】の神王・赤法神リシュは、そんな彼の行為に警鐘を鳴らしに赴いたのである。――ここでコリュウ一派と争い、兵力・国力ともに疲弊しきってしまえば、「覇帝ソウリュウの思う壺である」、と。
 
 【龍戒】の神王・覇帝ソウリュウの野心を警戒していたのは、皇帝ソウエン本人である。(覇帝ソウリュウの監視を赤法神・リシュへ正式に命じるのは、後日のことである。)
 最悪の事態=神界全体の争乱を避けるため、赤法神リシュの策を容れ、皇帝ソウエンは苦渋の撤退を選んだのである。・・・その選択が、皇国の権威失墜を招き、争乱の先触れを知らせる“狼煙”となったことは皮肉である。


 この、【真陽】誕生の一連の出来事について、隗神テイカクの姿は見当たらない。コリュウを「39番目の神王」と認めるよう、各神王の説得に八面六臂の活躍を見せたのは、赤法神リシュである。

 しかし、【皇陽】の近隣国である【華限】の神王が沈黙を守り、対して【皇陽】より遠く離れた【司啓】の神王が動き回っている、というのは不自然な構図である。【華限】【司啓】どちらもが「法主国」の地位にあることを考えたならば、なおさら奇異に見える。

 つまり、隗神テイカクは、己の計略=皇陽の国力低下を見透かされないように、赤法神リシュを隠れ蓑にしたのではないかと思われる。【華限】と【司啓】は「法主国」の立場上、それなりに互いの連絡を密にしていたと思われる。その情報交換の中で、

「皇陽が反乱の鎮圧に当たっている。しかし、規模が大きいらしく、鎮圧にかなりてこずっている。この隙を突いて、覇帝ソウリュウが動かないか不安だ。」
「頭領である皇帝ソウエンの息子は、不死身らしい。反乱分子は、その人物を神王のように崇めている。」
「反乱軍の頭領は、皇帝ソウエンの御子と言う噂がある。誠であれば、神界全体を揺るがしかねない」
「反乱軍を鎮圧しても、これらの情報が流れてしまえば、“神王が神王を滅ぼした”例を作ってしまう。それは、好戦的な神王に、“神王を滅ぼす”免罪符を与えてしまったのと同義となる」

などなど、“「法主国」としての不安・愚痴”として、隗神テイカクが赤法神リシュを誘導していたとしたら、どうであろうか。
 赤法神リシュが、隗神テイカクの策を看破できなかったのかどうかは分からない。しかし、「覇帝ソウリュウの挙兵」と「神界の秩序の崩壊」、この二つの事態の回避は、赤法神リシュにとって最優先事項であったと思われる。
 結局、赤法神リシュは、“神界を巡る策謀”に踊らされざるを得なかったのである。



[6]各国の神王達の思惑

 各国の神王達が、コリュウの「神王昇格」に賛同した背景は様々であるが、大きく分けると、

    • 神界における争いの火種を、一つ増やしたかった
    • 皇国(皇陽&皇陰)を中心とする統治構造に飽き飽きしていた
    • 今、大きな戦を起こすことで、神界全体を戦乱の渦に巻き込みたくなかった。
    • 閉塞状態に傾きつつある、神界に「新しい風」を取り込みたかった。

 などの思惑があったかと思われる。上段のグループは好戦派、下段のグループは穏健派に分類できるであろう。

 もちろん、全ての神王が「39番目の神王」の誕生を歓迎した訳ではない。争いの火種になることを危惧した神王、そもそも人間が神王の仲間入りをすること自体に不快感を顕わにした神王もいる。

 なお、「自分には関係ない」と言った個人主義(個神主義?)的思考や、「新しい交易ルートを開発できる」と言ったような功利的思考を持つ神王もいたようである。


 ちなみに、結界神 想武は、戦いを望まない穏健派のグループであったようである。
 そしてこの事件の後日、【真陽】から同盟を求める使者として、妖妃リュネイが【八卦】に訪れる。
 かつての客人だったリュネイが、神界の争いの火種の元になり、あまつさえ自分に助力を求めてきた事態に、結界神 想武の心境は、さぞ複雑であったことだろう。
 結界神 想武が【八卦】と【真陽】の同盟を了承したのは、両国の同盟に、世界の均衡を繋ぎ止める一助を果たすことを、おそらくかの神王は期待したからであろう。




[7]神界における、“神秘術”の流れ

 “神秘術”――いわゆる魔法・神霊・秘術など――に関わる技術については、いくつか、源流となる場所・人物(神王)が推測されている。
 例えば、【八卦】の神王・結界神 想武の、東洋魔術と西洋魔術を融合させた結界術、「八卦想弦結界」が有名である。一覧にすると、

  結界神 想武    / 【八卦】  / 東洋魔術と西洋魔術を融合させた結界術。
  ヴェイ・ルース  / 【リヴァス】 / 次元を超える術
  護神 ヤンセ   / 【黒母】   /“精霊”を召喚するものだったと伝えられている。
  ヴァレム・サーク / 【源霊】   / 生命力の活性化に関わる術。
  スピリアルナイト /  不明    / 不明
 
のようになると思われる。他にも、“神秘術”の源流となった場所があった可能性はあるが、不明である。

 結界神 想武以外の、“神秘術”の体系について推察する。


 【リヴァス】の神王 ヴェイ・ルースは、「魔鏡」と呼ばれる術を用いて、距離を越えて人心を己の虜にしたと言われる。また、かの地は、はANC世紀の時代において、「Gohst魔法」に秀でたウィザード達が集った場所である。(神暦の頃は、まだ「Gohst魔法」は世に現れていなかったようである。)そして、ウィザードは「Gohst魔法」のほか、“転移の術”もよく使っていたようである。
 “転移の術”、すなわち“次元に干渉する術”の源流となるものを、ヴェイ・ルースは持っていたのかもしれない。

 【黒母】の神王 護神ヤンセは、“精霊”を召喚する術を持っていたと伝えられている。また護神ヤンセには、“得体の知れない存在”を呼び出し、敵国の兵士を震え上がらせ退散させた、と言う記録も残っている。
 護神ヤンセの術は、Velisによる魔物創造に近いものであったのかもしれない。

 【源霊】の神王 ヴァレム・サークは、“生命力の活性化”に関わる術を持っていたとされる。また、「アムヴァリット」が初めて使われた場所は【源霊】である、と言う説が有力である。そもそも、【源霊】の地には、訪れる者の生命力を高める力が宿っていると言う。
 他にも【源霊】の守護国【礼儒】の神王・祭神ロジュウは、自国の祭司を“不老”にしていたと、記録に残っている。
 これらのことから、ヴァレム・サークは、“物質に魂を宿す術”もしくは“不老不死の術そのもの”に関する何かを知っていたのかもしれない。

 最後に、スピリアルナイトは、神界の時代から存在し、神王と同じく「不老不死」であったと言われる。何らかの魔術との関係が推測されるが、手がかりが殆ど残されておらず、不明である。

 
 ところで、各神国の神王達は、「不老不死の人間を作る」能力を持っていたらしい。とすると、不老不死の術は、“一つの形”としてよく知られていたのかもしれない。(知識があっても、それを実行できるかどうかは、また別の話である)



[8]妖妃リュネイの用いた術

 神界に伝わる“神秘術”を考えていくと、【源霊】に伝わる「生命を活性化させる術」が、不老不死化の秘術に近いものと思われる。
 リュネイに源霊に居た経歴があれば――【源霊】が出生地であったり、【源霊】へ巡礼にいった経験があったり、すれば――そういった術を操るための素地が、身についているように思われる。

 そして、亡命先の【八卦】で、結界神 想武の呪術体系に閃くものを得て、不老不死化の秘術を復活させたのではないのであるうか。

 例えば、「不老不死化に足りない力を、広く土地の“気”を吸い上げてコリュウに与える」とか。



[9]別解釈

 実は、コリュウは一度死んでいて、リュネイの秘術によって「よみがえった」と言う可能性も考えられる。

 「愛する息子を喪った悲しみに耐えられず、母親は息子に不老不死の術を掛けた。」と言う説は、不可能とも言われる不老不死(神王化)の術を試みさせる動機として強いと思う。

 「息子が死なないように、予め不老不死の術を掛ける」と言う説もあるだろうが、少し弱いのではないかと思われる。息子に「死の予言」が付きまとっていればまた別の話になるが・・・。

 「神王の血を引いているにもかかわらず、有限の命しかもっていない息子を不憫と思い、不老不死の術を掛けた」と言う説も、動機としては強いであろう。

 ただ、「一介の人間の子供が、死んだ後で神王としてよみがえった」と言う逸話があれば、愚民達の心をがっしりと捉え、愚民か戦略を推し進めるのにかなり有効そうである。
2007年08月16日(木) 22:08:42 Modified by ID:++6TZL/Wsg




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